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2017年4月29日土曜日

四半期レビューの結論は東証の上場廃止基準に関係しない


426日の日経新聞に下記の記事が掲載されました。

東芝、監査法人変更へ 本決算巡りあらたと溝 
(略)4~12月期決算は財務諸表の適正性が分からないことを示す「監査意見不表明」となった。適正意見のない決算は東京証券取引所の上場廃止基準に抵触し、理由や経緯を東証が審査する。東芝は内部統制に問題のある特設注意市場銘柄にも指定され、同銘柄の解除を巡って審査中だ。いずれの審査でも不合格になれば株は上場廃止となる。(略)

私のブログ「東芝の四半期決算発表の言葉遣い」でお話ししましたように、四半期報告書に対する監査法人の四半期レビューの「結論不表明」であって「監査意見不表明」ではありません。これは、監査法人の四半期レビューは、監査ではないレビューというものだからです。このため、四半期監査ではなく、四半期レビューと呼ばれます。レビューは監査より簡易な手続によって実施します。

このため、上記の日経新聞の記事の「監査意見不表明」は、誤りです。メディアは「結論不表明」がお好きでないようです。ちなみに、昔、内部統制報告制度(一般にはJ-SOXと呼ばれているものです)が導入される前に、日経新聞は、内部統制のことを「企業統治」と記載していました。内部統制基準を企業統治の基準とか書いていたと思います。今はさすがに、企業統治はコーポレートガバナンスであり、内部統制とは異なることは、記者の方々も十分理解されていると思います。

四半期レビュー結果の不表明は、「結論不表明」です。ぜひ、正しい用語を使ってもらいたいものです。

ところで、上記の記事には、「適正意見のない決算は東京証券取引所の上場廃止基準に抵触し」と記載されています。この「適正意見のない決算」は四半期決算のことでしょうか、それとも20173月期の本決算のことでしょうか。上場規程を調べてみました。

上場廃止基準については、有価証券上場規程の912条に記載されており、意見不表明などについては、以下のように規定されています。

ハ 発行者の財務諸表等に添付される監査報告書又は中間財務諸表等に添付される中間監査報告書において、公認会計士等によって、監査報告書については「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨が、中間監査報告書については「中間財務諸表等が有用な情報を表示していない意見」又は「意見の表明をしない」旨が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき

これによって、監査報告書または中間監査報告書に「意見の表明をしない」旨が記載されている場合は、上場廃止基準に抵触することがわかります。四半期レビューのことは書かれていません。したがって、四半期レビューにおける「結論不表明」は上場廃止基準とは関係がないということになります。

なお、監査報告書は本決算の財務諸表に対する監査の報告書ですが、中間監査報告書というのは、何でしょうか。四半期報告書は上場企業だけに要求されています。非上場会社は、中間財務諸表を含む半期報告書を提出することになります。話せば少し長くなりますので、ここでは簡単にご説明します。

実は、有価証券報告書を提出している会社の中で、数は多くないですが上場していない会社があります。非上場会社は、本決算から6ヶ月後に中間決算を行い、半期報告書を提出することになります。中間監査は、「中間決算の監査」ではなく「中間監査」という日本独自のものです。また機会があったら、これについては詳しく説明します。

2017年4月27日木曜日

東証1部企業の指名委員会の現状と課題

エゴンゼンダーという外資系のコンサルティング会社の代表をされている佃秀昭さんから、指名委員会のお話を聞きました(写真は同社のWebサイトから拝借しました)。


同社では、東証一部上場会社を対象とした企業統治実態調査2016を行いました。その総括では、指名委員会については、「コード施行後1年が経過した段階で、CEOの選解任基準の整備や後継者計画は、まだ取り組みの途上と見られる結果となった。日本企業の最重要課題として改革推進が望まれる。」となっています。

同社の調査では、法定の指名委員会設置会社は3.7%で、任意の指名委員会を設置している会社は38.4%。合計で42.1%の会社が法定ないし任意の指名委員会を設置しているという結果が出ました。あまり悪い数字ではないですが、「指名委員会を設置しておらず今後その予定もない」という会社が48.4%あったというのは問題かもしれません。取締役の選任については、指名委員会では検討せず、CEOの専決事項になっている会社が半分ぐらいあるということになります(当然ながら取締役会の承認を得る必要があります)。

コーポレートガバナンス・コードでは、「例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。」(補充原則4-10①)としています。「べきである」となっているので、やる必要がある事項ということになります。

一方、原則4-10は、「必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、 」となっており、「必要に応じて」が入っています。マザーズ、ジャスダック上場会社に適用される原則には「必要に応じて」となっていますが、東証1部、2部上場会社に適用される補充原則には、「必要に応じて」とはなっていません。
コードはComply or Explainですので、指名委員会を設置しておらず今後その予定もないという会社は、それなりの理由を説明しているのだと思われます。
法定・任意の指名委員会を設置している会社でも、「CEOの選解任基準の整備や後継者計画は、まだ取り組みの途上と見られる」というのが、次の問題です。
指名委員会がある場合でも、委員会の開催が年間1−2時間の会社が、全体の46.2%で、年間開催時間合計が3.8時間とのことです。これは、私の想像ですが、これらの会社は、社長が後継者を決め、指名委員会がその妥当性を少し議論する、という形をとっているのではないかと思います。
国際競争に勝てる有能な経営者を選任しないと、日本企業は生き残れません。現に、海外で買収した会社の経営に失敗した企業が多いのはご存知のとおりです。また、海外買収に限らず、日本の大企業で海外売上が国内売上より多い会社や、国内社員数より海外社員数が多い会社は、かなり多くなってきました。
このようなグローバル企業では、従来の日本的な社内環境で育った社員が経営者になって、経営を行うことができるか、という問題が起こります。海外事業での失敗事例が多いのは、それが原因ではないかとも思われます。
年功の順番制で社長を選んでいたのでは、グローバル経営ができる人が社長に選ばれる保証はありません。次の経営者を誰にするかという企業経営にとって極めて重要な事項をCEO一人に決めてもらって良いのか、また、社内の論理だけで決めて良いのか、ということが問題になります。
そういう点で、指名委員会を有効に活用することが必要になります。
佃さんのお話では、「後継者計画は5年から10年のスパンで立案すべきである。CEOの後継者は、緊急時、1−3年後、5年後の別に決めた方が良い。」ということでした。この3分類では、別の人が選ばれるケースが多いそうです。なお、緊急時というのは、CEOに何かあった時、つぎのCEOになる人のことです。
5−10年後の後継者候補を「取締役の中から」選ぶかどうかは、よく考えた方が良いと思います。そもそも取締役になった方は、良い管理者だったかもしれませんが、リーダーとしての素質があるかどうかがわからないからです。また、日本企業がグローバル化する前から、昇格してきた方のため、国内の本流を歩いてきた方も含まれますので、グローバル経営ができる方かどうかを見極める必要があります。
そのように考えると、後継者計画は、5−10年では無理で、社員が管理職になる頃かその前ぐらいから、経営者候補を識別し、将来の経営者としての経験を積ませる必要があると思います。
海外子会社や社外から後継者を選任することも必要ですので、その点も考慮した後継者計画を立案する必要があると思います。佃さんの話では、米国企業でも社外からCEOを入れるのは抵抗があるそうで、日本企業の場合にはほとんど無理とのことでした。ただし、日産のように危機状態にある会社であれば、社外からCEOを受け売れることもあるということでした。
現に、危機状態ではないサントリー、資生堂、LIXILでは、社外からCEOを招いています。社外に抵抗がある場合でも、海外子会社に有力な後継者候補がいる可能性があります。後継者計画にはぜひ、海外子会社も考慮していただきたいと思います。
日本のグローバル企業は、今、過渡期にあるのではないかと思います。グローバル化は進んだが、それに対応した経営者が育っていない、ということです。ということは、社外や海外子会社からCEOを選ぶという選択肢が大事になってきます。

私の前職でも、ボードミーティングが英語になる時代が来るという話をしていました。私の退職後もまだそうなっていませんが、それが早めに来るかもしれません。監査法人の場合は、グローバルのボードミーティングは当然英語ですので、単に国内のボードミーティングが日本語だというだけです。海外事務所の外人が国内のボードに入れば、即英語になると思います。

2017年4月25日火曜日

証券取引等監視委員会の活動方針

証券取引等監視委員会の佐々木清隆事務局長のお話を聞きました。

佐々木さんとは、以前一度セミナーの講師をご一緒したことがあります。当時は監査法人の検査・監督を行う公認会計士・監査審査会(CPAAOB)の事務局長をされていましたが、今は証券取引等監視委員会の事務局長です。金融・証券業界で知らない方はいないレベルの有名な方です。

写真でわかるように、髪の毛がトンガっており、洋服が派手です。霞が関のお役所の方とは思えない方です。これは何年も前から変わりません。写真ではわかりませんが、(弁護士の久保利先生ほどではありませんが)、今日は(もしかしたら最近は)かなり日焼けされています。

お話の調子はこれまで通りパワフルで、かつ、わかりやすいものでした。

そもそも証券取引等監視委員会とは何をするところでしょうか。金融庁の下部機関には、この証券取引等監視委員会と公認会計士・監査審査会があります。公認会計士・監査審査会は監査法人の監督機関であり、金融商品取引法に基づく監査を実施する監査法人の監視監督を行います。公認会計士や監査法人の検査を行い、これらに対する処分を金融庁長官に勧告するのはここです。

一方、証券取引等監視委員会は、証券市場の番人として、不正を取り締まるのが役目です。証券会社の不正行為、インサイダー取引、上場会社の粉飾(有価証券報告書の虚偽記載)などが対象になります。

東芝のような粉飾事件が起こると、会社側を検査して処分するのは、証券取引等監視委員会で、その会社を監査した監査法人の検査を行って処分するのが公認会計士・監査審査会ということになります。

それはそうとして、佐々木さんのお話がパワフルだというのは、役所であるにも関わらず、Mission, Vision, Valueを定めて、役所内でそれを共有しようとしておられる点です。民間企業を取り締まる役所ですので、自らも、民間企業と同じように、理念、目標、行動原則を持つ必要がある、との考えであろうと思います。佐々木さんは非常に(役人としては、ちょっと変わった)、アクティブな事務局長であるということが良くわかります。

Mission, Vision, Valueの次に、戦略目標と施策を立案しています。その前に環境分析も行いました。例えば、ITの利用技術が進んでいるとか、グローバル化が進んでいる、Brexit、トランプ政権の成立などが、環境分析されています。

戦略目標は、次の3つです。よくできています。
広く:新たな金融商品を含め広く捉える、
早く:問題の早期発見・早期是正、
深く:根本原因を追求し深度ある分析を行う

先週、経済産業省の医療についての施策のお話を聞きましたが、それは「(より早く)先制医療、(より効果的に)個別化医療、(より優しく)再生医療」でした。なんとなく似てますね。しっかりした役所はこういう目標を決めるようになったのかもしれません。

佐々木さんは、証券取引等監視委員会自体のPDCAにも言及されました。目標を立てて(P)実行しても(D)、チェック(C)とアクション(A)がないと、やりっぱなしになります。この辺りは、会計検査院がチェックの一部を担うとしても、自己管理にならざるを得ませんので、どこまで上手くできるか、この役所としてはチャレンジだと思います。

監査法人の内部統制だって自慢できるものではありませんが、監督が仕事にする役所の自己チェックが「紺屋の白袴」にならないようにしなくてはいけません。

最後に、IFIAR(監査監督国際フォーラム)についてお話されました。これは証券取引等監視委員会とは関係がないお話で、佐々木さんが公認会計士・監査審査会の事務局長時代に取り組まれたものです。この機関は、監査法人を監督する国際機関で、2006年に設立されています。今まで常設の本部がなかったのですが、各国が立候補して投票で、東京に設置することになったそうです。その裏には、オリンピックの招致活動のようなことがあったようです。今年4月(今月)に大手町にオフィスがオープンしました。日本に本部を設置している金融関係の国際機関は、今のところこれしかないそうです。

この国際機関については、ちょうど1年前の私のブログ「監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)が東京に本部を設置」にも書いています。これが東京にできると、アメリカの監査法人監督機関(PCAOB)が日本の監査法人の検査をやりやすくなる、というのは私の考えすぎかもしれません。

2017年4月23日日曜日

社外取締役に業績連動報酬を支払うべきか

社外取締役は、取締役会でのモニタリングが仕事です。このため、そのパフォーマンスによって評価し報酬決定すべきです。社外取締役については、業績連動報酬をどうするかが課題になります。

「社外取締役が貢献したから会社の業績が良くなった」と言えることもあるかもしれません。実際に業務執行するのは社内取締役ですが、彼らを叱咤激励し、儲かる分野への進出を勧め、場合によっては経営者の交代を求めることにより、会社の業績が良くなります。

社外取締役は、株主の代表と考えれば、これらは株主から社外取締役に求められる仕事であり、それが成功したら多めの報酬を社外取締役がもらったしても、株主から文句ができることはないでしょう。

一方で、会社のガバナンスは、株主のためだけに行うものではなく、多様なステークホルダーの利害調整もガバナンスの役割です。このように考えると、社外取締役が株主だけに目を向けて、業績向上だけを経営者に求めることが良いとは限りません。

社外取締役が、短期的な業績ではなく、中長期的な企業成長を経営者に求めることは、多様なステークホルダーが求める方向性には合致します。ただ、中長期的な企業成長といっても、その中身は色々ですので、多様なステークホルダーの利害調整という観点からは、社外取締役に業績連動報酬というニンジンをぶら下げることには、よろしくないということになると思います。

一部の会社について下記の通り調べてみました。

日本板硝子
社外取締役はその職務遂行に対する報酬を受領します。社外取締役は業績連動報酬や長期インセンティブ報酬の受給資格を持ちません。

資生堂
業務執行から独立した立場にある社外取締役および監査役には、業績連動報酬等の変動報酬は相応しくないため、基本報酬のみの支給としています。

キリンホールディングス
客観的な立場から経営や業務執行の監督機能を担う役割であることから、「基本報酬」のみとする。

上記のどの会社も、社外取締役には業績連動報酬は支払わない方針です。ただし、キリンは社外取締役に賞与を支給しています。賞与は業績連動報酬とは違うというということなのかもしれません。賞与と業績連動報酬の違いについては、また別の機会に検討したいと思います。

2017年4月19日水曜日

経営者が経営に役立っているかを見極めることが取締役会の仕事

「会社のことを知らない社外取締役は経営に役立つのか。」「社外取締役を導入して企業価値が上がった証拠はあるのか。」と言うような質問をよく耳にします。

今日、霞が関の弁護士会館でコーポレート・ガバナンスについてのパネルディスカッションがありましたので行ってきました。モデレーターの中西弁護士が上記のような質問をされていました。パネリストの方々は、例えば、後継者問題について発言できるのは社外取締役だけだとか、企業買収案件で歯留めを掛けたなど、その質問に正面から真面目に答えておられました。

ここで筆者が何を考えたかと言うと、そもそも社外取締役が経営に役立つかと言うのは、愚問ではないかということです。この質問は、経営者目線であることを気づくべきです。

経営者から見て、社外取締役が経営に役立つのかを考えると、コンプライアンスからの役割とか、会計・法務の専門家としてのアドバイザー、経営全体のアドバイザーとしての役割ということになるでしょう。この点は、最初に挨拶された弁護士さんも言われていました。

しかし、取締役会の仕事はモニタリングで、マネジメントではないということであるとすると、経営者が経営に役立っているか監視するのが、取締役会の仕事です。経営者から取締役会の重要なメンバーである社外取締役が役立つのか、と言うのは本末転倒ということになります。

日本では、社外取締役に対する考え方がこの10年で180度変わった、と山口弁護士が言われていました。確かに社外取締役を形だけ入れておこうから、その存在を尊重し少しでも役に立ってもらおう、という姿勢に変わったということは言えると思います。

しかし、未だに「会社のことを知らない社外取締役がどんな役に立つのか」を議論しているのでは、日本の取締役会はマダマダだなあ、と思いました。

これは取締役会がモニタリングボードであることが理解されていないことを示しています。上場会社でも監査役設置会社が多いので、従来通りのマネジメントボードに社外取締役を追加した会社が多いのは、ある程度仕方がないことだと思います。

しかし、指名委員会等設置会社で、取締役会の過半数が社外取締役の会社でも、取締役会の意識が監査役設置会社のままのようなお話だったのは、残念でした。

コーポレート・ガバナンスコードの記述が、監査役設置会社をも含めた記述になっていますので、はっきりとモニタリングボードにするべき、となっていないのが今後の課題なのかもしれません。

2017年4月13日木曜日

もし東芝の有価証券報告書過年度訂正が行れたらどうなるか

架空の話ではありますが、東芝が2016年3月期以前の財務諸表を訂正するとなった場合にどんなことになるかについて、検討してみました。

1 原子力関連の損失の計上時期

東芝の場合、2016年3月期の監査は新日本有限責任監査法人が実施しました。2016年6月開催の株主総会で、PwCあらた有限責任監査法人(2015年にあらた監査法人からPwCあらた監査法人へ、2016年にPwCあらた有限責任監査法人に名称変更されています)が選任されました。

新聞報道によると、原子力関連の損失は、2016年3月期以前から発生していたのではないかという点で、PwCあらたと会社の見解が一致していないとのことです。

東芝の子会社であるウェスティングハウス(WH)の経営陣が米原発事業で発生した巨額損失を抑えようと、従業員に「不適切なプレッシャー」を加えたことが発覚しました。このため第3四半期の決算発表が延期されることになったと報道されています。

さらに、新聞報道によると、原子力関連の損失は、当期(2017年3月期)に全部負担させるのではなく、前期以前にも負担させるべきではないかということについて、会社と監査法人の意見が合わないということも、今回の監査法人による「結果不表明」の一因ではないか、とされています。

2 仮に過年度訂正を行った場合どうなるか

架空の話ではありますが、仮に2016年3月期以前に計上しなければならなかった損失があることから、2016年3月期以前の決算を訂正する、すなわち東芝が有価証券報告書の過年度訂正を行うとしたらどうなるか、ということを考えてみましょう。

有価証券報告書に含まれる財務諸表(連結財務諸表と東芝単体の財務諸表)には、監査法人による監査が実施されます。冒頭に述べたように、2016年3月期以前の監査は新日本、2017年3月期はPwCあらたです。

言うまでもなく、新日本は2016年以前の財務諸表には適正意見を出しています。ご存知の通り、東芝は巨額粉飾事件を受けて有価証券報告書の過年度訂正を行なっています。訂正後の監査は、訂正前と同じ新日本が実施し、どちらも適正意見を出しています。訂正前の誤った財務諸表に適正意見を提出した新日本は、過去最大の21億円の課徴金が金融庁により課されています。

上記の仮定は、2016年3月期以前に計上すべき損失が、今頃になって分かり、2016年3月期以前の財務諸表を訂正することになった場合、ということです。ということは、新日本が適正とした2016年3月期以前の財務諸表の訂正を東芝は迫られている、ということになります。

そうなると、現任監査法人であるPwCあらただけの問題ではなくなります。2016年3月期以前の財務諸表の監査をPwCあらたが実施したらどうか、と考える読者もおられるかもしれません。しかし、過去に遡って過年度の財務諸表の監査を実施することは、ほとんどの場合できません。在庫の棚卸など、その時点でしか実施できない監査手続があるためです。その監査手続は新日本が実施しています。

ということは、このような場合、唯一の手段は、会社が2016年3月期以前の財務諸表を訂正し、新日本がそれを監査するということになります。訂正後の期首残高を受けて、PwCあらたが2017年3月期の監査を実施するということになります。

この仮定によれば、新日本はここでまた訂正後の財務諸表に適正意見を出すことになってします。以前の課徴金の対象には原子力に関わる監査の問題は含まれていませんでしたので、再度課徴金が課されるようなことになりかねません。(金融庁のルール上、論点が異なれば、同じ年度を対象として再度課徴金を課すことができるそうです。)当然、この場合、東芝も処分されることになるでしょう。

PwCあらたも、第1四半期と第2四半期の四半期レビューでは「適正に表示していないと信じさせる事項は認められなかった。」という結果を提出しています(新聞報道では、「適正意見」となっています)ので、それを訂正する必要が出てくる可能性があります。

3 上場廃止によって、表面化を避けられるか

仮に、東芝が上場廃止になったら、これらを表面化させずに済むでしょうか。上場廃止になっても有価証券報告書は継続的に提出することが必要であり、財務諸表には監査が求められますので、事情は同じです。

2017年4月11日火曜日

東芝の四半期決算発表の言葉遣い


東芝は、今日411日に昨年12月までの第3四半期の決算発表を実施しました。新聞報道では、言葉遣いが気になりましたので、ここで確認しておきたいと思います。

1 決算発表は決算短信で行う

「決算発表」とは、「決算短信」という書類を証券取引所に提出することを言います。東証にある兜クラブという記者クラブの会議室で記者を呼んで発表することが多いです。東芝の場合は、記者が非常に多いことからたもっと広い会場が必要になると思います。兜クラブの広い方の会議室でも、30人も入れば満員になると思います。(ちなみに、兜クラブは昔は東証の2階か3階にありましたが、今は地下1階に移りました。)

さて、決算短信については、新たな方針を東証が打ち出しています。詳しくは、私のblog「決算短信の自由度の向上」をご覧ください。要は、決算の早期発表のために、監査法人の監査を受ける前にこれを提出してもよいということです。

もともと事前に監査を受けておくことが義務づけられていたわけではありませんが、これが慣行化していたので東証が確認の意味で「決算短信に監査は不要」と明言したのです。その目的は、決算が完了したら監査法人の監査が終わる前でもあってもできるだけ早く発表してください、ということになります。

東芝の場合には、第3四半期の決算ですので、「四半期決算短信」により決算発表するということになります。

2 四半期報告書には監査は実施されない

東芝の決算発表の新聞記事を見ると、「適正意見のつかない決算発表」(産経ニュース)「監査法人のお墨付きなしで」(NHK)、「監査法人が決算内容に「適正意見」を付けない異例の公表」(日経電子版)となっています。

発表が2度延期されたのは第3四半期の決算ですので、四半期決算に対してそもそも監査法人は、監査を実施しないという点が気になります。監査法人が実施するのは監査より保証水準が低い(要するに簡易な手続で結論を出していよいというルールに基づいた)「四半期レビュー」を実施します。

四半期レビューは本格的な「監査」ではないので、監査法人は「適正意見」を表明せず、「適正に表示していな いと信じさせる事項がすべての重要な点において認められなったかたかどうか」について結論を述べます。これは「消極的な形式による結論」と呼ばれています。ちょっと、専門用語が多くて分かりにくいですね。

監査法人が出すのは、「適正意見」ではなく「四半期レビューの結論」です。この点では、NHK「お墨付き」の方が「適正意見」よりは、まだマシだと言えます。

3 監査法人は四半期レビュー報告書を出したのか

次に、冒頭で述べたように、そもそも決算発表には監査も四半期レビューも不要です。会社の判断で公表すればよい、ということになっています。東芝の場合、なぜこの点が問題視されているのでしょうか。

実は、四半期レビューが必要なのは四半期報告書という、「金融庁」への提出書類です。四半期の場合は、四半期決算後45日以内に提出する必要があります(もう一度確認ですが、決算発表を行うための決算短信は「東証」に提出します)。

東芝は、この四半期報告書の提出が遅れていたのです。そもそも決算の早期発表の観点から四半期報告書の提出より、四半期決算短信による決算発表を先にすべきです。東芝は、その両方を提出していなかったということです。このため、新聞記事が分かりづらくなっていたのです。

東芝の場合、監査法人の四半期レビュー報告書が提出されなかったわけではありません。その点では「お墨付きなし」や「適正意見が付かない」だと、監査報告書に相当する「レビュー報告書」自体が付いていない状態で金融庁に提出されたとも読めます。

東芝の監査をしている「あらた監査法人」は、四半期レビュー報告書を提出したのですが、まだレビューの手続が終わっていないので、「結論不表明」としたということです。

レビューは監査ではないことから、その結論は「監査意見」ではないということになっています。このため意見不表明ではなく結論不表明という言葉遣いになっています。この点、東芝のプレスリリースは正しいです。

4 結論

この記事を筆者が書くとすると「東芝が延期していた四半期報告書を金融庁に対して提出したが、それに含まれる監査法人の四半期レビュー報告書は結論不表明だった。それと同時に東芝は四半期決算短信を東証に提出し、四半期決算の内容を公表する記者会見を開催した。」ということになります。