架空の話ではありますが、東芝が2016年3月期以前の財務諸表を訂正するとなった場合にどんなことになるかについて、検討してみました。
1 原子力関連の損失の計上時期
東芝の場合、2016年3月期の監査は新日本有限責任監査法人が実施しました。2016年6月開催の株主総会で、PwCあらた有限責任監査法人(2015年にあらた監査法人からPwCあらた監査法人へ、2016年にPwCあらた有限責任監査法人に名称変更されています)が選任されました。
新聞報道によると、原子力関連の損失は、2016年3月期以前から発生していたのではないかという点で、PwCあらたと会社の見解が一致していないとのことです。
東芝の子会社であるウェスティングハウス(WH)の経営陣が米原発事業で発生した巨額損失を抑えようと、従業員に「不適切なプレッシャー」を加えたことが発覚しました。このため第3四半期の決算発表が延期されることになったと報道されています。
さらに、新聞報道によると、原子力関連の損失は、当期(2017年3月期)に全部負担させるのではなく、前期以前にも負担させるべきではないかということについて、会社と監査法人の意見が合わないということも、今回の監査法人による「結果不表明」の一因ではないか、とされています。
2 仮に過年度訂正を行った場合どうなるか
架空の話ではありますが、仮に2016年3月期以前に計上しなければならなかった損失があることから、2016年3月期以前の決算を訂正する、すなわち東芝が有価証券報告書の過年度訂正を行うとしたらどうなるか、ということを考えてみましょう。
有価証券報告書に含まれる財務諸表(連結財務諸表と東芝単体の財務諸表)には、監査法人による監査が実施されます。冒頭に述べたように、2016年3月期以前の監査は新日本、2017年3月期はPwCあらたです。
言うまでもなく、新日本は2016年以前の財務諸表には適正意見を出しています。ご存知の通り、東芝は巨額粉飾事件を受けて有価証券報告書の過年度訂正を行なっています。訂正後の監査は、訂正前と同じ新日本が実施し、どちらも適正意見を出しています。訂正前の誤った財務諸表に適正意見を提出した新日本は、過去最大の21億円の課徴金が金融庁により課されています。
上記の仮定は、2016年3月期以前に計上すべき損失が、今頃になって分かり、2016年3月期以前の財務諸表を訂正することになった場合、ということです。ということは、新日本が適正とした2016年3月期以前の財務諸表の訂正を東芝は迫られている、ということになります。
そうなると、現任監査法人であるPwCあらただけの問題ではなくなります。2016年3月期以前の財務諸表の監査をPwCあらたが実施したらどうか、と考える読者もおられるかもしれません。しかし、過去に遡って過年度の財務諸表の監査を実施することは、ほとんどの場合できません。在庫の棚卸など、その時点でしか実施できない監査手続があるためです。その監査手続は新日本が実施しています。
ということは、このような場合、唯一の手段は、会社が2016年3月期以前の財務諸表を訂正し、新日本がそれを監査するということになります。訂正後の期首残高を受けて、PwCあらたが2017年3月期の監査を実施するということになります。
この仮定によれば、新日本はここでまた訂正後の財務諸表に適正意見を出すことになってします。以前の課徴金の対象には原子力に関わる監査の問題は含まれていませんでしたので、再度課徴金が課されるようなことになりかねません。(金融庁のルール上、論点が異なれば、同じ年度を対象として再度課徴金を課すことができるそうです。)当然、この場合、東芝も処分されることになるでしょう。
PwCあらたも、第1四半期と第2四半期の四半期レビューでは「適正に表示していないと信じさせる事項は認められなかった。」という結果を提出しています(新聞報道では、「適正意見」となっています)ので、それを訂正する必要が出てくる可能性があります。
3 上場廃止によって、表面化を避けられるか
仮に、東芝が上場廃止になったら、これらを表面化させずに済むでしょうか。上場廃止になっても有価証券報告書は継続的に提出することが必要であり、財務諸表には監査が求められますので、事情は同じです。
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