(月刊監査役 2012年7月号 巻頭文)
最近発生した巨額粉飾事件においては、損失隠し問題で会社に損害を与えたとして過去及び現在の取締役に対して合計約36億円の損害賠償請求訴訟を会社が提起した。一方、監査役に対しては、直接これに関与した元経理部長であった監査役に加えて、それ以外の監査役4名に対しても連帯して5億円の請求を行った。巨額粉飾事件に関連して、取締役が提訴されることは従来からあったが、監査役が損害賠償請求されるケースは、これまであまり多くなかった。
会社が設置した監査役等責任調査委員会による報告書では、この4名の監査役が会社に対して合計約47億円の損害を与えたとしているが、その理由は次のとおりである。「監査法人から株式購入価額や外部アドバイザーに対する報酬が高すぎるという指摘を受け、さらにそれが取締役会において報告されていたにも関わらず、取締役会において異議を述べたり再調査を要求したりした事実は認められない。このように取締役の善管注意義務違反があることを看過したことは、監査役の善管注意義務違反である(筆者要約)。」
旧商法及び会社法の改正のたびに、監査役の権限が強化されてきており、結果として監査役の責任も重くなってきている。監査役の権限強化に伴って、監査役の役割に対する社会の期待も高まってきていると考えられる。上記4名の監査役に対する損害賠償請求は、そのような背景を反映した結果であるとも考えられる。
筆者の知る限り、ほとんどの監査役は真面目に監査に取り組まれ、往査のための出張も多い。それでも「善管注意義務違反を問われる可能性がある」と言われると納得がいかないというのが、多くの監査役の気持ちであろうと想像される。また、上記のような巨額粉飾事件は頻繁に起こるものではなく、例外中の例外の会社で起こった特殊な事件であると考えることもできる。
しかし、2005年から始まっている金融庁による有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金事案は、今年の3月末までに筆者の集計によると51件あった。内部統制報告制度が2009年3月期から導入されてから、内部統制が有効でないと報告した会社は100社を超える。課徴金事案と重なることもあるが、過去の決算訂正によって、これまで内部統制を有効としていた会社が有効でないという報告に訂正した会社も増加している。これらとは別に、法令違反による不祥事が発生した会社も結構多いことは周知のとおりである。
このようなケースにおいて、監査役の機能が十分発揮されたかどうかを検討すれば、すべてにおいて、そうであったとは言い切れないのではないかと思われる。前述の調査報告書によれば、買収契約等を承認する取締役会において、「異議を述べたり再調査を要求したりした」かどうかが問われている。従って、例えば事件が発覚してから、何が起こったのかを監査役が調査していたのでは、すでに手遅れと考えられるのである。
そもそも会社法が定める監査役の責任は重いのであるが、それを気付かせる結果となったのが、この粉飾事件であったと見るべきである。この事件を契機として、監査役の責任のあり方についての検討がさらに進むことを期待したい。
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