ガバナンス体制をモニタリングモデルにし、取締役会が監督に徹するためには、できる限り業務意思決定を取締役または執行役(員)に権限委譲することが必要となる。取締役会の議題が意思決定事項に終始していたら、ガバナンスの議題を十分議論することができなくなる。また、社内の事情を知らない社外取締役に、あまり重要でもない業務意思決定の議論や決議に巻き込むことは意味のないことであり、社外取締役がそのような意思決定に関与したことを持って、事後的な結果責任を負わされるリスクもある。
監査等委員会設置を選択した場合、モニタリングモデルによるガバナンスが直ちに可能になるかというと、そうではない点に留意が必要となる。
多くの方がご存知のとおり、指名委員会等設置会社(旧委員会設置会社)では、執行役が設置され、執行役に権限委譲することにより、重要な業務意思決定を執行役が行うことができる。この権限委譲の範囲については取締役会の決議が必要となる(416条4項)。
一方、監査等委員会設置会社においては、監査役設置会社と同様に、重要な財産の処分及び譲受けなどの重要な意思決定を決議しなければならないのが原則(399条の13第4項)となっているが、意思決定の全部または一部を取締役に委任することができる規定になっている。
取締役の過半数が社外取締役である場合は、取締役会の決議でこれを定めることができる(399条の13第5項)。一方、過半数が社外取締役ではない場合には、定款の定めを設け、かつ、取締役会で決議すれば、取締役に重要な意思決定を委任できる(399条の13第6項)。
このように、監査等委員会設置会社では、重要な業務意思決定を取締役会ではなく、執行役員等の経営者に委譲することができる。そのためには、定款変更(取締役の過半数が社外でない場合)と取締役会の決議が必要ということになる。
反対に言うと、このような定款変更が株主総会の議題に上がってこない監査等委員会設置会社は、モニタリングモデルによるガバナンス体制を選択する意思がないということになる。(ただし、取締役会決議は外部から見えないので、定款変更だけして取締役会決議をしない会社があれば、これも同類となる)
監査役設置会社(及び上記のような定款変更しない監査等委員会設置会社)でも、たとえば、「重要な財産の処分及び譲受け」の重要の範囲を絞れば、モニタリングモデルになる、という議論もあるが、それは別稿で検討することにしたい。