(「企業リスク」リスクの視点2012年10月号)
アフリカのシエラレオネという国は西アフリカの大西洋岸に位置する国であるが、映画「ブラッドダイヤモンド」の舞台となったことで知られる。この映画では、傭兵に扮するレオナルド・ディカプリオが紛争ダイヤモンドを手にしようとするストーリーである。武装勢力が取り仕切っている採掘場の悲惨な様子や、その産地が偽装されロンダリング(洗浄)される実態が描かれている。
第二次大戦後最大数の死者を出し、武装勢力による住民に対する暴力行為が絶えないことから史上最悪の紛争地域と呼ばれるのはどこか。と問われるとシリア、リビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、チェチェン、ソマリア、アフガニスタン、イラクなどは思い浮かんだとしても、アフリカのコンゴ民主共和国は出てこない。これまであまり報道されていないためである。
コンゴ民主共和国は中央アフリカに位置する国で、1997年まではザイール共和国と呼ばれていた。1994年に隣国のルワンダ共和国で起きたフツ族によるツチ族に対する大虐殺がこの紛争の始まりとされている。実は、コンゴ民主共和国とその周辺国における紛争は、死亡者数が540万人に上る世界最大の紛争と言われているのである。
この紛争地域は、地下資源の宝庫であり銅、コバルトをはじめとする鉱物を豊富に産出する。コンゴ民主共和国とその周辺国においては、武装勢力が非人道的な行為を繰り返し、住民に鉱物を採掘させてそれを資金源としている。したがって、それらの鉱物を購入することは、結果としてその武装勢力に資金提供することになる。そのため、企業は人権保護の見地から、このような紛争鉱物(conflict minerals)を製品に使用することを避けなければならない。
人権保護はCSRの観点から重要なテーマである。東南アジアの生産委託先で児童労働が行われていたとして、米国のスポーツ用品会社に対して不買運動が起こった。この事件はCSR関係者には良く知られている。紛争鉱物も人権という点では同じであり、CSRの観点から調達に気を付けることが必要となる。
しかし、企業の自主努力だけでは、対応の徹底に限界がある。2008年に人権保護に対して各国がもっと関与すべきであるという趣旨のラギー・フレームワークが国連で採択された。これに呼応して、米国は企業を規制するための法律(ドッド・フランク法1502条)を成立させた。
この法律は証券取引所法を改正することを規定しており、その証券取引所法の運用規則としてのSEC規則案が2010年12月に公表された。その後今年の8月22日にようやくそのSEC規則が確定した。このように最終化が難航したのは業界・政界からの意見調整に手間取ったからと考えられる。
スズ鉱石、タンタル鉱石、タングステン鉱石、金鉱石の4鉱物が紛争鉱物と定義され、コンゴ民主共和国等において算出する紛争鉱物を製造等に使用することにより武装勢力に資金援助している米国上場企業は、その旨を記載した紛争鉱物報告書をSECに提出する。これには外部監査を受けることも義務づけられている。これらの4鉱物は携帯電話を始めとする電子機器に使用されていることから、部品のサプライヤーとしての日本企業にも少なからず影響を与えると予想される。
米国の法律は紛争鉱物全般に対する規制ではなく、特定地域の特定鉱物のみを対象としていることから、政治的な思惑が見え隠れすることは否めない。
この規制により、企業がこのような紛争鉱物を製造等に使用することを避ける動きがすでに出ている。しかし、この規制は開示と監査を求めるだけであり、その鉱物の使用を禁止するものではない。このため、CSRには反するが、企業はいつまでも紛争鉱物の使用を開示することができる。
このテーマにおける大きな課題は消費者の意識向上である。たとえば「紛争鉱物は使用していません」と製品表示することの意味を消費者が理解するようになれば、企業の動きにも影響を与えることができる。そこまで行くのには少し時間がかかりそうである。
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