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2014年9月20日土曜日

講演 「会計不正を予防する内部統制」

(東京証券取引所 平成23年度上場会社セミナー 2012321日講演録)

 本日は、リスクサービスということで内部統制のいろいろなご支援をさせていただいているという立場でお話したいと思います。

 お話しする内容は1.相次ぐ粉飾事件と過年度決算訂正、2.ガバナンス問題の本質、3.内部統制とガバナンス の3つです。私の資料にはいろいろな過年度決算訂正の事例が載っています。

上場会社として、過去に出した決算が実はそうでなかった、ということになってはいけません。投資家に非常に大きな迷惑をかけますし、すこし大げさかもしれませんが、資本主義の根幹を揺るがすことになります。これは、東京証券取引所としても最大の関心事だと思います。

1. 相次ぐ粉飾事件と過年度決算訂正

1-1.2つの象徴的な事例
最初に2つほど象徴的な事例をご紹介します。E 社(エンロン)事件はみなさん良くご存じと思います。この時代に突然粉飾事件が増えたわけではなく、アメリカではずっと昔から、上場会社ができたときぐらいから粉飾事件が発生しています。割と固まって粉飾が続いた時期のすぐ後には何らかの規制強化があり、少し収まったと思えばまた一連の粉飾事件が起こって、また規制強化があるという繰り返しでここまで来ています。日本も似たような経過をたどっているわけです。

エンロン事件では、アメリカでのこの種の事件の一つの特徴として、義理人情はあまり出てこず、どちらかというと私利私欲のようなものが要因となっています。粉飾事件ではあるけれども私利私欲も絡んでくるということで、強欲というか貪欲、greedy という言葉がこのときに非常によく引き合いに出されました。

経営者は強欲であってはいけない、貪欲すぎたという反省があったのがエンロン事件の時期です。この事件は、ストックオプションを得た経営者が、株価を上げていこうとし、結果として粉飾せざるを得なくなったという流れです。ご存じのとおり、この結果SOX 法ができて、内部統制の監査が始まりました。

エンロンは当時、非常に有名な会社で、実はこの事件が起こる直前まで、全米7 位の大企業でした。エネルギー産業で、アメリカで進められていた自由化の波に乗り、デリバティブなどいろいろと新たな手法で電力やガスなどを売買していました。先進的な事例として、当時は日本の通産省もエンロンの進んだビジネスを紹介するようなこともしていました。外見上は非常に有名ないい会社だったのですが、実はそうではなかったのです。

K 社(カネボウ)は、架空在庫を使った粉飾をかなりの期間やっていました。非常にシンプルな粉飾だったと、さきほど佐々木事務局長は言われていました。これは日本版SOX のきっかけになった粉飾事件でした。この二大事件が象徴的です。この両者の事件の結果、両国の大手監査法人が解散したという、どちらも似たような経過をたどったのです。

1-2.課徴金と制裁金
過年度訂正や粉飾決算が、最近はどれぐらいの件数があるのか、何か指標になるものがないかと思い、調べてみました。課徴金は2005 年の4 月から導入されています。最初は資金調達のときに出す届出書の虚偽記載についての課徴金でしたが、継続開示の有価証券報告書についてもその後適用されることになり、これまで51 社に課徴金が課されました。

これに似たものとして、東証でも、上場契約違約金という制度が2008 7 月から始まっています。これは上場企業が上場規則に違反したことをもって違約金が発生します。こちらの方は課徴金に比べて少なく、これまで5 社が対象になりました。会社名が東証のウェブサイトに公表されています。

1-3.最近の子会社での不正(経理)事例
その中で、全部ではありませんが、割と多いのが子会社・関連会社で発生したものです。親会社が全く気付かないうちに子会社で不正経理があって、結果として過去の決算書を訂正しなくてはいけなかったというケースが結構多いのです。子会社の経営者が意図して実行した可能性がありますが、親会社の経営者は意図を持ってやったわけではないケースです。

私どもが、コンサルティングというか、いろいろな支援をするときは、「子会社の実態は見えないことが多いです。例えば中国やブラジルの子会社はなかなか見えないから、知らないうちに何かあってもおかしくないですね」と言うと、「そのとおりだ。やはりそのありりは不正が起こるかもしれない」ということになりますし、「東南アジアもいろいろなことが起こり得るし、不正が起こる可能性があるので気を付けましょう」と言うと、「分かりました。対応しましょう」となります。そういうことで、私どもがお話を差し上げるときに、子会社におけるリスクについては、結構よく理解していただけるという傾向があります。

スライドの上段に書いてあるのはJ-SOX 1 年目に報告された重要な欠陥の事例です。過去の決算を結果的に修正しなくてはいけなくなりましたが、J-SOX 1 年目だったということで、内部統制に重要な欠陥があったという報告をした会社です。工事の子会社での不適切な会計処理があったのがD 社で、S 社は中南米の子会社3 社に知らないうちに不正経理があったようです。H 社は、連結子会社で循環取引が行われたケースです。

下段のM 社は、最終的に親会社の完全子会社になったことから上場廃止になった例ですが、ここでは架空在庫を使った循環取引をしていました。K 社は取引実態のない取引をしていました。これも全額出資子会社での事例です。

A 社は一部の海外子会社で売上の計上漏れがあったことから過去の決算書の訂正をしています。過去の決算書を訂正しなくてはいけない状態になると、過去にその決算書を見て投資した株主が救われません。

儲かっていると思って判断した人もいるでしょうし、赤字だと思って意思決定した投資家もいると思いますが、そういう投資家の利益が損なわれることになってしまうわけです。上場会社はそういう投資家を保護することをしっかり考えて行動しなくてはいけないということは、言うまでもありません。

従って、不祥事は避けられないと先ほど山口先生は言われていましたが、この種の不祥事は最初から避けてほしいのです。そのために、監査法人が外部監査をするという制度が導入されています。過去の決算を訂正するような不祥事は、最初から発生しないようにしてほしいというのが社会の期待です。

1-4.わが国の巨額粉飾事件の特徴
 過去のいろいろな粉飾事件を見て、どのような要因や特徴があるのかを少し調べてみました。これは昔から言われている話ですが、典型的には経営者が関与しています。巨額粉飾ではほとんどの場合、経営者が関与しています。担当者が勝手に架空取引をしたというケースはありますが、経営者が関与しない限り、まず巨額になり得ません。

それから子会社の経営者がやるというケースは、先ほど申し上げました。親会社が知らずに子会社がやってしまったことがありますが、それも子会社の経営者が関与しているということになります。アメリカの場合は個人的な私利私欲と申し上げましたが、日本の場合はどちらかというと、自分の失敗をうまく隠したい、悪い業績を隠したいという場合が多いです。

公表された中期計画に少しでも近づきたいという気持ちや、決算短信に記載した次年度決算の着地になるべく合わせた決算をしたい、または数年間増収増益で来たのに、ここで減益・減収になりたくないなど、いろいろな意図が働いて、ちょこちょことやれば何とかなるのではないかと考えてしまうのです。

それから、経営者一代だけではなく代々引き継がれることがあります。先ほど、山口先生も「墓場まで持っていくのは人の道でしょう」という話がよくあるとおっしゃいました。本当はそうではないのですが、そのように感じる人もいるのかもしれません。取締役会・監査役会があまり機能しなかったということも特徴です。

そこで見つけられなかった、止められなかったという、ガバナンスの問題としての特徴があると思います。手法もいろいろあります。私が挙げてみたのは、子会社・関連会社を利用するというやり方です。

それから、循環取引があります。一般的に特定の業種で起こっているのではないかと思われます。アメリカの大きなコンピュータ会社があります、日本では外資系ということで、辞める人も結構多いです。

辞めるとシステム関係の同じ業種の会社に転職することも多いでしょう。そうすると、仲間が他社に大勢います。A 君、B 君、C 君、D 君が別の会社に勤めると、自分のところの業績が悪いので、あるソフトウェアをB 君に少し高めに売って、C 君からD 君に売って、ぐるぐる回って最後は自分が買います。ぐるりと回して、決済もするというやり方をします。

契約書、領収書、請求書も全部あります。システム仕様書なども作ります。形の上では、表から見ても架空取引であることがさっぱり分からない、ということができてしまうのです。

要するに、違う会社の人、外の人が共謀する風土があることが特徴です。その条件がないとなかなか循環取引はやろうと思っても簡単にはできません。IT 業界や水産物業界でそういうことが行われました。次に工事関係です。それから繊維です。

冒頭でお話したK 社はその例です。非常に古い業界で、いわば在庫の飛ばしのようなことを、今はどうなっているのか分かりませんが、業界慣行として昔はやっていたようです。それがどんどん大きくなってしまったのがK 社でした。もともとそういう取引慣行があった業界なので、こういうことが起こりやすかったと思われます。

もちろんこれ以外の業種で起こらないとは言えませんが、割と業種的に特徴があるということが、事例から分かります。また、循環取引は証憑を見ていても分かりません。

これは非常に監査法人泣かせです。私は実はシステムの監査を20 年ぐらいしていますが、そういう者が中身を見れば、こういう仕様のシステムがこんな値段で取引されることがまずおかしいとか、なぜA 社がB 社にこのシステムを発注するのかなど、疑問を持つかもしれません。

そういう見方ができる人、要するに業界の知識や専門知識がある監査人が見れば分かる可能性があります。しかし、帳簿に記帳された取引で、契約書があり、請求・支払が普通どおりあり、証拠書類が全部そろっていれば、基本的にはなかなか監査では見つけにくいという特徴が循環取引にはあります。

1-5.子会社ガバナンス考察
少し話が変わります。子会社は別の法人なので別人格であり、親会社は子会社の株主ではあるけれども、子会社は子会社として別のガバナンスがあって、ある程度したいようにさせるのが親会社の度量というか、やり方だという考え方が昔は結構ありました。

100%子会社であるにもかかわらず、子会社の社長になったら、その人が割と自由に経営するという傾向があったのではないかと思います。しかし、最近はその考え方はなかなか受け入れられません。

法的に戦うときに、弁護士さんが子会社は別人格だからと理論構成をして、一生懸命頑張ってくれることはありますが、基本的には経済実態重視になっています。連結決算はその考え方で、50%超の株を持っていれば貸借対照表、資産、負債、収益も全部足して合計しなさいということになります。

子会社の株式を51%しか持っていなくても100%売上を合計するのです。後で少数株主の分は引きますが、連結決算とはそういう考え方です。基本的に経済実態を重視し、連結財務諸表では子会社は親会社の部門と同じだと考えています。

監査法人も、監査するときにはそういう経済実態重視の見方をしています。一部には、子会社は別で、ある程度自由にさせて、独立性があるという運営の仕方をされている会社もありますが、その考え方は変える必要があるかもしれません。

社会の非常識が社内の常識になってはいけません。ただし、上場子会社は悩ましい問題です。上場しているので親会社以外の一般株主がいて、株式が取引されている状態の子会社です。

このような上場子会社があること自体がおかしい、あってはいけないという議論もありますが、日本では今のところその考え方は採られていないので、そういう点では上場子会社があってもいいのですが、親会社が、そういうことで本当にいいのかということをしっかり考えてみることも必要と思います。

親会社としてのブランディングや全体的なグローバル戦略などがあるのに、全部言うことを聞かせられないという状態で運営しなくてはいけないということが本当にいいかどうかは、しっかり考えていただく必要があると思います。

その結果、上場は止めて、100%子会社にした方がいいと結論付けた会社が最近少し出てきました。それはもちろんビジネスによっていろいろあると思いますので、この点は、もし上場子会社を持っておられる親会社があれば、しっかり考えていただきたい。リスクマネジメント、リスク管理という観点でも、あるべき姿を考えていただくことが大事だと思います。

私がここで「子会社ガバナンス」と呼んでいるのは、経済実態を見ていますので、子会社は部門と同じですので、子会社管理と子会社ガバナンスは同じことであるとご説明しています。

最近は円高だということもあり、海外の会社を買収するところが多くなってきました。日本企業は、特に欧米などの海外での経営に慣れていないことも多いので、買収先の海外子会社の経営者をそのまま残して、その人たちに経営を任せることも多いかもしれません。

要するに、せっかく買った会社をうまく生かすことが大事なので、現状の経営をできる人にそのままやっていてもらうという考え方です。そうはいっても、その中で何をやっているか、どんなリスクがあるのか分からないというのでは、非常に大きな問題になります。

特に最近買収した国内外の子会社に対して、親会社からのガバナンスをどのように浸透させていくのかが課題となります。最悪の場合、経理不正が起こり、それが累積して決算訂正しなくてはいけないようなことも起こるかもしれません。

2.粉飾決算を防ぐガバナンス

2-1.日経のアンケート結果
 これは、3 11 日の日本経済新聞のアンケートです。日本の企業統治は機能しているかという問いに対し、10%が「機能している」、48%が「機能しているが、他の先進国企業より見劣りする」、42%が「機能していない」と答えており、問題があると思っている人がほとんどです。

90%は何か問題があると思っており、うまくいっていると言っている人は10%しかいないのが日本のガバナンスです。特に最近ガバナンスの問題だと言われている事件が起こりましたので、余計にこういう比率が高くなるとは言えます。しかし、経営者ではない一般の人たちは、やはりガバナンスを何とかしなくてはいけないと思っているということです。

2-2.不正のトライアングル
一般の人たちがなぜこのように思うのかということをもう少し分析するために、クレッシーという人が考えた「不正のトライアングル」をご紹介しましょう。実はこれは不正の本を読むと必ず出てくるものです。

私が編集担当している季刊誌でも過去に5 回ぐらいは出てきたと思います。以前、私が日経ビジネスに、「不正のトライアングルについて書きたいけれど、載せてくれますか。」と言ったところ、「聞いたことがなかった。書いてください。」ということで、1 ページだけですが「財務・法務」というコーナーに記事を書かせてもらいました。
日経ビジネスの記者もあまり知らなかったようですので、世間一般にはあまり知られていないのかもしれませんが、実は我々にとっては、これは基本中の基本です。これは皆さんにも覚えておいてほしいのですが、この3つがあると不正が起こるという要素があります。

1つは「動機」です。当然ながら動機がなければ不正は起こりません。動機には積極的な動機と消極的な動機、すなわち「プレッシャー」のようなものもあります。例えば、ノルマがあって、それを達成しなくてはいけないというプレッシャーは一つの動機になり得ます。

2つ目は、「機会」です。やろうと思えばできる環境です。最初は小さい金額の不正をしたら、見つからなかったので何度も繰り返し合計100 万円になりました、というのがひとつの例です。やろうと思えばできる状態があれば、当然ながら不正は発生しますし、大きくなっていきます。

最後は「正当化」です。「少しぐらいやってもいいのではないか」「みんなやっているのではないか」「私は給料が安いから、もう少しぐらいもらってもいいでしょう」などと考えて、正当化していくのが、3つ目の不正の発生要素です。

この3つがあると不正が発生するのだと最初に言ったのがクレッシーで、これを「不正のトライアングル」といいます。「粉飾などはしたことがありません。」、「うちの会社に限って、そんなことはありません。まじめに決算しています。」と経営者は言われると思います。もちろんそれは分かりますし、当然そうだと思います。大部分の会社はそうです。

しかし、それは外からは見えません。先ほどの「ガバナンスに問題がある」と言っている90%の人は、外から見えないけれども、やろうと思えばできるのではないかということが頭の中にあるのではないかと思います。

動機としては、先ほどから申し上げているようにいろいろあります。配当を維持したい、融資継続したい、中期計画を達成したい、業績の下方修正をしたくないなど、経営者のプレッシャー、動機はたくさんあると思います。これには事欠きません。必ず動機はあります。

その次に機会ですが、経営者にとっては、部下に指示すれば言うことを聞いてくれるので、ちょっとここを増やしておけ」と言うと、やってくれる可能性があります。そして取締役会でも、自分が言えば全部通るという状態だと、機会があります。やろうと思えばできます。

最後に正当化ですが、「他社も何かやっているのではないですか。」「うちの監査法人は物分かりがいいので、ちょっとぐらいなら認めてくれるんですよ」という話を聞いたりして、間違ってそのように思ってしまうと、正当化もしやすいのではないでしょうか。

従って、外から見るとこういうことが起こってもおかしくないと思われてしまうのです。このことによって、90%の人たちがガバナンスに問題があると言っているのだろうと思います。

2-3.監査役設置会社の取締役会における取締役の相互監視
私は法律の専門家ではありませんが、ここで日本の取締役会はどういう仕組みになっているか、ご紹介しましょう。

監査役設置会社の取締役会では、基本的に業務を執行する人たちがメンバーになっています。社外取締役も徐々に増えてきましたが、会社法上は、社内の取締役が取締役会を構成することを想定しています。

実は、業務を執行している人が自分の業務だけのことを考えて取締役会に参加すればいいということではなく、取締役が相互に監視・監督してくださいということが日本の取締役会の考え方になっています。監査役は取締役会に出席しますが、取締役会のメンバーではないので外から監査します。以上が、現状の監査役設置会社のガバナンスのやり方です。

2-4.委員会設置会社の取締役会における社外取締役による監視
委員会設置会社になると、社外の人たちが社内の業務執行をする取締役を監視・監督するという考え方になっています。こういうやり方に対し、ほとんどの社長は10 年またはそれ以上早いと思っているのではないでしょうか。社外の人たちに自分の会社の経営が分かるはずがないのに、その人たちの意見を聞いても何の足しにもならないと考えているかもしれません。

しかも、そういう人はずっと座っているだけで何の意見も出さない、業務執行する社内の人たちだけで議論し、社外取締役たちは黙っているというイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。反対に、社外の知らない人にいろいろ教えなくてはならないので、こんな面倒なことはないと思ったりします。

また、好き勝手にとんでもないことを言うので、その人たちを説得するだけでも大変なことになると、社長をはじめ他の取締役は考えるのではないでしょうか。

しかし、外から見たときは、実はこれがかなりいい状態なのです。社外取締役がどういう人かということは大きな問題になりますが、少なくとも何か不正をやろうと思ったらできるという環境ではなくなりますし、なかなか正当化できる状態でもなくなるので、予防という観点から見るといい方法です。

例えば今の社長は大丈夫かもしれませんが、次の社長、その次の社長になったときにどうなるかと考えていただいたとき、やはり仕組みをきちんとつくっておくことが非常に大事だと思います。

今、会社法改正の中間試案が出ていますが、経団連はほとんど全部反対していると思います。社外取締役などとんでもないという意見になっていたと思います。しかし、ずっとそう言っていて本当にいいのかと私は思っています。

 2-5.ガバナンス設計で考慮すべきこと
ガバナンスで考慮しなくてはいけない大事なことは、委員会設置はわが社にはどうしても合わないからやりたくないということであったとしても、取締役会の運営の仕方については、もう少しきちんと考えていただきたいと思っています。例えば、基本的に会社法の規定だけ守ればいいというのではなく、不正のトライアングルを少しでも機能させないようにするためにどうしたらよいのかを検討していただきたいのです。


例えば、議長がもう少し中立あるいは独立していればいいのではないか。業務執行取締役が監視監督機能を発揮するにはどうしたらいいか。委員会設置ではなく監査役設置であっても社外取締役を導入するか。


東証の規定があるのでご存じと思いますが、社外性だけでなく独立性についても考えてみます。それから社長の後継者を社長が決めていていいのか。後継者を決めるための指名委員会のようなもの任意につくって、そこで複数のメンバーが次の社長を決めていくやり方があってもいいのではないでしょうか。そういう運営の仕方を社内規程にします。ここでは「取締役会運営規則」という名称にしてありますが、こういう規程にするということです。

2-6.監査役・監査委員の独立性(参考)
現状、日本の会社法上「大企業」の場合は、監査役設置か委員会設置しかありません。皆様方の会社は「大会社」と思いますので、その場合は、ガバナンスというか会社の機関 設計の観点では、この二つしかないのです。

ここには監査役設置の場合と委員会設置の場合についての会社法の規定を記載してあります。独立役員については東証が決めたルールがあります。これは「役員」なので、監査役でも取締役でもどちらもいいわけですが、1 名以上決めることになっています。

また、「独立」であるためには利益相反があってはいけないので、その恐れのない人ということになっています。ただ、利益相反について具体的定義がなされているわけではなく、利益相反がありそうな人を独立役員としている場合には、これについては特別に説明することになっています。この辺は比較的、どちらかと言うと緩く決められていると思います。

2-7.東証の独立役員の趣旨
2010 4 月、東証の斉藤社長は「独立役員は重い責任を自覚してほしい」とおっしゃっています。欧米企業では取締役の過半数が独立役員であって、CEO を牽制していますが、日本の場合は過半数ではなく、取りあえず1人だけ設けて様子を見ているというのが基本的な考え方です。

冒頭に東証自主規制法人の美濃口常任理事が、独立役員を強化するという話をされました、もともとこの規則はあまり厳しい規則ではないと私は思っています。独立役員は、取締役でも監査役でも良いことになっており、会社法上、社外監査役が必要になっていますので、その社外監査役が東証規則上「独立」であるかどうかという判断だけになります。

そして実際に、最近の東証の集計結果によると、独立役員として届け出されている「社外取締役」は25%だけとなっています、74%が社外監査役になっています。それから、独立役員のうち6%が、特別に説明が必要な人たちになっています。開示加重要件に合致する人、例えば取引銀行から来ている人やコンサルタントなど、会社との取引関係がある人を独立役員として届けている場合、特に説明が必要となります。

ちなみに、先ほど出てきた繊維会社のK 社では、銀行から来た人が副社長で、非常に強硬な発言をしています。例えば「会社をつぶす気か。粉飾してでも事業計画を達成しろ。」と言ったと新聞で報道されました。そのように副社長から言われた常務からは「先生(会計士)の言うとおりに引当金を積んだら、債務超過になります。そうすると上が許してくれません。何とかしてください。」という発言となっています。

このように、銀行から送り込まれた副社長がかなり強硬な姿勢で粉飾決算を主導していたという事実があったようです。メインバンクから来ていただくというのは、何となく中立性がありそうに聞こえますが、銀行は銀行なりに利害があります。

また、銀行から派遣された人は、銀行に対するそれなりの恩義があるので、よく見せなくてはいけないという考えが働くと、K 社のようになってしまいます。銀行から来ている方は独立性があるように見えていますが、実はそうではありませんので、東証のルール上でも開示加重要件に該当します。

2-8.機関設計―会社法・公開会社法・金商法・取引所規則
 会社の機関設計についてはご説明する必要はないかもしれませんが、日本の場合ほとんどが会社法で決まっています。「公開会社法」というのが議論になっていましたが、これは今のところ存在していません。議論はされましたが具体化されていません。

それから金融商品取引法と証券取引所規則(東証規則)で、会社の機関設計についての規定をすることができます。これらのどこで規定するかは判断の問題です。会社法でするのもいいですが、会社法はすべての会社に適用され、上場会社だけの法律ではありません。

もちろん大会社・中会社・小会社、それから公開・非公開会社、要するに株式の譲渡制限がある会社とない会社など、そのような区別はありますが、会社法は大体それぐらいの区別しかありません。

金商法は、基本は上場している会社が対象です。証券取引所規則も上場している会社の規則ということになり、これをどう組み合わせて会社の機関設計に生かしていくかが、日本のガバナンス設計のやり方になると思います。

アメリカではどちらかというと、証券取引所の規則でかなり決めています。会社法では上場会社の機関設計についての規定はなく、取引所規則などに規定されています。日本でもすべてを会社法に規定するのではなく、このようなやり方でもいいのではないかという意見もよく出ています。

2-9.会社法制の見直しに関する中間試案骨子(ガバナンス関連)
法務省法制審議会から公表された会社法制の中間試案には結構いいことが書いてありますが、どちらかというと結構妥協している感じもあります。まず社外取締役については、A案、B 案、C 案があって、経団連はこれに反対しているようですのでC 案の「変更なし」ということになります。

B 案は「有価証券報告書提出会社のみ」です。法務省所管の会社法に、金融庁所管の金商法の条文を書いてしまうという点が画期的です。A 案は、監査役設置会社で公開会社、大会社であれば1 名以上社外取締役を入れるという案です。

監査・監督委員会については、ご存じかもしれませんが、このようにこれまでなかったものを入れてみることも議論されています。これは監査役設置からこちらに移行してほしいという考え方のようです。

取締役会に監査・監督委員会を設置して、中間的な、要するに監査役設置と委員会設置の間ぐらいを狙った制度ということになります。監査役制度を廃止はせず、両者を共存させるという趣旨のようです。

今は監査役設置と委員会設置の2種類しかないので、もう1種類つくってみようという考え方です。それから、社外取締役・社外監査役の要件を強化します。これは、親会社の役員が子会社の取締役や監査役になると、今は社外という扱いですが、これを社外ではないようにする案です。

しかし、ずっと社内だと厳しすぎるので、10 年たてば社外にしてもいいのではないかということが緩和策として含まれています。それから監査役または監査委員会による会計監査人の選解任の権限を監査役会または監査委員会が持つという案が出ています。A 案は議案を出したり報酬を決める権限を持つこと、B 案は議案を出すけれど報酬は同意するだけ、C 案は変更なしということです。

この中間試案に対するパブリックコメントを基にして議論が進んでいるのかと思うと、最近の日本経済新聞では、あまり動いていないと報道されていたかと思います。

皆様方に、ご留意いただきたいことは、申し上げたとおり、会社法に決まっているとおりにやればそれでいい、というわけではないと考えていただきたいと思います。皆様方の取締役会規則の中で、いろいろなルールを社内で決めるのです。社内で独立役員を入れようかと思ったときには、独立役員の要件をきちんと決めて、それを文書化することが必要になります。

2-10.社長の自己チェック
これは一例として私が考えた社長のための自己チェック項目です。私の編集する季刊誌の巻頭文にこのチェック項目を記載しました。基本的には、社長の姿勢の誠実性が非常に大事です。

ガバナンスの最重要項目は社長の誠実性です。この点は、後で少し説明しますが、COSO(米国のトレッドウェイ委員会組織委員会)フレームワークにも書いてあります。ガバナンスの良否は、結局どこに行き着くかというと、社長(CEO)の誠実性です。CEOが誠実でなかったら、何でも起こります。

社長は自分で何でもできる人なので、ガバナンスの考え方として、基本的に自分は自分で制するしかありません。そういうことで、「誠実な姿勢で意思決定し業務遂行する必要があることについて、自ら発言し行動で示しているか」ということを、社長に自己チェックしてほしいのです。

次は議長の話をしていますが、議長は結構大事なのです。社長が議長であるケースは多くあると思います。社長が議長ではない方がいいというのは、よく言われている話です。

ただ、議事を運営するだけの議長だとあまり機能しないので、議事運営するだけではなく、どういう議案を出して、その議案をどのように持っていったらいいかをきちんと自分で考えられる人、考えるようにしてもらう人でないと駄目だということです。

単に議事の運営をするだけの議長では駄目なのです。3つ目が非常に大事です。実はCOSO にも「熱心で積極的な取締役会は、内部統制に欠かせない」と書いてあるのです。

まさにこれです。これは昔の話ですが、ある会社の取締役会の運営はどうなっているかと尋ねたところ、業務担当をする取締役が自分の業務にかかわる議案を出し、その取締役と社長が議論して決議され、その間ほかの取締役はずっと黙っていることが多いと聞きました。

これは熱心でも活発でも、積極的でもない取締役会です。取締役の担当外の分野こそ、それが会社のためにどういう意味があるのか、担当取締役はしっかりと考えたのか、十分議論してここまで来たのかと、担当外の役員が問いたださなくてはいけません。

そうすると自らが上程する議題についても同様の議論になることは明らかですが、それにへこたれてはいけません。それがより良い取締役会の運営だと思ってやってください。担当外の案件にきちんと口出しすることは非常に大事です。

しっかりした独立取締役のいる取締役会では、このような取締役会の運営が当然のことのように行われています。しかし、これはそのような独立取締役がいないとできないことでもないと思います。独立役員も非常に大事です。これも日経ビジネスに書かせてもらったテーマの一つです。

東証の独立役員の制度ができたときに掲載されました。独立役員は黙って座っているだけ、誰かいればいいというものではありません。その人を教育するという姿勢が必要です。

工場に連れていって現場を実際に見せて、会社のいろいろなビジネスや課題を理解してもらいます。取締役会の議案については当然事前に説明し、納得してもらった後、取締役会に出て議論してもらわないといけません。これには労力が必要です。

それから、後継者の指名については先ほど申し上げましたが、指名委員会という名前ではなくてもいいので何らかの委員会をつくって、いろいろな人にヒアリングをして次の社長を決めるというプロセスが必要と思います。

最後に決算の話ですが、業績はあるがままに出すのが大原則です。もう少し何とかなるのでは、と思ったところから道を外れていきます。決算は操作できるものではないと理解していただくことを、社長の自己チェックの最後の項目にしてあります。

3.ガバナンスは内部統制の問題 ~全社的な内部統制を見直す~

3-1.内部統制の目的
皆様はCOSO をよくご存じだと思います。キューブのようなものがありますが、何度も見られた方もおられると思います。内部統制は「一定の目的の達成のために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセス」と定義されています。「組織内のすべての者」と書いてありますが、英語版のCOSO では「取締役、従業員・ .・」などと並んでいます。日本の場合は全部削除して「すべて」になってしまっていますが、実はここに取締役が入っているのです。

3-2. 財務報告に係る内部統制の運用
J-SOX の内部統制は営業、購買や経理などだけやると思っている方が非常に多いと思います。しかし、実は皆様方役員が直接関与している内部統制は全社的な内部統制です。実はそれも内部統制に入っているのです。

これがしっかりしていないと、巨額粉飾が起こるのです。内部統制の考え方に一番上の人たちの内部統制がないと、昔から起こっている巨額粉飾が防げないということはずっと分かっていて、内部統制の定義にもきちんと入れてあるのです。

日本の内部統制基準にも「全社的な内部統制」としてその重要性が謳われています。そうはいっても、実際にはうまくこれを機能させていない会社が多いのではないかと私は思っています。


皆様方もここで一つしっかりと考えていただいて、ガバナンスについて見直していただくことは大事だと思います。内部統制の評価というと、各部門でいろいろな自己チェックをして、内部監査を受けて報告してくればそれでいいと思っておられる方も多いと思いますが、全社的な内部統制は、皆様方、経営者、取締役、監査役による内部統制です。

3-3.全社的な内部統制
そろそろ時間がなくなってきましたので、今日は細かくは入れませんが、全社的な内部統制について、内部統制基準の実施基準の中に「参考1」があり、42 項目が例示されています。

この42 項目は、もう少し分かりやすくできるような気もしますが、割と網羅的に作ってあります。こういうものを参考にして、先ほどの社長の自己チェックや、それ以外の例えば役員研修、監査役監査の改善なども考慮して、皆様の会社の全社的な内部統制のあるべき姿を考えていただきたいと思います。

J-SOX のもともとの考え方は、まず会社が評価せよというものです。取締役は自分で実施している内部統制を自分でチェックすることから始めてください。最初から内部監査してくださいというのには適さないと思います。監査役も同じです。ですから、自己チェックが大事になります。そのあと、内部監査を受け、最後は当然ながら外部監査の対象にもなります。

 私のお話は以上にさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

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