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2018年7月28日土曜日

その後の東芝(4) -東芝に対するSEC調査終了

  東芝はSEC(証券取引委員会)とDOJ(米国司法省)からの調査を受けていました。それが何事もなく終了したという報道が6月26日(2018年)にありました。翌日の27日には幕張メッセで株主総会があったので、その前日ということで比較的大きく報道されたのではないかと思います。

 米国当局が東芝を調査していたということは重大なことです。東芝は約2年前のIRニュースで「複数の米国子会社が会計処理問題に関係してDOJとSECから情報提供の要請を受けている」2016318日東芝IRニュース)と公表しています。

日経新聞などによれば、第三者委員会の調査報告書の英文版が開示されたことを受けて米国当局が調査に着手したとのことです。米国当局は、2015年に発覚した不正会計だけでなく、その後の減損取り消しやウェスチングハウスがゼロドルで買収した原発工事会社S&Wに関わる損失認識時期などについても調査していたようです。

DOJ(司法省)とSEC(証券取引委員会)の組み合わせですので、FCPA(海外腐敗行為防止法)に基づく調査と考えてよいと思います。この法律は、田中角栄が逮捕されるきっかけとなったロッキード事件の後、海外の政治家や官僚への賄賂の支払いについて処罰する米国の法律です。
この法律の対象は米国企業ですが、米国に上場している会社は米国企業とみなされます。また、これらの企業以外の者が米国内で同様の行為を行った場合も対象になります。FCPA違反が当局により認定されると巨額の課徴金(和解金)が課されることは良く知られています。

筆者が「東芝事件総決算」の第1章に書いているように、東芝は米国会計基準により決算を行ってはいますが、米国には上場していません。それではなぜ、東芝にFCPA違反があったかどうかの調査を米国当局がしていたのでしょうか。

まず考えられるのは、米国子会社であったウェスチングハウスが海外高官などに賄賂を支払っていたのではないかと疑われたということです。ウェスチングハウスを始め東芝の米国にある子会社は、米国企業です。FCPAの適用対象になります。

あと、米国当局は、不合理なほどFCPAを拡大解釈して適用する傾向があります。たとえば、海外高官等への支払いに米国企業が一切かかわっていなくても、米ドルで支払ったというだけで告発される場合があるそうです。米国の銀行ないしサーバーを通ったことにより、米国内取引であると見なされるからです。
さらに、海外高官等に直接支払う行為だけでなく、エージェントなどの第三者を経由した支払いも違反行為とみなされます。賄賂を支払うためにエージェントを雇う行為だけでなく、エージェント料が不当に高いというだけで違反行為とみなされることがあります。

FCPAはこのようなものですので、ウェスチングハウスなどの米国子会社だけではなく、東芝が海外高官等への賄賂の支払うような行為をしていないかをDOJSEC2年間に渡って調べていたということになります。

実は、パナソニックは20134月からFCPAの調査を受けており、5年後の20185月に日本円で300億円の和解金を米国当局に支払うことを公表しています。これはパナソニックの米国子会社であるパナソニックアビオニクスによる海外への賄賂支払いによるものでした。
米国当局は、不正会計を行った東芝が、パナソニックに似たような行為をしていたのではないかと疑ったものと考えてよいと思います。冒頭の記事は、その結果何も出なかったということを意味しています。

なお、東芝は、米国でADRを発行しています。ADRとは、「米国で売買される外国企業の株式」です。東芝のADRは、東芝の現物株を裏付けとして米国で取引されている一種の株式です。SECが調査していたのは、それが原因ではないかとも考えることもできます。

 しかし、東芝のADRは、スポンサーなしADR、すなわち東芝の承認なく発行されているものです。スポンサーなしADRの場合には、米国上場のようにSECに対して有報に相当するForm10Kの提出は不要であり、英語での財務情報をウェブサイトに開示しているだけでよいということになっています。

 米国のADR保有者が、東芝の不正会計により損失を蒙ったとして訴訟を起こしていましたが、これに関しては、20165月にカリフォルニア州の連邦地裁で提訴された集団訴訟が20日付きで棄却されたと東芝が発表しています。

 東芝の不正会計により利益が嵩上げされたウェブサイト上の英文財務情報が、米国でのADR保有者が見ていたものになります。これはたまたま米国会計基準に基づいているものですが、SECへの提出文書でもなんでもありません。このため、このウェブサイトの英文財務情報が不正に歪められていたからといって、米国のSECが東芝を処罰する権限はないと考えられます。このカリフォルニアでの裁判所による集団訴訟の棄却は、その証拠と考えてもよいと思います。

スポンサーなしADRについては、下記の大和総研の記事に詳しく記載されています。

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