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2018年6月10日日曜日

米国会計基準を採用する日本企業


「東芝事件総決算」(日本経済新聞出版社)では、日本にしか上場していない東芝が、なぜ米国会計基準を採用することができるのかを解説しています。ここでは、東芝以外の米国会計基準採用会社について調べてみました。

1.なぜ、日本の上場企業が米国会計基準を採用できるのか

東芝は日本の上場会社ですので、有価証券報告書(有報)を提出していますが、そこに含まれる連結財務諸表の作成基準は、本来であれば日本基準です。しかし、報道でも分かるように東芝は米国会計基準を採用しています。
実は、米国に上場している会社(SEC登録会社)は、日本の有報の連結財務諸表を米国会計基準で作成してもよいという特例があります。
 これは、米国会計基準に加えて日本基準で連結財務諸表を作成する負担を軽減するために設けられた特例です。この特例を受ける会社は、米国基準で作成した連結財務諸表とその注記を和訳して、有報に掲載しています。この特例は、連結財務諸表のみを対象にしています。単体の財務諸表は日本基準でなければなりません。
東芝を含む日本の上場会社の何社かは、米国上場を廃止したのに米国会計基準で有報の連結財務諸表を作成しています。これは、連結財務諸表制度導入前より米国基準で有報を提出している会社は、米国上場を廃止しても「当分の間」そのまま認められることになっているからです。
米国上場というのは、具体的には米国預託証券(ADR)をニューヨーク証券取引所やナスダック市場に上場することを言います。ADRは、米国以外の国で設立された企業が発行した株式を裏づけとした有価証券です。

2.米国上場廃止ラッシュ

昨年の3月に「NY上場廃止ラッシュ」という記事が日経新聞に掲載されました。この記事のきっかけはNTTが米国上場廃止を発表したことです。その前の年の2016年には日本電産やアドバンテストも米国上場を廃止しています。そして、今年なってNTTドコモが昨年からの予告どおり上場廃止し、2月には京セラもこれに続きました。
 日経新聞によるとNTTの上場廃止の理由を「証券市場をめぐる環境が変わり、上場を維持する必要性が低下した」としています。ソニー、トヨタ、ホンダなどに比べると知名度が低く、米国市場での取引量が少ないのが現状なのだと思います。
日本企業が米国に上場する理由の一つは、米国での知名度を上げることです。しかし、米国上場を維持するためには米国会計基準での連結財務諸表の作成だけでなく、日本より厳しい会計監査と内部統制監査(SOX監査)を受ける必要があり、そのための労力とコストがかかります。
実はそれだけでなく、米国上場会社は米国企業とみなすという米国の法律がいくつかあります。特に海外腐敗行為防止法(FCPA)は、米国企業による外国の政治家や官僚への賄賂を禁止する法律です。これに違反すると信用失墜するだけでなく、巨額の課徴金が課されることから、コンプライアンス対策に多額のコストがかかります。
そういうコンプライアンス上の問題も米国上場廃止の理由と考えられます。日本のグローバル企業で、米国上場していた会社は40社近くあったと思いますが、今は11社になりました。

3.米国会計基準を採用する会社とその動向

 米国に上場している会社は、筆者が調べた限りでは、ソニー、トヨタ、本田、キャノン、三菱UFJ、三井住友、みずほ、野村、オリックス、IIJFRONTEO11社(会社名略称)です。
これらの会社は、有報の連結財務諸表には米国会計基準を採用することができるのですが、三菱UFJ、三井住友、みずほ、FRONTEO4社については、有報では日本基準を採用しています。本田は有報では国際会計基準(IFRS)を採用しています。
 前述のとおり、米国上場を廃止しても米国会計基準している会社が東芝の他にもあります。それは、日本ハム、ワコール、富士フィルム、クボタ、コマツ、東芝、三菱電機、オムロン、TDK、村田製作所、マキタの11社です。
 米国上場廃止後においても米国会計基準を採用するこれらの企業は、次々と国際会計基準への移行を表明しています。冒頭にご紹介したNTTNTTドコモ、それに日本ハム、三菱電機は、20193月期から国際会計基準に移行することを発表しています。日立製作所やパナソニックも昔は米国上場していましたが、すでに国際会計基準に移行済みです。
 東芝は、20151月に国際会計基準への移行を発表しましたが、20173月にはその中止を決めています。これは原子力事業の減損問題の真っただ中で、会計基準を変えるのを避けたためと考えられます。
 
4.米国上場していない会社の米国会計基準の取り扱い

 米国に上場している会社における会計基準の適用を監督するのは米国の証券取引委員会(SEC)です。この役割は、日本では金融庁とその下部機関である証券取引等監視委員会が担っています。このため、米国に上場していない日本企業が採用する米国会計基準の監督は、金融庁や証券取引等監視委員会が行う必要があります。
 東芝のように監査法人の監査が適切かどうかを判断するような場面では、監督官庁が直接乗り出す必要が出ています。そうなると、米国会計基準の専門家がほとんどいない日本の当局としては、対応が非常に難しくなってしまいます。
ただし、東芝のようなことは、もともと想定外だったということは言えます。その理由は、米国に上場する会社は日本を代表するグローバル企業ですので、そのような会社の会計処理が問題になることはこれまでなかったからです。
東芝の2015年に発覚した不正会計事件や、その後の原子力事業の減損問題に対して、金融庁や証券取引等監視委員会は、米国会計基準を理解しないと行政処分などの行政判断ができないことに気が付いたはずです。
これは、当面の間、米国に上場していた企業に対して米国会計基準を認めていたことがそもそもの原因でした。
前述のとおり、米国上場を廃止した企業は、米国会計基準から国際会計基準に移行する会社が増えてきています。金融庁は、過去に米国上場していた会社で米国会計基準を採用する会社に対して、個別に国際会計基準に移行するよう勧めているという話を聞いたことがあります。
当面の間認めるという経過措置を廃止するハードランディングか、行政指導でのソフトランディングか、このどちらかにより、近いうちに米国会計基準を採用する会社は、米国に上場している企業だけになると思います。

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