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2015年8月30日日曜日

水リスクー大不足時代を勝ち抜く企業戦略(2)

筆者は「水リスクー大不足時代を勝ち抜く企業戦略」(日本経済新聞出版社)を上梓しました。この本の「さわり」をご紹介します。

青い地球の水

 地球は「水の惑星」と言われています。人類最初の宇宙飛行士のガガーリンは、「地球は青かった」と語ったとされていますが、これは、地球が海の水で覆われているからです。
 しかし、それらの水のほとんどは塩水です。地球にある水の97.5%が塩水で、淡水は2.5%しかありません。その2.5%の約70%は氷河、雪、氷などで、直接利用可能なものは30%しかありません。要するに、地球の水のうち、飲料、農業、工業などに利用可能な水は1%より少ないということです。

日本では水が豊富

 日本人にとって、「水が足りなくなる」と聞くのは、夏の渇水時ぐらいで、それも毎年起こるわけではありません。米国の1人当たりの水資源は日本の2倍以上ですが、実は降水量が多いことから日本は水が豊富な国です。米国には砂漠地帯もあり地域差が大きいのです。中東や北アフリカには、砂漠が多いことから水が不足しているということは容易に想像できます。

世界では水不足が深刻

 最近の研究では、水不足にある人々は20世紀の始めには世界人口の2%でしたが、1960年には9%になり、2005年には35%にまでなったとのことです。この原因は、人口増加と工業化の進展です。
 地球の人口は2011年に70億人を超え、2050年までには90億人に達すると言われています。日本人にはピンと来ませんが、世界では水不足がどんどん進んでいるのです。

日本が対応しなければならないこと

 日本では世界の水不足というと、「水ビジネス」のチャンスということで、東レなどの海水の真水化のための逆浸透膜技術や、荏原製作所のポンプなどが売れるだろうと考えられています。
 一方、ヴェオリアやスエズといった世界には水メジャーと呼ばれる会社があり(どちらもフランスの会社です)、水プラントの建設だけでなく水事業の管理運営を総合的に行う会社があります。日本企業も、これを見習って複数の企業が協力して海外の水事業を受注するべく努力しています。
 しかし、日本が世界有数の水の輸入国であることを知らない人は多いと思います。ミネラルウォーターを輸入しているという話ではありません。農作物や肉などを輸入するということは、それらを育てるための水を輸入しているのと同じだということです。
 1kgの米を作るのに水が3,700リットル、鶏肉では3,200リットル、牛肉に至っては20,600リットルもの水が必要と言われています。
 工業製品の製造にも水が使われます。例えば、半導体の製造には大量の水が必要です。話題のシェールガスの採掘には大量の水が必要です。
 もし輸入国でこれらを一から作ったら、どれだけの水が必要かを推計した「バーチャルウォーター」という考え方があります。バーチャルウォーターを考慮すると、日本は水の輸入大国なのです。

水のサプライチェーンを考える

 国内には水が豊富ですが、実はそれ以上に海外から水を大量に輸入しているのが、日本の現状です。日本が輸入しているのは、水が不足する国や地域だとしたらどうでしょうか?その国や地域の人たちが使うはずの水を日本が取り上げているということになります。
 企業が農作物や部品などの工業製品を輸入するときに、生産地には水不足の問題がないか、ということを十分に考慮することが必要です。
 また、日本企業が海外に進出する際には、工場などで使用する水が得られるかを検討すると思います。それだけでなく、その地域で水を使うことにより、どれだけ地域に影響を与えるかを検討することが必要となります。実際上、有名な飲料会社が大量の水を使ったことから水不足が深刻化し、大きな社会問題になった事例があります。
 サプライチェーンには川上だけでなく、川下もあります。これは自社製品が使用されるときの水の使用です。節水トイレに注力するTOTOは、川下のサプライチェーンに配慮しているということが言えます。

水が国の経済も左右する

 中国の1人当たりの水資源は日本の約半分です。実は中国は水が不足する国なのです。今後工業化が進み、都市人口が増えると水不足がますます深刻化します。
 中国では、急激な人口増加に対応するために、南の揚子江の水を北京や天津に引く国家プロジェクト「南水北調」を進めています。人口が急増する国においては、水対策が欠かせません。水が不足すると工業化の進展もストップすることになります。
 前述のとおり、シェールガスの採掘には大量の水を使います。シェールガスの埋蔵量は米国が世界2位で、1位は実は中国です。中国にはまだ採掘技術がないかもしれませんが、たとえそれがあったとしても、採掘地域で大量の水を確保できないと、採掘することができません。

 水が豊富な日本は、この点幸せであるだけでなく、見方によっては資源大国であるとも言えるのです。

2015年8月19日水曜日

日本取締役協会、利益連動報酬へ税制改正を要望 

日本取締役協会は、下記の要望をした。

日本取締役協会、利益連動報酬へ税制改正を要望 
 上場企業の経営者などが加入する日本取締役協会(宮内義彦会長)は17日、企業が経営者への株式報酬や利益連動報酬の制度を導入しやすくなるよう政府に税制改正などを求める要望書を公表した。役員の働きに報いる報酬制度が普及すれば「株価上昇を通じて日本経済の再興の一助になる」としている。
 2015年度中に株式報酬と利益連動給与に関する税制を改正するよう要望した。(日経2015/8/18)

具体的には、次の4点になる。
要望1:制限付株式(譲渡制限のついた株式の付与)やパフォーマンスシェア(事前に定めた業績目標を達成した場合に株式を付与)などの長期インセンティブ報酬を活用するための制度整備を進めるべきである。==>ストックオプションではなく、現物株式を使ったインセンティブを活用できる制度を作れということ。

要望2:業績連動報酬の法人税法城お損金算入の改正==>これについては、下記のような記事がすでに出ている。役員賞与と区別がつきにくくなるので、役員賞与も損金算入できるようになるか?
政府は企業の役員報酬への税制優遇を広げる検討に入った。法人税の負担を軽くできるのは固定給や利益に連動した報酬に限られているが、自己資本利益率(ROE)などに連動した報酬も対象とする方向。役員の働きに報いる報酬の選択肢を広げ、利益や資本効率の向上を後押しする。日本企業が株主を重視した経営にかじを切る中、税制も転換する。(日経2015年8月7日)

要望3:事業報告(会社法)、有価証券報告書(金商法)、コーポレートガバナンス報告書(東証規則)における報酬情報の統合的開示を促進すべき。==>法務省(会社法)、金融庁(金商法)、東証の協力が必要。監査役会設置の有価証券報告書提出会社(上場会社等)は、社外取締役1名以上置かないときは、置かないことを相当とする理由を事業報告に記載し、株主総会で報告、という規定が会社法に入った。法務省所管の会社法が、金融庁所管の金商法を参照するとは思わなかったが、それができたので、この要望のように今後、役員報酬の開示内容を統一することも役所の協力次第でできるはず。

要望4:報酬ガバナンスの進展を図るべく、1報酬方針の策定・開示の義務づけ、2報酬決定プロセスの整備・開示の義務づけ、3経営トップ等の報酬の個別開示の義務づけ、4報酬の種類別開示の改善を図ると同時に、5いわゆるセイオンペイ(株主総会での役員報酬の勧告決議、決議に強制力はない)の導入を検討すべき。==>これについては、経団連の反対があるでしょう。日本では高額の役員報酬は稀なので、ここまでは必要ないと言われる可能性大。ただ、要望1、2は役員報酬の増額を前提としているので、その歯止めとしてこうゆうことも必要と思われる。

戸田建設に制裁課税 使途秘匿、裏金5500万円

依然として、こうゆうものがあるんですね。戸田建設のサイトにはこれに関してニュースリリースはありません。同社から発表がないのに、新聞に載るのは、たぶん国税当局から意図的にリークされた情報なのだと思います。
同社は、これに関して株主や投資家にどのように説明するのでしょうか?


戸田建設に制裁課税 使途秘匿、裏金5500万円 東京国税局

2015/8/4付
[有料会員限定]
 戸田建設が東京国税局の税務調査を受け、2013年3月期に支出した約5500万円について、支出先を明らかにしない「使途秘匿金」として税務申告していたことが3日分かった。使途秘匿金は通常の法人税に加え、支出額の40%を制裁課税されることになっており、今回の制裁課税額は約2200万円。
 関係者によると、同社は大阪府内の民間病院の建設に絡み、下請け業者に工事代金を水増しして支払うことを約束し、約5500万円の裏金を捻出。地元対策費やあっせん手数料などに充てたとみられる。一部は地元議員に渡った可能性があるという。
 同社は支出先を明らかにせず、使途秘匿金として支出額の40%を課税された。戸田建設広報・CSR部は「税務調査を受けたのは事実だが、内容の公表は差し控える」としている。

2015年8月16日日曜日

東芝の教訓(4)ー内部監査責任者は人事ローテーションから外せ

内部監査を実施することにより、グループ会社を含む会社全体的な観点でのモノの見方や経験が身につく。グループ会社各社の課題の識別やその解決策の立案を行う経験は、将来経営幹部になるために非常に有用である。また、組織横断的に部門責任者に会って話を聞くことができ、また部門責任者に覚えてもらうこともできることから、本人のキャリアアップのプラスになる。
こう言う観点から、優秀な若手に一定年数の間、内部監査を経験させるような人事ローテーションは、人材開発上有用である。
第三者報告書によれば、東芝では「各カンパニーから将来事業部長になるためのキャリアパス的な位置づけで経営監査部に人を配置するというロー テーションが組まれていた。(全文p283)」となっている。前述の観点からは、人材育成上優れたやり方と考えられる。
内部監査部門の若手部員が、そのようなローテーションによる人事であっても、内部監査部長以下の内部監査の幹部が、各部門からの影響を受ける人でなければ、有効に内部監査は機能する。
しかし、内部監査部長や幹部は、人事ローテーションから外すか、外部から採用する必要がある。要するに、監査のプロが内部監査を主導することにより、レベルの高い内部監査の実施が可能になる。
このような観点かどうかは分からないが、内部監査部長を社内キャリアの最終ポジションとする会社も多い。ご本人の能力に依存する点はあるとは思うが、一般に、若いうちから監査実務を経験していないと、品質の高い監査ができる人材を育てることは困難と考えられる。
欧米のように、内部監査のプロが内部監査の責任者になるべきである。

2015年8月14日金曜日

水リスクー大不足時代を勝ち抜く企業戦略(1)

表記の本を出版しました。表紙では私は監修になっていますが、全体の3分の1ぐらいは執筆し、その他の執筆者の原稿にも手を入れております。そういうこともあり、最後の編者。監修者・執筆者の紹介ページでは、私は「監修・執筆」としてあります。


日本ではまだまだ知られていない世界の水不足に対して、日本企業がどのように対応すべきかを書いた本です。できるかぎり易しく、わかりやすく書きました。水ビジネスの本は多く出版されていますが、水を使う企業の立場からどのような企業戦略を取るべきかについて書いた本は少ないと思います。

本書の「まえがき」は次のとおりです。

「水ほど役に立つものはないが、水ではほとんど何も買うことができず、水との交換で手に入れられるものはほとんどない。」経済学の父と言われるアダム・スミスがその著書の「国富論」において、このように書いています。これは、どこでも簡単に得られる水と、希少価値があるダイヤモンドを比較した記述です。

 アダム・スミスの出身地はイギリスのスコットランドです。そこはヨーロッパで最も雨の多い場所と言われる地方です。もし、アダム・スミスが中東の出身だとしたら、モノの価値を説明するのに水とダイヤモンドではなく、砂漠の砂とダイヤモンドを比較したかもしれません。

 いずれにしても、もともと水が少ない地域を除くと、アダム・スミスの時代の水はそれほど希少性がなかったと考えられます。実は、日本も雨が多いことから、水不足の苦労をあまりしてこなかった国の一つです。しかし、今や世界人口の増加や新興国の工業化により、世界的な水危機と言われる状況になっているのはご存知でしょうか。
 
 水源となる河川や地下水は、国をまたがって流れ、水が水蒸気になり、遠く離れた場所に雨となって降ります。このため、水問題は一国が解決できる問題ではありません。国や企業が自分勝手な行動をやめ、一致協力して目標を定めて動く必要があります。

 この点で水問題は、CO2を始めとする温室効果ガスによる地球温暖化と似た面があります。しかし、水問題には地球温暖化とは違った側面も多くあります。まず、水は生命を支えるものであるため、生活に必要な水を確保することは人権に関わる問題です。また、地球温暖化は地球全体で起こっていますが、水に関しては、水不足の国もあれば、今後何十年も水問題とは無縁の国もあります。大陸の国では、一つの川が何カ国にもまたがって流れていることから、上流の国での水質汚染やダム建設が、下流の国に影響を与えるといった地域独自の問題も発生します。
 
 食料を輸入すると言うことは、輸出国で使った水を輸入していることになります。輸出国では、自国民が使えるはずの水を、輸出する農産物生産のために使ったことになるからです。日本の食料は輸入に頼っています。このため我々日本人は、知らないうちに海外の水不足を助長しているということも多いに考えられます。
 
 公害問題で深刻な状況を経験した日本では、工場排水の処理をしっかりすることは、常識となっています。最近は水質対策だけでなく水使用量の削減に取り組んでいる企業も徐々に増えてきました。しかし、海外の工場はどうでしょうか?

 新興国の場合、国による環境規制が不十分であることも多いと思います。各国の規制を遵守するだけでよいとは言えません。そもそも工場で水を使用することは、中長期的にはその地域の水を奪っていることになっているのかもしれません。

 工業製品の場合、サプライチェーンの川上と川下のすべてでこのような配慮が必要です。川上のサプライヤーによる水使用や、川下の顧客が自社製品を使用するときの水使用のことまで考えてきた企業は多くないと思います。自社のことだけ考えているのでは、十分とは言えません。サプライヤーや顧客は日本にいるとは限らないということも忘れてはなりません。
 
 企業は、その事業をグローバル化しないと生き残れない時代になりました。以上のようなことが分かってくると、水不足に無縁であった日本企業も、世界の水問題を避けて通れないことが理解できるはずです。
 
 本書では、企業がグローバル環境で戦うにあたり、「水リスク」をどのように考え、それを企業戦略にどのように取り入れるべきかを検討したいと思います。米国と日本の先進企業の事例もご紹介します。
 「水戦略」の立案は水リスクの評価から始めます。リスクは、チャンス(機会)の裏返しです。水リスクの評価は、水をビジネスに活かすチャンスの評価でもあります。

2015年8月12日水曜日

東芝の有価証券報告書等虚偽記載に対する課徴金は300億円を超える

ブルームバーグの記事によれば、下記の通り東芝は、2009年から約1兆円の資金調達をしている。虚偽記載を行っていた事業年度において資金調達があると課徴金は大きくなる。
資金調達があった場合の課徴金の算式は、株券等の場合は、
調達額X4.5/100、それ以外の募集・売出しの場合は、調達額X2.25/100

よって、株券等3300億円X4.5% + 社債等6400億円X2.25% = 292.5億円となる。

これは、資金調達の際の目論見書の基になった有価証券「届出書」の虚偽記載に課される課徴金である。これに毎年提出する有価証券報告書の虚偽記載に課される課徴金が加算される。これは普通あまり大きな金額にはならない。合計は300億円を超えることになる。

過去にはIHIが約16億円の課徴金を課せられたれた例がある。東芝への課徴金はこれを軽く超え、ダントツの最高額となる。(もし、全額が株式による増資であれば、450億円以上になっていた)


なお、有価証券届出書は、資金調達の際に投資家が見る目論見書の基になる書類であり、有価証券報告書は投資家が株式や社債を売り買いするときに見る書類である。課徴金の計算は別々に行い、その合計額ということになっている。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NRTRMI6JIJV101.html

「ブルームバーグの集計によれば、東芝は2009年5月に3330億円の公募増資を実施し、国内外の機関投資家や個人に新株式の発行や株式の売り出しなどエクイティファイナンスを行ったほか、09年5月から1312月の間に計6400億円の普通社債や劣後債などの有価証券を発行した。」

2015年8月7日金曜日

取締役役会で機関設計を議論しているか

当社にとってどんな機関設計が良いのか?(監査役設置、監査等委員会設置、指名委員会等設置のいずれか)、あるべき取締役会の運営は?、過去1年間の実績は?について、取締役会で議論されているのだろうか。

取締役会によるコーポレートガバナンスは、最終的には形ではなく運営の仕方や取締役個人の資質に依存することは、論を待たない。しかし、属人的な人に依存した取締役会では、(ガバナンスに関して)優秀な経営者でなければ、良いガバナンスができないということになる。

取締役会のPDCAを回すことにより、属人的な運営から脱却でき、一定レベル以上の取締役会運営ができる。

取締役会をどのような形で、どのように運営すべきかについては、立派な取締役会の議題だ。また、別稿に述べた取締役会の自己評価の結果を受け、運営や体制について議論することも必要である。

そこで、是非、取締役会規程の「決議事項」に「当社の機関設計と取締役会の運営方針」を入れ、「報告事項」に「取締役会、監査役会の評価結果」を入れて欲しい。

なお、下記のような付議事項を定めている会社があるが、これは内部統制システム構築の基本方針であり、それはPだけであり、DCAがない。そもそも肝心のその前段階の機関設計をどうすべきかを議論して決定することを前提としていない。大会社+公開会社の場合、これは法定決議事項であり、取締役会規程に書くまでもない。(念のために法定決議事項を書いておきたい場合はその限りでない)

  1. 取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制、その他会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備 


2015年8月6日木曜日

日本企業の最適資本構成の理論とは?

いい話がありました。
富士フィルムとコダックについては、ハーバードのケーススタディにもなっているらしく、よく使われる比較ですが、こうゆう観点もあるということを再認識しました。

最近は、安全運転過ぎてキャッシュリッチで、ROEが低い日本企業が責められることが多いですが、コダックのように最適資本構成を求めたり、株主還元をしっかりすることが、長期的に見た場合、企業にとって良い事とは言えないということになります。

ちなみに、コダックはSOX初年度(2004年12月期)から内部統制の「重要な欠陥」を報告していました。(米国では期末までに重要な欠陥が解消されないときは、期中にその旨を公表しなければならないことになっていますが、コダックは、早々にこれを公表していました)

伊藤友則一橋大学教授の「経済教室」日経2015/8/4より、
 最適資本構成の理論を現実の企業経営に適用するうえで注意を要する点がある。かつて写真用フィルム市場を二分した富士フイルムホールディングスと米イーストマン・コダックの事例を紹介する。

 アナログフィルムの世界市場がピークを迎えた2000年の両社の世界市場シェアは37~38%でほぼ拮抗していた。しかしデジタル革命の結果、それから10年ほどでアナログフィルムの市場はほぼ消滅した。富士フイルムは現在でも健在なのに対して、コダックは12年に破綻している。

 その明暗を分けた要因の一つが資本構成の問題だ。富士フイルムは00年末に自己資本比率が70%に達し、約8千億円の現金を保有するなど、極めて「非効率な」資本構成を維持していた。一方のコダックは自己資本比率24%、負債比率(D/E)が1倍という「優等生的な」資本構成だった。コダックは自社株買いの原資として多額の社債を発行しており、意図的にレバレッジを上げ、「最適資本構成」を追求することにより株価を最大化しようとしていた。

 富士フイルムは利益の3分の2を稼いでいたアナログフィルム事業に代わる事業として、印刷・コピー機、液晶フィルム、医薬品、医療機器などの多角化事業を育てて危機を脱した。00年からの12年間に研究開発に2兆円、設備投資に1兆7千億円、M&A(合併・買収)に7千億円もの多額の資金を投入している。経営陣のリーダーシップも生き残った要因だが、余裕のある資本構成と強固な財務体力も重要な役割を果たした。

 コダックは医薬品、化学、コピー機、精密機器などの事業を売却してフィルム専業になったことや、短期志向の経営陣などの要因に加え、余裕のない資本構成と激動を乗り切るには弱すぎる財務体力が災いした。主力製品の消滅まで10年という時期に、レバレッジを上げて「最適資本構成」を追求すべきではなかった。