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2018年12月3日月曜日

農協の貸倒引当金は過大計上されている

法人税法では、貸倒引当金の繰り入れ限度額が決まっています。限度額まで税務上の経費(損金)として認め、それ以上の繰り入れをしても税務上の経費として認められないということになっていました。しかし平成24年から、実は資本金1億円超の会社(上場会社はこれに該当)については、貸倒引当金の繰入額は税務上の経費(損金)としては認められないということになりました。要するに、税務上の貸倒引当金は廃止されています。

今日(2018年12月3日)の日経新聞によると、会計検査院が調べた結果「検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。」ということです。

何のことかというと、本来は資本金1億円以下の中小企業にしか認められていない税務上の貸倒引当金が、銀行保険業については、依然として認められてきたため、このようなことが起こっているということのようです。

銀行・保険業の法定繰入率は、3/1000であり、これは実際の貸倒実績(過去3年平均)と比較して30倍であったということです。法定繰入率の30分の1は0.01%です。これが実態なのに、期末債権残高の0.3%を貸倒引当金として繰り入れても税務上の経費として認められるということです。

日経新聞では、「農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。」としています。会計検査院は、政府機関の検査をする役所であり、民間の銀行・保険業は対象外です。

それでは、メガバンクや大手保険会社も同様の優遇を受けているということでしょうか。これらの銀行・保険会社については、法定繰入限度を採用することができないはずです。その理由は、国税庁が一律に決めた繰入率に基づく会計処理は、適正な会計処理とは認められないからです。

実は、農協が実績率の30倍もの法定繰入率を使用しているというのは、適正な会計処理をしていないという意味なのです。すなわち、農協の貸倒引当金は過大計上されている(その分利益が過少計上)わけです。

この日経新聞の記事のタイトルは「貸倒引当金「特例」過大計上で税収減か」ということで、税収を確保するためには、税制を変えたほうがよい(例えば法定繰入率を下げる)というのが記事の趣旨だと思います。しかし、この記事によって、図らずも農協の会計処理が適正でない、ということが分かってしまったということになります。

ご参考のために、日経の記事を転載しておきます。

貸倒引当金の「特例」過大計上で税収減か 検査院が調査

2018/12/3付
[有料会員限定]

中小企業などの負担を減らすため設けられた貸倒引当金の特例措置を会計検査院が調べた結果、引当金が過大に計上されて法人税の減収につながっている恐れがあることが2日までに分かった。
検査院は引当金の繰入限度額の計算方法として認められる「法定繰入率」が実際の貸し倒れ発生率を大幅に上回り、実態と懸け離れていると指摘。繰入率は1985年度以降見直されておらず、関係省庁に検証を求めた。
貸倒引当金は損失見込み額を費用として計上し、農協などは一定限度額まで損金として繰り入れ課税対象から外すことが認められている。限度額は貸し倒れ発生率か法定繰入率で算出し大半が繰入率を採用している。
検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。
その上で発生率を基にした限度額から法人税の減収額を推計すると、農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。

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