D&O保険のお話を聞きました。
D&O保険というのは、取締役や監査役が業務執行(監査役は業務執行しませんので監査の実施)において、第三者に損害を及ぼした結果、損賠賠償を請求された時に、個人として賠償に応じる必要が生じることがあります。
このような場合を想定した役員損賠責任保険が、D&O保険です。
役員が何か失敗をしでかして、第三者から損賠賠償請求をされたのであれば、役員個人が損害賠償に応じるのが普通です。そのような事態に備えて、保険を掛けるにしても、保険料の負担は、役員個人であるべきです。
しかし、会社の業務を真面目にやった結果、避けられないような損害賠償であれば、取締役や監査役個人に損賠賠償金を負担させるのは酷だという考え方もできます。部下の不祥事の責任を取らされるという場合もあり、監督責任があるとしても、悪いのは部下だということもあるでしょう。
このような事態に備えて、会社が一括して役員個人に対する損賠賠償を対象とした保険を掛けることが最近、一般化してきました。役員本人の意思に関わらず、会社が一括して保険に入るということもあり、また、上記のような必ずしも役員個人に負担させるのは酷だということもあるので、保険料の負担を会社がしてよいということになっています。
ただ、このようなD&O保険には、免責条項があります。たとえば、役員個人の利益のために第三者に損害を与えたとか、役員個人が犯罪を犯したというような場合には、保険会社は免責され、保険金が支払われることはありません。
会社がこのようなD&O保険の保険料を負担して良いということには、昔から議論があったようですが、第三者からの賠償請求に対する保険であれば、その保険料は会社負担してよい、との解釈が一般的でした。しかし、株主代表訴訟に基づく損賠賠償請求の場合には、その保険料は会社が負担するのは、会社法上問題がある、という意見がありました。
株主代表訴訟の場合は、訴えるのは株主ですが、賠償金を払うのは役員で、それを受け取るのは会社です。結局、役員が会社に損害を与えた結果、役員が会社に賠償するような保険の掛け金を会社が負担するのは、論理的におかしいというのがその理由のようです。
株主代表訴訟をカバーする特約を付けると、第三者からの損賠賠償に対する保険料は全体の90%を占め、株主代表訴訟特約の部分は10%だそうです。この10%は会社が負担してはいけない、というのがこれまでの会社法の解釈でしたので、株主代表訴訟については、免責される(特約を付けない)保険であれば、その保険料を100%会社が負担してもよい、という対応がされていました。
ここで、何にでも頭を突っ込む経済産業省が動き出しました。昔からあり、一時休止していた「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」を平成26年12月から再開し、D&O保険を論点の一つにしました。
その結果、D&O保険の株主代表訴訟部分については、会社が負担せず役員個人が負担する点を改める必要があるとし、会社法の解釈上、会社が負担しても問題ないという見解を出しました。(平成27年7月の報告書)
経済産業省が法律の解釈をしてよいのか、という意見はあると思います。しかし、法務省からも了承を取り付けたとのことでした。また、税務上も、株主代表訴訟部分を会社が負担した場合に経費として認められる(損金となる)というところまで持ち込みました。(「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取り扱いについて」(平成28年2月24日)https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/160218/index.htm
ということで、会社法上、D&O保険の保険料を会社が負担してよいかについては依然、として議論はあるものの、上記のように税法上、経費で認められるということになった以上、実務としては、会社負担で進むことになると思います。
ありがとうございます。コンパクトにまとめられており、知識の整理に役立ちます。
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