「ゴーン会長とケリー役員は11年3月期~15年3月期、ゴーン会長の報酬が実際には計約99億9800万円だったのに、計約49億8700万円と虚偽の記載をした有価証券報告書を提出していた疑いが持たれている。」(日経11月20日)と報道されています。
その翌日には次のように報道されました。「ゴーン会長が有価証券報告書に記載していなかった計約50億円の報酬の全容が20日、関係者への取材で分かった。株価に連動した報酬を受け取る権利計約40億円分を付与されながら記載せず、海外子会社から受け取った年1億~1億5千万円程度の報酬も不記載を続けていた。」(日経11月21日)
これによって、日産自動車が有価証券報告書に過少記載した約50億円の内訳は、次の通りであったことが分かります。
開示していた役員報酬 約50億円
業績連動報酬 約40億円 (不開示)
海外子会社からの報酬 約10億円 (不開示)
合計 約100億円 (開示すべきであった役員報酬金額)
上記は、過去5年間になっています。その後の報道では、次のように8年間過少記載していたとしています。
「ゴーン元会長が有価証券報告書に記載せずに受け取った金銭報酬が2018年3月期までの8年間で計約80億円に上る疑いがあることが22日、関係者の話で分かった。同期間で計約132億円と記載された役員の金銭報酬総額も修正が必要となる可能性がある。」(日経11月23日)
2 刑事罰は最終手段
刑事罰は対象者の権利に対する最も強力な制限となりますので、可能な限り限定的に用いられるべきとされています(刑罰の謙抑性)。具体的には、開示書類の記載内容について、原則として「重要な事項の虚偽記載」がある場合に限定しています。また過失による場合は処罰されません。
役員報酬の過少記載が50億円だったのか80億円だったのかは別にしても、検察当局はこれを「重要な事項の虚偽記載」と判断したということになると思います。
3 課徴金の試算額
刑事罰の可能性があるということですから、日産自動車は課徴金を免れることができません(課徴金が課される場合も「重要な事項の虚偽記載」となっています)。課徴金は行政処分の一つで、行政当局(この場合は金融庁)の裁量で課されます。課徴金は会社に課され、役員等に課されるものではありません。課徴金は司法取引の対象にはならないと思います。
ということで、課徴金を計算すると次のようになります。
日産の時価総額 約4兆円 X 6/100,000 = 2.4億円
過去5年間の社債発行額 2450億円 X 2.25%
= 55億円
となり、筆者の試算では、合計57億円もの課徴金となります。
課徴金の時効は審判開始から5年間です。上記の社債発行額のうち2019年4月までに審判開始されれば、2014年4月に発行された1,200億円の社債を含む2,450億円が課徴金の対象になると思います。
これだけではありません。上記の2,450億円の社債は日産本体による社債の発行であり、子会社の日産フィナンシャルサービスはこの間に4,400億円の社債を発行しています。このほか米国日産販売が1.1兆円のドル建て社債を発行しています。
これだけではありません。上記の2,450億円の社債は日産本体による社債の発行であり、子会社の日産フィナンシャルサービスはこの間に4,400億円の社債を発行しています。このほか米国日産販売が1.1兆円のドル建て社債を発行しています。
ドル建て社債は対象外(有報虚偽記載とは別)としても、日産フィナンシャルサービスによる社債発行額4,400億円を加味すると99億円増加し、合計で156億円になります。
4 金額が小さい有報虚偽記載
しかし、少し気になるのは、50億円や80億円の役員報酬の過少記載で、かつ、恐らく当期純利益への影響はそれより小さい(要するに一部が別の経費として計上されていた)ということであれば、そもそも有価証券報告書の虚偽記載とするまでもないように思います。
課徴金を課す判断基準である「重要な事項の虚偽記載」には該当しないかもしれないということです。
刑罰は最終手段という「刑罰の謙抑性」の観点では、課徴金を課される場合のうち、限られた事案に刑罰が科されるということと理解できます。しかし、この事案の場合、刑罰ありきでまず逮捕となっていますので、これまでとは勝手が違います。
今後の動向を見守りましょう。
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