拙著「東芝事件総決算」では、日本取引所自主規制法人の佐藤理事長の文藝春秋2017年12月号における発言についての意見を述べています。「監査法人の意見を無条件で絶対視するのは資本市場のあり方として危険」という理事長の発言には、いろいろな方から厳しい反応を受けました。
佐藤理事長は、一方で、東芝に限定付き適正意見を提出した監査法人が自ら説明すべきであるとして「契約の相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、もっと説明することは可能ではないでしょうか」と述べています。この点は筆者も賛成であることを拙著に書きました。これが実現しそうです。
「金融庁は、監査法人が企業の決算書類に「お墨付き」を与えなかった場合、その理由を株主らに詳しく説明するよう求める方針だ。何が問題となり決算の正当性を保証できないのか対外的な情報発信を促す。投資家が疑心暗鬼に陥らず、問題の軽重を判断できるようにする狙い。情報発信しやすいように監査法人の守秘義務を解除する仕組みも検討する。」(日経新聞2018年6月13日)
まさに、昨年の東芝のように限定付き適正意見を提出した監査法人が、投資家に向かって直接説明することを、監査法人の監督官庁である金融庁が検討するというのです。元金融庁長官の佐藤理事長の発言を金融庁が忖度して、このような検討を始めることにしたのでしょうか。それとも、金融庁の動きを佐藤理事長が知っていて、それを自分の意見として話したのでしょうか。いずれにしても、金融庁と取引所の「同期」がとれていることは確かです。
拙著に書いたように、監査法人は守秘義務を盾にして、積極的に表に出ることを避けてきたように思います。この守秘義務解除の仕組みができれば、直接、監査法人から説明を受けることができるようになります。ただし、仕組みができても利用されないのでは問題です。利用を促進するような指針の立案を期待します。
ただし、東芝の限定付き適正意見については、会社側が「見解の相違」としている以上、監査法人がいくら説明しても、投資家は納得できないかもしれません。監査法人が説明したら、必ずしも問題が解決できる訳ではないことに留意が必要です。
拙著にあるように、東芝の限定付き適正意見は、「審判が三振を宣言しているのに、バッターがそのままバッターボックスに立っている」状態を金融庁が放置したというのが、筆者の見立てです。
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