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2015年9月30日水曜日

業績連動報酬:税制にこだわりすぎてはいけない。

コーポレートガバナンス・コードでは、

「経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、 健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。」 (原則4−2)「べきである」となっていることから、そうしない場合にはExplainが必要であると考えなければならない。

インセンティブの典型は業績連動報酬である。実は現状の税制上これが大きな課題になっている。昔、筆者が勉強した法人税法では、役員報酬は毎月定額である必要があり、特定の月に多く払うとそれは賞与と見なされ、損金(経費)算入ができなかった。

2006年ごろに下記の「現在」の税制に変わっているようであるが、事前に届け出るような業績連動はあり得ず、業績指標は利益だけというのも使い勝手が悪い。もっと問題なのは、業績連動を取締役一律で、人によって事業部の業績を反映した報酬によることもできない。(下図は日経新聞2015/9/25より)













国税庁のウェブサイトによると利益連動給与は「有価証券報告書に記載されるその事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的なもの」となっている。管理会計に基づく事業部売上高や利益は一般に指標にできないと読める(セグメント情報は有報に記載されるのでそれは使えるのかもしれない。何れにしても取締役別にきめ細かな指標の設定は無理)。またROEも指標にはできない(ただ、ROEは経営目標というよりその結果なので、これを役員報酬に反映することには議論はあると考えられる)。

要するに、使い勝手のよい業績連動報酬を設計しても、法人税計算上、損金(経費)にはならないということ。支払いたければ、もともと損金にはならない役員賞与として一時金を支払うか、年度途中で役員報酬を増額し、増額分は損金不算入として税務申告するかになる。

次年度の役員報酬に毎月同額を上乗せすれば、損金になるという方法はある。この場合は、業績とそれに対する報酬の事業年度がずれることから、もし次年度の業績が悪くなった場合、役員報酬が増額されるという不具合が起こる。

以上のことから、上図のとおり法人税法改正の要望がされている。ただ、業績連動報酬は損金になることに越したことはないが、損金にならないから業績連動報酬を採用しない、というのは本末転倒である。もし、これをExplainとして開示する会社がいれば失笑ものとなる。

役員賞与は、旧商法では、株主配当と同類の利益処分項目と考えられていた。いまでもそれをそのまま引きずっているのか、法人税法上は損金にはならない。税法改正の動向は見守る必要はあるが、より良い業績連動報酬の設計を行うべきである。

なお、法人税法の観点からは、役員報酬や役員賞与の支払いすぎにこだわるのはどうかと思う。法人税率が今後どんどん下がっていくのであれば、法人税で取るより個人所得税で取る方が賢明ではないか?

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