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2018年12月22日土曜日

日産ゴーン事件:監査法人がマスコミに情報提供している


1220日の東京地裁による勾留延長請求の却下を受けて、検察当局は一転して、ゴーン氏の3度目の逮捕容疑を特別背任罪に切り替えました。

ゴーン氏の資産管理会社による新生銀行とのデリバティブ取引契約において、リーマンショックの影響で多額の損失が発生したことから、その評価損約185000万円の負担を日産に付け替えたということです。これは、すでに雑誌などで報道されていた内容でした。

注目すべきは、新日本監査法人が、「会社が負担すべき損失ではなく、背任に当たる可能性もある」と日産に対して指摘していたと22日の日経新聞に報道されたことです。

筆者のブログで紹介したように、新日本監査法人は「ゴーン氏に対する業績連動報酬は決算書に計上されていた」(全額ではなくその一部と筆者推定)との情報を日経ビジネスに提供しています。それに加えて、この日経新聞の報道です。

これまで、監査法人は守秘義務を盾にとり、裁判所の命令などがない限り、監査の過程で得られた情報を外部に提供することはありませんでした。

拙著「東芝事件総決算」で紹介したように、日本取引所自主規制法人の佐藤理事長は「(監査法人は)契約相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、投資家に対して、もっと説明することは可能ではないでしょうか」と語っています(文藝春秋201712月号)。

東芝の監査を実施していた新日本監査法人は、ここでの「監査法人」の一つでした。筆者の想像ですが、新日本監査法人は、元金融庁長官であった佐藤理事長のこのような発言が念頭にあり、監査法人がある程度の情報を外部に提供してもよい時代になったと認識したのではないでしょうか。

これも筆者の想像ですが、新日本監査法人は日産から了承を得るだけでなく、金融庁とも事前に話をして、この評価損の付け替えについて、彼らの監査ではどのように扱ったのかについて、マスコミに対して情報提供したのではないかと思います。

筆者が監査法人に勤務していた時代は、監査先の監査内容についてのマスコミによる取材は一切受けないという方針でした。他の監査法人も同じ方針だったと思います。


2018年12月20日木曜日

ゴーン氏との合意書

ゴーン氏との役員報酬の合意についての状況が報道されました。おそらく報道機関では、合意書などの現物コピーを入手しているのではないかと思います。
日経新聞(2019年12月20日朝刊)には、つぎのような図が掲載されました。

まず、「雇用合意書」というのがあり、これはゴーン氏の退任後の報酬に関する取り決めのようです。「競業回避契約」は、日産自動車退任後に、トヨタ、フォードなどのなどの同業他社に移籍しないための引き留め料的なものと考えらえます。一時払いなのか、月次払いなのかは分かりません。

雇用合意書のコンサル料は、退任後に支払う報酬で「顧問料」に近いと思いますが、ゴーン氏が退任後に何等かの役務(コンサルティングサービス)を会社に提供することに対する報酬と考えてもよいと思います。

この雇用合意書は、上図のように西川社長とケリー元代表取締役が署名しています。西川社長は、この事件に関する最初の記者会見で、「内部通報」によりゴーン氏の不正が発覚したとしていましたが、退任後に報酬を支払うことについては承知していたということになります。

次に、「報酬合意事項」という書類があります。これにはゴーン氏とゴーン氏の元秘書が署名しているということです。それには、上図にあるように、総報酬、支払い済み報酬、延期報酬が書かれています。「総報酬」=「支払い済み報酬」+「延期報酬」ということでしょう。

「報酬一覧」という書類には、ゴーン氏が自ら手書きで修正した記録があると報道されています。このリストは2016年までしかないですが、おそらくこれまでの報酬のうち、支払い済み額と支払延期額が記載されているリストだと思います。

これまでの報道では、取締役会では、ゴーン氏に取締役個人別の報酬決定を一任する決議をしていたということです。ということは、ゴーン氏に決定権があったということになります。

検察当局としては、この3つの書類は、ゴーン氏が決定した証拠だとしていると思います。筆者は、ゴーン氏に決定権があったとしても、その結果をゴーン氏が隠し持っており、報酬決定結果を取締役会に報告していないのであれば、決定したことにはならないのではないかと思います。

取締役会に報告をすれば、役員報酬または退職慰労金として計上されることになり、これはゴーン氏としては避けたいことでした。ゴーン氏は、退職時と退職後の報酬の決定は、その時の取締役会(会長に一任したときはその時の会長)の承認事項であると主張しているようですが、それが正しいように思います。

検察当局は、このほかに有力な証拠を持っているのでしょうか。

また、気になるのは、役員報酬として記載されていなかった金額の一部が、財務諸表には計上されていたと解釈できる日経ビジネスの記事があります(筆者のブログ「日産の決算書には役員報酬が計上されていた」)。これについても、どのような展開になるか注目されます。

2018年12月12日水曜日

日産自動車の役員報酬エクスプレイン


コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-10①では、指名・報酬などの重要な事項に関する検討に当たり、任意の諮問委員会を設置するなどにより、独立社外取締役による関与・助言を得るべきであるとしています。

日産自動車は、この補充原則に準拠(コンプライ)していないため、次のように説明(エクスプレイン)しています。

指名・報酬等の重要事項への独立社外取締役の関与・助言
各取締役は、取締役会議長の提案をもとに、取締役会の決議を経た選任議案に基づき選任されている。 各取締役の報酬の決定手続きとしては、取締役会議長が、取締役会の決議及び代表取締役との協議に基づき、独立社外取締役の助言、各取締役の報酬について定めた契約、業績、役員報酬のコンサルタントであるタワーズワトソン社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に、決定している。独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど、豊富な経験と高い見識に基づき、役割・責務 を十分に果たしていただいている。これらを踏まえ、現行の仕組みで有効に機能していると考えている。(日産自動車 コーポレートガバナンス報告書 最終更新日:201875日)

「各取締役の報酬の決定手続きとしては、取締役会議長が、・・・・決定している。」となっています。要するに取締役会議長のゴーン氏が決定するということが記載されています。

「取締役会の決議・・・に基づき」となっていますので、取締役会決議はしていたのですが、報道によれば、取締役会議長に一任するという決議をしていただけのようです。

また、取締役会議長は「代表取締役との協議」もすることになっていますが、逮捕されているケリー氏が代表取締役でしたので、ケリー氏と協議するという意味になります。

「独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど」と記載されています。取締役会において、取締役各人別の報酬額の決定について、積極的に議論したのでしょうか。

通常、報酬委員会のような少人数でないと取締役各人の報酬について「積極的に」議論することができないのではないでしょうか。報酬支払対象者を前にして、その業績連動報酬額について「それでは多すぎる、少なすぎる」などといった議論はできないと思います。

この記載は、「指名・報酬等の重要事項への独立社外取締役の関与・助言」ですので、一般論として「独立社外取締役が積極的に議論に参加」したということではないと思います。

ということは、例えば「一部の取締役の報酬は高額すぎるのではないか」と独立社外取締役の一人が発言したという記録が残っていたら、この記載は一応正しいということになります。

一方、ゴーン氏に役員報酬の決定を一任し、その後は結果報告を受けていただけであれば、「独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど」という記載は誤りということになります。

2018年12月10日月曜日

「第四 提出会社の状況」の役員報酬と「第五 経理の状況」の役員報酬


日産自動車とゴーン氏らが起訴されました。その容疑の内容は、次のとおりです。

「地検の発表資料によると、両被告は2011年3月期のゴーン被告の報酬や賞与などが約177700万円であったにもかかわらず、9億8200万円と記載した有価証券報告書を同年6月に関東財務局長に提出した。同様に12年3月期から15年3月期の報酬などに関して、約807800万円だったのに40500万円と記載するなど重要事項について虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した。」(Bloomberg 2018/12/10

以上をまとめると次のようになります。

事業年度
記載額
差額
2011年3月期
177700万円
9億8200万円
79500万円
2012年3月期から2015年3月期
807800万円
40500万円
407300万円

日経新聞は、「日産は公訴時効が成立した113月期を除く4年分で起訴された。」としています。ということは、2の4年間で起訴されたということになります。Bloombergが1と2に分けて書いたのは、これが理由のようです。

日経イブニングスクープ(2018/12/10)では、「記載されていなかった役員報酬に絡む費用を20193月期決算で一括処理する方針だ。正しい決算を作成するための社内管理体制が整っていると上場企業が投資家に向けて宣言する文書、「内部統制報告書」の訂正も検討する。」と書いています。

筆者が125日のブログ「日産の決算書には役員報酬が計上されていた」で紹介した日経ビジネス2018123日号「役員報酬開示の闇」によれば、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」となっていました。

これまでの新聞各社の記事では「役員報酬が過少記載」とするだけで、その役員報酬は有報の「第四 提出会社の状況」と「第五 経理の状況」の財務諸表のどちらも同額過少記載されていたような書き方になっています。

しかし、日経ビジネスが、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」としている以上、有報の「第四 提出会社の状況」の役員報酬と「第五 経理の状況」の財務諸表が一致していない状況であると考えられます。

しかし、「記載されていなかった役員報酬に絡む費用を20193月期決算で一括処理する方針」と報道されているのですから、決算の訂正も必要ということになります。

以上から、有報の「第四 提出会社の状況」の役員報酬には、退任後に支払う役員報酬が全額記載されておらず、「第五 経理の状況」の財務諸表にはその一部が計上されていたということと推定されます。

この点は、近いうちに明らかになると思います。



2018年12月5日水曜日

日産の決算書には問題の役員報酬が計上されていた


1 業績連動報酬は決算書に計上されていた

日経ビジネス2018123日号「役員報酬開示の闇」によれば、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」とのことです。

これは、重要な情報です。決算書にはゴーン氏に対する未払の業績連動報酬が計上されているということです。監査法人は、決算書(財務諸表)の監査を行いますので、それが計上されているのであれば、監査上の問題にならないのでしょうか。
  
2 役員報酬の虚偽記載とは何か

この情報によって、逮捕容疑である「役員報酬の虚偽記載」とは、何が虚偽記載されていたのかが分かります。

有価証券報告書(有報)の目次は次のようになっています。

1 企業の概況
2 事業の状況
3 設備の状況
4 提出会社の状況
5 経理の状況
6 提出会社の株式事務の概要
7 提出会社の参考情報

この中で、財務諸表は「第5 経理の状況」に記載されている連結財務諸表と財務諸表が監査法人による監査対象になります。

一方、虚偽記載されていたとされる役員報酬は「第4 提出会社の状況 5 役員の状況④ 役員の報酬等」に記載されています。この内容は、筆者のブログ「日産自動車の役員報酬はどのように開示されているのか、何が問題か?」でご紹介したとおりです。

ゴーン氏が虚偽記載したというのは、この「第4 提出会社の状況」に記載されていた役員報酬であり、一方「5 経理の状況」の財務諸表にはそれが正しく計上されていたということだ、ということになります。

3 監査法人はチェックしないのか

有報の「第4 提出会社の状況」に記載されていなかったSARが、「第5経理の状況」の財務諸表には計上されていたということが分かりました。

それでは、監査法人の監査では、この不一致を指摘しなかったのか、それは監査法人の問題になるのかという点を検討しましょう。

前述のとおり、監査法人による監査の対象は「5 経理の状況」に記載された連結財務諸表と財務諸表だけです。それ以外の記載は会社の責任となります。

しかし、監査法人が財務諸表以外を一切見ないかというとそうではありません。有報の「その他の記載内容」を「通読して」、監査した財務諸表と重要な相違があるかどうかを確認することになっています。

もし重要な相違があり「その他の記載内容」に修正が必要な場合、会計監査人はその会社に修正を求め、会社が修正に応じなければ、監査役等に報告するとともに、①監査報告書にその事項区分を設けて重要な相違について記載する、②監査報告書を発行しない、③可能な場合、監査契約を解除する、のいずれかの対応が求められています。

有報の「第4 提出会社の状況」に記載された役員報酬が、財務諸表と一致していないことについて、日産の監査人である新日本監査法人は、会社に問い正したが、「それ以上の追及はしなかったようだ」と冒頭の日経ビジネスの記事には記載されています。

未記載の業績連動報酬が年に10億円だったとすると、その金額が「重要な相違」と判断するのかどうかは微妙です。日産の連結税引前利益は7000億円ありますので、それと比較すると大きな金額ではありません。そのため、監査法人は監査報告書に記載するなど、前述の①から③のいずれかの対応は取らなかったものと考えられます。

4 監査基準改訂が先送りされていた

筆者のブログの中でアクセス数が多いKAM(Key Audit Matter)を監査報告書に言及するという、監査基準の改訂が行われた(平成3075日)ことはご存じの方も多いと思います。

実は、「その他の記載内容」の重要な相違については、監査基準の改訂が先送りされていたのです。今回の改訂の検討課題には入っていたようですが、時間の関係で先送りとなりました。

国際監査基準では、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を「常に」設け、監査・保証の対象でない旨などを記載した上で、未修正の「重要な虚偽記載」がある場合はその旨(ない場合は、報告事項がない旨)を記載するよう求めています。

この国際監査基準の改訂を日本の監査基準に反映することが検討されたのですが、時間切れとなったようです。

今回これが問題になったのですから、改訂しておけばよかったと、関係者は歯がゆい思いをしているかもしれません。いずれにしても、この点は近いうちに、日本の監査基準が強化されることになると思います。

ただし、日産の事例の場合、仮に監査基準が改訂されていたとしても、監査報告書に記載するかどうかについては、役員報酬に「重要な相違」があると判断するのかどうかが、ポイントになると思います。金額的(量的)には日産にとっては重要でないと言えますが、役員報酬の相違は質的には重要と考えられます。

さらに、仮に監査基準が改訂されていたとしたら「その他の記載内容」の項目が監査報告書に常設され、記載事項がないときは「報告事項がない旨」を記載することになります。役員報酬が10億円相違していたとしたら、「報告事項がない」という記載にはならない可能性が高いと思います。


日産側の伝家の宝刀、会社法308条1項


報道では、ルノーが日産の株式を43.4%所有し、日産が15%所有しているとされています。議決権に関しては、ルノーが日産に対する議決権はあるが、日産のルノー株式15%については議決権がないとされています。

ルノーが日産の株式を買い増して影響力を強化するのではないか、というような報道もされています。

1 日産がルノー株式を買い増して25%以上にするとどうなるか

もし、日産がルノー株を買い増したらどうなるでしょうか。ルノーと日産は、「株式相互持合」の状況です。日産のルノー持株は現在15%ですが、これが25%以上になれば、ルノーが持っている43.4%の議決権が行使できなくなります(会社法3081項)。今のルノー株は値下がりしているようですので、2000億円あれば、10%の買い増しができるそうです。(日経ビジネス2018.12.03, P15)
これは、日本の会社法では、ある会社が25%以上保有しているということは、ある程度言うことを聞く株主であるということです。このような株主は、自社の言うなりに議決権行使させることができ、他の株主の権利を損なうことになります。これを排除することが、この規定の目的です。

ルノーと日産を想定すると、この話が分からなくなりますので、A社とB社で説明しましょう。以下の場合は、B社の株主総会で、A社が所有する100株の議決権行使ができないというのが会社法の規定です。

・A社がB社の株主であり、100株所有している
・B社はA社の株式の25%を所有している

A社は、B社に株式の25%を所有されていますので、B社の関係会社です。株式の相互持合いで、A社が関係親会社のB社株式100株を持っていても、その100株の議決権が行使できないというルールになっているのです。

A社はB社の関係会社なので、B社の指示に従って、B社の株主総会で議決権行使すると考えられます。これはB社の他の株主の権利を損なうことになるため、A社の議決権行使ができない(停止される)のです。

そのルールが規定されているのは、下記の会社法3081項です。()内のアンダーラインがそのことを規定しているのですが、非常に分かりにくい条文です。

308
1.    株主株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。

株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有する場合を除き、株主は株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。」と理解すればよいと思われます。

なお、ただし書きは、「株式会社が単元株式数を定款で定めている場合には、一単元未満の端株については議決権がない」という意味なのだそうです。

2 ルノーと日産の株式相互持合に25%ルールは違和感がある

上記の会社法の規定は、言うことを聞かせられる株主(25%以上所有)の議決権がないということでした。日産がルノーの持株をあと10%買い増して、25%以上にしたら、ルノーは、日産の株主総会での議決権がなくなるのですが、ルノーは言うことを聞かせられるような株主なのでしょうか。

言うことを聞かないから日産が困っているわけです。会社法は、前述のA社とB社のような状況を想定しているのであり、そもそも支配関係が反対で、親会社が子会社を支配する関係であるときに、子会社が親会社の株式を25%所有したら、親会社が子会社を支配できなくなるということも想定しているのでしょうか。

この辺りは、深入りすると、難しい会社法の世界になるので、専門家の議論におまかせすることにしたいと思います。

3 日産が所有するルノー株式15%の議決権

現状は、日産が持っているルノー株式15%について議決権がないと報道されています。これは、フランスの会社法に日本の3081項のような規定があるのか、またはルノーと日産の取り決めがあるのか、のどちらかだと思います。このどちらなのかについて、これまでの報道を筆者が見る限り分かりません。どなたか分かる方がおられたらご教示ください。


2018年12月3日月曜日

本ブログの記事別アクセス数

筆者のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

皆様のアクセス数(ページビュー)の状況を見てみました。
最近1週間の統計は次の通りです。日産の記事を7本書きましたので、上位に来ています。しかし、2015年に書いた業績連動報酬のブログが一番上に来ました。日産ゴーン事件の関連であることは明らかです。KAMも依然として人気があるようです。議題の整理は、コーポレート・ガバナンス改革の基本になることですが、いつも上位にランクされています。


次に、過去1か月の統計を見てみましょう。
ここでは、議題の整理が1位、KAMが2位です。2015年に書いたフロランジュ法は日産ゴーン事件の影響で上位になっています。

今後も本ブログをお楽しみください。

農協の貸倒引当金は過大計上されている

法人税法では、貸倒引当金の繰り入れ限度額が決まっています。限度額まで税務上の経費(損金)として認め、それ以上の繰り入れをしても税務上の経費として認められないということになっていました。しかし平成24年から、実は資本金1億円超の会社(上場会社はこれに該当)については、貸倒引当金の繰入額は税務上の経費(損金)としては認められないということになりました。要するに、税務上の貸倒引当金は廃止されています。

今日(2018年12月3日)の日経新聞によると、会計検査院が調べた結果「検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。」ということです。

何のことかというと、本来は資本金1億円以下の中小企業にしか認められていない税務上の貸倒引当金が、銀行保険業については、依然として認められてきたため、このようなことが起こっているということのようです。

銀行・保険業の法定繰入率は、3/1000であり、これは実際の貸倒実績(過去3年平均)と比較して30倍であったということです。法定繰入率の30分の1は0.01%です。これが実態なのに、期末債権残高の0.3%を貸倒引当金として繰り入れても税務上の経費として認められるということです。

日経新聞では、「農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。」としています。会計検査院は、政府機関の検査をする役所であり、民間の銀行・保険業は対象外です。

それでは、メガバンクや大手保険会社も同様の優遇を受けているということでしょうか。これらの銀行・保険会社については、法定繰入限度を採用することができないはずです。その理由は、国税庁が一律に決めた繰入率に基づく会計処理は、適正な会計処理とは認められないからです。

実は、農協が実績率の30倍もの法定繰入率を使用しているというのは、適正な会計処理をしていないという意味なのです。すなわち、農協の貸倒引当金は過大計上されている(その分利益が過少計上)わけです。

この日経新聞の記事のタイトルは「貸倒引当金「特例」過大計上で税収減か」ということで、税収を確保するためには、税制を変えたほうがよい(例えば法定繰入率を下げる)というのが記事の趣旨だと思います。しかし、この記事によって、図らずも農協の会計処理が適正でない、ということが分かってしまったということになります。

ご参考のために、日経の記事を転載しておきます。

貸倒引当金の「特例」過大計上で税収減か 検査院が調査

2018/12/3付
[有料会員限定]

中小企業などの負担を減らすため設けられた貸倒引当金の特例措置を会計検査院が調べた結果、引当金が過大に計上されて法人税の減収につながっている恐れがあることが2日までに分かった。
検査院は引当金の繰入限度額の計算方法として認められる「法定繰入率」が実際の貸し倒れ発生率を大幅に上回り、実態と懸け離れていると指摘。繰入率は1985年度以降見直されておらず、関係省庁に検証を求めた。
貸倒引当金は損失見込み額を費用として計上し、農協などは一定限度額まで損金として繰り入れ課税対象から外すことが認められている。限度額は貸し倒れ発生率か法定繰入率で算出し大半が繰入率を採用している。
検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。
その上で発生率を基にした限度額から法人税の減収額を推計すると、農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。