電通の不正請求
電通は2016年9月23日、インターネット広告料をスポンサー企業に対する架空請求などが633件見つかったと発表しました。2012年11月以降で広告主111社からの広告料約2億3000万円分だったそうです。
電通によると、これには故意と過失の両方が含まれ、架空請求以外に、掲載期間のずれや運用実績の虚偽報告もあったそうです。これらの請求には社員ら100人余りが関与し、このうち14件は、未掲載なのに広告料計約320万円を請求していました。
不正請求の発生原因
なぜこのような問題が発生したのでしょうか? 日経ビジネス(2016年9月24日)によれば、電通は次のように説明しています。
「デジタル広告には、指定した期間、指定したスペースに対しての掲載を保証する『予約型広告』と、広告の露出やクリック数、動画の視聴完了など様々な基準に基づいて対価を請求する『運用型広告』がある。デジタル広告の領域全体では、売り上げや売上総利益は前年比で2ケタ成長しているが、なかでも2010年ごろから『運用型デジタル広告』の比率が高まってきた。今回問題が起きたのは『運用型』で、正確な数値は後ほど報告するが、すでに(デジタル広告の)過半を超えている」
バックグラウンドとして、運用型広告が増えてきているということがあるようです。インターネット上での広告露出数などはトラッキングが難しいので、広告会社としてもミスをすることがあります。またスポンサー企業も一体何回広告が流れたかを把握することも難しいです。このため、企業は広告会社からの報告を信じるしかないということになります。
チェックの仕組みを構築しないとこのような問題は今後も続くと思います。
放送確認制度
これとよく似た事件が昔起こったことはご存知でしょうか? 1997年に福岡放送と北陸放送はCMを間引き、未放送分のCM料金をスポンサーより受け取っていたことが判明しました。その後1999年にも、静岡第一テレビが同様の事件を起こしています。
民法テレビは広告収入で成り立っていることから、広告主の信頼回復を至上命題として、放送確認制度が導入されました。テレビ会社には営業放送システム(営放システム)というのがあり、そこで番組の放送が一元管理されています。主調整室には監視員がいるそうでリアルタイムで放送をチェックしているようです。
営業放送システムによる放送記録を基にして、放送確認書がスポンサー企業に発行されます。企業は、広告会社からの請求と放送確認書を照合することにより、広告の「納品確認」ができるという仕組みです。
このような内部統制は、運用(システムが間違いなく動く、監視員が居眠りしていない、スポンサー側で請求書と放送確認書を照合するなど)がさえしっかり出来ていれば、非常に有効と考えられます。
インターネット広告の監査
筆者は10年以上前にあるインターネット広告のベンチャー企業から、「クリックしたら広告が表示される仕組みを監査してほしい」という依頼を受けたことがあります。スポンサー企業からの信頼を得るため、監査法人から監査を受けたらよいのではないか、と考えたのだと思います。
しかし、そのような依頼は断らざるを得ませんでした。証拠となるクリック回数は、そのベンチャー企業の内部データであり、それ以外の証拠がないので、監査することができないからでした。
上記の放送会社の放送確認書も放送会社のシステムを基にして作成しているようですので、内部データであることに違いありません。しかし、監視員がいるなどの放送会社における内部統制が働いているようですので、かなり証拠力の高いものであると考えられます。特に放送が一元管理されているシステムがあるという点は評価できます。
インターネット広告一元管理システムの整備・運用の必要性
電通で起こった問題は、他社でも起こる可能性が高いと思います。すでに他社でも起こっているかもしれません。インターネット広告会社は、運用型のインターネット広告の放映を一元管理するシステムの構築や社内での監視体制の強化などを急ぐ必要があると思います。そのよう結果に基づき、放送会社のように放送確認書を発行するような制度の確立も期待されます。
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