公認会計士の主な業務は外部監査だと考えられていると思います。コンサルティングを行う公認会計士もいますが、どちらも企業外部の立場での仕事になります。一方、公認会計士が会社の社員や役員になることもあります。最近これが増えてきていると思います。筆者も、社外役員をしていますので、外部監査だけでなく、会社側の立場としての仕事もしています。
最近、公認会計士協会の倫理規則が改訂され、会社の役員や社員としての公認会計士を対象にした具体的な倫理規則になりました。これまでの倫理規則は、どちらかというと外部監査業務に焦点が当たっており、カバーされていない訳ではありませんが、企業内会計士を念頭においた規則にはなっていませんでした。
日本公認会計士協会は、国際会計士連盟の倫理規程の改訂に伴い、日本の公認会計士に適用される倫理規則を改訂し、企業内会計士について、具体的な倫理規則を定めました。
それによると、「誤った意図をもって情報を作成・提供・省略してはならない」とされています。また、他社からのプレッシャーによって、基本原則違反を生じてはならない、他社に基本原則違反となるプレッシャーを与えてはならないことが明記されています。この「情報」には外部公表情報だけでなく、内部情報も含まれます。
CFO,経理部長、経理課長などが公認会計士であることがあります。これらの人達は、粉飾決算に加担すると、会社法違反や金商法違反に問われる可能性があります。それに加えて、公認会計士協会の倫理規則に違反することにもなるという訳です。
実は、日本の会社法や金商法では、欧米各国に比べて刑事罰が厳しくないそうです。もともと、明治時代からの殖産興業を背景として、企業に不正行為があったときに、取締役などの経営者に対する刑罰を弱めに設定したという歴史があるようです。米国では禁固刑や多額の罰金が科せられますし、英国では取締役資格をはく奪するという案がでているそうです。
ちょっと古い話ですが、金融危機のときの長期信用銀行の粉飾決算では、裁判にはなりましたが経営者の責任が問われることはありませんでした。最近では、東電の元社長などが、津波対策の不備などで裁判になりましたが、無罪判決が出ています。日本の法律では、経営者に刑事責任を負わせることが難しいようです。
粉飾決算では、金融庁が課徴金を課します。東芝がこれまでの最高額で73億円でした。東芝の監査法人には20億円の課徴金が課されています。監査法人の20億円に比較すると、東芝の73億円は非常に小さいということが分かります。課徴金も企業にやさしくなっているようです。
話が、少しそれましたが、企業内会計士は、会計・監査の専門家としての倫理観を持って仕事をすることが求められます。そのため、倫理規則では企業内会計士についての具体的な倫理規則を定めたということになります。
取締役や監査役になっている公認会計士が、粉飾決算に加担した場合、この倫理規則に違反したことになります。公認会計士協会会則には、会則・規則に違反したときには、懲戒処分をすることができる、としています(第67条1項)。
懲戒処分にはどのようなものがあるでしょうか。戒告、会員権停止、退会勧告の3つです(公認会計士にまだなっていない準会員には除名もあります)。公認会計士の登録抹消(資格はく奪)の権限は、金融庁にあり、公認会計士協会にはこれができません。このため、最後の「退会勧告」は、金融庁に対する登録抹消処分の請求とセットで行われます。
ということで、粉飾決算を主導したり加担したりした企業内公認会計士は、今後、公認会計士協会から懲戒処分を受ける可能性があります。(新倫理規則の適用は2020年4月1日から)
なお、上場会社の経営者に対する刑事罰については、今のところ、これを強化するという話はないですが、もう少し厳罰主義の方向に振ってもよいと思います。
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