Translate

2017年12月17日日曜日

金融検査マニュアルの廃止

金融庁が検査のために使う金融検査マニュアルを2018年度末に廃止するという発表を行いました。1999年に金融検査マニュアルを作るときには監査法人からも人を出して手伝いました。日銀出身のK氏(その後逮捕された方)が「新しい金融検査と内部監査改訂金融検査マニュアルの読み方」という本を出され、どこの銀行の内部監査(検査)部門に行ってもこの本が置いてありました。その後、証券、保険向けの検査マニュアルも順次公表されました。

検査マニュアルは、そもそも金融庁の検査官が検査をするときに使うものです。それを公表することは、検査の手の内を明かすことになりますので、本来はしてはいけないことです。監査法人は、各法人の監査マニュアルや監査手続書(これは監査先ごとに作成します)を監査先に公開するようなことはしません。

金融庁は、むしろ公表するために検査マニュアルを作成したと言った方が良いと思います。これは、銀行などの内部統制の整備運用の指針を与えることを目的としていたと思います。これまで銀行などはこの検査マニュアルを指針として内部統制の整備運用をしてきたということが言えます。

英米の銀行監督機関では、1990年代の後半から検査マニュアルを公表するようになりました。我が国の金融庁ではこれに見習って検査マニュアルを作成して公表したのだと思います。

今回の検査マニュアル廃止の決定は、欧米の監督機関による廃止の方向に習ったのかと思いましたが、どうもそうではなさそうです。米国のFDIC(預金保険機構)OCC(銀行監督機関)は、従来どおり検査マニュアル(examination manual)をウェブサイトに公表しています。

金融庁の森長官は、大きな改革を実施中ですが、その一環として検査局を監督局に集約するということも公表しました。これで検査がなくなるということではありませんが、「対話」を重視した検査になるということなのだそうです。検査マニュアルに対応しておけばよいという考え方から、自分の頭で考えてリスク管理をするという考え方に変えてもらおうということだと思います。

これによって、金融庁任せでなく、独自の内部統制(その前提となるリスク管理)の整備運用することが求められることから、各金融機関の責任が重くなるということも言えます。実は、そうなると金融庁の検査官の検査にも高度な技能が求められるようになります。

2017年12月12日火曜日

三菱グループの取締役選任議案に三菱UFJ信託が反対

三菱UFJ信託銀行は、三菱自動車の取締役選任議案の一部に反対投票をしたそうです。信託銀行は株主総会議案への賛否を公開することにしました。その中で、三菱自動車の取締役として、三菱重工社長の宮永俊一氏と三菱商事会長の小林健氏を選任する議案に対して、三菱UFJ信託銀行が反対したそうです。

同じ三菱グループのことですので、グループの会社の社長や会長に取締役になっておいてもらった方がよいのではないか、とも考えられます。そもそも三菱グループの信託銀行が三菱自動車の議案に反対するというのはなぜだろう、と思う人も多いかもしれません。

三菱UFJ信託は、三菱自動車の証券代行業務(株主名簿を維持したり、総会小通通知を送ったり、株主に配当を払ったりする業務)も行なっているはずです。要するに三菱自動車は三菱UFJ信託銀行のお客様でもあります。そのお客様の取締役に三菱グループの人たちがなるのに反対した、ということです。なんだかヘンです。

信託銀行は、投資信託や企業年金の投資先の株式を受託者として保管管理しています。その結果、信託銀行は投資信託や企業年金への出資者(拠出者)に代わってその株式の議決権の行使を行うことになります。その際に出資先の会社のパフォーマンスが最大になるような議決権の行使をすることが求められます。それがお金をお預けている受益者(投資信託保有者や企業年金拠出者)の利益になるからです。このような信託銀行の責任を受託者責任(フィデューシアリー・デューティ、Fiduciary Duty)といいます。受益者の利益を守る責任を負っているということです。受託者責任はスチュワードシップコードの基本となる考え方です。

上記の三菱UFJ信託銀行の取締役選任への反対投票は、受託者責任の観点から、受益者のために一番良い投票行動を選んだ結果だったのです。

三菱重工と三菱商事は、三菱自動車の重要な取引先と考えられます。取引先を代表するような人(三菱商事の小林会長は代表取締役ではないですが)が取締役になると、そろぞれの出身会社の利益になるような経営意思決定をする可能性があります。その決定は、必ずしも三菱自動車の利益にならない可能性があります。

これが、取引先を代表する人を取締役に入れるべきではない根拠です。しかし、三菱自動車の場合は、経営危機に陥った時、三菱商事を筆頭にブループ会社が助けてくれた経緯があります。三菱自動車を買ってくれるのも三菱グループの会社だろうと思います。そういう点から、この三菱グループ会社からの取締役選任に反対した議決権行使がそれで良かったのかちょっと腑に落ちない感じもします。しかし、時代はここまできたということも言えると思います。