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2014年9月20日土曜日

米国上場企業との取引には要注意! 「紛争鉱物」の使用に関するSEC規則案とわが国企業の対応

(旬刊経理情報 20111010日号 掲載原稿)

昨年721日に米国で成立したドッド・フランク法(金融規制改革法)は、リーマン・ショックを契機とする金融危機に対応して金融機関等の規制を主に対象としたものである。しかし、その第15章において、本来の趣旨にはあまり関係しない紛争鉱物(conflict minerals)に関する規定が盛り込まれた。

対象となる鉱物は、携帯電話、コンピュータ及びゲーム機などに使われる部品に広く使用されている。このためこの規制の直接の対象となる米国上場企業だけでなく、そのサプライヤー企業としての日本のメーカーや鉱物の製錬会社などに対しても影響を与える。ここでは、同法の具体的な適用を規定したSEC規則案(20101215日公表)(注1)に基づいて解説する。最終的なSEC規則は、本年32日まで受付けられたパブリックコメントを受けて415日までに確定する予定であったが、未だ確定に至っていないことに留意されたい。本文中、意見に亘る記述は私見である。

1.CSR調達と人権問題
 紛争鉱物に関する米国の規制は、特定の国や地域に対する経済制裁として捉える向きが多い。しかし、これは企業が国際的な人権保護活動にどのように関わるべきかという観点から導き出されたひとつの解答であると理解しなければならない。すなわち、紛争鉱物への対応は、企業のCSR調達への取り組みの一部として考えなければならないのである。そこでまず、企業のCSR調達活動と国連の動きについて概観することにしたい。

(1)CSR調達
本来、調達は経済性の観点からは、Q(品質)C(コスト)D(納期)S(サービス)が優れたサプライヤーから購入するのが筋である。すなわち、品質が良く、価格が安く、納期をしっかり守り、いろいろな課題に適切に対応してくれる調達先が最も優れている。

一方、サプライチェーンにおける環境負荷への配慮をはじめ、サプライヤーによる人権やコンプライアンスへの配慮を調達の際に考慮すべきであるという考え方がCSR調達である。すなわち、調達先の選定において、環境負荷の低減、法令・社会規範の遵守、人権・労働安全衛生などへの配慮をすることになる。

人権への配慮に関しては、CSRの書物に必ずといっても登場するスポーツ用品のナイキ社の事例が有名である。同社の製造委託先であるベトナムなどの東南アジアにおける工場において、児童労働や長時間労働などを強いていたことがNGOによって明らかにされ、その結果不買運動や訴訟問題が発生した。たとえナイキ社がそのような事実を知らなかったとしても、そのような状況で製品が製造されるようでは、人権に配慮したとは言えないのである。

制度が未整備である国のサプライヤーに対して、先進国の消費者等の要求レベルを持ち込むことは、先進国のエゴとも見えるが、その国の労働環境や人権保護のレベルを上げることになる点は見逃せない。

(2)グローバルコンパクトとラギー報告書
国連は、人権・労働基準・環境・腐敗防止の観点から10原則を定め、企業によるCSRへの取り組みを推進することを目的としてグローバルコンパクトと呼ばれる活動を20007月より行っている。これに賛同する会社が自主的にリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するという取り組みである。現在、日本企業約180社を含む135カ国6000社以上がこれに参加している。

このような、企業の自主的な取り組みは必要であるものの、限界があるのも事実である。そこで2005年にジョン・ラギー教授が企業と人権に関する国連事務総長特別代表に任命され、企業と人権に関する検討が開始された。ラギー教授は下記の3本柱からなるフレームワークを2008年に国連人権理事会に報告し、満場一致の承認を得た。
l 国は人権を保護する責務を負う
l 企業は人権を尊重する責任を負う
l 有効な救済措置が必要

これは、「保護・尊重・救済のフレームワーク」又は「ラギー・フレームワーク」と呼ばれる。本年6月にはこのフレームワークを導入するための指針(Guiding Principles)が同理事会において採択されている。

このフレームワークでは、グローバルコンパクトに基づく企業の自主的な活動の限界を認識し、人権問題への取り組みにおける国家の役割の重要性について強調されている。すなわち、企業による人権尊重に対して国家が一定の役割を果たす必要があると述べているのである。

(3)紛争鉱物と人権問題
世界各地の紛争地域においては、非人道的な行為が繰り返されている。これまで新聞報道されていた紛争のうち、その詳細はさておき筆者が聞いた記憶があるものだけでも以下のようなものがあった。

図表1:世界の紛争の一部
                   
 

アジア地域

ミャンマーの軍事独裁 
チベット問題 

東ティモールの独立 

カシミール紛争 


中近東・北アフリカ地域  

ソ連のアフガン侵攻

タリバン政権の誕生と崩壊 

 

アフリカ地域 

ソマリア内戦  

シエラレオネ内戦

アパルトヘイトの廃止とマンデラ政権の誕生

 

東ヨーロッパ・ロシア地域 

 

旧ユーゴの崩壊とボスニア・ヘルツェゴビナ紛争

コソボ自治州の独立問題 

チェチェン紛争


西ヨーロッパ地域


北アイルランドの独立闘争



上記のうち、アフリカのシエラレオネという国は西アフリカの大西洋岸に位置する国であるが、映画「ブラッドダイヤモンド」の舞台となったことをご存知の読者もあると思われる。この映画では、傭兵に扮するレオナルド・ディカプリオがダイヤモンド(紛争鉱物)を手にしようとするストーリーである。ダイヤモンドの産地が偽装されロンダリング(洗浄)される実態や、ダイヤモンド採掘場の悲惨な様子がリアルに描かれている。

一方、本稿における紛争鉱物の産地となるコンゴ民主共和国は、中央アフリカに位置する国で、1997年まではザイール共和国と呼ばれていた。1994年に隣国のルワンダ共和国で起きたフツ族によるツチ族に対する大虐殺がこの紛争の始まりとされている。実は、コンゴ民主共和国とその周辺国における紛争は、死亡者数が540万人に上る世界最大の紛争と言われているのである。上記のリストに入っていないのは、筆者もドッド・フランク法による規制が行われるまでは知らなかった紛争であったからである。この紛争は長期かつ凄惨であるにも関わらず、先進各国においてはあまり報道されていなかったことも特筆される。ドッド・フランク法による規制によって、一躍世に知られるようになった紛争とも言える。

コンゴ民主共和国には鉱物資源が豊富に存在する。特に南部と東部では、鉱物が地表に露出しており露天掘りが可能になっている。この地域は紛争勃発前には特に銅とコバルトの産地として有名であった(注2)。

コンゴ民主共和国及びその周辺国においては、武装勢力が非人道的な行為を繰り返し、また住民に鉱物を採掘させてそれを資金源としている。したがって、それらの鉱物を購入することは、結果として当該武装勢力に資金提供することになる。そのため、企業は人権保護の見地から、このような鉱物を製品に使用することを避けなければならない。

前述のとおりラギー・フレームワークにおいては、企業の自主的な努力だけでなく、政府が一定の責任を果たすことを求めている。ドッド・フランク法1502条の制定により、米国上場企業に対して紛争鉱物の使用についての開示を行わせるということを通して、米国政府がそのような責任を果たそうとしているという見方ができる。

2.ドッド・フランク法1502条の概要
本項では、ドッド・フランク法1502条の概要を述べるが、次の点に留意されたい。まず、この法律はコンゴ民主共和国及びその周辺国において産出される鉱物の全部ではなくその一部を対象としている。現在においても、比較的多く産出される銅とコバルトは今のところ対象になっておらず、後述のとおり4つの鉱物のみを「紛争鉱物」と定義している。また、同法はそれらの鉱物の使用を禁止しているのではなく、その使用を紛争鉱物報告書において開示することが求めているのである。

これらの点は、ラギー・フレームワークの実現を目指しつつも、米国は政策的な決定行ったことを示唆している。すなわち、4鉱物以外の銅やコバルトを含めることや紛争鉱物の使用を禁止することによって、産業界の負担が重くなることを政策的に避けたものと考えられる。

(1)紛争鉱物の定義
ドッド・フランク法第1502条(以下「法律」)において、証券取引所法(Securities Exchange Act)を以下のように改正することが規定された。

l 製品機能又は製品製造にコンゴ民主共和国及びその周辺国産の紛争鉱物を使用する者は、紛争鉱物報告書を年次に提出する。
l 同報告書には実施したデューディリジェンス手続について記述し、独立した外部監査を受ける。
法律では、紛争鉱物は次の4種の鉱物及びその化合物(derivatives)と定義されている。
l 錫鉱石(cassiterite3.9%)
l タンタル鉱石(columbite-tantalite8.6%)
l タングステン鉱石( wolframite1%未満)
l 金鉱石(gold1%未満)

上記括弧内の比率は全世界生産量に対するコンゴ民主共和国(周辺国を除く)からの2009年における産出量の比率である(Mineral Commodity Summaries 2010, World Bureau of Metal Statisticsによる)。上記のとおり、世界の産出量に比較するとこの地域からの産出量はそれほど多くないため、製錬所等において他国産と混合される可能性がある。

反対に、これら4鉱物の生産量が少ないことから、コンゴ民主共和国及びその周辺国で産出されたこれらの鉱物の使用を避けたとしても、製品の生産に大きな影響を与えないという政策的な配慮が覗える。

(2)導入時期
法律の適用時期は次のとおりである。すなわち、ドッド・フランク法の成立日である2010721日から、270日到来日(2011415日)までにSEC規則が発行され、その翌日以降から開始する事業年度から同規則が適用される。しかし、SEC最終規則の公表は本年8月から12月になると発表されており(注3)、法律上の期限は守られていない。
仮に本年12月中に同規則が確定した場合には、3月決算会社の導入時期は20133月期となり、12月決算会社は201312月期からとなる。

(3)適用対象会社
法律が適用される企業は、米国での上場会社である。紛争鉱物に関する開示は10K又は20F等のいわゆる継続開示書類(アニュアルレポート)おいて行われる。このため同書類をSECに提出していない会社はSECに登録している会社であっても同規則の対象にはならない。日本企業のうち米国上場企業は30社程度であり、そのうち金融機関など明らかに対象外の会社が含まれるため、直接対象となる会社は限定されている。

しかし、同規則適用対象となる米国上場企業に直接・間接に納入するサプライヤー企業は、紛争鉱物が含まれるかどうかについての問い合わせを受け、何らかの形で該当4鉱物の使用又は不使用についての証明をすることが求められると予想される。よって、日本の部品・素材メーカー等は米国に上場していなくても法律の影響を受けることになる。なお、米国上場企業による紛争鉱物に関する開示は連結ベースで行われるため、サプライヤー企業においても当該米国上場会社の親会社だけでなく、国内外の子会社との取引も対象になることに留意が必要である。

3.SEC規則案の概要
 法律に基づき米国証券取引委員会(SEC)は、これに関する規則案を20101215日に公表(以下「規則案」)し、パブリックコメントを募集した。規則案によれば、適用対象となるかどうか及び企業が開示する情報は次の3つのステップによって決定することとなる。

【ステップ1】 法律が適用されるかどうかについての判断を行い、適用される場合にはステップ2に進む。
【ステップ2】「合理的な原産国調査」を実施し、原産国がコンゴ民主共和国又はその周辺国(下図では「DRC」)でない場合には、「DRCなし」であることをアニュアルレポートに開示。そうでない場合にはステップ3に進む。
【ステップ3】 デューディリジェンス手続を実施し、独立監査人による外部監査(independent private sector audit)を受け、アニュアルレポートに必要事項を記載するとともに紛争鉱物報告書を提出する。

 以上を図示すると下図のとおりになる。

図表2:紛争鉱物対応のための3つのステップ
Sec

                             

(1)米国証券取引所法に基づき報告する義務があるかどうかの判定
法律は、前述のとおり米国上場企業に適用されるが、そのすべてに適用されるわけではない。法律上報告義務があるのは製品製造会社である。「製品機能又は製品製造に紛争鉱物を必要とする者」とされているため、コンゴ民主共和国又はその周辺国産の紛争鉱物以外の該当4鉱物を「使用」している場合でも、「紛争鉱物を必要する者」に該当する。

「製造」についての定義は規則案では特に示されていない、常識から判断できるからであるとしている。製造には製造委託契約をして他社が製造している場合の委託元会社も含まれる。単に仕入れて販売するだけの小売(retail)は含まないとされる。ただし、小売業であっても製造委託をして自社ブランドで販売する場合は含まれる。

(2)コンゴ民主共和国又は周辺国産出の鉱物であるかどうかの判定
法律が適用されると判断した場合には、「合理的な原産国調査」(reasonable country of origin inquiry)によって、コンゴ民主共和国又はその周辺国において産出された該当鉱物であるかどうかを判定する。

規則案では、合理的な原産国調査の内容は特定しておらず、企業が実施した手続を開示することを求めている。

コンゴ民主共和国及びその周辺国とは、武装グループが鉱山を支配している地域を指し、紛争鉱物地図(Conflict Minerals Map)によって示される。この地図は、法律成立後180日到来日前に公表される(ドッド・フランク法1502(c)(2))ことになっているが、本稿執筆日(平成23911日)現在、まだこれは公表されていない。

陳述書(representations)を紛争鉱物の処理施設等から入手する方法が当面の「合理的な原産国調査」の方法として規則案において例示されている。この陳述書は、処理施設から直接又はサプライヤー経由で入手する。ただし、米国上場企業は、その陳述書が合理的に真実であると信じるに足りることを事実と状況から確かめる必要があるとしている。この例として、紛争鉱物が含まれていないことについて、当該サプライチェーンに対して外部第三者による監査を受けることが挙げられている。

次項に述べるデューディリジェンス手続を実施せず、合理的な原産国調査のみで終了するのは、この調査によって該当4鉱物の原産国がコンゴ民主共和国又はその周辺国でないことが明らかになった場合だけである点に留意しなければならない。また、この場合におけるアニュアルレポートへの開示については、外部監査は不要となる。紛争鉱物を使用していないと結論づけると外部監査が不要になるのは、次項のデューディリジェンス手続に対する外部監査の実施とのバランスを欠くと考えられる。

(3)デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出
ステップ3では、デューディリジェンス手続を実施し、その結果を紛争鉱物報告書等に記載する。

 デューディリジェンス手続の実施
「合理的な原産国調査」を実施した結果、コンゴ民主共和国又はその周辺国産であると判断した場合又はそれが特定できない場合には、会社がデューディリジェンス手続を実施し、外部監査人(independent private sector auditor)が監査(audit)を実施する。

デューディリジェンス手続の実施は、合理的に慎重な(prudent)人が自分自身の財産の管理のために行うような調査方法により行う。デューディリジェンス手続については、その重要な部分として外部監査が含まれるとされているが、規則案においてはその具体的な内容は記述されていない。この外部監査人による監査の基準は、会計検査院長(Comptroller General)が定めることとされている。

 紛争鉱物報告書の提出
デューディリジェンス手続を実施した結果、アニュアルレポートへの開示と紛争鉱物報告書の提出が必要となる。

紛争鉱物報告書の記載内容は次のとおりである。なお、製錬所等の特定ができないなど、産地まで遡ることができない場合は下記2において、その旨を記載することになると考えられる。この内容はWebサイトにも開示する。

1. 紛争鉱物の産地まで遡るサプライチェーンに対して実施したデューディリジェンス手続の内容
2. 紛争鉱物を使用した製品名、当該鉱物の産地国名、当該鉱物を処理する施設(製錬所等)、産出鉱山又は産出地を特定するための取り組みについての可能な限り具体的な記述
3. 外部監査を受けた旨と受領した紛争鉱物報告書に対する監査報告書

多くの製品に紛争鉱物が含まれる場合は、 紛争鉱物報告書に多量の情報が記載される可能性がある。その場合には個別の製品名ではなく、製品のモデルや製品の種類(category)の記載でもよい。

 リサイクル及びスクラップの取り扱い
リサイクル又はスクラップから精製された鉱物については、「紛争なし」(conflict free)として、紛争鉱物報告書に記載する。本来「紛争なし」であれば、アニュアルレポートでの開示のみで足りるが、この場合はリサイクル又はスクラップであることを確かめるためのデューディリジェンス手続を実施し、紛争鉱物報告書への記載が必要となる。

リサイクル又はスクラップは、金において多用されるが、このリサイクル又はスクラップに関する規定は、金だけでなく他の3鉱物についても対象となる。紛争鉱物報告書には、次の事項を記載する。

l リサイクル又はスクラップから精製された鉱物は「紛争なし」とみなされる旨
l 当該鉱物はリサイクル又はスクラップから精製されたものであることを判断するために実施したデューディリジェンス手続の内容(このデューディリジェンス手続は外部監査の対象となる)

4.日本企業に求められる対応
以上のとおり、法律への対応を行うには、その適用対象となる会社とそのサプライヤー企業にとってかなりの労力と困難が伴うと予想される。関連する日本企業は今後どのような対応を行うのかについて早急に検討しなければならない。

(1)基本的な考え方
紛争鉱物を使用しているかどうかについて実施する「合理的な原産国調査」とは、具体的にどのような手続なのか公表された規則案では明らかではない。またデューディリジェンス手続についても明確にされていない。規則案においては、企業の責任おいてそれらを決め、その内容を開示することが求められている。

サーべンス・オクスリー法第404条に基づく内部統制報告書の提出に当たって、米国上場企業が実施する内部統制の評価手続については、外部監査の基準が実質上の指針となった。このことから考えると、会計検査院(GAO)から公表される予定の紛争鉱物報告書に関わる監査基準が、企業によるデューディリジェンス手続の指針となりうるかもしれない。しかし、これはまだ公表されておらず、企業にはそれを待っている時間の余裕はないと考えなければならない。

前述のとおり、SEC規則の最終化は遅れているが、その導入時期には大きな延期はない。特に3月決算会社については、同規則の確定が本年12月になった場合でも、当初の導入時期の20133月期に変わりはない。一方、規則案が若干変更されるだけか、大幅に変更されるのかについては予測できない。

しかし、紛争鉱物を使用していないことをいち早く宣言することが、自社製品の差別化を促進するであろうことは容易に想像できる。特に、米国上場企業に納入するサプライヤー企業は、同業他社に「紛争なし」を宣言されてしまうと、得意先を失うことにもなりかねない。従って、法律に規定された4鉱物が自社製品に使用されている場合には、そのサプライチェーンを特定する作業に取り掛かっておくことが必要と考えられる。

冒頭に述べたとおり、法律の適用に関わらずCSRの観点からは、紛争国において産出された鉱物の使用を避けるべきであることは言うまでもない。特に法律の制定により紛争鉱物に社会的な注目が集まることが予想される。従って、法律に規定された紛争鉱物を手始めとしてCSRの見地から使用が望ましくない鉱物を取り扱っている企業は、それらの産地を特定し、如何にしてその使用を避けることができるかについての検討を開始すべきである。

(2)OECDガイダンスと業界の動き
冒頭に紹介したラギー・フレームワークに基づき、タンタル等の紛争鉱物のデューディリジェンス手続についてOECD(経済協力開発機構)が、「紛争及び高リスク地域からの鉱物についての責任あるサプライチェーンのためのOECDデューデリジェンス・ガイダンス」(注4)を201012月に公表している(本年5月に改訂)。本ガイダンスでは、デューデリジェンス手続に関して、次の5つのステップで解説している。米国国務省はこれを支持(endorse)し、法律への対応に当たってこのガイダンスを利用することを奨励(encourage)する旨の声明を20117月に発表している(注5)。

Step 1: 強力な企業マネジメントシステムの構築
Step 2: サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価
Step 3: 特定されたリスクに対応するための戦略計画と戦略実施
Step 4: 製錬会社のデューデリジェンスに関する独立第三者監査の実施
Step 5: サプライチェーン・デューデリジェンスに関する年次報告

電子機器業界においては、積極的な取り組みを進めている。201012月、EICC(電子業界行動規範推進グループ)GeSI(グローバル・e-サステナビリティ・イニシアティブ)は「紛争なし製錬所(conflict free smelters)プログラム」を立ち上げ、タンタル製錬業者の評価を開始した。11社の製錬所を最初の調査対象としており(注6)、本年5月には、そのうち38製錬所(日本の製錬所2箇所を含む)が紛争なし(conflict free)であったと公表している(注7)。EICC等はこの活動をタンタル以外の紛争鉱物にも拡大している。

 EICCGeSIは、さらにデューディリジェンス手続の実践的なツールとして、紛争鉱物報告テンプレート(サプライヤー記入用)とダッシュボード(集約ツール)を本年8月に公表している(注8)。これらの公表物はすべてWebサイトから会員以外でも入手できる。今後は、自動車業界など他の業界においてもこのような動きが加速してくるものと予想される。

(3)今後の対策
米国上場企業のメーカーに対して、部品等を供給する1次及び2次以降のサプライヤー企業は、当該メーカーやその直前のサプライヤーから紛争鉱物の使用についての問い合わせを受けていると思われる。しかし、該当鉱物の産地を把握していない企業が多いのが現状と考えられる。上記のとおり法律では、デューディリジェンス手続として製錬所まで遡る調査を求めていること及び外部監査を求めていることから、単なるアンケートに答えたり、自ら証明書を発行する程度では対応できないと考えられる。

現状まず実施すべき手続は、自社製品のどの部分に紛争鉱物が使用される可能性があるかについて検討することである。次に、その産地まで遡るための手続を検討するか、又は紛争鉱物を使用していないサプライヤーに変更する。いったん紛争鉱物を排除した場合においても、製造仕様変更などにより紛争鉱物を使用することがないような管理(内部統制)を継続して実施することが必要となる。

合理的な原産国調査の例として前述したように、サプライヤーにおいても、外部監査を受けることが必要になるであろう。このような監査に耐えるような文書記録の保持が求められることも忘れてはならない。

【注】
(1)SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION 17 CFR PARTS 229 and 249 [Release No. 34-63547; File No. S7-40-10] RIN 3235-AK84 CONFLICT MINERALS, 201112
(2)独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 金属資源情報センター「コンゴ民主共和国産等の紛争鉱物に関する米国の規制と関係業界の動向」カレント・トピックス201107
(3)Implementing Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act — Upcoming ActivitySECのウェブサイト)
(4)OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas, 20115
(5)Statement Concerning Implementation of Section 1502 of the Dodd-Frank Legislation Concerning Conflict Minerals Due Diligence, U.S. Department of State, 20117
(6)EICC®-GeSI Tantalum Supply Chain Transparency: Processor Audit, 20114
(7)EICC®-GeSI Conflict-Free Smelter (CFS) Program Compliant Tantalum Smelter List, 20115
(8)EICC®-GeSI Conflict Free Smelter Tools & Resources, 20118

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