日産自動車の役員報酬の状況がかなり分かってきました。
検察当局の逮捕容疑:役員報酬の各役員別の決定はゴーン容疑者に一任されていた。未払であるが確定している役員報酬であるので、それを開示すべきであった。本人と関係者がサインした同意文書がある。
ゴーン氏の主張:ケリー容疑者(元代表取締役)に法的に問題ないように処理するよう指示した。ケリー容疑者は金融庁に確認し有報に開示しなかった。同意文書はあるが、役員報酬は確定していない。(金融庁の回答は、確定しているのであれば役員報酬として開示が必要というもの)
筆者のこれまでのブログに記載のとおり、この未記載の役員報酬は、取締役会の目に触れず、経理部門には報告されず、役員報酬としての会計処理もされていません。
注意が必要なのは、私的な投資や私的な費用を会社に支払わせたというのは、この役員報酬の問題とは別だという点です。
上記の情報からは、役員報酬が「確定した」とする検察当局の主張がポイントですが、確定させる権限を取締役会から一任されていたのはゴーン氏ですので、確定しているかどうかを決めるはゴーン氏ということになります。
ゴーン氏が確定していないと主張し、取締役会への報告・有報等への開示・会計処理のすべて行われていないという状況です。このあと検察当局はどのように動くのでしょうか?
2 報酬ガバナンスが問われる
コーポレート・ガバナンスにはいろいろな役割がありますが、そのうち役員報酬を決めるという重要な役割があります。
今回の日産自動車の事件は、この問題に大きな課題を残すことになるでしょう。
役員報酬限度額は、役員による報酬の「お手盛り」(過大支払)を防止する趣旨から、株主総会の承認事項になっています。このため、役員報酬の上限を決めるところまでは株主総会で承認されます。
株主総会では、各役員別の役員報酬額の決定は取締役会に一任すると決議するのが普通であり、その決議は適法とされています。
それでは、取締役会で役員別の報酬額を議論して決めるのかというと、そうなっているでしょうか。日産では日産自動車の場合、これがゴーン氏に一任されていました。取締役会での検討がされていなったようです。有報には次のように記載されてます。
<役員報酬の決定方法>
取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する。
「取締役会議長(ゴーン氏)が・・・・決定する」と明確に記載されています。ケリー容疑者は代表取締役でしたので、ケリー氏と協議して決めるということになります。西川社長も代表取締役ですが、上記の文言は代表取締役の1人と協議すれば決定できると読めます。
3 報酬委員会の役割
取締役会の中に、報酬委員会が設置されている会社では、報酬委員会でこれが検討されるはずです。この報酬委員会には社外取締役が参加するのが普通です(法定の場合は過半数が社外)。
日産自動車は、監査役設置会社ですので、もし報酬委員会の設置をするのであれば任意の報酬委員会になります。
報酬委員会が設置されていても、その役割は会社によっていろいろのようです。会社法上の役員、すなわち取締役と監査役の報酬だけでなく、会社法上は社員(従業員)と同じ扱いの執行役員の報酬も詳細に検討している会社があります。
一方で、各人別の検討は社長に一任し、報酬委員会ではその結果の報告を受ける程度の報酬委員会もあるでしょう。そもそも、報酬委員会のメンバーは取締役ですので、自分の報酬もそこで検討することになります。そこでお手盛りが生じる可能性も否定できません。
社長の報酬について、報酬委員会で議論している会社はどの程度あるでしょうか。報酬委員会に社長が入っていたら、社長の報酬は議論できないのではないでしょうか。
日産自動車事件を契機として、報酬ガバナンスの在り方が議論されることになるでしょう。「お手盛り」を防ぎ、各取締役の働きに応じた報酬を決めるために、今後、報酬委員会の役割や機能について規制強化(コーポレートガバナンス・コードの改訂、会社法の改正、金商法の改正など)がされることになりそうです。
たとえば、厳し目の案としては、次が考えられます。
- 報酬委員会は全員社外取締役で構成すること
- 社外取締役の報酬は、報酬委員会ではなく取締役会で決議すること
- 報酬委員会では役員各人別の業績評価を行い、役員各人別の報酬案を決定すること
- 取締役会では報酬委員会による報酬案を尊重して、役員各人別の報酬額を承認すること
少なくとも、取締役会で各人別役員報酬の承認を行うべきでしょう。日産自動車のように役員報酬(の一部)が取締役会に報告されなかった、ということは避けなければなりません。
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