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2016年2月29日月曜日

日本における独立社外取締役会議の重要性


コーポレートガバナンス・コードには、次のように記載されています。
補充原則
4-81 独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、 例えば、独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである。
4-82 独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。 

上記は、独立社外取締役による会議は、情報交換や認識共有ためにするように読めます。また、筆頭独立社外取締役の役割は連絡役のように記述されています。

NACD(米国取締役協会)のGovernance GuidelineにはExecutive Secession(独立社外取締役会議のこと)には、次のように具体的に記述されています。

Executive Sessions. The independent Directors will meet in executive session during each of the Board’s regularly scheduled meetings without any management Director or any members of management present, to: (i) evaluate the performance of the CEO and establish compensation; (ii) elect officers; (iii) review management succession planning; (iv) confirm Board committee assignments recommended by the Governance Committee; and (v) consider such other matters as they deem appropriate. The CEO may be invited to attend a portion of the executive session.  (p.8)

これによると、独立社外取締役会議の議題は次のとおりです。
1. CEOのパフォーマンスと報酬
2. 執行役(員)の選任
3. 経営者(執行役より広い範囲と考えられる)のサクセッション(継承)・プラン
4. ガバナンス委員会により提起された取締役会の各委員会の役割を確認すること
5. その他

ここで米国の取締役会は、そのほとんどのメンバーが独立社外取締役であることを忘れてはいけません。その環境下で、CEOなどの執行部を交えずにこのような議論をしなさい、と言っているわけです。

また、このGuidelineには別のところに、CEOが議長をしてはいけないと書かれています。

Chairman of the Board. The CEO may not serve as Chairman. The positions of Chairman of the Board and CEO are separate. (p.6)

米国の取締役会と日本の取締役会の環境が異なることから、NACDのGuidelineをそのまま真に受けることができないことが分かります。

日本の取締役会では、過半数が社内取締役という環境が普通です。また、社長が議長であることも普通です。その中で、独立社外取締役がモニタリング機能を果たすために必要なことは、何でしょうか?

そのような、日本の取締役会においては、議長が定める取締役会の議題自体がそれでよいかは重要な問題です。独立社外取締役は、取締役会の議論を通じてモニタリング機能を果たすのです。議題に上がってこないことは議論のしようがありません。

社長を含む、独立社外取締役が理解できず、議論に参加しないまま、社内取締役が一方的に議論を進めてしまうというという事態は避けなければなりません。そのような場合、議長は社外取締役に配慮した議事の進行に留意しなければなりません。

また、筆頭独立社外取締役は、連絡役というだけでなく、独立社外取締役会議の議長となり、独立社外取締役会議をリードし、議長やCEOをけん制するような仕事をすることも必要になると思います。

このように考えると、コーポレートガバナンス・コードの補充原則に比較的あっさりと描かれている独立社外取締役会議(コードでは「会合」となっています)は、日本のコーポレートガバナンス上、重要な役割を担うことになることが分かります。

ただ、最低、独立社外取締役が2名いないと会議は成り立ちませんね。




2016年2月20日土曜日

公認会計士によるコーポレートガバナンスの評価

東芝問題を受けて、日本公認会計士協会は「公認会計士監査の信頼回復に向けた監査業務への取組」(会長通牒平成28年第1号)を会員である公認会計士に向けて発出しました。これは、日本公認会計士協会会長が会員に対して、東芝問題のような問題が今後二度と起こらないように、真摯に監査業務に取り組むことを要請した文書です。

これを受けて、公認会計士協会の中にある監査業務審査会が、同じ日の平成28年1月27日に「監査提言集(特別版)」を発表しました。これには、会長通牒より詳しく不正による重要な虚偽表示を見逃さないために監査人は何に留意すべきかについて記載されています。

この監査提言集(特別版)は、つぎのような内容で構成されています。
1 職業的専門家としての懐疑心
2 リスク評価手続とこれに関連する活動
3 特別な検討を必要とするリスクの識別と評価
4 評価した不正リスクへの対応
5 経営者による内部統制を無効化するリスク
6 審 査
7 監査時間・期間

この中では、「2 リスク評価手続とこれに関連する活動」の(2)として「コーポレートガバナンスの評価」が含まれることが注目されます。

経営者の意図的な不正に基づく財務諸表の虚偽記載が頻発することから、金融庁は「監査基準」があるにも関わらず追加的に「監査における不正対応基準」を平成25年3月13日に公表しています。これを受けて、日本公認会計士協会は、それまであった「財務諸表監査における不正(監査基準委員会報告240)」を改訂しました。

これらは、公認会計士が上場会社等の監査を実施するにあたり、経営者による不正にしっかり注意して監査するための指針です。それらのどこを読んでもコーポレートガバナンスを監査人である公認会計士が評価しなさい、とか書いてありません。

コーポレートガバナンスについては、「監査における不正対応基準」の最初のところの「経緯 審議の背景」において、下記の記載があります。これは、コーポレートガバナンスは経営者側の話であるため、金融庁としては、この不正対応基準とは別に対応する趣旨で記載された文言です。

「なお、不正に関しては、財務諸表作成者である経営者に責任があるところであ り、その対応としては、公認会計士監査における監査手続等の充実とともに、企 業におけるコーポレート・ガバナンスのあり方の検討などを含め、幅広い観点か らの取組みが重要であると考えられる。」

要するに、公認会計士が監査先である上場会社等のコーポレートガバナンスの良否を判断するという考え方がこれまでなかったということが言えます。

実は、内部統制報告制度(J-SOX)では、全社的な内部統制の主要部分としてコーポレートガバナンスが含まれますので、公認会計士が評価するという制度になっています。このため、上場会社に対して公認会計士が財務諸表監査と同時一体に実施する内部統制監査においては、コーポレートガバナンスの評価を行っているはずです。この点については、別稿で詳しく検討したいと思います。

言い方を変えると、財務諸表監査の指針において、監査先の「コーポレートガバナンスを評価する」ということが具体的に文字になったのは、これが初めてではないかと思います。

それでは、この「監査提言集(特別版」)の「(2)コーポレートガバナンスの評価」にどのようなことが書いてあるか見てみましょう。これには、一歩踏み込んだ記述が含まれますが、これだけでコーポレートガバナンスが評価できるかどうか疑問が残ります。

上場会社は、コーポレートガバナンスに関する基本方針を開示することが、コーポレートガバナンス・コードによって求められています(原則3-1、東証1部・2部上場会社のみ)。

上場会社は、有価証券報告書以外に、上場規程に基づき、コーポレートガバナンス報告書を公表しています。これには、コーポレートガバナンス・コードに関するコンプライorエクスプレインが記載されています。

特に、まだ実施していない上場会社が多いですが、取締役会の実効性評価がコードの原則4-11に求められています(これも東証1部・2部上場会社のみ)。

これらの情報は、コーポレートガバナンスを評価する上で重要な情報となります。これらの情報を基にして、公認会計士が、社長、経理担当取締役、社外取締役、監査役等に面談して議論すれば、コーポレートガバンスを評価するための情報が得られると思います。

コーポレートガバナンス評価の情報は、経営上層部からだけでなく、例えば、現場レベルでの「上からの締め付け」や「管理不在」に関わる情報も重要です。