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2014年9月20日土曜日

内部統制報告制度の成立とその背景

(「内部統制報告実務詳解」(商事法務2009年4月) 第1章 1.内部統制報告制度の成立とその背景)

1-1. 内部統制報告制度の位置付け
200667日、金融商品取引法(証券取引法等の一部を改正する法律)が成立した。これにより、上場会社は、内部統制報告書を有価証券報告書と併せて提出することとなる。この内部統制報告書に対して、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないと定められている。

この内部統制報告書は、「内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価」することよって作成する。また、公認会計士または監査法人の監査は、「内閣府令で定める基準及び手続によって」実施することとなる。

この内部統制報告書の提出およびそれに対する外部監査の制度(以下「内部統制報告制度」)は、200841日以降に開始する事業年度から適用される。上記の「内閣府令により定める」基準として、「財務報告に係る内部統制の評価と監査の基準」(以下「内部統制基準」)と「財務報告に係る内部統制の評価と監査に関する実施基準」(以下「実施基準」)を金融庁の企業会計審議会が2007215日に公表している。

今回導入される内部統制報告制度の最大の特徴は、上場会社自らによる内部統制の評価結果について外部監査人が監査をする点である。監査法人等の外部監査人は、これまで実施してきた財務諸表監査においても内部統制の評価を実施し、その結果に基づいて、勘定残高の監査範囲を決定していた。これは、財務諸表を作成するための内部統制が有効に整備・運用されていれば、結果として作成される財務諸表の信頼性が高いはずであるという考え方に基づいている。内部統制報告制度では、財務諸表を監査法人等が監査するという財務諸表監査に加え、その財務諸表の作成プロセスまでも外部監査の対象とするという監査の強化策であると言える。

この制度の導入により、上場会社は、財務報告に係る内部統制に関心を向け、ある程度の人材と時間をそれに投入せざるを得なくなる。これは、上場会社と外部監査人により内部統制に投資される社会コストの増大を意味する。このような、社会的な投資により、これまで見過ごされていたかもしれない財務報告の虚偽記載の事実やその兆候について、投資家に対してタイムリーかつ的確に情報提供できるようになると期待されるのである。

1-2. 代表者による確認書制度の導入
内部統制報告制度に先立って、200341日以後開始する事業年度から有価証券報告書等の添付書類として、代表者による確認書(以下「確認書」)の提出する制度が開始されている。3月決算会社の場合、これは20043月期からの適用となった。この確認書の提出は任意であった。

金融庁は、この確認書制度の導入前に主要銀行に対して、20033月期から確認書を提出することを要請した。政府は、失われた10年と言われた長期不況の原因のひとつとされた銀行の不良債権処理を進めるため、「金融再生プログラム」の実施に向けた「作業工程表」を20021129日に公表した。その中で、主要銀行に対して「財務諸表の正確性に関する経営者による宣言」を20033月期決算からの実施を要請することとされていた。これを受け、金融庁は、200341日に主要銀行に対して20033月期に係る有価証券報告書から確認書を提出するよう要請したのである。米国においては、連邦預金保険公社(FDIC)に対する宣誓制度が以前より存在しており、わが国政府が、これに類似した制度の導入を意図したものと考えられる。すなわち、主要銀行にとっては、この確認書は任意提出ではなかった。

一方、当時の内閣府令(開示府令)によれば、確認書は有価証券届出書、有価証券報告書および半期報告書の添付書類として、代表者(代表取締役または代表執行役)が自署・捺印して提出する。この場合の印鑑は、代表者印ではなく個人印となっていた。
当時の企業内容等開示ガイドラインでは、確認書を提出する場合には、次の事項を記載することとしていた。

l  有価証券報告書等の記載内容が適正であることを確認した旨
l  確認を行った記載内容の範囲が限定されている場合はその旨及びその理由
l  確認について特記すべき事項

「有価証券報告書等の記載内容が適正」であることを、企業がどのように確認したらよいか、また、「財務諸表等が適正に作成されるシステム」とは何か、それが機能していることをどのように確認したらよいのかについては、この時点では何の指針もなかった。

財務諸表等が適正に作成されるシステムとは、財務報告に係る内部統制を指すと考えられるが、これに関してはその後に検討され公表された内部統制基準によってその内容が明らかとなるのである。

1-3. 内部統制報告制度の誕生
西武鉄道による大株主の持株数に関わる有価証券報告書虚偽記載を受け、20041116日金融庁は「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応について」(以下「対応について」)を発表した。そこでは「全開示企業に対し、株主の状況等についての開示内容を自主的に点検し、必要があればすみやかに訂正報告書等の提出を行うよう、各財務局を通じて指示する。」としている。

この自主点検の対象企業4,543社のうち、589社が有価証券報告書等の内容を訂正した。このように多くの会社が一時期に訂正報告書を提出することは異常事態と言わざるをえない。

この自主点検は、有価証券報告書の記載事項のうち「大株主の状況」以外の部分も含まれるような書式により要請されたが、実質上、大株主の状況を中心とした自主点検であり、結果として提出された訂正報告書の多くが大株主の状況における訂正であった。

前述の「対応について」において、「財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価と公認会計士等による監査のあり方」について、金融庁が、金融審議会第一部会ディスクロージャー・ワーキンググループに対して検討を要請したことが明らかになった。

確認書との関係で考えると、このうち「財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価」は、前述の開示ガイドラインにおける「財務諸表等が適正に作成されるシステムが機能していたかを確認」に相当すると考えられる。これは、米国のサーベンス・オクスリー法404条において要求されるような内部統制制度に類似した新しい制度の検討を意図したものであった。

次に「対応について」(第2弾)が20041224日に発表され、そこでは「現在任意の制度として導入されている経営者による確認書制度の活用を促すとともに、経営者による評価の基準及び公認会計士等による検証の基準の明確化を企業会計審議会に要請し、当該基準に示された実務の有効性等を踏まえ、評価及び検証の義務化につき検討する」としている。

ここで、内部統制の有効性に関する経営者による評価と監査法人等による監査が一対のものとして議論されることになった点について留意しなければならない。財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価は、監査法人等による内部統制の監査の前提となるからである。

監査法人等による財務諸表監査の場合は、経営者が作成し公表する財務諸表に対して監査法人等が独立した意見を述べる。内部統制に関する監査の場合、経営者による内部統制の有効性評価の言明書(確認書)が、監査の対象となるのである。ここで、米国のように経営者による評価とは別に、監査法人が内部統制を評価して監査報告するような制度とすることも考えられる。しかし、ここで経営者による言明書を前提とした制度設計を金融庁が意図したということが読み取れる。

その後、2005128日に開催された企業会計審議会総会において、金融庁は次のとおり報告した。すなわち、「諸外国の実例や我が国の会社法制との整合性等にも留意しつつ、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価の基準及び公認会計士等による検証の基準の明確化を早急に図るべきだということ。それから、これを通じて、先ほどご紹介しました会社代表者による確認書制度の活用を促していく。それから、できました基準に示された実務の有効性や諸外国の状況等を踏まえ、その義務化の範囲や方法が適切に判断されるべきであるということを結論づけておるところでございます。」

次に、金融庁は企業会計審議会に内部統制部会(八田進二部会長)を設置し、20052月より財務報告に係る内部統制についての検討を開始した。11回の会議の成果として「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(公開草案)」を7月に公表した。これに対するパブリックコメントを反映して、同年128日に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」(以下「基準案」)として公表した。

基準案の前文である「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」において、次のように述べられ、実施基準の策定が約束された。「基準案に加えて、これを実務に適用していくとした場合のより詳細な実務上の指針(以下「実施基準」という。)の整備を求める意見が多く出された。このため、当部会では、今後、実施基準のあり方についても、併せて検討を行っていくこととしたい。」

実施基準の策定に当たり、内部統制部会に作業部会(橋本尚部会座長)が設置され、基準案の発表から約1年後の20061121日にようやくその公開草案が公表され、パブリックコメントが求められた。パブリックコメントの一部が反映された実施基準は、2007215日に開催された企業会計審議会総会において承認され、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」が公表されるに至った。この意見書は、前文、内部統制基準および実施基準によって構成されている。前述の基準案については、実施基準の記述に整合させるなどの修正が行われ、最終版の内部統制基準となってこの意見書に組み込まれている。


1-4. 金融庁による内閣府令等とQ&A等の公表
金融商品取引法は、その運用上の詳細を内閣府令等に委ねている。金融庁は、2007810日に「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(内部統制府令)」を公布し、2007101日に「『財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令』の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)」を正式決定した。内部統制府令等には内部統制報告書および内部統制監査報告書の記載事項などが記載されている。

内部統制府令ガイドラインの決定と同日に、金融庁より「内部統制報告制度に関するQ&A」が公表されている。これは、「内部統制報告制度に関して寄せられた照会等に対して行った回答等のうち、先例的な価値があると認められるものを整理したもの」である。このQ&Aは、20問の問いとその答えにより構成されている。

次に金融庁は2008年3月11日に「内部統制報告制度に関する11の誤解」を公表した。この文書の公表にあたり、金融庁は「実務の現場では、一部に過度に保守的な対応が行われているとも言われております。金融庁では、そうした指摘も踏まえ「内部統制報告制度に関する11の誤解」を公表し、改めて制度の意図を説明することといたしました。」としている。この文書は箇条書き形式で記載されており、上記のQ&Aと記載と一部重複する内容も含まれている。上場会社に対する教育的指導を目的としていると考えられる。

この発表と同時に追加的なQ&Aの公表、日本経団連、日本公認会計士協会および金融庁における相談・照会窓口の設置および制度導入後のレビューの実施を行う旨を公表した。制度導入後のレビューの趣旨として「制度導入後、適時にレビューを行い、その結果を踏まえて、必要に応じ、評価・監査の基準・実施基準の見直しや更なる明確化等を検討」するとしている。最後に「内部統制報告制度の導入にあたっては、過度に保守的な対応にならないよう、制度の円滑な実施を図るという観点から指導中心の行政対応」を行うとした。

1-5. 日本公認会計士協会による実務指針
日本公認会計士協会は「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(以下、「内部統制監査実務指針」)を20071024日に公表した。内部統制監査実務指針は、前述の法令、内部統制基準および実施基準のすべてを踏まえて、公認会計士または監査法人が外部監査としての内部統制監査を実施するに当たっての実務上の指針を定めている。内部統制監査実務指針は、監査・保証実務委員会報告第82号として公表されている。委員会報告は、日本公認会計士協会の会員を拘束する指針であり、すべての公認会計士および監査法人は、これに従うことが必要となる。

内部統制監査実務指針においては、内部統制監査に直接関係する監査計画の策定から監査意見の表明までの監査実施の一連の過程で留意すべき事項が取りまとめられている。日本公認会計士協会による実務指針(監査上の取扱い)としては異例と言える全72ページという大部となっている。

内部統制監査実務指針の構成は、以下のとおりである。

<図表  「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の目次>
1.はじめに
2.用語
3.内部統制監査の意義
4.財務諸表監査と内部統制監査との関係
5.外部監査人の独立性
6.監査計画の策定
7.評価範囲の妥当性の検討
8.全社的な内部統制の評価の検討方法
9.業務プロセスに係る内部統制の評価の検討方法
10.ITに係る全般統制の評価の検討方法
11.内部統制の重要な欠陥
12.不正等への対応
13.経営者の評価の利用
14.他の外部監査人等の利用
15.監査調書
16.内部統制監査報告書
17.内部統制監査において入手すべき経営者による確認書
18.適用
付録1 内部統制監査において監査調書に記載する事項の例示
付録2 統計的サンプル数の例示
付録3 結合型内部統制監査報告書の文例
付録4 経営者確認書の文例(連結及び個別財務諸表監査並びに内部統制監査一体用)

以上により、内部統制報告制度に係る法令、基準および指針が出揃い、制度全体を見渡せることができるようになった。以上の法令、基準、指針等を要約すると下表のとおりである。

<図表  財務報告に係る内部統制に関する法令・基準・指針等>

法令・基準・指針等名称
種類
設定主体
制定(発表)年月日
金融商品取引法
法律
国会
200667
財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令 (内部統制府令)
内閣府令
金融庁
2007810
「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について (内部統制府令ガイドライン)
府令ガイドライン
金融庁
2007101
財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
基準
企業会計審議会
2007215
財務報告に係る内部統制の評価及び監査の実施基準
実施基準
企業会計審議会
2007215
内部統制報告制度に関するQ&A
Q&A
金融庁
2007101
財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い
委員会報告
日本公認会計士協会
監査・保証実務委員会
20071024
内部統制報告制度に関する11の誤解
指針
金融庁
2008311

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