金融庁が検査のために使う金融検査マニュアルを2018年度末に廃止するという発表を行いました。1999年に金融検査マニュアルを作るときには監査法人からも人を出して手伝いました。日銀出身のK氏(その後逮捕された方)が「新しい金融検査と内部監査―改訂金融検査マニュアルの読み方」という本を出され、どこの銀行の内部監査(検査)部門に行ってもこの本が置いてありました。その後、証券、保険向けの検査マニュアルも順次公表されました。
検査マニュアルは、そもそも金融庁の検査官が検査をするときに使うものです。それを公表することは、検査の手の内を明かすことになりますので、本来はしてはいけないことです。監査法人は、各法人の監査マニュアルや監査手続書(これは監査先ごとに作成します)を監査先に公開するようなことはしません。
金融庁は、むしろ公表するために検査マニュアルを作成したと言った方が良いと思います。これは、銀行などの内部統制の整備運用の指針を与えることを目的としていたと思います。これまで銀行などはこの検査マニュアルを指針として内部統制の整備運用をしてきたということが言えます。
英米の銀行監督機関では、1990年代の後半から検査マニュアルを公表するようになりました。我が国の金融庁ではこれに見習って検査マニュアルを作成して公表したのだと思います。
今回の検査マニュアル廃止の決定は、欧米の監督機関による廃止の方向に習ったのかと思いましたが、どうもそうではなさそうです。米国のFDIC(預金保険機構)やOCC(銀行監督機関)は、従来どおり検査マニュアル(examination manual)をウェブサイトに公表しています。
金融庁の森長官は、大きな改革を実施中ですが、その一環として検査局を監督局に集約するということも公表しました。これで検査がなくなるということではありませんが、「対話」を重視した検査になるということなのだそうです。検査マニュアルに対応しておけばよいという考え方から、自分の頭で考えてリスク管理をするという考え方に変えてもらおうということだと思います。
これによって、金融庁任せでなく、独自の内部統制(その前提となるリスク管理)の整備運用することが求められることから、各金融機関の責任が重くなるということも言えます。実は、そうなると金融庁の検査官の検査にも高度な技能が求められるようになります。