1 ICOとは?
IPO = Initial Public
Offering (最初の公開募集)は、新規上場の時に新株発行をして出資する人を募集するということであり、証券取引所への新規上場を意味します。
一方、仮想通貨の世界では、ICO = Initial Coin Offeringが話題になっています。これはベンチャー企業などによる資金調達方法の一つになりつつあります。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を企業に払い込めば、その見返りに「トークン」と呼ばれるものが発行されます。
出資を受けた企業(またはプロジェクト)は、受け取った仮想通貨を円やドルに両替して、事業活動に投資します。トークンを受け取った人(出資者)は、トークンの値上がりを待って、時期が来たらトークンを売却するという流れになります。
ICOのIはInitialですが、最初であるかどうかは関係なく仮想通貨での資金調達がICOと呼ばれているようです。すなわち、2度目でも3度目でもICOと呼ばれます。
2 ICOトップ10
仮想通貨サテライトという情報メディアによると、2018年4月現在では、Telegram
ICOが17億ドル(1,890億円)で断トツのトップになっています。
(仮想通貨サテライト2018年4月10日)
日本では、COMSAという会社が昨年10月から11月にICOを実施し109億円調達したそうです。上記のランキングでは15位に入っています。このように、ICOによって、IPOを大きく超える資金調達をする会社が出てきています。
ICOはインターネットで募集されることから、国境を越えた資金調達が簡単にできるという点も、IPOとの大きな違いになります。
2トークンも仮想通貨
ここまでは、話を分かりやすくするために、仮想通貨とトークンを分けて説明しました。しかし、トークンも実は仮想通貨の一種なのです。トークンは、仮想通貨取引所での売買の対象となる仮想通貨です。
トークン保有者は、そのトークンが仮想通貨取引所で取り扱われる(上場される)ことを前提としてトークンを買います。取引所で売れないようなトークンの値上がりは期待できないからです。
3 トークンは「上場」される
出資者たちは、トークンが値上がりしたら売却して儲けることを期待として仮想通貨と引き換えにトークンを受け取ります。ということは、そのトークンを売り買いする取引所がないと自由に取引できないということになります。
トークンが取引所で取引されることを仮想通貨の世界では「上場」と呼んでいます。これは株式が証券取引所に「上場」されるのとは大きく異なります。
仮想通貨の取引所は、民間企業が運営する両替所のような会社です。日本で登録されている取引所(仮想通貨交換業者)は16社で、その申請を取り下げた取引所がその他に16ありましたので、合計30社余りと思われます。その数から考えると、世界では恐らく100以上の仮想通貨取引所があるとしてもおかしくないと思います。
株式は証券会社に売買の注文をすることができますが、取引自体は証券取引所で行われます。株式を上場するためには、取引所による厳しい審査に合格する必要があります。
しかし、トークンを上場するかどうかは、民間の仮想通貨取引所が判断することになります。仮想通貨として一定の基準に合致しているかについて審査すると思いますが、どちらかというと、そのトークンを取り扱ったら儲かるかどうかで判断しているのではないかと思います。
いずれにしても、仮想通貨の世界では、数ある取引所の中で、一つでも取り扱いを開始したら「上場した」と呼ばれることになります。
4 ICOにはプロジェクトが背景にある
ICOによって資金調達する企業は、一定の事業を行うためにその資金を使います。仮想通貨の世界では、これをプロジェクトと呼んでいます。
例えば、上記のランキングで1位のTelegramは、LINEのようなチャットアプリを開発する非営利団体のようです。ここは、ICOの資金で新しいブロックチェーンを開発し、VISAやMasterなどと肩を並べる決済プラットフォームをつくる計画です。
6位のfilecoinのプロジェクトは、オンライン(インターネット)上のスト―レッジ(ハードディスク、サーバー)を貸し借りするというプロジェクトです。皆さんのパソコンのハードディスクは全部使っている訳ではなく、余っている領域があるはずです。これを貸し出したらfilecoinがチャリンと入ってくるといったプロジェクトと思われます。
COMSAは、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンのプラットフォームを提供するというプロジェクトです。COMSA上でいろいろな会社がICOできるようにする、などと書かれています。COMSAは、仮想通貨取引所のZaifを持つテックビューロ―株式会社が運営するプロジェクトです。COMSAというのは会社名ではなくプロジェクト名のようです。
筆者が別稿で書いた、ノアコイン(トークンの名称)の場合は、フィリピンの貧困問題を解決するために、ノアシティーとノアリゾートを建設するというのがプロジェクトになります。
仮想通貨は、中央政府に頼らない通貨ですが、ICOの場合は特定のプロジェクトへの出資ということになります。しかし、その実態がどうなっているのかあまり分からない状況のようです。
証券取引所にIPOをしたら有価証券報告書などにより情報開示する必要がありますが、ICOの場合は、そのような義務はありません。
5 ICOで調達した資金は資本金か
株式とトークンは大きく違います。会社法上、株式の所有者は株主として一定の権利が保証されていますが、トークンは民間の仮想通貨市場での取り決めだけしかありません。
株式を発行すると会社の「資本金」となりますが、トークンを発行する会社では、トークンは株式ではないため、調達額を資本金に計上することはできません。それでは、何になるのでしょうか。
トークンは、ゴルフ会員券のように売却できる一種の有価証券という性格があります。バブルの時は、ゴルフ会員券を売って儲けたり、または大損したりした人も多かったと思います。ゴルフ会員権は、ゴルフ場の会社側ではどんな会計処理になっているのでしょうか。
ゴルフ場の会社では、ゴルフ会員権は「長期預り金」になっています(古いゴルフ場は株券を会員に渡すこともありました。その場合は資本金)。
トークンは、ゴルフ会員権に似たところがありますので、長期預り金だという人がいます。ただし、ゴルフ会員権は、会員に返金する前提があるので長期預り金でよいのですが、トークンは返金義務がないという点がゴルフ会員権と異なります。
6 ICOでの資金調達額は収益に計上する
ICOについては、法的な位置づけが明確に定義されていないことから、会計処理基準が公表されていない状況です。しかし、マザーズ上場のメタップスという会社がICOをしました。現在日本では実質上ICOを行うことができません(これについては別稿で検討したいと思います)が、メタップスの場合は、韓国の子会社がICOを実施しました。
メタップスは、日本の上場会社の中で初めて監査法人の監査の対象になった会社です。この会社がどのような会計処理を行うか注目されました。この会社は、8月決算であり、ICOは2017年9月から10月にかけて実施されたことから、第1四半期で会計処理を行うことになりました。
ICOを行ったメタップスの韓国子会社は、事業として仮想通貨取引所を運営している会社であることから、トークンと引き換えに受け取った仮想通貨の価値を収益に計上するという会計処理を行いました。
これについては、別稿で詳しく検討しますが、仮想通貨取引所を運営していない会社によるICOも収益に計上すべきではないかと筆者は考えています。