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2016年12月5日月曜日

MBO後の再上場審査が強化

 下記のような記事が日経に掲載されました。投資ファンドが株価を安く買い取って、上場廃止し、再上場時に売却して儲けるという流れは、以前からありました。例えば、2014年8月に再上場したスカイラークは、業績が悪化したことから2006年9月に上場廃止して野村プリンシパルファンアンス(NPF)などの傘下に入りました。その後業績が回復せず、2011年秋にはベインキャピタルが買収したのです。
 このように業績が悪くなった上場会社にファンドが入って上場廃止するケースは雪国まいたけ(これもベイン)を含め、数が増えてきました。ファンドとしては、EXITするために投資しているのですから、会社の売却か再上場を目指すことになります。何れにしても、そのためには業績回復が必須となります。
 お金を出すだけでなく、経営に手を入れて業績回復させる努力をするわけですから、ファンドとしては、それなりの見返りがあって然るべきです。ただ、一般株主から見たら、業績が悪化して株価が下がった時に上場廃止され、再上場したら高い株価になっている、ということでは、株式を持ち続けて儲けるという機会を失うということになってしまいます。当然ながら、非上場の期間は業績の開示もされません。
 業績が悪くなったタイミングで、ファンドが経営者と組んで、意図を持って上場廃止して再上場で儲けるということだと、一般株主の利益を害することになってしまいます。このようなことがないかについて、東証はしっかり時間をかけて審査しますよ、というのがこの記事の趣旨です。
 このタイミングでこのような記事が出たのは、具体的な案件があるからと想像されます。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)とマクロミルは、年内再上場と言われていたのに未だに上場承認されません。多分、この審査に引っかかっているのだと想像されます。USJは独立系ファンドのMBKパートナーズとゴールドマンサックス系のファンド、マクロミルはベインキャピタルです。
 12月1日には、「日本取引所グループは30日、2016年の新規株式公開(IPO)企業数が前年より約1割少ない84社になると発表した。年間で減少するのは7年ぶり。傘下の東京証券取引所や証券会社が上場審査を厳しくした影響が出た。」という記事も出ており、今年の新規上場が減少したのは、東証の審査強化が原因のようです。

日本取引所、再上場企業の審査強化 

2016/12/2付
[有料会員限定]

 日本取引所グループはMBO(経営陣が参加する買収)で上場廃止になった企業が再上場する際の審査を強化する。MBO時の株式買い取り価格の妥当性や、上場を廃止してから再上場するまでの事業計画などについて詳細な説明を求める。審査の重点項目を明確にして、個人など一般投資家を保護する姿勢を打ち出す。
 2日にも新たな方針を公表する。MBOに対しては、経営陣が投資ファンドなどと共同で株式を安く買い取って、再上場時に高く売却することへの批判もある。日本取引所は株式市場への安易な入退場をけん制し、MBO企業には一般株主をより意識した経営を促す。
 MBO時には経営陣が買収者と被買収者の両方の側面を持ち、一般株主との利益相反が起きやすい。そのため再上場後に一般株主の利益に反しない経営ができるのか、企業統治体制も見極める。

2016年10月10日月曜日

報酬委員会の取締役は独立しているかー米国の事例

 104日のWallstreet Journal電子版に、社外取締役がロビイストの場合の独立性についての記事が掲載されました。
Lobbyists as Directors Test Rules for Corporate Boards 
Directors at some companies are paid to lobby for those firms or allied trade groups, while also helping set the CEO’s pay 
By THEO FRANCIS and BRODY MULLINS
Updated Oct. 4, 2016 3:23 p.m. ET

 下記は、少し複雑な図ですが、要するに上場会社(Louisiana health-care company, LHC Group Inc.)のCEOが議長を務める業界団体がロビイストの会社にロビイングを依頼し、そのロビイング会社が同社の社外取締役2名(共に元連邦議会議員)にロビイングを依頼していたということです。


 業界団体がロビイングを依頼するのは普通の事ですし、依頼されたロビイング会社が元議員にロビイングを依頼するのも当たり前のことでしょう。

 しかし、業界団体の長が上場会社のCEOであり、そのCEOの報酬を決める報酬委員会のメンバーにそのロビイストの取締役2名が入っているとしたらどうでしょう。

 CEOが業界団体を介して、この元議員2名に報酬を払っていることになり、結果として、自分の言うことを聞く人を報酬委員会に入れたというようにも考えられます。

 事実、報酬委員会が2年連続でCEOの報酬を90%昇給させることや会社の飛行機を私用に利用することを承認したということであれば、余計にこのような疑いが持たれることになってしまいます。

 リーマンショックの後に制定されたDodd-Frank法の952条では次のように規定されています。「証券取引法の10C条を次のように改定する・・・」。その内容は、要するに報酬委員会の委員は独立している必要があるというものです。

 SEC. 952. COMPENSATION COMMITTEE INDEPENDENCE.
(a) IN GENERAL.—The Securities Exchange Act of 1934 (15 U.S.C. 78 et seq.) is amended by inserting after section 10B, as added by section 753, the following:
‘‘SEC. 10C. COMPENSATION COMMITTEES. ……….

 Dodd-Frank法で気をつけなければいけないのは、この法律でこのような別の法律の改正を規定していても、いつまでも法律が改正されないとか、その運用を定めるSEC規則が決まらないことがあるということです。この952条についてはSEC規則がすでに公表されていますので、施行されている条文になります。(有名なSay on Pay951条で、これも施行されています)

 結果として、この法律により、報酬委員会のメンバーである取締役は会社から独立している必要があるのですが、上記の会社のように間接的に会社から報酬を支払ったようになっている場合にどうするかが明確でないということで、新聞記事になったものと思われます。

 間接的に報酬を払うということであれば、上記の場合、業界団体の顧問弁護士もあり得ます。ロビイストであれば、多額の報酬ということも想定されますが、顧問弁護士の顧問料は訴訟などがないのであれば、多額にはならないかもしれませんが、それも独立性があると言えないのかなど、このような「間接支払」には検討課題が多いと思います。

2016年9月29日木曜日

日立の業績とコーポレートガバナンスの関係

 内部監査推進全国大会(第50回の記念大会)で日立の川村隆相談役のお話を聞きました。川村氏は、2009年3月期に製造業で過去最大であった7873億円の最終赤字に陥った日立をV字回復させた社長(2009-2010)・会長(2010-2013)です。
 お話のテーマは内部監査でしたが、その中で委員会等設置会社にしたことと企業業績との関係が興味深かったのでご報告します。
 日立は2003年4月に施行された会社法(当時は商法特例法)により、委員会等設置会社(以下「指名委員会等設置会社」)に任意で移行できるようになった時に、いち早く移行したのが日立でした。
 その後、日立は上場しているグループ会社でも指名委員会等設置会社を採用しました。ある年、上場会社の中で指名委員会等設置会社の数が減少しました。それは、日立グループのリストラでこれらの会社を統合したためでした。日立は今でも日立製作所を含め8社の上場グループ会社が指名委員会等設置会社になっています。
 川村氏によれば、欧米型の指名委員会等設置会社は「明確で良い」、「(本質的な理由ではないが)海外の投資家に説明しやすい」ので採用したということでした。ソニー、東芝などの他の電気会社が業界を率先して指名委員会等設置会社に移行することになったのも要因と考えられます。
 ただ、2003年に指名委員会等設置会社に移行した後は、業績が低迷し、上記のとおり、2009年3月期には「今後も他社に抜かれることがない」(川村氏)というほどの赤字決算に転落しました。これは、言うまでもなくリーマンショックの影響でしたが、その素地が過去から蓄積されてきたためであることは間違いありません。
 コーポレートガバナンスを指名委員会等設置に変更したら業績低迷した、という点ではソニーも同様であったということが言えます。(東芝の場合は業績悪化が顕著にでませんでしたが、実はそれは粉飾決算が原因だったのはご存知のとおりです)。日本では、名委員会等設置会社は業績には悪影響を与えるのではないか、という「思い込み」が日本で形成されたのはこのためと考えられます。指名委員会等設置会社が増えなかったのは、これが大きな原因と筆者は思っています。
 しかし、川村氏によると、日立は2003年に指名委員会等設置会社に移行したが、社外取締役には知り合いの人などにお願いしたことから、取締役会で厳しい意見が出なかったとのことでした。
 日立の場合、2009年のどん底の時点ではなく、そこからV字回復した後の2012年に外人を社外取締役に入れたそうです。川村氏によると、これはV字回復すると気がゆるむので、それを防ぐのが目的だったとのことです。そのあと、日立は2014年3月期と2015年3月期に連続で過去最高益を更新したのです。
 社外取締役には外人の次に女性を入れたそうです。外人取締役は、たとえば「V字回復したとしても、利益率6%では低すぎる」といった率直な意見を出したそうです。これまでの日本人の社外取締役は、遠慮があることからほとんど発言しなかったのですが、外人はお構いなしに厳しい発言をしたそうです。それにひきづられて、日本人の取締役の発言も増えてきたそうです。
 まさに、これがコーポレート・ガバナンスコードが求めている「攻めのガバナンス」と言えます。筆者は、ガバナンスのサクセスストーリーを聞かされた気持ちになりました。
 日立のこの事例から、ガバナンスは「形」ではなく、その「運用」であることがよく分かります。別稿で筆者がガバナンスと企業業績について疑問があることを記述したのは、企業業績と社外取締役導入という「形」だけを分析の対象としたからではないかと思います。
 形は外から見えますが、運用までは見えません。ただ、取締役会が多様化(diversify)しているということは、外からも見えます。外人や女性を社外取締役に入れなければならないということではありませんが、そうゆう会社の業績にプラスの影響を与えてるのであれば、データからガバナンスと企業業績が証明できるでしょう。取締役会での社外取締役の発言件数が開示されれば、それも運用状況の指標になると思いますが、これを実現するのは簡単ではないかもしれません。
 開示された情報から、コーポレートガバナンスと企業業績の関係を分析するのにはまだまだ工夫が必要です。

コーポレートガバナンスと企業業績の関係は疑わしい?

 「コーポレートガバナンスが強化されれば会社が良くなる」かどうかについて、疑いの目をもっている経営者は多いのではないでしょうか。口には出さないまでも、コーポレートガバナンスは単なる規制強化の一つと考えている経営者が多いのではないかと筆者は推察しています。
  今の所、コーポレートガバナンスと企業業績の関係は仮説であり、アベノミクスの国家再興戦略でそのように謳ったことから、少しは説得力があるとしても、いち早く委員会設置に移行したソニー、日立、東芝の状況を見れば、疑わしいと思わざるを得ないのです。 

  平成28年度の経済再生白書では、下記のとおりコーポレートガバナンスとROEに有意な関係があることが記述されています。ただ、業績の良い会社は、財政的な余裕があるためコーポレートガバナンスだけではなく、ESG全部について熱心という傾向があることも事実ではないでしょうか。下記の宮島・保田(2015)などの先行研究でも、我田引水的な感じが否めません。  
 コーポレートガバナンスとROEの関係を証明するためには、もう少し時間がかかりそうです。 

 「平成28年度の経済再生白書」から抜粋 
3-1 コーポレート・ガバナンスに関する先行研究 コーポレート・ガバナンスへの取組と企業の収益力等との関係については、先行研究において、これまでも様々な分析がなされてきた。本コラムでは、主な先行研究を紹介する。 まず、外国人株式所有比率や政策保有株式と企業の収益力の関係については、宮島・保田(2015)では、海外・国内機関投資家の保有比率が高いほど、トービンのQで測った企業価値やROAが高まるといった関係を報告している。また、光定・蜂谷(2009)では、外国人株主比率と株式超過収益率の間には有意な正の関係がみられたとしている。 独立社外取締役の導入については、清水(2011)では、社外取締役比率が高いほど企業価値が高い傾向になることに言及している。一方、財務省財務総合政策研究所(2003)では、社外取締役制度の導入自体とROA等を含む企業パフォーマンスとの間に有意な正の関係は認められなかったとしている。 コーポレート・ガバナンス指標の動きをみると、いずれの指標も2014年度にかけて上昇している姿が確認される(第3-2-3図)。独立社外取締役については、第三者の立場から、経営者に対して客観的な監督を行うという役割を担っており、その導入が進むことにより(経営者に対する)取締役会の監督機能の強化が期待されている。また、外国人株式所有比率については、その比率の高まりが、企業のコーポレート・ガバナンスへの取組に影響を与える可能性が指摘されている27。政策保有株式については、企業間の持ち合い等によって資本の効率的な活用が妨げられるといった可能性が指摘されており、株式の持ち合い等の解消が進むことで、株主資本に対する収益性の向上が期待されている。 ●コーポレート・ガバナンスへの取組を強化した企業では、収益性が高まる可能性 コーポレート・ガバナンスへの取組は、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上につながると考えられている。ここでは、実際に、最近のコーポレート・ガバナンスへの取組が企業の収益力や投資等に与える影響を検証する。 具体的には、それぞれのコーポレート・ガバナンス指標を基に、取組の進展に応じて企業を区別した上で、ROEや設備投資、研究開発費の動きを比較した。例えば、「独立社外取締役数」については、2011年度から2014年度にかけて、独立社外取締役数が減少または変化していない企業と1人増加した企業、2人以上増加した企業とに企業を区分28した上で、増加した企業をコーポレート・ガバナンスへの取組が進展したとみなし、3つの企業群で、同期間中におけるROE(第3-2-4図)、設備投資・売上高比率(第3-2-5図)、そして、研究開発費・売上高比率(第3-2-6図)の動きを比較した。 企業のコーポレート・ガバナンスへの取組とROEの関係をみると、「独立社外取締役数」については、増加した企業群、そして、「外国人株式所有比率」については、議決権の3分の1を上回る企業群といったように、いずれも、コーポレート・ガバナンスへの取組が進んでいる企業群において、ROEが高くなる傾向が示された。他方、「政策保有株式数」については、政策保有株式が減少した企業群のROEが高くなるといった結果は得られなかった29。設備投資、研究開発費についても、おおむね同様の傾向が示されており、コーポレート・ガバナンスへの取組を強化した企業では、投資機会の拡大や収益性の向上が図られる可能性が指摘できる。 マクロ的な経済環境に改善がみられる中、我が国経済を持続的な成長軌道に乗せ、中長期的な成長力の強化を図るためには、投資を含めたより積極的な行動を促す環境を整備することを通じて、企業レベルでの取組を促すことが重要となっている。

2016年9月26日月曜日

Wells Fargoの預金口座開設不正

 クレジットカードのAmerican Expressの創業者であるHenry Wells William Fargo1852年に創設したのがWells Fargoという銀行です。Fargo氏ニューヨーク州バッファローの市長を務めたこともあるようです。
 この2人は米国東部の出身ですが、西部のゴールドラッシュに目をつけて、サンフランシスコで創業したそうです。Wells Fargoというと駅馬車(stagecoach)で有名です。駅馬車による運送業を行うWells Fargo Expressと銀行業は1905年に分離されたそうです。その後、1998年にNorthwestという米国中部のミネソタ州の会社に買収されています。現在の筆頭株主はウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイということでもこの銀行は有名です。
 この時価総額が世界最大のこの銀行が、金融の中心地であるニューヨークではなくサンフランシスコを拠点にしている点は運送業(大陸横断)と金融業の両方をやっていたという歴史的背景が要因ではないかと、興味を惹かれるところです。
 
 さて、顧客の許可がないまま口座を開設して預金を移動したり、クレジットカードを発行したりする行為がこの銀行で発覚しました。不正に開設された口座は150万件以上、関与した行員は5000人以上。不正に発行されたクレジットカードも56万枚を超えるそうです。米消費者金融保護局(CFPB)による罰金額は2011年のCFPB発足後最高額となる18500万ドル(190億円)だったということです。
 「ウェルズ・ファーゴの行員は売り上げ目標を達成して賞与を得る目的で、顧客の許可を得ずに秘密裏に口座を開いた」と報道されていることから、このような不正が行われた背景には預金口座を開設したりクレジットカードを発行するとボーナスが出るというインセンティブがあったからと考えられられます。
 
 詳しい事実はこれから明らかになるかもしれませんが、上記の情報から言えることは過激なインセンティブが銀行員の「動機」になったことは間違いなさそうです。ただ、動機だけでは不正は起きません。やろうと思えばやれる「機会」があったに違いありません。要するに預金開設という銀行にとっては基本的な業務に関わる内部統制が不備だったということです。さらに5300人以上が解雇されたということですので、多くの銀行員が関わっていたことから、「同僚もやっているので問題ないだろう」という不正行為の「正当化」がされていたことは言うまでもありません。
 後付けで考えると、このように不正のトライアングルの3要素を識別することは簡単です。一般に報道では「動機」に注目されますが、いくら動機があっても機会がないと不正の実行は難しいのです。正当化は後から付いてくるものなので、動機だけでなく機会にも注目することが必要です。
 
 取締役会によるモニタリングという観点では、新規ビジネスの提案(この場合は複数預金口座を開設するビジネス手法、社員へのインセンティブの提案など)、内部監査の報告、リスクマネジメントの状況報告などが不正のトライアングルを見出すきっかけになると思います。この銀行の場合は、社員に対する過激なインセンティブ(動機)と内部統制の不備(機会)を、できる限り早期に取締役会で察知しておくことが必要だったわけです。

2016年9月24日土曜日

広告の納品確認

電通の不正請求
 電通は2016923日、インターネット広告料をスポンサー企業に対する架空請求などが633件見つかったと発表しました。2012年11月以降で広告主111社からの広告料約2億3000万円分だったそうです。
 電通によると、これには故意と過失の両方が含まれ、架空請求以外に、掲載期間のずれや運用実績の虚偽報告もあったそうです。これらの請求には社員ら100人余りが関与し、このうち14件は、未掲載なのに広告料計約320万円を請求していました。

不正請求の発生原因
 なぜこのような問題が発生したのでしょうか? 日経ビジネス(2016924)によれば、電通は次のように説明しています。
 「デジタル広告には、指定した期間、指定したスペースに対しての掲載を保証する『予約型広告』と、広告の露出やクリック数、動画の視聴完了など様々な基準に基づいて対価を請求する『運用型広告』がある。デジタル広告の領域全体では、売り上げや売上総利益は前年比で2ケタ成長しているが、なかでも2010年ごろから『運用型デジタル広告』の比率が高まってきた。今回問題が起きたのは『運用型』で、正確な数値は後ほど報告するが、すでに(デジタル広告の)過半を超えている」
  バックグラウンドとして、運用型広告が増えてきているということがあるようです。インターネット上での広告露出数などはトラッキングが難しいので、広告会社としてもミスをすることがあります。またスポンサー企業も一体何回広告が流れたかを把握することも難しいです。このため、企業は広告会社からの報告を信じるしかないということになります。

 チェックの仕組みを構築しないとこのような問題は今後も続くと思います。

放送確認制度
 これとよく似た事件が昔起こったことはご存知でしょうか? 1997年に福岡放送と北陸放送はCMを間引き、未放送分のCM料金をスポンサーより受け取っていたことが判明しました。その後1999年にも、静岡第一テレビが同様の事件を起こしています。
 民法テレビは広告収入で成り立っていることから、広告主の信頼回復を至上命題として、放送確認制度が導入されました。テレビ会社には営業放送システム(営放システム)というのがあり、そこで番組の放送が一元管理されています。主調整室には監視員がいるそうでリアルタイムで放送をチェックしているようです。
 営業放送システムによる放送記録を基にして、放送確認書がスポンサー企業に発行されます。企業は、広告会社からの請求と放送確認書を照合することにより、広告の「納品確認」ができるという仕組みです。
 このような内部統制は、運用(システムが間違いなく動く、監視員が居眠りしていない、スポンサー側で請求書と放送確認書を照合するなど)がさえしっかり出来ていれば、非常に有効と考えられます。

インターネット広告の監査
 筆者は10年以上前にあるインターネット広告のベンチャー企業から、「クリックしたら広告が表示される仕組みを監査してほしい」という依頼を受けたことがあります。スポンサー企業からの信頼を得るため、監査法人から監査を受けたらよいのではないか、と考えたのだと思います。 
 しかし、そのような依頼は断らざるを得ませんでした。証拠となるクリック回数は、そのベンチャー企業の内部データであり、それ以外の証拠がないので、監査することができないからでした。
 上記の放送会社の放送確認書も放送会社のシステムを基にして作成しているようですので、内部データであることに違いありません。しかし、監視員がいるなどの放送会社における内部統制が働いているようですので、かなり証拠力の高いものであると考えられます。特に放送が一元管理されているシステムがあるという点は評価できます。

インターネット広告一元管理システムの整備・運用の必要性
 電通で起こった問題は、他社でも起こる可能性が高いと思います。すでに他社でも起こっているかもしれません。インターネット広告会社は、運用型のインターネット広告の放映を一元管理するシステムの構築や社内での監視体制の強化などを急ぐ必要があると思います。そのよう結果に基づき、放送会社のように放送確認書を発行するような制度の確立も期待されます。