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2016年4月27日水曜日

D&O保険の保険料を会社負担してよいのか

D&O保険のお話を聞きました。
 D&O保険というのは、取締役や監査役が業務執行(監査役は業務執行しませんので監査の実施)において、第三者に損害を及ぼした結果、損賠賠償を請求された時に、個人として賠償に応じる必要が生じることがあります。

このような場合を想定した役員損賠責任保険が、D&O保険です。

役員が何か失敗をしでかして、第三者から損賠賠償請求をされたのであれば、役員個人が損害賠償に応じるのが普通です。そのような事態に備えて、保険を掛けるにしても、保険料の負担は、役員個人であるべきです。

しかし、会社の業務を真面目にやった結果、避けられないような損害賠償であれば、取締役や監査役個人に損賠賠償金を負担させるのは酷だという考え方もできます。部下の不祥事の責任を取らされるという場合もあり、監督責任があるとしても、悪いのは部下だということもあるでしょう。

このような事態に備えて、会社が一括して役員個人に対する損賠賠償を対象とした保険を掛けることが最近、一般化してきました。役員本人の意思に関わらず、会社が一括して保険に入るということもあり、また、上記のような必ずしも役員個人に負担させるのは酷だということもあるので、保険料の負担を会社がしてよいということになっています。

ただ、このようなD&O保険には、免責条項があります。たとえば、役員個人の利益のために第三者に損害を与えたとか、役員個人が犯罪を犯したというような場合には、保険会社は免責され、保険金が支払われることはありません。

会社がこのようなD&O保険の保険料を負担して良いということには、昔から議論があったようですが、第三者からの賠償請求に対する保険であれば、その保険料は会社負担してよい、との解釈が一般的でした。しかし、株主代表訴訟に基づく損賠賠償請求の場合には、その保険料は会社が負担するのは、会社法上問題がある、という意見がありました。

株主代表訴訟の場合は、訴えるのは株主ですが、賠償金を払うのは役員で、それを受け取るのは会社です。結局、役員が会社に損害を与えた結果、役員が会社に賠償するような保険の掛け金を会社が負担するのは、論理的におかしいというのがその理由のようです。

株主代表訴訟をカバーする特約を付けると、第三者からの損賠賠償に対する保険料は全体の90%を占め、株主代表訴訟特約の部分は10%だそうです。この10%は会社が負担してはいけない、というのがこれまでの会社法の解釈でしたので、株主代表訴訟については、免責される(特約を付けない)保険であれば、その保険料を100%会社が負担してもよい、という対応がされていました。

ここで、何にでも頭を突っ込む経済産業省が動き出しました。昔からあり、一時休止していた「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」を平成26年12月から再開し、D&O保険を論点の一つにしました。

その結果、D&O保険の株主代表訴訟部分については、会社が負担せず役員個人が負担する点を改める必要があるとし、会社法の解釈上、会社が負担しても問題ないという見解を出しました。(平成27年7月の報告書)

経済産業省が法律の解釈をしてよいのか、という意見はあると思います。しかし、法務省からも了承を取り付けたとのことでした。また、税務上も、株主代表訴訟部分を会社が負担した場合に経費として認められる(損金となる)というところまで持ち込みました。(「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取り扱いについて」(平成28年2月24日)https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/160218/index.htm

ということで、会社法上、D&O保険の保険料を会社が負担してよいかについては依然、として議論はあるものの、上記のように税法上、経費で認められるということになった以上、実務としては、会社負担で進むことになると思います。

2016年4月5日火曜日

消費者庁による名簿業者の実態調査

消費者庁が名簿業者の調査をしました。1社で最大3億人分(延べ)を保有している名簿業者があったということです。

このような国の調査に、名簿業者が協力してくれるというのは、ちょっと驚きです。

個人情報保護法では、第三者提供には本人の同意が必要となります。要するにこうゆう名簿を持っている場合に、本人の同意が得られているかというと、そうでないケースがほとんどだと思います。

ということは、個人情報保護法違反になります。といっても同法では、「個人情報取扱事業者は法の定める義務に違反し、主務大臣の命令にも違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」としているだけです。

どういうことかというと、主務大臣(総務省、厚労省、経済産業省、金融庁、消費者庁など個人情報保護ガイドラインを出している府省の大臣)が命令しそれに違反しないと、刑罰を科さないという法律になっているのです。

ベネッセの場合は、こんなまどろっこしいことができないので、確か不正競争防止法で犯人を逮捕したと思います。

名簿業者としては、「違反に対する命令」が出ていないのであれば、いきなり逮捕されたりする心配がないので、このような国による調査に対応することができる、ということだと思われます。

興味深いのは、個人情報の入手先は「古書店、廃棄物回収業者、個人」としている点です。古書店や廃棄物回収業者からは名簿を買ってきたという意味合いだと思います。個人でも自分が持っている名簿を売る人がいるのかもしれません。ただ、これらに不正に入手して名簿や個人データが含まれる可能性もあります。もしかしたらそれが多いのかもしれません。

販売先は、「不動産、健康食品、化粧品、宝飾品、新成人向け呉服、学習塾、自動車教習所の関連業者」とのこと。BtoCの営業用に使うという意味だと思います。

名簿業者の購入価格まで記載されています。お金欲しさに名簿を売ろうと思う人がいないことを願うばかりです。

大手の会社などは、昔は名簿業者から買っても、十分な情報が得られないことから、自社でアルバイトなどを雇って、全国の市区町村の役所に行かせ、そこで住民基本台帳を手書きで書き写す(コピーはさせてもらえない)という作業をしていました。

今は、住民基本台帳を簡単に見せる役所はないので、これができません。名簿業者の売り上げが減少しているということですが、しっかりとした名簿が買えない状況なので、売ることもできない状況になってきていると推察されます。

ただ、不正に入手した個人情報は、その内容が充実していることがあるので、そうゆうものがあれば、売れるのだと思われます。

このような名簿業者を取り締まるためには、個人情報を大量に保有する会社は、その入手経路に違法性がないことを証明しないかぎり、刑罰を科すというような法律が必要と考えられます。



個人情報3億人分保有 消費者庁調査の名簿業者

日経2016/4/3付
消費者庁は2日までに、「名簿屋」と呼ばれる名簿販売業者の初の実態調査結果を公表した。取り扱う個人情報は主に冊子と電子データの形式で、最大で延べ3億人分の電子データを保有する業者もいた。
 ベネッセコーポレーションの顧客情報が複数の名簿業者を通じて流出した問題などを受けた調査。15業者に協力要請し、応じた8業者に昨年8~9月にヒアリングした。
 冊子は高校や大学の同窓会、医師会やゴルフクラブの会員、町内会などの名簿で、約1万5千冊を扱う業者もあった。電子データは1業者当たり延べ3億~6千万人分を保有していた。
 主な入手先は古書店や廃棄物回収業者、個人など。ベネッセの流出情報約800万件を16万~5万円で買い取るよう持ち掛けられた名簿業者もあった。
 買い取り価格は冊子が1冊3万~7千円、電子データは1件約0.1円~50円。販売時の価格は約2倍になる。販売先は不動産、健康食品、化粧品、宝飾品、新成人向け呉服、学習塾、自動車教習所の関連業者などが目立った。
 ほとんどの名簿業者は売り上げが年々減少しており、消費者庁はプライバシー意識の高まりや相次ぐ情報漏洩などで「新たな名簿の入手や、保有する情報の鮮度の維持が困難となり、需要が減っている」と分析する。