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2020年4月5日日曜日

社外取締役は「実効性」重視で選任しているか

1.意外に多い社外取締役過半数の会社

日本取締役協会2019年の調査によれば、東証1部上場会社のうち、社外取締役を取締役会の過半数としている会社が142社あるとしています。2014年では51社でしたので、5年で約3倍になったということになります。
 増えてきているといっても、このような会社は東証1部上場会社の1割に満もたない少数派です。CEOCFO以外は社外取締役が普通の米国の状況に比較すると、大きな違いがあります。日本の上場会社では、今のところ、2,3人の社外取締役を置くのが主流と言えます。
 最近、「社外取締役を過半数に」という要求をアクティビストファンドが上場会社に突きつけるケースが増えてきました。また、過去に不祥事を起こした会社が社外取締役を過半数にしています。日産自動車、東芝、スルガ銀行、オリンパスなどがその例です。社外取締役を過半数にすることは、いわば先進的なガバナンス体制を採用していることの象徴になっています。

2.かんぽ生命の不正募集問題
  
 かんぽ生命は、保険の不正募集問題で大きく揺れています。金融庁から331日までの3か月間の業務停止処分を受けました。調査の結果分かった不適正募集は、社内ルール違反1608件、法令違反153件(ともに219日時点)でした。特別調査委員会は3月末まで追加調査を続けるため、違反件数は増加するものとみられます。
その特別調査委員会による調査報告書(20191218日)によれば、この不適正募集を職場で見聞きしたことがある郵便局員が半数程度いました。2人に1人は知っていたということになります。
これほど現場で知られている問題について、役員に対しては「大きな問題ではない、すでに解決策を取っている」と報告されていたと調査報告書に記載されています。
 日本郵便では全国に約1000名、かんぽ生命には80名から90名の内部監査要員がいますが、「事務上の不備等の有無を確認する準拠性監査にとどまっており」「本契約問題の早期探知につながるような監査が実施できなかった」とされています。
監査委員会がどのような活動をしたのかについては、調査報告書には記載されていませんが、内部監査が問題を指摘していない以上、監査委員会がこれを知ることはなかったものと考えられます。

3.かんぽ生命のガバナンス体制

 「監査委員会」と書いたので、お気づきの読者もおられると思いますが、かんぽ生命は指名委員会等設置会社です。みずほフィナンシャルグループや日産自動車などは、不祥事を契機としてガバナンス体制を指名委員会等設置会社に移行しています。
この体制をとる場合、指名、報酬、監査の3委員会の過半数が社外取締役であることが求められます。ただ、取締役会全体の過半数が社外取締役であることは求められません。そのため、このガバナンス体制を採用しているからといって、社外取締役が取締役会の過半数とは限りません。
かんぽ生命はどうかというと、2015年の上場当初から指名委員会等設置会社であり、取締役の過半数を社外取締役にしていました。すなわち、冒頭の142社に含まれる会社でした。
指名委員会等設置会社であり、取締役の過半数が社外という最強のガバナンス体制を採用するかんぽ生命で、不正募集問題に対して適切な対応ができなかったことになります。

4.何が問題だったのか

指名委員会等設置会社は、米国流のガバナンス体制を日本にも導入する趣旨で法制化されました。しかし、同様のガバナンス体制を採用していた米国のエンロンは、サーベンス・オクスレー(SOX)法成立の契機になった巨額粉飾事件を起こしています。エンロンでは、有名大学教授など、CEOのお友達を社外取締役としていたということが問題であったとされました。
指名委員会等設置会社+社外取締役過半数という一見最強に見えるガバナンス体制でも、誰が取締役か、取締役会がどのように運営されているか、が重要な分かれ目になると考えられます。

5.かんぽ生命の社外取締役
  
かんぽ生命では、上場以来78名の社外取締役を置いています。20196月の株主総会後は、社内3名、社外7名の体制でした。この社外7名は、どういう人か見てみましょう。各人の主な経歴をピックアップすると次のとおりです。
・パソナグループ取締役専務執行役員(元)(女性)
・アイスタイル代表取締役(元)(女性)
・ワーク・ライフバランス代表取締役(現)(女性)
・検事長(元)(現弁護士)
・IHI会長(現)
京浜急行代表取締役社長(現)
・住友商事専務執行役員(元)
経営経験者と法律専門家で構成されています。ダイバーシティ対応として女性3名を選任しています。残念ながら、この中で金融の専門家は一人もいません。
業界のプロであれば、報告内容について合理性がないことに気づく可能性があります。取締役会で話題にならない事項でも、業界の課題を熟知していれば、それに対してどのように対応しているか、取締役会で質問し、追及することもできると思います。
一方、監査委員会のメンバーは次のとおりでした。
監査委員長:検事長(元)(現弁護士)
監査委員:パソナグループ取締役専務執行役員(元)(女性)
アイスタイル代表取締役(元)(女性)
住友商事専務執行役員(元)
元検事長が監査委員長になっています。顔ぶれを見ると、法律の専門家はいても監査・会計の専門家は一人もいません。
特別調査委員会による調査報告書によれば、常勤者が1名とされていますが、20183月期までは、監査委員会事務局統括役(社内取締役)が常勤でしたが、20193月期は全員が社外取締役であり、常勤はいなかったと考えられます。
監査委員会がリーダーシップを取って監査を実施していたのではなく、監査委員会事務局や内部監査部門に「お任せ」になっていた可能性が高いと思います。このため、「大きな問題ではない、すでに解決策を取っている」という報告に納得していたのだと思います。
かんぽ生命は、社外取締役が過半数であっても、ガバナンス強化の役に立っていなかったという事例になってしまいました。人数だけでなく、誰が社外取締役かが重要です。社外取締役の「実効性」が非常に重要です。差し障りのない形だけの社外取締役を人選していたのでは、会社のためにはならないだけでなく、大きな損害を招くことになってしまうことが、この事例からよく分かります。