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2017年4月11日火曜日

メンバーシップ型とジョブ型

非正規雇用と所得格差の問題

今、日本では非正規雇用が問題になっています。要するに、企業はパート雇用で繋ぐのではなく、そういう人を正社員として採用して、彼らの生活を安定させる必要があるという考え方です。

日比谷公園に年越し派遣村ができたのは2008年の年末でした。これにより派遣で食いつなぐ若者が多いことが、大きな社会問題として取り上げられるようになりました。

その後、2012年にはニューヨークでは「ウォール街を占拠せよ」というポスターを掲げた若者の反格差デモが起こり、それが世界各地に飛び火していきました。格差問題が世界の問題として取り上げられるようになったのです。

若者の失業は新興国でも大きな問題なっています。数年前に南アフリカのヨハネスブルグに行ったときも、そのとき使った車の若い黒人運転手は、いったん失業したら、1,2年は次の仕事が見つからない言っていました。その割に遅刻したり、道を間違えたりでしたので、危なっかしい人ではありました。南アフリカの失業率はいまでも25%です。

このように若者の雇用が世界的な問題ではありますが、若者の雇用の本質が日本と欧米では大きく異なるという点を見逃してはいけません。

日本の雇用の本質

日本では企業側が、非正規雇用すなわち有期雇用から、雇用期限を設けない正社員に移行させるのを避ける傾向があります。これはなぜでしょうか。

人件費を固定費化するより、必要がなければ辞めてもらえる有期雇用がよいから、とこれまで筆者は考えていました。経済合理性の点からはそれも理由であることは間違いないと思います。

日本の新人の一斉募集では、スキルがなくても、「潰しが聞く人」が求められます。文学部なのにシステム開発の会社に普通に入社できたりするのは、入社後にゆっくり訓練する時間がとれるからです。

新卒入社したら定年まで働こうという人で、地頭がある程度良く、忍耐強い人を多く採用しておけば、会社が欲しい人材に育て上げることができます。

良い職場が見つかれば、すぐに辞めていく社員ばかりだと、何年も掛けて会社のカルチャーやスキルを学ばせるようなことをしても無駄になります。そのため、会社への忠誠心が大事になります。日本の会社員は、他社が面白そうとか、給料が高そうだと思っても、簡単には辞めない人達です。

このように考えると、正社員は固定費、非正規社員は変動費という、経済合理性だけでは正社員が特別であることの説明ができそうもありません。

日本の雇用はメンバーシップ型

日経新聞で濱口桂一郎著「若者と労働」を引用した記事が掲載されました。著者の濱口先生は、日本の新人一斉採用はメンバーシップ型と定義されています。欧米型はジョブ型です。日本の雇用を欧米と比較したときに、その本質をうまく言い当てていると思います。

モーツァルトがフリーメイソンという秘密結社のメンバーだったことは有名です。最後のオペラである魔笛の中で、王子タミーノが受ける修業がフリーメイソンの入会の儀式を描いたものではないかという説があります。

日本の会社を秘密結社と比較してはいけないと思いますが、正社員として入社するということは、一種のファミリーメンバーとして受け入れられるということではないかと思います。

そのため、忠誠心が高く、なかなか辞めない。転勤の辞令が出たら、どこにでも転勤する。当然、定年まで懸命に働く。

メンバーシップの特徴は、人に仕事を割り当てるということです。そのため、定期人事異動は非常に大きな役割を担います。日本企業の人事部は力が強く、そこに配属されるのは出世コース、というのも頷けます。

欧米のジョブ型は、仕事に人を割り当てます。そのため、新人の一斉採用はなく、欠員補充型となります。欧米企業も新人の大量採用はしますが、仕事の欠員を補充するために求めるスキルの人を必要人数採用するいうことが前提です。

筆者は10年以上続けて、ボストンで開催される就職フェアに行って、アメリカの大学を卒業する予定の日本人留学生の採用してきました。アメリカの大学では、仕事に役立つ教育をすることもあり、「大学名」で募集するのではなく、大学の専攻が求めるスキルに合っている学生を募集します。筆者の場合は、英語ができることは大前提として、会計とITの複数専攻(ダブルメージャー)の学生を優先して採用していました。こういう採用方法は、実はジョブ型だったのです。

筆者がいた監査法人は、必要人数の公認会計士合格者を採用していることから、ジョブ型と言えます。ただ、一旦入社すると、筆者のようにいろいろな部署を経験し、転勤までするということになり、メンバーシップ型の要素もあります。大手監査法人間で転職する人もいますが、野球選手ほどチームを変わる人は多くない状況です。ということは、監査法人の場合は、基本はジョブ型ですが、メンバーシップ型のハイブリッドということが言えるかもしれません。

正社員は会社のメンバー

employeeは雇用者ですが、日本ではこれを社員と訳しています。前述の本によると、社員というのは、英語にするとmember of comanyであり、株主などの会社の所有者を指します。しかし、日本では会社のメンバーである人を社員と呼ぶことにしたのです。

正社員になるということは、メンバーになるということであり、社員はなかなか会社を辞めようとしませんし、会社側も辞めさせることはとんでもないことだ、と考えるのだと思います。

筆者が監査法人のボードメンバーだったころ、大量人数のリストラをやることになってしまいました。監査法人は、専門家集団のジョブ型ですので、仕事がなけば人を減らすしかないのですが、「こんなことは二度としてはいけない」と感情的な発言をした人がいました。これは今から思うと、メンバーシップ型を象徴する発言だったのだと思います。

「社員をやめさせるのならトップは腹を切れ」と言われた大会社の社長がおられましたが、同じ考え方だと思います。

ジョブ型にメンバーシップ型が勝てるか

メンバー意識の強い社員ばかりいる会社の欠点は、特定分野の専門家が育たちにくい点と、他社の優れた面を学ぶ機会がない点だと思います。このため「胃の中の蛙」的になり、当社が最高と考え、そこそこの専門性しか持たない社員の集まりとなります。その結果、ジョブ型の雇用をする欧米企業には勝てないのではないかとと思います。(日本以外のアジアの会社も実はジョブ型です。)

オリンピックのリレー競技のように、走る速さで負けても、バトンを渡す技術で勝てることもあります。すなわち、チームワークで一丸となって、という場面では力を発揮することもできます。しかし、個人の力の総和が全体の力になるのは必然です。このため、力のある個人は、ジョブ型で集める必要があると思います。

メンバーシップ型は、日本的な良い面があり、それをやめてしまうことには賛成しませんが、ジョブ型の雇用も強化することが日本企業を強くする秘訣ではないかと思います。

社員側にも問題があります。長年のメンバーシップ型に慣らされたことから、仕事で勝負できる人がは多くないと思います。どこどこの大会社の社員であるというだけでなく、何をできる個人かを問われる時代になっていると思います。ぼやぼやしていたら、ジョブ型で採用された人に負けてしまいます。

その観点からは、正規雇用と非正規雇用はあまり関係ないはずです。「同一労働同一賃金」が、日本政府の政策です。もし、同じスキルの正社員と非正規雇用者がいた場合に、日本企業がメンバーである正社員を優遇するとすれば、日本企業のためにならない結果になると思います。

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