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2014年9月20日土曜日

書評:「内部統制の知識」町田祥弘著 日経文庫


 

 内部統制報告制度、通称「日本版SOX」がいよいよ来年4月から始まる。本書は、この制度の基礎となる内部統制報告基準と同実施基準の制定に主導的な役割を果たした第一人者によるものである。 

本書は、基準と実施基準の単なる解説書ではない。このような制度が導入されることになった背景について丁寧に説明している。特に米国におけるサーベンス・オクスリー法に基づく制度成立の経緯や、制度導入後の実情、さらにはその後の見直しの状況に至るまで詳しく記述されている。これは執筆者の専門分野の一つである米国における内部統制の変遷や、外部監査制度に関わる研究に裏打ちされており、説得力がある。 

周知のとおり米国ではエンロンなどの一連の巨額粉飾事件が起きた。米国での内部統制報告制度の導入について「それ以前にさまざまな機会に提案されたものの、コストがかかり過ぎる、厳しすぎる、企業の意欲を損なうといった種々の理由で採用されなかった制度改革案のほとんどが盛り込まれているといってもいい」と執筆者は述べている。 

また、米国での制度導入後の検討において、SECは「内部統制報告制度は非常に多くのコストを生じさせているという問題点があることを公式に認めた」のであるが、「初年度の実施にかかる立ち上げコストについては、ある程度仕方がないという立場をとっている」とも執筆者は述べている。この点から、米国においては、厳しくかつコストのかかる制度が、いわば意図的に導入されたことがわかる。

  このように多大な社会的コストをかけて得られるものは、「公開企業の最高経営層における内部統制への関心が高まり、より良い財務報告が行われる」ということである。結果として、これが巨額粉飾事件によって、失われかけた米国資本市場への信頼回復に繋がったのである。

  これに類似した制度がわが国においても導入されることになる。したがって、この制度導入に当たっての社会的コストを避けることはできないということを理解しなければならない。わが国の制度では米国での問題点を研究し、「評価範囲の絞込みを認めて」いるなどの対応がとられているが、制度の対象となる上場会社には、それなりの覚悟が必要と考えられる。

わが国においては、制度導入のための基本となる内閣府令がまだ公表されておらず、金融庁等により詳細なQ&Aが策定中とも伝えられている。一方、米国においては、内部監査基準の改訂や経営者評価基準の公表、さらには中小上場会社に関する基準などが今後明らかになる。 

本書は、このような段階での内部統制の現状を輪切りにしたものである。今後、これらの諸基準が明らかになった段階で、本書が改訂され版を重ねることになると期待される。 

初めての読者は、内部統制報告基準等をそのまま読むと分かりにくい。その前に、ぜひ本書を読んでわが国の制度の概要とその背景を理解しておくことをお勧めする。

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