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2022年9月7日水曜日

四半期短信に監査法人の四半期レビューを求めるべし

年1回の四半期報告書

金融庁のディスクロージャーワーキンググループの報告書(2022年6月)では、第2四半期報告書は残すが、第1と第3四半期報告書は廃止することになっています。金融庁は、この方針で今後、内閣府令等を改訂し制度化すると思われます。

その結果、四半期短信はこれまでどおり年3回開示しますが、四半期報告書は年一度、すなわち昔の半期報告書のタイミングでのみ提出されることになります。

これまで監査法人のレビュー報告書は四半期報告書に含まれていましたが、第2四半期以外の四半期決算に対する監査法人のレビューが実施されなくなります。これについて少しし考えてみました。

四半期短信を対象とした四半期レビューを実施する

東証は、決算短信・四半期短信に「監査、レビューが未済」であることを明記することを求めています。決算短信と四半期短信はほとんどの会社は、「実質上」監査済み、レビュー済みの状況で開示しています。これは短信開示後の修正を避けるためです。

米国では、四半期レビュー報告はほとんど見かけませんが、提出前にレビューは実施されている前提になっています。(米国では、PCAOB監査基準4105で書面による報告書は原則求められていません。たぶんSEC規則のどこかにもその旨が書いてあると思います。)

日本の場合、米国のように四半期レビュー報告書は、例外的な場合を除き提出不要とし、四半期短信は、東証規則によってレビュー済みであることを求めればよいと思います。

東証としては「監査、レビューは未済」としている以上、この方針転換は難しいかもしれません。また、四半期レビュー報告書を公表しないのに、監査法人が四半期レビューを実施するというのは、日本ではこれまでなかった実務であり、これにも抵抗がある可能性があります。

しかし、上場企業側の論理としては、監査法人の指摘による短信開示後の修正を避けたいということは今後も変わらないと思います。

このため、決算短信・四半期短信について、監査済み・レビュー済みとしたところで、決算短信・四半期短信の開示が遅くなるかというと、そうではないと考えられます。仮に遅くなる要因があるのであれば、それは上場会社と監査法人の両者の努力で解決すべきです。

 もし、上場企業や監査法人による短信・四半期短信の開示にあたり、「監査済み・レビュー済み」が要求されると、開示が遅くなると上場企業や監査法人が言っているのであれば、それは上場会社や監査法人のやる気のなさを反映した発言ではないかと、筆者は思います。がんばれば、四半期短信は監査法人レビュー済みにできます。

四半期レビューは四半期に必要か?

そもそも監査法人による四半期レビューが必要か、また、四半期ではなく半期決算の時だけでよいのではないかという考え方もあると思います。

「東芝総決算」(日経新聞)に筆者が書いたように、当時の東芝では第3四半期が鬼門でした。会計上の問題が第3四半期に発生し、監査法人によるレビューが終わらないため、第3四半期報告書の提出が延期されました。その大きな原因は、東芝は、第3四半期において、期末での減損処理の要否を検討することにしていたことです。期末にこれを実施していたのでは、期末監査に間に合わないからだと思います。

これは一つの例ですが、このように企業は年間を通じて、会計上の判断を実施することが必要となり、それが四半期決算に反映されます。期末決算の公表は3月決算の会社では、5月の連休明けぐらいになります。四半期レビューがない場合には、第3四半期決算開示の2月には分かっていたことの公表が5月になる可能性があるということになります。

この例で分かるように、監査法人の四半期レビューは半期決算だけの年1回ではなく、四半期ごとに受ける必要があると思います。


2020年7月26日日曜日

監査報告書ひな形と監査役等の姿勢

日本監査役協会では、監査役等の監査報告書のひな形を公表しています。そのひな型の文章内の各所に(注X)が記載されています。この注の内容はひな型の最後に羅列されています。注を見ながらひな型を読むのには骨が折れます。
そこでひな型と注を左右に並べた対照表を作ってみました。
日本監査役協会のウェブサイトでは、トップページのニュースの次に「電子図書館」のコーナーがあり、「詳細を見る」をクリックすると「キーワードから探す」の右下に「基準・規則・ひな型」があります。その中に監査役等の監査報告書ひな型が掲載されています。
そこを探したところ、PDFしか見つかりません。さらにそのPDFはコピー・ペーストできないようになっています。監査役協会の会員になればワード版が提供されるのかもしれません。
そこで、「基準・規則・ひな型」の下に掲載されている「新任ガイド・実施要領」の中に新任監査役ガイド(第6版)を念のために見てみました。ここにも監査報告書のひな型があります。
これもPDFですが、コピー・ペーストができるようになっています。
これを使って、次のようなひな型と注の対照表を作成しました。

監査役監査報告書(監査役会、取締役会+監査役会+会計監査人)と監査等委員会監査報告書について対照表を作成しました。
あいにく、このブログにはファイル添付ができません。
御入用の方は、下記までご連絡ください。
keiichi.kubo@biz-suppli.com

日本監査役協会が公表するひな型や基準などの位置づけについて触れておきます。これらは、日本監査役協会の会員が準拠しなければならないものではありません。公正妥当と認められた監査役等監査の慣行の一つとみることはできると思いますが、これに従わないからといって、日本監査役協会から何らかの処分やお叱りを受けることはありません。
このひな型の中で、会社法上、明確に求められている事項は遵守する必要がありますが、一部には日本監査役協会の判断で踏み込んだ見解が記載されています。
たとえば、監査役監査報告書ひな型(監査役会版)の注17には「継続企業の前提に係る事象又は状況」について「事業報告などの記載を確認の上、監査報告書に記載すべきかを検討し、必要あると認めた場合には記載するものとする。」と書かれています。
少し調べた範囲では、監査役監査報告書に継続企業の前提に係る事項が記載されている例はなさそうです。継続企業の前提に関する注記がある場合は、会計監査人の監査報告書に言及されているはずです。監査役等の監査では会計監査人の監査を相当と認めるので、それで十分と考えるからではないかと思います。
注17の「必要あると認めた場合には記載するものとする」の「必要があると認めた場合」が明確に定義されていないように思います。書きたいと思えば書けばよい程度の意味なのかもしれません。
このように、このひな型の注の中で、会社法上明確に規定されている記載事項とそうでないものがありますので注意が必要です。
ただし、ひな型や会社法の要求事項だけにとらわれず、できる限り監査役等が丁寧に説明する姿勢で監査報告書を記載するのがよいと思います。
今後、少し会計不正などの不祥事が発覚した会社の監査役等の監査報告書について検討してみたいと思います。