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2018年7月31日火曜日

日本ボクシング連盟問題:一般社団法人への助成金は禁止すべし

日本ボクシング連盟の会長を333名が告発するという事態になりました。

1 会計検査では限界がある
 今回は、助成金の不正流用があったと告発されていることから、会計検査院がこの点を検査することは間違いないと思います。これまでスポーツ振興の助成金は、国の予算から支出されていることから、会計検査院による検査対象になっており、不正経理事例があれば報告されています。

 日本ボクシング連盟の平成28年度の正味財産増減計算書内訳表がウェブサイトに公表されています。これを見ると、経常収入合計114,433千円のうち、受取会費37,356千円、受取助成金46,810千円が大部分を占めています。助成金のうち最大額はJOCからの助成金で41,629千円となっています。スポーツ振興助成金とともに、JOC助成金も会計検査の対象になるのでしょうか? これまでの会計検査報告の内容を見ると、これらはともに検査対象になっているようです。要するに、経理処理が妥当であったかについての検査は、会計検査院が実施しているということになります。

 会計検査では、支出が根拠に基づいて実施されているか、ということが検査されます。
今回の日本ボクシング連盟のような事態になった場合には、会計検査院はもう少し詳細な検査を実施することもあると思いますが、日本ボクシング連盟の意思決定プロセスや意思決定内容が妥当であったかどうかについて、踏み込んだ検査まではしないと思います。検査報告にその点が記載されていたとしても、問題を是正させるような権限は、会計検査院にはありません。

2 ガバナンスが問題

 平成28年スポーツ振興振興事業に対する助成金交付対象事業一覧(団体別)(平成28年4月1日)によれば、「(公財)日本オリンピック委員会及び(公財)日本体育協会の加盟競技団体に対する助成金」支払先のうち、公益法人以外の団体は、日本ボクシング連盟(3,361千円)を含み、17団体ありました。そのうち、助成金が10,000千円を超える団体は次のとおりです。

一般社団法人等の名称
助成金額(千円)
クレー射撃協会
51,459
全日本野球協会
15,544
日本サーフィン連盟
16,154
日本女子サッカーリーグ
80,000
(公財)日本オリンピック委員会及び(公財)日本体育協会の加盟競技団体に対する助成金のうち、助成金が10,000千円を超える団体

 公益法人(財団・社団)については、いわゆる公益法人改革が行われ、「公益法人制度改革関連3法」が2006年5月に成立しました。これは2008年12月から施行され、新制度に移行していいます。これにより公益社団法人は、社員総会ー理事会ー監事、公益財団法人は評議委員会ー理事会ー監事のガバナンス体制が求められるようになりました。大規模法人(収益1,000億円以上など)には、公認会計士等による会計監査人の設置が規定されています。

 公益法人改革により、業務執行を行う理事会と監視監督を行う評議委員会または社員総会が区分され、理事会をしっかり監視監督する体制が求められるようになりました。日本ボクシング連盟の会長は、「終身会長」になったとのことですが、公益法人のガバナンス体制の下では、その承認を得るのはかなりハードルが高いと思います。

3 助成金支出先の団体は公益法人に限るべき

 公益法人以外の、例えば一般社団(財団)法人やNPO法人であるスポーツ団体に対して、助成金の支出を禁止べきであると思います。
 上記の「(公財)日本オリンピック委員会及び(公財)日本体育協会の加盟競技団体に対する助成金」の支出先は全部で75団体あり、そのうち17団体が公益法人ではありません。このような団体は、できる限り早く適切なガバナンス体制を構築し、公益法人に組織替えすべきであり、そうしないと助成金が受けられないというルールにすべきです。
 

2018年7月30日月曜日

仮想通貨を理解する(3)ー仮想通貨を入手する方法

仮想通貨を入手するには次の3つの方法があります。

1 仮想通貨取引所で法定通貨(円やドル)と交換する
 世界には、100以上の仮想通貨取引所があります。巨額流出事件を起こしたコインチェックも取引所の一つでした。ただし、ここは仮免許中であり正式な免許は取得していませんでした。日本では2018年7月現在で16社の仮想通貨交換業者が登録されており、コインチェックを含む3社が「みなし登録業者」になっています。
 みなし登録業者があるのは、金融庁が登録制度を始めたときにすでに営業中のところを「みなし」にしたからと言われています。当初「みなし」は15社ぐらいありましたが、コインチェック事件以来、金融庁の姿勢が厳しくなり、次々と登録申請を取り消した(取り消させた?)ことから、今は3社だけになっています。みなし登録業者は、近いうちに登録するか申請取り消しになると思います。
 みなし登録業者は次の3社で、すべてこれまで行政処分を受けています。コインチェックは、マネックス証券に買収されたことから、そのうち登録業者になると思われます。

  • コインチェック
  • みんなのビットコイン
  • LastRoots

2 商品やサービスの対価として仮想通貨を受け取る
 インターネット上の商店で、商品やサービスを購入する際に支払い手段として仮想通貨が使われることがあります。これによりお店側が仮想通貨を受け取ります。お店といっても、今は個人でもインターネットモールに出店できますので、事業としてお店を経営していない個人でも仮想通貨を受け取ることができると思います。

3 仮想通貨の取引承認をする
 これが、一般には分かりにくい「マイニング」(採掘)です。仮想通貨のエコシステムはこれがあるから機能していると言われています。取引の承認(もちろんインターネット上で実施します)を行うとその報酬として、仮想通貨を受け取ることができます。これについては、今後、もう少し詳しくご説明したいと思います。

 

2018年7月29日日曜日

その後の東芝(5) -株主総会は適正、有報では限定付き適正


1 会社法と金商法で監査報告書が異なる


 76(2018)の日経新聞に、「東芝の監査意見、異なる開示」という記事が出ました。これは株主総会に提出された会社法に基づく監査報告書が適正意見であるにも関わらず、金商法に基づく有価証券報告書(有報)における監査報告書が限定付き適正意見であったのは、なんか変ではないか、という趣旨の記事です。

 ここで確認ですが、株主総会では会社法に基づく「計算書類」が招集通知に添付されます。その計算書類は単年度だけで、過年度の計算書類を開示することは求められていません。一方、有価証券報告書(有報)の(連結)財務諸表では、前年度との2期比較で記載することが求められています。

2 監査報告書のルールはどうなっているのか

 次に、監査報告書の記載ルールを見てみましょう。過年度の比較情報が開示されている場合、「監査基準委員会報告書710  過年度の比較情報-対応数値と比較財務諸表」(日本公認会計士協会)に基づいて監査報告書を記載することになっています。そこには次のように記載されています。

―――――――――――――――――――――――――
9.比較情報が対応数値として表示される場合、監査人は、第10項、第11項及び第13項に記載されている場合を除き、監査意見において対応数値に言及してはならない。(A2項参照)

10.以前に発行した前年度の監査報告書において除外事項付意見(すなわち限定意見、否定的意見、又は意見不表明)が表明されており、かつ当該除外事項付意見の原因となった事項が未解消の場合、監査人は、当年度の財務諸表に対して除外事項付意見を表明しなければならない。
監査人は、監査報告書の除外事項付意見の根拠区分において、以下のいずれかを記載しなければならない。

(1) 当該事項が当年度の数値に及ぼす影響又は及ぼす可能性のある影響が重要である場合、除外事項付意見の原因となった事項の説明において、当年度の数値と対応数値の両方に及ぼす影響について記載する。

(2) 上記以外の場合には、当年度の数値と対応数値の比較可能性の観点から、未解消事項が及ぼす影響又は及ぼす可能性のある影響を勘案した結果、除外事項付意見が表明されている旨を記載する。(A3項からA5項参照)
――――――――――――――――――――――――――ー

まず、第9項では、第10項から第13項に該当する場合を除き、監査報告書では「比較情報の対応数値」に言及してはならない、と記載されています。何となくそのままこれを読むと、原則として、監査報告は当年度の財務諸表だけを対象にしなさいと言っているように理解できます。


 しかしここで、比較情報や対応数値(比較情報の中の数値)と、比較財務諸表が区別されていることに注意が必要です。比較財務諸表は監査の対象になる比較情報であると定義されています(第5項)。要するに、上記の第9項は、監査対象にならない比較情報(対応数値)については、原則として言及してはいけないというルールなのです。
 こんなややこしいルールになっているのは、過年度の財務諸表が監査対象になるかどうかは、法令や契約によって決まるからです。

 日本の場合どうなっているかというと、会社法(株主総会)と有報のどちらも、監査報告書の対象は当年度だけというルールになっています。前述のとおり有報では(連結)財務諸表が前年比較になっていますが、監査報告書は、当年度と前年度の別々に作成されそれが綴じ込まれています。

 EDINETや上場会社のIRのウェブサイトを見ればわかりますが、有報の監査報告書は当年度と前年度の2セットになっています。前年度の監査報告書は単に前年度のものをコピーしたものです。

 ということで、当年度の有報に記載された前年度の財務諸表は「比較財務諸表」ではなく「比較情報」(対応数値)であるということが分かります。

3 東芝の状況はどうなっていたのか


 ここまで分かったところで、東芝の場合どうなっているのでしょうか。拙著「東芝事件総決算」の第8章に記述したとおり、20173月の期末時点(B/S)では、東芝の会計処理と監査人が求める会計処理の結果は同じです(下図の株主資本5,529億円、有報は「東芝の会計処理」で開示されています)。


















 このため、20183月期の(連結)財務諸表は修正すべきところがない適正意見になりました。事実、株主総会に提出された計算書類に添付された監査報告書では適正意見になっています。

 それでは、なぜ有報の監査報告書が限定付き適正意見になったのでしょうか? それは、比較数値に問題があったからです。上記の第10項をじっくり見てみましょう。
 東芝の場合、(1)の「当該事項が当年度の数値に及ぼす影響又は及ぼす可能性のある影響が重要である場合」には該当しません。そうなると(2)が怪しいということになります。(2)には、「(A3項からA5項参照)」と書かれています。A3には次のように記載されています。

A3.以前に発行した前年度の監査報告書において、除外事項付意見(すなわち限定意見、否定的意見、又は意見不表明)が表明されていたが、除外事項付意見の原因となった事項が解消され、適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表において当該事項が適切に会計処理又は開示された結果、比較可能性が確保されている場合、前年度の除外事項を当年度の財務諸表に対する監査報告書において除外事項として取り扱う必要はない。

ここには「除外事項付意見の原因となった事項が解消」されている場合には、「除外事項として取り扱う必要はない」と書かれています。東芝の場合、「原因となった事項が解消したかどうか」というと、「見解の相違」が除外事項(限定意見)の原因ですので、状況の変化はありません。よって、「原因となった事項が解消されていない」と監査人が判断すると考えられます。その場合は、どうすればよいのでしょうか。A4に次のように記載されています。

A4.以前に表明した前年度の監査意見が除外事項付意見であった場合、除外事項付意見の原因となった未解消事項は、当年度の数値には関連しないことがある。その場合においても、当年度の数値と対応数値の比較可能性の観点から、未解消事項が及ぼす影響又は及ぼす可能性のある影響によって、当年度の財務諸表に対して限定意見、意見不表明又は否定的意見が要求されることがある。

 これです。このルールによって、東芝の監査人であるPwCあらた監査法人は、当期の有報の監査報告書も限定付き適正意見にしたということになります。監査報告書の意見の部分には、次のように記載されています。

「当監査法人は、上記の連結財務諸表が、「限定付適正意見の根拠」に記載した事項が対応数値に及ぼす影響を除き、米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、株式会社東芝及び連結子会社の2018年3月31日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める。」

ここでのポイントは、「対応数値に及ぼす影響を除き」という文言です。対応数値は、前述のとおり監査対象にならない財務諸表(比較情報)に含まれる数値です。それは原則として、監査報告書では言及しないというルールになっています。しかし、東芝の場合、前年度の財務諸表が間違ったままになっている(未解消)であることから、当期の監査報告書では監査対象にしていない比較情報(対応数値)について言及しなければならなくなったということになります。
次年度の財務諸表が適正であれば、比較情報である当年度の財務諸表も適正のため、適正意見になるはずです。

4 会社法との違いをどのように調整すればよいのか

以上のとおり、結構複雑な監査報告書のルールを説明しました。このルールは、日本だけで適用されるルールではなく、国際ルール(国際監査基準)です。これは、会社法、金商法だけでなく、海外の法制の下でも適用できるように記載されています。このため、このルールが複雑なのでやめた方がよい、というのは早計です。ただし、比較情報と比較財務諸表を区別するようなルールは、一般読者には分かりにくいので、この国際ルールも再考すべきかもしれません。
 それでは日本でできる対応策は何でしょうか。まず、考えられるのは、会社法に基づく計算書類(そもそも計算書類ではなく財務諸表にしてほしい)上、比較情報を記載することを要求すればどうでしょうか。監査報告のルールは同じですので、比較情報が記載されれば、株主総会に提出される計算書類に添付される監査報告書も限定付き適正意見になります。
 あともう一つ考えられるのは、複数年度を対象にした監査報告書です。米国では、当年度の監査報告書において、過年度の財務諸表についての監査意見も記載しています。日本の有報にも前年度の監査報告書が掲記されています。しかし、それは前年度の単年度監査報告のコピーです。当年度に前期と当期の両方の監査報告をするという制度(法令)ではありません。監査報告書1枚に、複数年度の監査報告をするという制度は今のところありません。
 この方法は、前年度の財務諸表を監査対象とならない「比較情報」ではなく、監査対象である「比較財務諸表」とすることにより、監査報告書を分かりやすくするという対策です。これによって、前期は限定付き適正、当期は適正ということが分かりやすくなると思われます。



2018年7月28日土曜日

その後の東芝(4) -東芝に対するSEC調査終了

  東芝はSEC(証券取引委員会)とDOJ(米国司法省)からの調査を受けていました。それが何事もなく終了したという報道が6月26日(2018年)にありました。翌日の27日には幕張メッセで株主総会があったので、その前日ということで比較的大きく報道されたのではないかと思います。

 米国当局が東芝を調査していたということは重大なことです。東芝は約2年前のIRニュースで「複数の米国子会社が会計処理問題に関係してDOJとSECから情報提供の要請を受けている」2016318日東芝IRニュース)と公表しています。

日経新聞などによれば、第三者委員会の調査報告書の英文版が開示されたことを受けて米国当局が調査に着手したとのことです。米国当局は、2015年に発覚した不正会計だけでなく、その後の減損取り消しやウェスチングハウスがゼロドルで買収した原発工事会社S&Wに関わる損失認識時期などについても調査していたようです。

DOJ(司法省)とSEC(証券取引委員会)の組み合わせですので、FCPA(海外腐敗行為防止法)に基づく調査と考えてよいと思います。この法律は、田中角栄が逮捕されるきっかけとなったロッキード事件の後、海外の政治家や官僚への賄賂の支払いについて処罰する米国の法律です。
この法律の対象は米国企業ですが、米国に上場している会社は米国企業とみなされます。また、これらの企業以外の者が米国内で同様の行為を行った場合も対象になります。FCPA違反が当局により認定されると巨額の課徴金(和解金)が課されることは良く知られています。

筆者が「東芝事件総決算」の第1章に書いているように、東芝は米国会計基準により決算を行ってはいますが、米国には上場していません。それではなぜ、東芝にFCPA違反があったかどうかの調査を米国当局がしていたのでしょうか。

まず考えられるのは、米国子会社であったウェスチングハウスが海外高官などに賄賂を支払っていたのではないかと疑われたということです。ウェスチングハウスを始め東芝の米国にある子会社は、米国企業です。FCPAの適用対象になります。

あと、米国当局は、不合理なほどFCPAを拡大解釈して適用する傾向があります。たとえば、海外高官等への支払いに米国企業が一切かかわっていなくても、米ドルで支払ったというだけで告発される場合があるそうです。米国の銀行ないしサーバーを通ったことにより、米国内取引であると見なされるからです。
さらに、海外高官等に直接支払う行為だけでなく、エージェントなどの第三者を経由した支払いも違反行為とみなされます。賄賂を支払うためにエージェントを雇う行為だけでなく、エージェント料が不当に高いというだけで違反行為とみなされることがあります。

FCPAはこのようなものですので、ウェスチングハウスなどの米国子会社だけではなく、東芝が海外高官等への賄賂の支払うような行為をしていないかをDOJSEC2年間に渡って調べていたということになります。

実は、パナソニックは20134月からFCPAの調査を受けており、5年後の20185月に日本円で300億円の和解金を米国当局に支払うことを公表しています。これはパナソニックの米国子会社であるパナソニックアビオニクスによる海外への賄賂支払いによるものでした。
米国当局は、不正会計を行った東芝が、パナソニックに似たような行為をしていたのではないかと疑ったものと考えてよいと思います。冒頭の記事は、その結果何も出なかったということを意味しています。

なお、東芝は、米国でADRを発行しています。ADRとは、「米国で売買される外国企業の株式」です。東芝のADRは、東芝の現物株を裏付けとして米国で取引されている一種の株式です。SECが調査していたのは、それが原因ではないかとも考えることもできます。

 しかし、東芝のADRは、スポンサーなしADR、すなわち東芝の承認なく発行されているものです。スポンサーなしADRの場合には、米国上場のようにSECに対して有報に相当するForm10Kの提出は不要であり、英語での財務情報をウェブサイトに開示しているだけでよいということになっています。

 米国のADR保有者が、東芝の不正会計により損失を蒙ったとして訴訟を起こしていましたが、これに関しては、20165月にカリフォルニア州の連邦地裁で提訴された集団訴訟が20日付きで棄却されたと東芝が発表しています。

 東芝の不正会計により利益が嵩上げされたウェブサイト上の英文財務情報が、米国でのADR保有者が見ていたものになります。これはたまたま米国会計基準に基づいているものですが、SECへの提出文書でもなんでもありません。このため、このウェブサイトの英文財務情報が不正に歪められていたからといって、米国のSECが東芝を処罰する権限はないと考えられます。このカリフォルニアでの裁判所による集団訴訟の棄却は、その証拠と考えてもよいと思います。

スポンサーなしADRについては、下記の大和総研の記事に詳しく記載されています。

2018年7月27日金曜日

日本企業の研究開発費

昨日「研究開発費、企業の4割「最高」 車関連けん引、 今年度本社調査 12.4兆円、9年連続で増加」という記事が日経に掲載されました。(日経、2018年7月26日)
この記事によると研究開発費予算の上位10社は次の通りです。


記事によると、この10社以外に三菱ケミカルホールディングが1600億円(15.2%増)、ダイキン680億円(9.5%)と記載されています。247社の研究開発費予算の合計が12兆4789億円とのことですので、この12社合計の5.2兆円で、なんと全体の54%を占めます。

上記のリストの上位4社は自動車会社です。その合計はこの12社合計の55%で過半数を占めます。パナソニック、ソニー、日立などそれ以下の企業についても、車載関連の電装品の占める割合が大きいのではないでしょうか。ということは、上位12社の7,8割が自動車関連の研究開発費とみてもよいかもしれません。

247社の研究開発費予算の合計が12兆4789億円ですので、12社以外の会社が235社の平均額は1社308億円で、当期の増加額の平均は1社あたり10億円です。

これを見ると日本の経済が自動車産業で持っているということが良く分かります。日本企業の研究開発費は、この上位12社に偏在しています。これらの会社がこけたら、日本経済も危うい状況と言えるでしょう。

仮想通貨を理解する(2) ー山村によるICO

昨日、次のような記事が日経新聞に掲載されました。「仮想通貨の理解」の流れとはちょっと違いますが、今実際に何が起こっているか、ということを少し見ておきましょう。

「岡山県西粟倉村は村内のベンチャー企業と組み、2021年度までに仮想通貨技術を使った『ICO(イニシャル・コイン・オファリング)』で資金調達する方針だ。主要産業の林業だけに依存しない経済基盤を築き、地方創生につなげる。資本の論理とは縁遠いような山あいの村がなぜ自治体初のICOを試みるのか。現地で取材した。」(日経、2018年7月26日)

地方の村がICOで資金調達というのはどういうことでしょうか。この記事には次のようなことも書かれています。

海外ではエストニアが国家単位でICOを検討している。自治体では、住宅不足に悩む米カリフォルニア州バークレー市が、ICOによる資金で廉価な住宅を供給する方針だ。」(同上)

海外の国や自治体がICOを検討しているということです。カリフォルニアのように一定の事業に対する資金調達なら実現可能性はありそうです。岡山県の山村で事業が成り立つかどうかが疑問です。水力発電を誘致して、結構潤っている山村があるとのことですので、そういう事業とのつながりがあるのであれば、ICOが成立するのかもしれません。

ICOは、仮想通貨(上記の岡山県の村の例ではイーサリアム)を調達し、その見返りとしてトークンと呼ばれる(これまた仮想通貨のようなもの)を発行するというものです。

IPOは株式上場のことですが、ICOは仮想通貨による資金調達のことであり、株式上場とは関係ありません。ICO=Initial Coin Offerringですが、必ずしもInitial(最初の)でなく、2度、3度実施してもICOと呼ぶのでしょうか。これまでは2度、3度ICOを実施したところは多くないでしょうから、当面はICOでよいですが、今後は、VCO(Vertual Coin Offerring or Vertual Currency Offerring)と呼ぶのがよいのではないかと思います。残念ながら、今のところVCOを調べても出てきません。


ICOについては、筆者の下記ブログもご覧ください。

これからはIPOではなくICO?

https://kkbo-ent.blogspot.com/2017/09/ipoico.html

3メガ銀がICO研究会

https://kkbo-ent.blogspot.com/2017/11/blog-post_14.html

2018年7月24日火曜日

仮想通貨を理解する(1) ー法律上の取り扱いなど

 2018年1月26日の深夜、コインチェックが「午前3時ごろ、何者かによってコインチェックのNEMアドレスから5億3000万XEMが外部に送信されました。日本円にして約580億円になります。」と記者発表しました。

 NEM? 外部に送信されたのはXEM? 508億円が送信されたとは? 一体何のことか分からない人が多いのではないでしょうか。

 世の中がどんどん変わっていることは理解できます。クレジットカードは十分普及し(日本での普及率は低いです)、SUICA、NANACO、Edyなどは、テレホンカードに始まったプリペイドカードの一種であるということは一般に理解されていると思います。

 それでは仮想通貨は、というと「ビットコイン」は聞いたことがあるとしても、NEMと言われても一体何のことか? というのが一般人のレベルと思います。

 出版の世界ではどうでしょうか? Amazonの書籍を「仮想通貨」で検索すると200冊以上の本や雑誌が出てきます。これをみると仮想通貨に関心が集まっていることが分かります。しかし、出版されている本の8,9割は「仮想通貨で儲ける」パターンの本です。仮想通貨は、株式やFXと同様の投資対象になっており、それに関心がある人がこれらの書籍を購入しているものと考えられます。

 「通貨を買ったら投資になる」 ということも理解ができないことです。金貨なら投資する人もいると思いますが、仮想通貨はそれに類したものなのでしょうか。
 
 このように、いろいろな疑問が湧いてきます。そこで、このブログでは「仮想通貨を理解する」シリーズを始めることにしました。まずは、いろいろな用語の解説をしたいと思います。

<仮想通貨の法律上の扱い>
 日本では、仮想通貨は法律上の「通貨」としては認められていません。しかし、改正資金決済法(2017年4月施行)では、仮想通貨を次のように定義しています。
1)物品やサービスを購入する際に使用できる財産価値
2)それ自体を不特定多数の人と売買が可能
3)コンピュータなどの電子機器に電子的に記録
4)電子的に移動できる

 仮想通貨は、日本では法律上、通貨ではありませんが「決済手段の一つ」として認められており、いわば「通貨に準ずるもの」として位置づけられていることが分かります。国税庁は、それまで仮想通貨を物品として扱い消費税が課していましたが、これを受けて、消費税の課税をしないことにしました。

<ビットコインとは>
 ビットコインは、一番最初に開発された仮想通貨です。「サトシ・ナカモト」という日本人が論文で発表したそうです。2009年から運用が開始されています。ビットコイン以外の仮想通貨は「アルトコイン」と呼ばれています。それぐらいビットコインの存在感が大きいということが言えます。

<アルトコインとは>
 ドイツ語を知っている人は、アルト=OLDなので、古いコインか?と思われるかもしれません。例えば、アルト・ハイデルベルグという戯曲があります。古き(良き)ハイデルベルグという意味になります。ここではアルト=Alternativeという英語の省略です。和製英語ではなく、「altcoin」という英語になっているようです。Alternativeは「オールターナティブ」と発音しますので、日本語では「オルトコイン」かもしれませんが、アメリカ人が発音すると「オルト」は「アルト」に聞こえると思います。altcoinという表記が一般化してしまうと、そのままアルトコインと読むのが普通になっているものと思われます。
 話が長くなりましたが、アルトコインには1000とも2000とも言われる数があります。冒頭のNEMはそのうちの一つです。

<通貨名と通貨単位の名称>
 ビットコインの通貨単位はBTCです。ドルにおけるセントに相当する単位はなく、小数点で表記します。仮想通貨(アルトコイン)の一つであるNEMの通貨単位はXEM(ゼム)です。
 円、ドル、元、ウォンなどの通常の通貨は、通貨名と通貨単位の名称が同じです。それなら分かりやすいのですが、仮想通貨の場合は、通貨名と通貨単位が異なるのが普通?なのかもしれません。これは今後いろいろ調べてみたいと思います。

2018年7月21日土曜日

その後の東芝(3) 英国の入札制度

 筆者は、「東芝事件総決算」の第3章の冒頭で次のように書いています。

200610月、東芝は英国核燃料会社(BNFL)からウェスチングハウスを買収しました。東芝は2度目の入札において2,700億円で落札したという通知を受けました。しかし、競争相手の三菱重工などの企業がさらに入札額を上乗せすると言ったことから、落札額が上がり、3度目(4度目という説もあります)の入札において、約6,500億円で東芝が落札しました。
 英国核燃料会社は全株英国政府が所有する会社です。日本の政府系機関の入札では、一旦落札したのに取り消されるということはあり得ないことですが、それが英国ではありうることなのでしょうか。結果的に非常に高く売れたのですから、英国の国益になったということは間違いありません。

 日本政府の国有財産売却における入札では、落札した後に、入札額を上乗せする企業が現れたとしても、もう一度入札を行うというようなことは、筆者の知る限りないと思います。
 英国国有会社であった英国核燃料会社がその子会社のウェスチングハウスの売却入札において、このようなことが起こったことは間違いなさそうです。
 筆者は「英国ではありうることなのでしょうか」と書いています。拙著をお読みいただいた方から、英国の入札制度では、このようなことがあるとお教えいただきました。
 これは、一旦落札者が決まったとしても、一定期間の間にそれより高い価格を提示できることを申し出れば、再度入札が行われるというやり方だそうです。売却する国側からみたら、高い方がよいのですから、上手く考えられた制度ということができます。


2018年7月8日日曜日

有事の監査役2-大和銀行事件

 大和銀行事件の判決(大阪地裁平成12年9月20日)では、社外監査役の責任または職務について、以下のように判示しています。

 「社外監査役が、監査体制を強化するために選任され、より客観的、第三者的な立場で監査を行うことが期待されていること、監査役は独任制の機関であり、監査役会が監査役の職務の執行に関する事項を定めるに当たっても、監査役の権限の行使を妨げることができないことを考慮すると、社外監査役は、たとえ非常勤であったとしても、取締役からの報告、監査役会における報告などにもとづいて受動的に監査するだけでは足りるものとは言えず、常勤監査役の監査が不十分である場合には、自ら調査権を駆使するなどして積極的に情報収集を行い、能動的に監査を行うことが期待されているものと言うべきである」

 この文章は長く、独任制とか監査役会のことを最初に言っているため、何のことかと思ってしまいます。要するに、社外監査役は、独任制であり、常勤監査役の監査に問題があるときは、社外監査役が自ら積極的に乗り出して監査をすべきであるということを言っています。
 
 この判決は、直接不正行為を行った取締役の損害賠償責任ではなく、社内のリスク管理を怠ったことに関して、取締役の注意義務違反を論点にした点で画期的なものとされてます。

 この判決では、取締役11人に対して連帯して約262億円(2億4500万ドル)
の損害賠償金を会社に対して支払うことを命じました。一方、監査役については、ニューヨーク支店の往査をした常勤監査役には任務懈怠の責があるされましたが、損害の立証がないとして請求は棄却されています。
 
 冒頭の社外監査役に係る判決文は、考え方を述べたまでで、結果として監査役の損害賠償責任は認められませんでした。監査役による監査は十分であったか、そうでなかったかはわかりませんが、いずれにしても監査役は不正行為を知ることがなかったので、責任追及しなかったということになります。

 冒頭の考え方に基づけば、常勤監査役の監査が不十分と判断した場合には、社外監査役が独任制に基づき、追加的な監査を実施することが必要ということになります。ニューヨークに実際に行って監査をした常勤監査役でさえ、ニューヨーク支店での不正の事実を発見できなかったのですから、社外監査役が乗り出すきっかけは何もありません。
 
 ただし、例えば、ニューヨークに行った常勤監査役がゴルフをしただけで帰ってきたのであり、その事実を社外監査役が知っていたのであればどうでしょうか。この場合は、明らかに監査が不十分ですので、社外監査役としては何等かのアクションを起こさないと責任を問われることになるでしょう。


2018年7月7日土曜日

有事の監査役1-監査役協会による研究報告

 有事の際に監査役がどのように動いたか、事例を元にして検討してみようと考えました。日本監査役協会が、「企業不祥事防止と監査役の役割」(平成15年9月)とその更新版である「企業不祥事の防止と監査役」(平成21年10月)を公表しています。

 この中で、有事と平時はそれぞれ次のように定義されています。
有事=不祥事等が発生することまたは発生したこと
平時=不祥事等が発生していないとき

 ここで、不祥事とは次のように定義されています。
不祥事=会社の役職員による、不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実、その他会社に対する社会の信頼を損なわせるような不名誉で好ましくない事象
不祥事等=不祥事及び不祥事予備軍をいう
不祥事予備軍=早期に適切な対応がなされないと不祥事に拡大するおそれのある事象・問題をいう

 有事かどうかは、不祥事が発生しているかどうかで判断すると考えてもよいと思います。この研究報告は、弁護士さんが手伝って作られたためでしょうか、不正の行為、法令違反、その他社会の信頼を損なわせるような事象が不祥事として定義されています。会社に損害を与える行為や事象は、ほとんどがこの分類に入るとは思います。しかし、巨額損失が発生するというのは、有事にならないのでしょうか。巨額損失が発生すると信頼喪失に繋がるとは思いますが、その場合は信頼喪失は2次被害であると言えます。

 COSO-ERMの昔のリスクの定義を元にすると、重要なリスクすなわち「事業戦略やビジネス目標の達成に対して重要なマイナス要因となる事象」が発現している状態が有事であると考えることもできますが、事業戦略の失敗に伴う業績悪化も有事になり、ちょっと有事の範囲が広すぎる感じもします。
 この定義によれば、一時のソニーがその状態でしたし、東芝は不正会計から3年経ってようやく、いわゆる有事からは抜け出したところですが、今後の業績回復が懸念されることから、まだ有事であると定義されます。

 有事の定義については、もう少しゆっくり考えることにして、とりあえずここでは、日本監査役協会の研究報告で使われている「有事=不祥事等が発生することまたは発生したこと」ということにしていくことにしましょう。

 これから少し「有事の監査役」を考えてみたいと思います。