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2015年7月3日金曜日

書かれてしまった「J-SOXの存在意義」

東芝事件が起きたのをきっかけに、野村総研の大崎氏に下記のように書かれてしまった。言われるまでもなく、J-SOX(内部統制報告制度)では、財務諸表の過年度訂正により、内部統制報告書を訂正し「開示すべき重要な不備があった」とする事例が多い。東芝もその事例の一つである。

なぜ、そうなるのか? 制度の設計が悪いからである。
「開示すべき重要な不備(重要な欠陥)」は、「財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備」と定義されている。制度の基本となる内部統制基準では「重要な影響」は比較的はっきり定義されているが、「可能性が高い」が明瞭でない。現状の実務では財務諸表に重要な影響を与える会計処理の誤りが発見された場合にのみ、「可能性が高い」としている。要するに顕在化した重要な不備だけが対象になっている。

「顕在化」と「可能性が高い」は当然意味が違う。「可能性が高い」は、可能性の話でありリスクが高いというのと同じ考え方となる。顕在化は条件ではない。
内部統制基準では「可能性が高い」を明確に定義することができなかったことから、「顕在化」した重要な不備だけが、開示すべき重要な不備として取り扱われているのが現状である。
顕在化は、東芝のように一旦外部に報告済みの財務諸表が誤りであったということだけでなく、財務諸表を公表する前に監査法人が監査によって発見し、会社が修正して財務諸表を公表したケースが含まれる。後者が、その事業年度で公表される開示すべき重要な不備のほとんどである(下記記事の7件がこれに相当する)。残りのそれより多くの開示すべき重要な不備は、公表済みの財務諸表を修正するような事態が発生したケースとなる。

なぜ、顕在化した重要な不備が実質上「開示すべき重要な不備」として扱われるのか?それは企業の負担軽減の名の下に、内部統制基準を甘くしたためである。
基準を甘くすると、結果的にその存在意義を問われることになる。

そろそろ内部統制基準の見直しが必要である。
ちなみに米国SOXでは「可能性が低い」(remote=発生可能性5%以下)以外は「可能性が高い」(reasonably possible=more than a remote likelyhood)と定義されている。なお、日本の金融庁による内部統制基準(改定前)の英訳は、可能性が高い=reasonably possibleと訳されていた。

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十字路 内部統制報告制度の存在意義:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO88742680R00C15A7ENK000/

2015/7/1 15:30 夕刊

 不適切な会計処理が発覚した東芝が、過去の内部統制報告書を訂正する見通しだ。内部統制とは、財務報告の信頼性を合理的に保証するために経営者や従業員によって遂行されるプロセスのこと。内部統制が有効に構築・運営されていることは、適正な財務報告作成の前提条件となる。

 そこで、経営者が自社の内部統制の有効性を検証し、その判断の適正性を外部監査人が監査する仕組みがある。2001年のエンロン事件後に米国が導入し、日本でも06年に立法化された内部統制報告・監査制度だ。

 上場会社のほとんどは、自社の内部統制は有効だとし、その判断を適正とする監査意見も出されている。税務研究会の調べでは、14年3月期決算約2500社中、内部統制に開示すべき重要な不備があり有効ではない、としたのは7社だけだった。

 ところが、不正会計などの不祥事を機に過去の報告書を訂正し、内部統制は有効でなかったと開示する例が後を絶たない。14年3月期決算会社では、既に北越紀州製紙やLIXILグループなど11社が、そうした訂正を行った。

 経営者と監査人が内部統制の不備を見逃し、財務報告の誤りが明らかになって初めて、実は内部統制が有効でなかったと言われたのでは、開示情報を信頼した投資家は浮かばれない。内部統制報告・監査制度が担うべき投資家への警告機能が働いていない。

 同制度は上場会社に重い負担となっており、昨年の法改正で新規公開会社は監査を免除されたほどだ。それにもかかわらず経営者のチェックや監査が形式的で、重要な不備を発見できないのなら、制度の存在意義が問われる。

 とりわけ監査人には、職業的懐疑心を十分に発揮し、問題点を早期に発見するゲートキーパー(門番)としての役割を貫徹することが、強く求められるだろう。

(野村総合研究所主席研究員 大崎貞和)

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