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2017年11月22日水曜日

日本原電の運転期間延長申請

 日本原子力発電が東海第2原子力発電所(茨城県東海村)の運転期間の延長を申請しています。この原発は、私が唯一見学した原発です。
 原子力発電にはPWR(加圧沸騰水型)とBWR(沸騰水型)があります。東芝=ウェスチングハウスがPWRで、日立=GEがBWRです。
 原発の耐用年数は40年ということになっており、許可を受ければ1回だけ20年延長できることになっているそうです。東大の原子力の先生から聞いた話では、この40年には別に科学的根拠はないそうです。そう決めただけ、ということでした。
 調べて見たら、「2003年10月の制度改正に伴い、運転開始後30年を経過する原子力発電所は運転年数が長期間経過していることから、設備の経年劣化に関する技術的な評価、保全計画等を策定して、10年を超えない期間ごとに再評価を行うことが法令上義務付けられている。」となっていました。福島事故の後にこれが改正され、上記のように40年が運転できる期間と規定されたようです。
 関西電力のウェブサイトには、アメリカでも同様の制度があり、9割以上の原発が60年の運転を許可されている、と書いてあります。ただ、会計上、税務上の耐用年数を決めないと減価償却できません。多分30年か40年で減価償却しているのだと思います。
 日本原電の場合、1800億円の追加投資が必要とのことです。これで20年延長された場合、年間90億円以上(1800/20)の利益がでないと運転延長する意味がありせん。そもそも1800億円の資金調達ができるのか、ということもあります。規制委員会もその点を問題にしているようです。
 国としては、20年この原発を稼働したら、結局は良くても損益チャラかもしれませんが、温室効果ガスが削減できるという経済効果を狙っているのでしょうか。それをカウントしたら、もしかしたらプラスかもしれません。
 そもそも、当初の事業計画はどうなっていたのでしょうか。40年で減価償却していたとしたら、廃炉にして新規に作り変える資金(蓄え)ができているはずです。もし、60年運転することを前提として事業計画を立てていたとしても、この1800億円の追加投資分は当初から見込んでいないはずですので、今後しっかり稼がないと60年後には、巨額の除却損が発生します。(今後つくる防潮堤は廃炉したときに、無用の長物になると思います。)
 実は、東海村の第一原発は廃炉中で、ここが日本唯一の廃炉をした原発だったと思います。廃炉コストはこの会社が一番知っているはずです。

2017年11月13日月曜日

東芝・シャープが勝ち目のない案件に挑んだ理由

「東芝・シャープが勝ち目のない案件に挑んだ理由」という日経ビジネスon-lineの記事を読んでみました。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/110900179/110900002/?P=3

「投資損失リスク=投資額X失敗リスク」であり、失敗リスクが低くても投資額が巨額だと損失リスクも大きくなる。日本企業は、本業の延長線上だと失敗リスクを低く見てしまい、一気に多額の投資をする傾向がある。その結果、巨額損失を招く。

「飛び地には投資しない」という日本の経営者が多いのは、そんな感じがします。「飛び地=失敗リスク高い、本業の延長線上=失敗リスク低い」という思い込みがあるかもしれません。

失敗リスクが高い投資でもリスクテークして取り組むべきであり、しかしそれは少額投資から始めなさい、というメッセージだと思います。反対に、本業の延長線上の投資は、失敗リスクを低く見てしまう傾向があるので、一気に巨額投資するのには注意が必要、ということでしょう。しかし、あまりビクビクして少額投資ばかりだと、それも問題です。

「勝ち目のない案件に挑んだ」というのは、ちょっと日経の脚色と思います。「本業の延長線上の巨額投資に失敗した」ぐらいかもしれません。

社外取締役や監査役は、投資案件の審議において、ブレーキの踏みすぎに注意しながら、こういう点に気配りする必要がありそうです。

2017年11月4日土曜日

株主還元と企業価値の関係

株主還元というと「配当」と「自社株買い」があります。これらの株主還元をすると企業価値はどうなるでしょうか。

株主から見たら配当が増えたり、自社株買いで発行済株式数が減ると得した感じがします。しかし、モジリアーニ・ミラーの理論(MM理論)では、このような株主還元をしても企業価値は変わらないということです。

配当を行うと株主に配当金が入りますが、企業からはそのぶん現金が減少します。株主から見たら配当金が手元にあっても、企業内に留保されても企業価値としては同じです。株価を見ても、配当権利落ちで配当金の分だけ株価が下がります。

また、自社株買いの場合は、自社株を買うために企業は現金を支払います。企業が自社株を自己株式として持っている間は、現金が自社株に変わっただけです。そのあと、企業が自社株を償却すると資本金が減少し、その分、企業価値も減少します。自社株買いにより、発行済株式数が減少しますが、企業価値も減少するので、1株あたりの資産価値は同じです。

というのが、MM理論です。もっともな話ですが、現実には配当権利落ちによる株価下落があまりなかったり、自社株買いにより株価が予想以上に上がったりするため、理論通りには行きません。例えば、過去3期の平均ROEが1.8%だったアマダが利益の100%を株主還元すると発表したことで20%以上株価が上がったいわゆる「アマダショック」が2014年にありました。NTTが2008年に自社株買いを発表したら22%株価が上がったそうです。

実際には、株主還元をするより、余剰資金を再投資した方が企業価値が上がる企業もあれば、そうでない企業もあります。日本企業は留保利益(現金)を溜め込んでいるから株主に還元すべき、という話もよく聞きます。

MM理論では、株主還元では企業価値は不変ということですが、実際は、どんな場合に余剰資金を再投資すべきであり、どんな場合は株主還元すべきなんでしょうか。

これは、再投資の投資利回りと資本コストの比較なのだそうです。
投資利回り>資本コストの場合は、再投資した方が企業価値が上がる。
投資利回り<資本コストの場合は、再投資せず株主還元により企業価値が上がる。

「投資利回り>資本コスト」の会社は、どんな会社でしょうか。フェイスブックやアマゾンのように再投資してしっかり儲けられる企業です。反対に「投資利回り<資本コスト」の会社は成熟産業に属する企業、例えばNTTとかJTだそうです。

有名な「伊藤レポート」(英語ではKay Reviewに倣ってIto Reviewと呼ぶそうです。)では、ROEは最低8%としていますが、これは日本の上場企業の資本コストが8%だからだそうです(本当はこれは7%という話もあります)。

とうことは、8%以上の投資利回りを出せる自信があれば、株主還元ではなく再投資する、8%以上の投資利回りを出せないようなら、株主還元するという意思決定になります。

しかし、上場企業が業績発表(IR)の時に、「当社は投資利回り>資本コストなので、株主還元はしません。」と説明したとしたら、それを聞いた機関投資家や経済記者が理解できるのかという問題がありそうです。

それでは、株主還元のうち、配当と自社株買いのどちらが良いのでしょうか。配当には「シグナル効果」というのがあり、必ず?株価が上昇するそうです。ただし、減配になると株価が下落します。

反対に、自社株買いの場合は、減少させても株価への影響は少ないそうです。したがって、利益に変動がある会社は、増配より自社株買いにする方が良さそうです。

もちろん、このように株価を気にしながら株主還元で対処するより、成長戦略を立てて中長期的な企業価値の向上を目指すのが王道です。

2017年11月3日金曜日

ASBJの日本基準の開発方針と収益認識に関する会計基準

日本の会計基準の大もとは企業会計原則です。それだけではまさに「原則」で、実際には会計処理ができません。特に上場企業は海外事業や多くの子会社を有し、多種多様の事業活動を行っています。このため、企業会計原則より詳細な細則を決めておかないと、企業によって会計処理がバラバラになり、企業間比較ができなくなってしまいます。

有価証券報告書を提出している会社(全ての上場会社と一部の非上場会社)と、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)に適用されるのが企業会計基準委員会(ASBJ)が公表するいわゆる「日本基準」です。

企業会計原則は、企業会計基準の全ての分野をカバーしますが、ASBJが公表する企業会計基準は法人税、退職給付、研究開発費、会計上の変更などのテーマ別になっています。

実は、有価証券報告書提出会社と会社法上の大会社には、監査法人による財務諸表監査が要求されています。監査を行う上で、会計処理基準は「判断基準」となります。財務諸表が適正かどうかを判断する際に、企業会計基準から外れていないかを判断するためです。

そういう点で、ASBJの企業会計基準は、財務諸表監査と切っても切れない関係にあります。(ちなみに、監査が要求されない中小企業には「中小会計指針」と「中小会計要領」があります。)

日本の有価証券報告書提出会社(上場会社と金商法適用の非上場会社)が使える会計基準には次の4種類があることはご存知でしょうか。
1 日本基準
2 米国会計基準
3 国際会計基準 (IFRS)
4 修正国際基準 (日本版IFRS)
このように4つの中から会計基準を選べる国は世界で日本しかありません。ASBJから公表されているのは、1の日本基準と4の修正国際基準です。上記は連結の話で、親会社の単体財務諸表には日本基準だけが適用可能です。(そもそも単体財務諸表を有報に掲載することが間違いだと思いますが、その点は別稿で検討したいと思います)

修正国際基準は、国際会計基準のほとんどそのまま受け入れ、どうしても受け入れられない部分(具体的には、のれんを償却しない会計処理)について、1の日本基準を入れ込んだものです。

実は、4の日本版IFRSを実際に使っている会社は1社もありません。変な話ですが、もともとASBJとしては使ってもらおうと思って開発した会計基準ではなかったようです。これは、もし国際会計基準がこの日本版IFRSのようになったら、日本の会計基準として全面的に国際会計基準を採用することができる、という日本からの意思表明だったそうです。

このため、国際会計基準そのままの部分は英語のままで、日本基準を入れ込んだところだけ日本語という和洋折衷になっています。そういう点でも、企業に使ってもらうことを前提に開発された会計基準ではなかったことがわかります。

米国会計基準と国際会計基準は、それぞれ米国(FASBー非上場会社とPCAOBー上場会社)と国際会計基準委員会(IASC)が、その設定母体です。ASBJは、国際会計基準については日本としての意見を主張できますが、必ずしも受け入れてもらえるとは限りません。米国会計基準については、米国が決めている基準なので、他の国は口出しできません。

ここまで分かったところで、本題のASBJの日本基準開発方針のお話になります。どんな方針で日本基準を作っているのでしょうか。日本基準は、長い間かけて国際会計基準に近づけていく方向で改訂されてきました。

昔は、先進国では各国がそれぞれ独自の会計基準を持っていましたが、ヨーロッパ諸国が国際会計基準を採用することになり、その後、中国を含むアジア、オセアニア諸国も国際会計基準を採用しています。このため、世界の会計基準は、米国会計基準、国際会計基準それに日本基準と3つしかないのが現状です。日本は、その全てが使える(米国会計基準採用には条件があります)世界で稀に見る国です。

日本基準の存在意義がなくなってきたので、日本基準はやめて国際会計基準を日本企業も適用したらよいのではないか、という意見が高まったことがありましたが、結局、企業の強い反対により、そうはなりませんでした。

のれんの償却など一部の会計基準を除いては、国際会計基準をそのまま使ったら良いのではないかという考えを取り入れて開発されたのが、1社も使っていない修正国際会計基準(IFRSに日本版とか英国版があってはいけないということになっているので、日本版IFRSと呼ぶのは正しくない)です。

そういうことから、ASBJによる日本基準はできる限り国際会計基準と同じにするという方針で開発されているそうです。これから適用される「収益認識に関する会計基準」は、まさにこの方針で開発されたそうです。

ただ、この収益認識については、ちょっと背景があります。米国基準と国際会計基準が全く同じなのです。実は、米国でも日本と同じように国際会計基準を適用した方が良いという考え方が盛り上がり、そのため、国際会計基準と米国会計基準を擦り合わせて一緒にするというプロジェクトが始まりました。その結果できたのが収益認識の会計基準です。

残念ながら、国際会計基準と米国会計基準が一緒になったのはこれだけで、そのあと米国は国際会計基準に歩み寄ろうという動きを止めました。トランプ大統領のアメリカファースト政策よりずっと前です。

このような背景があることから、日本だけ独自の会計基準を作るわけには行かないのです。実は、国際会計基準は「原則主義」と言って細則を決めない会計基準でした。しかし、米国会計基準の収益認識基準には200のガイダンスがあり印刷するとかなり分厚いものでした。この2つを擦り合わせた結果、米国会計基準寄りの細則主義の会計基準になってしまっています(この時点で国際会計基準は原則主義を捨てたと考えられます)。

日本ではどうでしょうか。日本における収益認識に関する会計基準は、企業会計原則に次のとおり定められているだけです。これ以上の会計基準はありません。

 「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算に計上することができる(注6)(注7)

日本は、非常に原則主義的な基準しか持っていなかったのです。なぜそのようになっているかというと、業界の会計慣行が色々あり、それらを整理することが難しかったのでほっておいた、というのが真相だと思います。

収益認識基準が、米国会計基準=国際会計基準となった以上、ASBJとしては産業界の力に振り回されているわけには行かないのが現状と言えます。そのようなことから、この会計基準の適用にはASBJは非常に慎重になっています。

というのは、デパートなどの在庫リスクのない委託販売方式での売上計上が認められない、割賦基準が認められない、販売時ポイント付与の会計処理が変わる、工事進行基準の会計処理が厳格になる、材料有償支給の会計処理が変わるなど、大きな影響が考えれるからです。

ASBJは、2016年2月に意見募集を行い、2017年7月には公開草案を公表しています。この基準が強制適用になるのは2021年4月以降の事業年度からになりそうです。それまでの間、上場企業などは取引内容の見直しや会計システムの変更などの準備をすることになるでしょう。

国際会計基準=米国会計基準となった今、泣いても笑っても、日本基準だけ別にするわけには行きません。特に、損益計算書のトップラインを決める会計基準なのでなおさらです。

なお、収益認識基準に関する会計基準は、国際会計基準と同じという建前ですが、ASBJはが「上乗せ」と言っている日本の業界会計慣行を一部認める部分があります。意見募集、公開草案、強制適用までの長いリードタイムの間に「上乗せ」が「日本独自基準」にならないように願いたいと思います。