「アイルランド政府が最大で130億ユーロの違法な税優遇を米アップルに与えたとして、過去の優遇分や利息を追徴課税で取り戻すよう同国に指示した。」と日経新聞が報じています(2016年9月1日)。
筆者は、最初この記事を見て、アイルランドによる税法に適用誤りがあり、それを欧州委員会が指摘したのかと思いました。実は税法の話ではなかったのです。
アイルランドは自国で決めた優遇税制をアップルに適用したのであり、アイルランドの税法に従った対応だったのです。実は、欧州委員会は日本の「独占禁止法」にあたる「EU競争法」に基づき、アイルランドによる補助が欧州域内の公正な競争が妨げられたとしたわけです。
要するに、企業によるカルテル(価格協定)などを禁ずる法律をアイルランドの優遇税制を受けたアップルに適用したということでした。独禁法は、公正な競争を阻害する企業を処罰する法律です。EU競争法は、アイルランド国家に対して適用されたのではなく、追徴金はアップルが払うことになります。しかし、アップルとしてはアイルランドの優遇税制の適用を受けただけであり、そのような税制を作ったのはアイルランドの責任です。なんだか腑に落ちませんね。
EU当局者によると、アイルランド政府は1991年と2007年に同国でのアップルの納税額を最小限にする措置を決めている、ということですので、今になって、欧州委員会がこのような指摘をしたのには何かの意図があるはずです。
米財務省は先週、欧州委員会が、EU加盟国の税制よりも強い「超国家税当局」になる危険が生じていると述べたそうです。(BBC,
NESJAPAN)
130億ユーロということですので、日本円にすると1.5兆億円ということになります。この場合、追徴金というのは、EU競争法にもとづく課徴金(罰金のようなもの)ではなく、アイルランドの法人税(と延滞利息)のようです。アイルランドはアップルに対して、過去に遡って課税しなさい、というのが欧州委員会のアイルランドに対する「指示」だったのです。
事実、アップルはアイルランドで少なくとも過去10年間ほとんど法人税を払っていなかったようです。しかし、これはアイルランドの税法に従ったものですので、アイルランドがアップルに課税することにしない限り、アップルの納税義務が発生しないということになると思います。
もし、アップルが追徴税を支払った場合には、アイルランド子会社が払った追加的な法人税について、何らかの形で外国税額控除を受けることができるようなことも想定されます。そうすると、米国で多額の法人税の還付を請求するといったことも考えられます。米国政府にとっては、大きな痛手となります。米国税務当局がこの還付に応じないと2重課税の問題となってしまいます。
米国の法人税(income tax)は、世界所得に課税されることから、アイルランドで納税していないのであれば、おそらく米国で相当分を納税しているのではないかと考えられます。よって、上記のようにアイルランドで追徴税を納税したら、米国で多額の還付が発生すると予想されます。米国が欧州委員会の決定に反発しているのはこのためと思われます。
ただ、アイルランドでの節税がそのまま米国で課税されるようなら、アップルの全体での節税にはなりませんので、1.5兆円相当分よりかなり少ない税金を米国で払っているのであろうと思われます。それが還付対象になる訳です。(これはあくまで筆者の推測です)
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