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2017年7月17日月曜日

東芝不正会計事件の全容と東芝の今後

1 東芝不正会計事件の全容

 東芝事件の全容がほぼ明らかになってきましたので、ここまでのところをまとめておきたいと思います。この事件はこれまで日本で起こった最大、最悪の不正会計事件です。一旦それが発覚した後は、劇場型で進行しているというのもこの事件の特徴です。ただ、会計の専門用語が多く出てくる事件ですので、一般の方には分かりにくい事件なのかもしれません。なるべく分かりやすくこれまでの経過を第一幕と第二幕に分けてまとめてみました。

(1)第一幕:チャレンジと利益の嵩上げ
 発覚のきっかけは、証券取引等監視委員会が受けた内部通報でした。これを元に監視委員会は東芝に立ち入り調査を実施しました。この調査は東芝の社会インフラ部門における工事進行基準の会計処理を中心とするものでした。東芝は特別調査委員会(社内委員会)を設置して調査を開始しますが、工事進行基準以外の問題が発見されたことから、第三者委員会を設置しその仕事を引き継ぎました。
 第三者委員会は、300ページを超える膨大な調査報告書を作成し、東芝はそれをそのまま公表しています。報告書で分かったのは、20084月から201412月前の69ヶ月の間で累計して1,518億円の利益の過大計上があったということです。第三者委員会が東芝から依頼を受けた調査対象は次の4項目でした。第二幕で問題が発覚した原子力事業は調査対象になっていませんでした。
·          工事進行基準案件の会計処理
·          映像事業における経費の会計処理
·          半導体事業における在庫評価の会計処理
·          パソコン事業における部品取引等の会計処理
 「チャレンジ」と呼ばれる経営者による過大な要求に応えるため、各事業部が目標利益を確保するために利益の嵩上げを行なったことが、不正会計の原因でした。経営者には不正会計を容認するような言動がみられたと調査報告書に記載されています。
 第三者委員会の調査結果を受けて、東芝は、過去5年分の有価証券報告書と四半期報告書の訂正報告書を提出しました。これを受けて、金融庁は東芝に対して約73.7億円の課徴金を課すとともに、監査を行なった新日本監査法人には約21億円の課徴金を課しました。東芝に課された73.7億円は過去最大金額であり、監査法人に課徴金が課されたのはこれが初めてでした。
 損害賠償に関しては、東芝は旧経営陣5名に対して総額32億円の損害賠償を請求しました。一方、投資家や銀行などから東芝に対して約1,000億円の損害賠償が請求されています(20176月現在)。経営者の刑事責任が問われるかが注目されましたが、刑事告発はされないことになりました。

(2)第二幕:底なしの減損
 日経ビジネスが東芝の原子力事業を行う米国子会社であるウェスチングハウスがのれんの減損を実施していた事実を報道したことから始まりました。それは東芝が過去5年分の訂正報告書を提出した20159月の2ヶ月後の11月でした。その報道は、20133月期と20143月期に合計1,600億円ののれんをウェスチングハウスが減損処理していたというものでした。
 その後の東芝からの発表によると、その減損額は合計で1,320億円であり、東芝がウェスチングハウスを連結するときに、その減損は取り消していたということでした。これは、東芝連結とウェスチングハウスの減損テストの方法が違うため、という説明でした。
 その発表があった事業年度末の20163月期には、東芝は、今度は連結上もウェスチングハウス関連ののれんを2,476億円減損しました。東芝は、「公正価値」の計算に使う割引率が、東芝の資金調達環境の悪化を反映して高くなったので、公正価値が低く計算されたのが減損の理由だと説明しました。
 話はこれだけで終わりません。東芝の201612月の四半期報告書に対するPwCあらた監査法人によるレビュー報告書が提出されないため、提出期限に間に合わないという事態になりました。東芝は、20163月期を最後として監査契約を辞退した新日本監査法人に替わって、PwCあらた監査法人と監査契約を締結していたのです。PwCあらた監査法人は監査を受託した後、3度目の四半期報告書に対するレビュー報告書を提出しなくなったということになります。
 東芝は、監査法人のレビュー報告書が「結論不表明」の状態で四半期報告書を2ヶ月遅れの4月に提出しました。驚いたことにその四半期報告書において、7,166億円ののれんの減損が計上されていたのです。これは、ウェスチングハウスが201512月に買収した原発の建設工事会社のS&Wに関わる減損でした。東芝がウェスチングハウスを買収した際に計上されたのれんは3,500億円でしたが、それは上記のとおり2,476億円の減損により減額されています。7,166億円の減損はどこから出てきたのでしょうか。
 それだけではありません。その四半期報告書が公表される1ヶ月前の20163月にはウェスチングハウスが破綻したのです。破綻した子会社は連結除外して良いということになっていることから、ウェスチングハウスとSWを含むその関係会社は東芝の連結財務諸表から消え去っています。このため7,166億円の減損も連結財務諸表から消え、そのことは増益要因となると東芝は発表しています。東芝は、その後20173月期の有価証券報告書の提出を延期しており、現在に至っています。

2 東芝の上場廃止はあるのか
 一方、東証は、20159月、東芝による過去5年度分の訂正報告書の提出を受けて、特設注意市場銘柄に指定しました。その1年半後の20173月には上場廃止となる恐れがあることから「監理銘柄(審査中)」に指定しました。有価証券報告書が提出されていない状況ですが、東証は、連結貸借対照表を提出させ、20173月末で債務超過となっていることを確認した上で東証1部から2部に降格しました。監査法人の監査を受けていない財務諸表で東証が2部降格を判断したのは異例の措置でした。東証が東芝の2部降格を急いだのは、TOPIX(東証1部上場会社の株価指数)にいつまでも東証株が含まれるのを避けるためと報道されています。

 オリンパスは、不正会計の発覚後も上場廃止されませんでした。その理由は「上場廃止が相当であるとする程度まで投資判断が著しくゆがめられていたとは認められない」でした。東芝の場合、第一幕で終わっていたら同様の結果になったかもしれませんが、第二幕の結末次第では、上場廃止もありうると思います。

2017年7月6日木曜日

事業継承対策で銀行からのお勧めに注意

会計士協会による税金の研修を受けてきました。講師の税理士さんから教えてもらったことです。

中小企業の事業継承対策に対して、銀行がお勧めするのはホールディングカンパニーの設立。これは、高齢の社長が息子に事業継承する際に、社長の会社を子会社にするホールディングカンパニーを息子が設立し、ホールディングカンパニーが銀行から借入をして、その資金で、会社の株式を購入し、子会社化するということを勧めるそうです。

そうすると、社長が保有する会社の株式をホールディングカンパニーが買い取ることから、社長に多額の資金が入ります。社長は嬉しい。社長は第三者ではなく、息子が株主のホーディングカンパニーに売るわけですから、しっかり事業継承ができるというわけです。

銀行としては、多額の資金をホールディングカンパニーに貸し付けができてハッピィーということになります。当然ですが、この前提条件は、しっかり儲かっており与信がある会社ということになります。赤字会社だと、銀行貸し付けの対象にはなりません。

このような提案書(30ページぐらい)を銀行はテンプレートとして作成しており、会社名や社長の名前を変えるだけで提出できるようにしているそうです。最初の28ページは、色々な制度の説明で、最後の2ページがこのようなスキームの提案になっているそうです。

このスキームの問題点は、社長の株式を買い取った時点で、社長に多額の所得税がかかることです。また、社長の会社 はそもそも儲かっている会社ですので、現金預金もあるはずです。その金をホールディングカンパニーに貸し付ければ、銀行借り入れは不要(または減額できる)になります。ホールディングカンパニーは、社長の会社から毎年配当をもらって、その資金で借り入れ返済ができます。

銀行は、大手税理士法人からアドバイスを受けて、自社の営業上有利になるようなスキームを考えているそうです(その税理士さんは、税理士法人から銀行に出向していた経験があると言っていました)。税理士法人がチェックしていることから、税法上は何の問題もないのですが、本当に社長の事業継承に役立つのか、ということは十分検討が必要です。

2017年7月3日月曜日

取締役以外から社長を選任できる社内規程を作っておく必要性

今日(2017年7月2日)の日経新聞に次のような記事が掲載されました。

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6月22日、京都市内で開いたオムロンの株主総会。同社は「取締役会は、執行役員の中から社長を選ぶ」などとする定款変更議案を提出し、承認された。従来は取締役社長などを選ぶとしていた。監督と執行の機能分離を進めるとして、取締役会議長を務める会長を除いて専務など「役付き取締役」も廃止する。
 オムロン取締役室長の北川尚執行役員は「代表取締役と社長の分離を長く続ける考えはなく、人材の登用を柔軟にする狙いがある」と語る。「経営の長期ビジョンを掲げて実現していく社長の就任期間は相当長くなると考えており、少数の業務執行取締役から後継者を選ぶのは難しくなった」
 今年6月の株主総会では住友商事、豊田通商、三菱自動車なども似た趣旨の定款変更を提案し、承認された。過去にも日本航空やコマツ、三井化学などが定款を変更している。
 こうした対応の必要性が認識されたのは、2015年4月1日に三井物産の安永竜夫氏が執行役員から32人抜きで社長に就いたのがきっかけとされる。同社は14年6月の株主総会で執行役員の規定を定款に明記し、その中から社長を選べるように変更していた。
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取締役でない社員を社長に選任するというのは、外部から社長を登用する場合も同じです。この記事の後の方にも書かれていますが、指名委員会等設置会社(委員会設置会社)については、取締役会はガバナンスに専念し、業務執行は執行役が行うという体制ですので、取締役会が代表執行役社長を選任することができます。
一般には、代表執行役は取締役であることが普通です(そうしないと業務執行の情報が取締役会に上手く反映できない)。そのため、代表執行役で取締役でないという状況を長く続けることは望ましくありません。
同じように、監査役設置会社や監査等委員会設置会社では、執行役員や外部から社長を選任してても代表取締役でないという状況を長く続けることはよろしくないと思います。
この場合は、取締役ではない「代表執行役員」ということになると思いますが、執行役員は任意の役職(要するに部長とか事業部長とかいうのと同じ社内の呼称)なので、法的な権限はありません。取締役でない代表執行役より、曖昧な立場ということになります。
オムロンや三井物産など上記のように規定を変更した会社は、選任時に取締役でない人を選任できないという状態を避け、取締役以外からでも選任できるようにしようという意図であると考えられます。
社長の選任は、社長が後継者を指名するというのが日本企業の一番多いパターンですが、それでは、現職社長の息のかかった人が、現職の路線で経営するということになり、「攻めのガバナンス」の観点から望ましくありません。
また、カネボウ、オリンパス、東芝などの巨額粉飾の事例を見ると、社長から次の社長に粉飾が引き継がれており、この負の連鎖から逃れることができなくなっていました。
そういう意味で、取締役以外から社長を選任しようという心意気の会社が増えてくることは、ガバナンスの観点では非常に良いことだと思います。規定を変えたから、取締役以外から社長が選任されるようになるのかどうかは別ですが、少なくとも規定を変えておくことは良いことだと思います。