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2014年9月29日月曜日

監査報告書が変わる-KAMの導入

アナリストに言わせると、財務諸表が適正である場合には、「監査法人名と監査法人が交代しているかしか見ていない」とのこと。上場会社の財務諸表に対する監査報告書は、基本読まれていない。

監査報告書を個性化し、読んでもらおうという動きが現実的になってきた。

これまで監査報告書の文言は、標準化されていることに意義があるというの考え方であった。これは、英語ではpass/failモデルまたはbinary modelと呼ばれ、日本語では○×モデル。
合格か不合格か大きい文字で書いて終わりでもよいが、その前提となる監査の対象や一般的なやり方が標準文言として書かれている。


なお、標準と異なる監査報告書は、限定付き適正意見、不適正意見(これは上場廃止理由になる)、意見差し控え(これも上場廃止理由になる)がある。ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)に関する記述が監査報告書に書かれるというのも標準から外れた記述になる。こうゆう監査報告書は読まれる。

なぜ、監査報告書が標準文言になっているかというと、○か×かを書くのが目的であり、それ以外の情報は、最小限にするためである。×の場合には、なぜ×か、どれだけ×かについて書いて、財務諸表の利用者に知らせる必要がある。しかし、○の場合は、財務諸表はそのまま使ってよいので、追加的なコメントは不要となる。

ゴーイングコンサーン情報は、監査人が「この会社潰れそう」ということを知らせようというものではない。会社が継続的に活動する前提で決算している、もし会社が潰れるのであれば、その時点でたとえば資産を清算価値で評価し直すことが必要となる。そいうなると決算が大きく変わる。「この会社は潰れそうかもしれないが、決算は継続企業を前提として組んでいます」というのが、監査報告書のゴーイングコンサーン情報の意味である。

「でも監査人が監査報告書にいろいろ情報を書いてくれたら利用者に有用な情報になるのでは?」という考えもありうる。○でも、ギリギリ○の場合、どんなところがギリギリだったのか、または何の問題もなく、余裕で○だったのかを書いておく。○×の基本はそのままで、監査上どんなことに気を付けたのかに関する情報を監査報告書に記載する、というのが新しい考え方である。

こんなことを書くことになったら、経営者の抵抗は大きいはず。経団連は反対するかもしれない。

最近の財務諸表は、「確率変数のかたまり」のようになっている現状から、アナリストは、誰が監査したのかだけでなく、どうゆう監査をしたのかという情報を有用と認めるのではないか。(井上善弘編著 「監査報告書の新展開」 日本監査研究学会リサーチシリーズ12 平成269 同文館 P10
国際監査基準(ISA701,701 共にまだ公開草案)の考え方を大雑把に言うと次の通り。
監査人が提供する保証以外の情報には、
1
財務諸表を利用者が読むに当たっての留意事項的な情報
2
監査人が監査を実施するに当たって重要と考えた事項

上記2を監査報告書に記載する。この監査人が記載する事項をKey Audit Matters(KAM)としている。

なお、KAMは、大学の先生はカムと発音している(昨日の監査研究学会では全員カム)が、イギリス人はそうかもしれないが、アメリカ人はたぶんキャムと発音すると思う。大学の先生はGAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)はガープと発音するが、実務家はギャップに決まっている。その類になるか。

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