クレジットカードのAmerican Expressの創業者であるHenry Wells とWilliam Fargoが1852年に創設したのがWells Fargoという銀行です。Fargo氏ニューヨーク州バッファローの市長を務めたこともあるようです。
この2人は米国東部の出身ですが、西部のゴールドラッシュに目をつけて、サンフランシスコで創業したそうです。Wells Fargoというと駅馬車(stagecoach)で有名です。駅馬車による運送業を行うWells Fargo Expressと銀行業は1905年に分離されたそうです。その後、1998年にNorthwestという米国中部のミネソタ州の会社に買収されています。現在の筆頭株主はウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイということでもこの銀行は有名です。
この時価総額が世界最大のこの銀行が、金融の中心地であるニューヨークではなくサンフランシスコを拠点にしている点は運送業(大陸横断)と金融業の両方をやっていたという歴史的背景が要因ではないかと、興味を惹かれるところです。
さて、顧客の許可がないまま口座を開設して預金を移動したり、クレジットカードを発行したりする行為がこの銀行で発覚しました。不正に開設された口座は150万件以上、関与した行員は5000人以上。不正に発行されたクレジットカードも56万枚を超えるそうです。米消費者金融保護局(CFPB)による罰金額は2011年のCFPB発足後最高額となる1億8500万ドル(約190億円)だったということです。
「ウェルズ・ファーゴの行員は売り上げ目標を達成して賞与を得る目的で、顧客の許可を得ずに秘密裏に口座を開いた」と報道されていることから、このような不正が行われた背景には預金口座を開設したりクレジットカードを発行するとボーナスが出るというインセンティブがあったからと考えられられます。
詳しい事実はこれから明らかになるかもしれませんが、上記の情報から言えることは過激なインセンティブが銀行員の「動機」になったことは間違いなさそうです。ただ、動機だけでは不正は起きません。やろうと思えばやれる「機会」があったに違いありません。要するに預金開設という銀行にとっては基本的な業務に関わる内部統制が不備だったということです。さらに5300人以上が解雇されたということですので、多くの銀行員が関わっていたことから、「同僚もやっているので問題ないだろう」という不正行為の「正当化」がされていたことは言うまでもありません。
後付けで考えると、このように不正のトライアングルの3要素を識別することは簡単です。一般に報道では「動機」に注目されますが、いくら動機があっても機会がないと不正の実行は難しいのです。正当化は後から付いてくるものなので、動機だけでなく機会にも注目することが必要です。
取締役会によるモニタリングという観点では、新規ビジネスの提案(この場合は複数預金口座を開設するビジネス手法、社員へのインセンティブの提案など)、内部監査の報告、リスクマネジメントの状況報告などが不正のトライアングルを見出すきっかけになると思います。この銀行の場合は、社員に対する過激なインセンティブ(動機)と内部統制の不備(機会)を、できる限り早期に取締役会で察知しておくことが必要だったわけです。
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