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2014年9月20日土曜日

不正再発防止 発生を想定した対策を

(日経ビジネス2010年11月8日号 掲載記事)

経理不正の発生により、過去に公表された決算が訂正され、巨額の損失が計上される事例を最近よく目にする。決算が大きく訂正されるような事態が頻繁に発生すると、ウソの情報に基づいて投資した投資家に大きな損害を与えるだけでなく、資本市場の信頼をも毀損することになる。

最近の不正経理は非常に巧妙化しており、監査法人による時間をかけた監査でも発見が難しくなってきている。ある会社では、架空の取引が実在するように見せかけるために、偽の発注書や検収書を用意し、さらに、海外の取引先企業の協力者に謝礼を渡し、監査人から売掛金が帳簿通りか確認を求められた際には、その協力者につじつまの合った回答をさせた。

また、別の会社では、担当部長が製造会社に架空の製品製造を委託し、それを買い取ったことにして転売を偽装。ダミー在庫も作り監査法人の在庫の確認チェックを逃れたという例もあった。

不正が発覚すると、第三者(社外)委員会が設置され、報告書が作成されるのが最近の実務として定着している。7月に日本弁護士連合会が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表した。このような委員会は、実は不祥事を起こした会社が設置するものであり、監督官庁が設置する調査委員会とは異なる。委員に対する報酬は当該会社が支払い、事務局は社員が務めることが多い。そのような点から、会社としてどうにでもできる可能性があり、実際上いろいろな形の第三者委員会が設置された。このガイドラインは、たとえば、顧問弁護士は第三者委員になるべきでないとか、調査報告書は公表すべきである等の指針を示したものである。言うまでもないが、このようなガイドラインが出ているのは、そうでないケースがあったからにほかならない。

これまで公表された調査委員会報告を見てみると、一般に不正発生の経緯、犯人の特定及び発生原因については、一般に良く書かれているが、再発防止策については不満が残るものが多い。これは、調査委員会の目的は過去に発生した事象の調査であり、将来に向けて良い会社にするための施策は、本来経営者が実行すべきものであると考えられているからかもしれない。前述のガイドラインにおいても再発防止策については全く指針を示していない。不正によって与えた損害を償うことは必要である。しかし、起こってしまったことは取り返しがつかない。したがって、過去の事をとやかく言うより、今後二度とこのようなことが起きないようにするために、どのように取り組むかが、ステークホルダーの最大関心事なのではないか。

不正の原因分析を行うにあたっては、犯人が如何に悪い人間であるかを分析するのではなく、不正を防止する仕組みのどこに不備があったのかについて詳細に分析してほしい。不正の原因分析を行うに当たっては、不正のトライアングルが参考になる。

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動機・プレッシャー」、「機会」、「姿勢・正当化」の3つの要素が揃うと、不正が発生しやすくなる。動機・プレッシャーは、たとえば過大な営業ノルマや個人的な借金などの犯人を取り巻く状況。機会は、不正に甘い企業風土や相互牽制の不備により容易に不正を犯すことができる状況にあること。姿勢・正当化は、他人もやっているとか、盗んだのではなく借用したなどの自分自身の納得感である。

起こってしまった不正の原因分析は比較的易しい。再発防止策は、単に発生した不正と同一の不正が起こらないようにするものではなく、世間を騒がすようなレベルの一切の不正を社内で起こさないようにすることである。

このためには不正防止プログラムを導入する。これはシナリオに基づく仮説検証アプローチにより進めることが多い。企業のさまざまな活動において発生するかもしれない不正を想定し、その防止策を立案して導入する。忘れてはならないのは、それが機能していることを継続的にモニタリングすることである。

小さな不正を含めると、社内不正を経験したことのない会社はほとんどないはずである。不正はその実行中においては発見されないから、不正として成立する。したがって、たとえば「ここ数年間目立った不正が発覚していない」という事実から、「当社では不正は起っていない」という結論は導き出せない。今起こっている不正はまだ発覚していないだけかもしれないからである。当社には不正は発生するはずがないとして見過さず、地道に不正の防止対策に取り組んでほしい。

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