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2014年9月20日土曜日

紛争鉱物SEC最終規則の概要

(2012年10月トーマツ会計情報掲載記事)

はじめに


 リーマンショックを受けて米国で成立したドッド・フランク法(ウォール街改革及び消費者保護に関する法律)第1502条(以下「法律」)において、紛争鉱物(conflict minerals)に関する規定が盛り込まれた。これにより米国上場企業は該当する紛争鉱物を製造等に使用している場合には、紛争鉱物報告書において開示することが求められる。その具体的な運用規則である米国証券取引委員会(以下「SEC」)規則(以下「最終規則」)が去る822日に採択された。

 対象となる鉱物(金属)は、携帯電話、コンピュータ及びゲーム機などに使われる部品に広く使用されている。このためこの規制の直接の対象となる米国上場企業だけでなく、そのサプライヤー企業としての日本のメーカーや鉱物の製錬会社などにも少なからず影響を与える。本稿では、この最終規則の概要を解説する。

1.法律成立の背景

コンゴ民主共和国及びその周辺国においては、武装グループが非人道的な行為を繰り返し、また住民に鉱物を採掘させてそれを資金源としている。したがって、それらの鉱物を購入することは、結果として当該武装グループに資金提供することになる。そのため、企業は人権保護の見地から、このような鉱物を製品に使用することを避けなければならない。これが立法の趣旨である。

2.法律の概要

2.1 法律の要求事項
 法律では、4種類の鉱物とその派生物を紛争鉱物(conflict minerals)と定義し、コンゴ民主共和国及びその周辺国(以下「DRC諸国」)において採掘される紛争鉱物を製品機能または製品製造に必要とする米国上場企業は、紛争鉱物報告書においてその旨等を年次に開示することを求めている。法律では、「DRC紛争非関与」(DRC conflict free)を直接・間接にDRC諸国における武装グループに資金や恩恵を与えている鉱物を含有しない製品と定義し、そうでない製品ついては、その製品についての記述や製錬所などの詳細を同報告書に記載することを求めている。また、同報告書に対しては外部監査(independent private sector audit)を受けることを要求している。
 以上のとおり、法律ではDRC諸国における武装グループの資金源となる紛争鉱物の使用を禁止しているのではなく、それを使用している場合には開示することを求めている。しかし、それを開示することは、米国上場企業にとって望ましい結果とならないと予想されるため、その使用を避ける方向に行動するとみられる。


2.2 紛争鉱物の定義


 4種の鉱物及びその派生物(derivatives)が「紛争鉱物」と定義されている。産出国や武装グループへの資金提供の有無に関わらず、下記の4鉱物とその派生物を紛争鉱物と定義している点に留意しなければならない。

l スズ鉱石(cassiterite
l タンタル鉱石(columbite-tantalite
l タングステン鉱石( wolframite)
l 金鉱石(gold)
世界全体の産出量に比較すると、上記の鉱物のDRC諸国からの産出量の占める割合は小さい。このため、製錬所等において他国産と混合される可能性があり、また前述の映画の例と同様に産出地の偽装が行わることもあり、原産地の追跡調査は容易ではないと考えられる。DRC紛争非関与(DRC conflict free)を判断するためには、産地だけでなく武装グループへの資金提供等の有無を調査することも必要となる。

2.3導入時期
適用時期は最終規則によって定められ、201311日から1231日の暦年から適用されることになった。企業の事業年度とは関係なく、一律に暦年を報告対象期間とすることになっている。報告期限は毎年翌年の531日である。

2.4適用対象会社
法律が適用される企業は、有価証券報告書に相当する10K(米国内会社)及び20F(外国会社)等をSECに提出する米国での上場企業である。このため、法律が適用される米国上場企業に直接・間接に納入するサプライヤー企業は、紛争鉱物が含まれるかどうかについての問い合わせを受け、またDRC諸国産の紛争鉱物を使用していないことの証明を求められると予想される。よって、このような日本の部品・素材メーカー等は米国に上場していなくても法律の影響を受けることになる。

3.最終規則の概要

3.1  3つのステップ 
 最終規則によれば、法律の適用対象となるかどうかの判断と企業による情報開示は次の3つのステップによって決定することとなる。
【ステップ1】 法律が適用されるかどうかについての判断を行い、適用される場合にはステップ2に進む。
【ステップ2】「合理的な原産国調査」(RCOI, reasonable country of origin inquiry)を実施し、原産国がDRC諸国でない場合には様式SDに開示。そうでない場合にはステップ3に進む。
【ステップ3】 デューディリジェンス手続を実施し、独立した民間監査人による外部監査(independent private sector audit)を受け、様式SDに必要事項を記載するとともに、その付属書類として紛争鉱物報告書を提出する。
 以上を図示(一定期間だけ適用される経過措置などを省略)すると下図のとおりになる。

図表1:紛争鉱物開示のための3つのステップ

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3.2 法律に基づき報告する義務があるかどうかの判定【ステップ1】

3.2.1 紛争鉱物を必要とする者
 法律は、前述のとおり米国上場企業に適用されるが、そのすべてに適用されるわけではない。法律上報告義務があるのは主に製品製造会社である。「製品機能または製品製造に紛争鉱物を必要とする者」とされているため、DRC諸国の紛争地域以外から採掘された紛争鉱物(前述のとおり法律上産地を問わない)を使用している場合でも、「紛争鉱物を必要する者」に該当する。「必要」は、使用量に関係しない。すなわちそれが少量でも必要とする者に該当する。

3.2.2製造委託
 製造には他社に製造委託契約をしている場合も含まれる。「製造委託」に該当するかどうかは、素材(materials)、部品(parts)、内容物(ingredients)、成分(components)における紛争鉱物または派生物への影響を及ぼす程度に依存するとしている。 最終規則は、製造委託先に対して「重要な影響を与える」場合ではなく、「十分な影響を与えない」場合を例示している。下記を実施する場合は、「製造委託」に該当しない。
l 製品製造について、契約条項として直接指定または交渉しない
l 第三者が製造する通常製品にブランド、マーク、ロゴまたはラベルを付けるのみ
l 第三者が製造する製品に対してサービス提供、メンテナンス、修理を行うのみ

3.2.3
 製品機能または製品製造に必要
下記の場合には「製品機能に必要」と判断される。
l 副産物として自然発生したものではなく、製品またはその成分に紛争鉱物が意図的に含まれている
l 通常期待される機能、使途、目的に紛争鉱物が必要である
l 装飾が主たる目的である場合、紛争鉱物が装飾の目的として組み込まれている

下記の場合には「製品製造に必要」と判断される。
l 紛争鉱物が意図的に製品製造プロセスに含まれる(工具、機械、設備(コンピュータ・電気ケーブルを含む)を除く)
l 製品自体に紛争鉱物に含まれる(触媒等のように製造には使うが製品に含有しないものは除く)
l 製品製造に紛争鉱物が必要

3.3 DRC諸国産かどうかの判定【ステップ2】

3.3.1 合理的な原産国調査(RCOI
 法律が適用されると判断した場合には、ステップ2に進み、「合理的な原産国調査」(RCOIと呼ばれることがある)によって、DRC諸国産の紛争鉱物か、及びリサイクルまたはスクラップを源泉とするどうかを判定する。
 規則案と同様に最終規則では合理的な原産国調査の内容は定義されず、企業が実施した手続を開示することを求めているだけである。後述のデューディリジェンス手続については、OECDによるガイダンスにおいてその手続の内容がある程度詳細に記述されている。しかし、合理的な原産国調査(RCOI)は、法律の規定で使われている用語であるが、法律と最終規則のどちらにも、それについての定義はなく、企業の判断に任されている。
 規則案に対する要望を受けて、最終規則では次のような一般的な原則(general standards)を提示している。
l 紛争鉱物がDRC諸国産であるか、またはリサイクル・スクラップであるかを判断するために、合理的に設計された調査(inquiry)を実施する
l 「調査」は誠実に(in good faith)実施する

3.3.2 様式SDの提出 合理的な原産国調査に基づいて、紛争鉱物がDRC諸国産ではなく、またリサイクル・スクラップであることを「知っているか、またはそのように信じるに足りる理由がある」場合には、様式SDにおいて次の3項目を「Conflict Minerals Disclosure」とのタイトルの下に開示し、Webサイトにも同様の内容を開示する。
l その結論
l 実施した「合理的な原産国調査」の簡潔な内容と調査の結果
l この情報を掲載しているWebサイトのURL

3.3.3 記録の保持 規則案においては、合理的な原産国調査に係る記録を保持することが求められていたが、企業負担軽減のため、最終規則においては、記録保持は求めないこととした。


3.4 デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出【ステップ3】

3.4.1デューディリジェンス手続の実施
 ステップ2における様式SDへの開示対象とならない場合には、会社がデューディリジェンス手続を実施し、独立した民間監査人(independent private sector auditor)による監査(audit)を受ける。紛争鉱物の産地が不明である場合や、リサイクル・スクラップであるかどうか不明の場合も、このステップ3を実施することになる。
 デューディリジェンス手続の実施は、国内または国際的に認められたデューディリジェンスのフレームワーク(nationally or internationally recognized due diligence framework)に基づいて実施する。OECDによる「紛争地域および 高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのための デューディリジェンス・ガイダンス」が現状唯一のものである。リサイクル・スクラップについては、OECDによる「金の補足ガイダンス」がそのフレームワークとなる。
 デューディリジェンス手続については、その重要な部分として外部監査が含まれるとされている。監査人による監査は、政府監査基準(GAGAS=Government Auditing Standards、「Yellow Book」と呼ばれる)に準拠する。法律は、独立した民間監査(independent private sector audit)を実施するとしており、その監査人がどのような資格を持つ必要があるのかについては、最終規則には記載されていない。


3.4.2 様式SDの提出
 デューディリジェンス手続を実施した結果を様式SDとその付属書類の紛争鉱物報告書に記載して提出する。 様式SDには「Conflict Minerals Disclosure」とのタイトルの下に次の3項目を記載する。
l 紛争鉱物を製造等に使用している旨
l 紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書を様式SDに添付している旨
l 紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書を掲載しているWebサイトのURL

3.4.3紛争鉱物報告書の提出

 
紛争鉱物報告書の記載内容はDRC紛争関与(not DRC conflict free)の場合とDRC紛争非関与(DRC conflict free)の場合には異なる。また、経過措置としてDRC紛争判定不能(DRC conflict undeterminable)が選択できる。これらの結論は製品毎に記載することになるため、紛争鉱物報告書には、この3つの結論が混在することがありうる。


 DRC紛争関与の場合
DRC紛争関与と認められた場合には、次の記載を行う。
l DRC紛争関与と認められた旨 
l 紛争鉱物の産地まで遡るサプライチェーンに対して実施したデューディリジェンス手続の内容
l 紛争鉱物を使用した製品名、当該鉱物の産地国名、当該鉱物を処理する施設(製錬所等)、産出鉱山または産出地を特定するための取り組みについての可能な限り具体的な記述
l 外部監査を受けた旨の記述
l 監査人から受領した紛争鉱物報告書に対する監査報告書

 DRC紛争非関与の場合
DRC紛争非関与と認められた場合には、次の記載を行う。
l DRC紛争非関与である旨
l 実施したデューディリジェンス手続の内容 
l 外部監査を受けた旨の記述 
l 監査人から受領した紛争鉱物報告書に対する監査報告書

③ DRC紛争判定不能の場合

DRC紛争判定不能とする結論を報告できるのは、制度導入から2年間(小規模上場企業は4年間)となる。すなわち、2013年と2014年(小規模上場企業は2013年から2016年)がその対象期間期間となる。小規模上場企業は、主に発行済み時価総額75百万ドル未満の会社である。

 DRC紛争判定不能の場合には、次の記載を行う。


 何が判定不能であったかについての記述

− 紛争鉱物がDRC諸国産かどうか

− 武装グループに資金援助等している

− リサイクルまたはスクラップか
 
-前回の報告書以降実施した紛争鉱物が武装グループに恩恵を与えるリスクを軽減するために実施した、または今後実施する手続。以下を含む
  − デューディリジェンス手続の改善、知りうる紛争鉱物の原産地国と製錬所、産出鉱山または産出地を特定するための取り組み(該当ある場合)

3.4.4 リサイクル及びスクラップの取り扱い
リサイクルまたはスクラップから精製された鉱物については、前述のとおり規則案ではデューディリジェンス手続と外部監査の対象となっていたが、最終規則においては、ステップ2で終了し、結果を様式SDに記載して提出することになる。

3.4.5報告する期間の考え方

紛争鉱物報告書において報告する時期は、製造または製造委託した製品が「完成」した時点で判断する。たとえば12月末に自社または製造委託先で完成した場合は、その年度の紛争鉱物報告書に開示することが必要となる。紛争鉱物が含まれる部品を組み込む場合についても、その部品が組み込まれた製品が完成した年度において、紛争鉱物報告書に開示することになる。
なお、規則案においては、「所有」を基準にこれを判断することとしていた。すなわち、該当部品や部材を仕入れた時点が属する年度に報告することとされていた。

3.4.6サプライチェーン対象外 最終規則では、企業の負担を軽減するため、過去に使用した紛争鉱物についての調査を省略するための措置がとられた。すなわち、2013131日より前(130日以前) に、DRC諸国外に存在する紛争鉱物と派生物を「サプライチェーン対象外」(outside the supply chain)として調査対象から除外することができるとしている。
 この結果、ステップ2の合理的な原産国調査とステップ3のデューディリジェンス手続の対象となるのは、2013131日においてDRC諸国内に存在する紛争鉱物及び派生物、並びにそれ以降にDRC諸国で採掘される紛争鉱物である。


4.おわりに



DRC紛争非関与(DRC conflict free)をいち早く宣言することが、自社製品の差別化に貢献する。米国上場企業のサプライチェーンに含まれる日本のサプライヤー企業は、この目標を掲げ積極的な対応を行うことが望まれる。

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