三菱UFJ信託銀行は、三菱自動車の取締役選任議案の一部に反対投票をしたそうです。信託銀行は株主総会議案への賛否を公開することにしました。その中で、三菱自動車の取締役として、三菱重工社長の宮永俊一氏と三菱商事会長の小林健氏を選任する議案に対して、三菱UFJ信託銀行が反対したそうです。
同じ三菱グループのことですので、グループの会社の社長や会長に取締役になっておいてもらった方がよいのではないか、とも考えられます。そもそも三菱グループの信託銀行が三菱自動車の議案に反対するというのはなぜだろう、と思う人も多いかもしれません。
三菱UFJ信託は、三菱自動車の証券代行業務(株主名簿を維持したり、総会小通通知を送ったり、株主に配当を払ったりする業務)も行なっているはずです。要するに三菱自動車は三菱UFJ信託銀行のお客様でもあります。そのお客様の取締役に三菱グループの人たちがなるのに反対した、ということです。なんだかヘンです。
信託銀行は、投資信託や企業年金の投資先の株式を受託者として保管管理しています。その結果、信託銀行は投資信託や企業年金への出資者(拠出者)に代わってその株式の議決権の行使を行うことになります。その際に出資先の会社のパフォーマンスが最大になるような議決権の行使をすることが求められます。それがお金をお預けている受益者(投資信託保有者や企業年金拠出者)の利益になるからです。このような信託銀行の責任を受託者責任(フィデューシアリー・デューティ、Fiduciary Duty)といいます。受益者の利益を守る責任を負っているということです。受託者責任はスチュワードシップコードの基本となる考え方です。
上記の三菱UFJ信託銀行の取締役選任への反対投票は、受託者責任の観点から、受益者のために一番良い投票行動を選んだ結果だったのです。
三菱重工と三菱商事は、三菱自動車の重要な取引先と考えられます。取引先を代表するような人(三菱商事の小林会長は代表取締役ではないですが)が取締役になると、そろぞれの出身会社の利益になるような経営意思決定をする可能性があります。その決定は、必ずしも三菱自動車の利益にならない可能性があります。
これが、取引先を代表する人を取締役に入れるべきではない根拠です。しかし、三菱自動車の場合は、経営危機に陥った時、三菱商事を筆頭にブループ会社が助けてくれた経緯があります。三菱自動車を買ってくれるのも三菱グループの会社だろうと思います。そういう点から、この三菱グループ会社からの取締役選任に反対した議決権行使がそれで良かったのかちょっと腑に落ちない感じもします。しかし、時代はここまできたということも言えると思います。
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