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2019年3月28日木曜日

常勤監査等委員の設置は常識


TAKERUというアパートの施工・管理を手がける会社(東証1部)で、社員による悪質な不正が発覚し、特別調査委員会が設置されて報告書(要約版)が公表されています。

 それによると、「預金残高を水増ししたり、他人の預金通帳の写しを顧客のものとして金融機関に提出したりするなどして、融資に通りやすくしていた。こうした改ざんは350件にのぼり、社員31人が関与していた。」ということです。
326日に同社の株主総会が開催され、株主から「常勤の監査等委員の設置を求める」との声が出たそうです。同社は監査等委員会設置会社で監査等委員3名が全員社外取締役であるという点はよいのですが、全員非常勤で、他の企業の社外監査役や社外取締役を兼ねているということです。これではTATERUをしっかり監査・監督できない、と言われても仕方ありません。
株主総会でこのような意見が出るぐらいですから、調査報告書ではその点は再発防止策として記載されてはずです。それを確かめてみました。しかし、「業務執行に関わる社外取締役(監査等委員以外)の選任・任命」は提案されていますが、監査等委員を常勤にするということは記載されていません。
監査役会設置会社では、最低1名の常勤監査役の設置が必要となります。(上場会社は、会社法上、ほぼその全部が資本金5億円以上の大会社になりますので、「監査役会」の設置が必要になります。)一方、監査等委員会設置会社では、常勤の監査等委員の設置は会社上義務付けられていません。
そのようなことから、株主総会で株主が上記のような発言をしたのだと思います。しかし、弁護士さんが中心で構成された特別調査報告書では、監査等委員の常勤化は提言されませんでした。
監査役会設置会社での常勤監査役は、一般に部長経験者や取締役経験者が就任することが多く、社内常勤者になります。これまでの企業不祥事をみても、社内常勤監査役が自浄作用を発揮したケースは少ないように思います。
そのような事実を念頭に置き、常勤監査等委員を置くとしても、どうせ社員や取締役を常勤監査役にするだけなので、それほど再発防止策としては効果がないと調査委員の弁護士さんは判断されたのだのでしょうか。
といっても、監査役会設置会社と最低限同等にするという意味では、常勤監査等委員の設置を提言すべきであったと思います。これは、株主に言われる前に、調査報告書に記載しておくべきでした。
さらに踏み込んで、常勤「社外」の監査等委員の設置の提言をしていたら、もっとポイントが上がったと思います。調査報告書では、なぜか、監査等委員以外の社外取締役の設置を提言しています。社外取締役は原則として取締役会に出席するだけですので、再発防止策としては、それだけでは不十分です。
同社は、いわゆる「なんちゃって監査等委員会設置」であろうと思います。監査等委員3名のうち、2名を社外にしておけば、社外取締役2名以上というコーポレートガバナンス・コードの要求をクリアできます。監査役会設置会社だと、社外監査役は社外取締役としてはカウントされないので、追加して社外取締役2名の選任が必要になります。
しかし、監査等委員会設置にすると、監査役を監査等委員に横滑りさせると、コーポレートガバナンス・コードの社外取締役2名以上をクリアできるということになります。これを主目的に監査役会設置から監査等委員会設置に移行する会社が多くありました。
このような監査等委員会が「なんちゃって監査等委員会」と呼ばれています。監査等委員の常勤化は、「なんちゃって」ではないという宣言の一つになります。もちろん、監査等委員以外の社外取締役(2名以上)を選任することも大事です。この2つを行うことにより、ようやく監査役会設置会社と同等のガバナンス体制になります。(ということは、「監査等委員会設置会社から監査役会設置会社に移行すべきである」と提言しても同じ効果があるということになります)

話は別になりますが、この調査報告書を読んで気になったのは、内部監査の強化が提言されていない点です。会社法では、内部監査のことが具体的に触れられていないということがあり、弁護士さんは内部監査の重要性について認識されていないのかもしれません。
社内に独立した(他の部署の配下にない)内部監査部門を設置し、必要十分な能力を有した内部監査人を必要十分な人数確保する、ということはコンプライアンス対策に非常に重要です。
これまで何度もお話していますが、社長による会社ぐるみの不正を防ぐためには、内部監査部門は社長直轄ではなく、監査等委員会直轄にするのがよいと思います。監査役会の配下に内部監査部門を置くことは、会社法上大丈夫か、という会社がありますが、監査等委員会の配下に内部監査部門を置くのであれば、そのような抵抗感はないと思います。