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2018年12月22日土曜日

日産ゴーン事件:監査法人がマスコミに情報提供している


1220日の東京地裁による勾留延長請求の却下を受けて、検察当局は一転して、ゴーン氏の3度目の逮捕容疑を特別背任罪に切り替えました。

ゴーン氏の資産管理会社による新生銀行とのデリバティブ取引契約において、リーマンショックの影響で多額の損失が発生したことから、その評価損約185000万円の負担を日産に付け替えたということです。これは、すでに雑誌などで報道されていた内容でした。

注目すべきは、新日本監査法人が、「会社が負担すべき損失ではなく、背任に当たる可能性もある」と日産に対して指摘していたと22日の日経新聞に報道されたことです。

筆者のブログで紹介したように、新日本監査法人は「ゴーン氏に対する業績連動報酬は決算書に計上されていた」(全額ではなくその一部と筆者推定)との情報を日経ビジネスに提供しています。それに加えて、この日経新聞の報道です。

これまで、監査法人は守秘義務を盾にとり、裁判所の命令などがない限り、監査の過程で得られた情報を外部に提供することはありませんでした。

拙著「東芝事件総決算」で紹介したように、日本取引所自主規制法人の佐藤理事長は「(監査法人は)契約相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、投資家に対して、もっと説明することは可能ではないでしょうか」と語っています(文藝春秋201712月号)。

東芝の監査を実施していた新日本監査法人は、ここでの「監査法人」の一つでした。筆者の想像ですが、新日本監査法人は、元金融庁長官であった佐藤理事長のこのような発言が念頭にあり、監査法人がある程度の情報を外部に提供してもよい時代になったと認識したのではないでしょうか。

これも筆者の想像ですが、新日本監査法人は日産から了承を得るだけでなく、金融庁とも事前に話をして、この評価損の付け替えについて、彼らの監査ではどのように扱ったのかについて、マスコミに対して情報提供したのではないかと思います。

筆者が監査法人に勤務していた時代は、監査先の監査内容についてのマスコミによる取材は一切受けないという方針でした。他の監査法人も同じ方針だったと思います。


2018年12月20日木曜日

ゴーン氏との合意書

ゴーン氏との役員報酬の合意についての状況が報道されました。おそらく報道機関では、合意書などの現物コピーを入手しているのではないかと思います。
日経新聞(2019年12月20日朝刊)には、つぎのような図が掲載されました。

まず、「雇用合意書」というのがあり、これはゴーン氏の退任後の報酬に関する取り決めのようです。「競業回避契約」は、日産自動車退任後に、トヨタ、フォードなどのなどの同業他社に移籍しないための引き留め料的なものと考えらえます。一時払いなのか、月次払いなのかは分かりません。

雇用合意書のコンサル料は、退任後に支払う報酬で「顧問料」に近いと思いますが、ゴーン氏が退任後に何等かの役務(コンサルティングサービス)を会社に提供することに対する報酬と考えてもよいと思います。

この雇用合意書は、上図のように西川社長とケリー元代表取締役が署名しています。西川社長は、この事件に関する最初の記者会見で、「内部通報」によりゴーン氏の不正が発覚したとしていましたが、退任後に報酬を支払うことについては承知していたということになります。

次に、「報酬合意事項」という書類があります。これにはゴーン氏とゴーン氏の元秘書が署名しているということです。それには、上図にあるように、総報酬、支払い済み報酬、延期報酬が書かれています。「総報酬」=「支払い済み報酬」+「延期報酬」ということでしょう。

「報酬一覧」という書類には、ゴーン氏が自ら手書きで修正した記録があると報道されています。このリストは2016年までしかないですが、おそらくこれまでの報酬のうち、支払い済み額と支払延期額が記載されているリストだと思います。

これまでの報道では、取締役会では、ゴーン氏に取締役個人別の報酬決定を一任する決議をしていたということです。ということは、ゴーン氏に決定権があったということになります。

検察当局としては、この3つの書類は、ゴーン氏が決定した証拠だとしていると思います。筆者は、ゴーン氏に決定権があったとしても、その結果をゴーン氏が隠し持っており、報酬決定結果を取締役会に報告していないのであれば、決定したことにはならないのではないかと思います。

取締役会に報告をすれば、役員報酬または退職慰労金として計上されることになり、これはゴーン氏としては避けたいことでした。ゴーン氏は、退職時と退職後の報酬の決定は、その時の取締役会(会長に一任したときはその時の会長)の承認事項であると主張しているようですが、それが正しいように思います。

検察当局は、このほかに有力な証拠を持っているのでしょうか。

また、気になるのは、役員報酬として記載されていなかった金額の一部が、財務諸表には計上されていたと解釈できる日経ビジネスの記事があります(筆者のブログ「日産の決算書には役員報酬が計上されていた」)。これについても、どのような展開になるか注目されます。

2018年12月12日水曜日

日産自動車の役員報酬エクスプレイン


コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-10①では、指名・報酬などの重要な事項に関する検討に当たり、任意の諮問委員会を設置するなどにより、独立社外取締役による関与・助言を得るべきであるとしています。

日産自動車は、この補充原則に準拠(コンプライ)していないため、次のように説明(エクスプレイン)しています。

指名・報酬等の重要事項への独立社外取締役の関与・助言
各取締役は、取締役会議長の提案をもとに、取締役会の決議を経た選任議案に基づき選任されている。 各取締役の報酬の決定手続きとしては、取締役会議長が、取締役会の決議及び代表取締役との協議に基づき、独立社外取締役の助言、各取締役の報酬について定めた契約、業績、役員報酬のコンサルタントであるタワーズワトソン社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に、決定している。独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど、豊富な経験と高い見識に基づき、役割・責務 を十分に果たしていただいている。これらを踏まえ、現行の仕組みで有効に機能していると考えている。(日産自動車 コーポレートガバナンス報告書 最終更新日:201875日)

「各取締役の報酬の決定手続きとしては、取締役会議長が、・・・・決定している。」となっています。要するに取締役会議長のゴーン氏が決定するということが記載されています。

「取締役会の決議・・・に基づき」となっていますので、取締役会決議はしていたのですが、報道によれば、取締役会議長に一任するという決議をしていただけのようです。

また、取締役会議長は「代表取締役との協議」もすることになっていますが、逮捕されているケリー氏が代表取締役でしたので、ケリー氏と協議するという意味になります。

「独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど」と記載されています。取締役会において、取締役各人別の報酬額の決定について、積極的に議論したのでしょうか。

通常、報酬委員会のような少人数でないと取締役各人の報酬について「積極的に」議論することができないのではないでしょうか。報酬支払対象者を前にして、その業績連動報酬額について「それでは多すぎる、少なすぎる」などといった議論はできないと思います。

この記載は、「指名・報酬等の重要事項への独立社外取締役の関与・助言」ですので、一般論として「独立社外取締役が積極的に議論に参加」したということではないと思います。

ということは、例えば「一部の取締役の報酬は高額すぎるのではないか」と独立社外取締役の一人が発言したという記録が残っていたら、この記載は一応正しいということになります。

一方、ゴーン氏に役員報酬の決定を一任し、その後は結果報告を受けていただけであれば、「独立社外取締役は、取締役会において、積極的に議論に参加するなど」という記載は誤りということになります。

2018年12月10日月曜日

「第四 提出会社の状況」の役員報酬と「第五 経理の状況」の役員報酬


日産自動車とゴーン氏らが起訴されました。その容疑の内容は、次のとおりです。

「地検の発表資料によると、両被告は2011年3月期のゴーン被告の報酬や賞与などが約177700万円であったにもかかわらず、9億8200万円と記載した有価証券報告書を同年6月に関東財務局長に提出した。同様に12年3月期から15年3月期の報酬などに関して、約807800万円だったのに40500万円と記載するなど重要事項について虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した。」(Bloomberg 2018/12/10

以上をまとめると次のようになります。

事業年度
記載額
差額
2011年3月期
177700万円
9億8200万円
79500万円
2012年3月期から2015年3月期
807800万円
40500万円
407300万円

日経新聞は、「日産は公訴時効が成立した113月期を除く4年分で起訴された。」としています。ということは、2の4年間で起訴されたということになります。Bloombergが1と2に分けて書いたのは、これが理由のようです。

日経イブニングスクープ(2018/12/10)では、「記載されていなかった役員報酬に絡む費用を20193月期決算で一括処理する方針だ。正しい決算を作成するための社内管理体制が整っていると上場企業が投資家に向けて宣言する文書、「内部統制報告書」の訂正も検討する。」と書いています。

筆者が125日のブログ「日産の決算書には役員報酬が計上されていた」で紹介した日経ビジネス2018123日号「役員報酬開示の闇」によれば、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」となっていました。

これまでの新聞各社の記事では「役員報酬が過少記載」とするだけで、その役員報酬は有報の「第四 提出会社の状況」と「第五 経理の状況」の財務諸表のどちらも同額過少記載されていたような書き方になっています。

しかし、日経ビジネスが、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」としている以上、有報の「第四 提出会社の状況」の役員報酬と「第五 経理の状況」の財務諸表が一致していない状況であると考えられます。

しかし、「記載されていなかった役員報酬に絡む費用を20193月期決算で一括処理する方針」と報道されているのですから、決算の訂正も必要ということになります。

以上から、有報の「第四 提出会社の状況」の役員報酬には、退任後に支払う役員報酬が全額記載されておらず、「第五 経理の状況」の財務諸表にはその一部が計上されていたということと推定されます。

この点は、近いうちに明らかになると思います。



2018年12月5日水曜日

日産の決算書には問題の役員報酬が計上されていた


1 業績連動報酬は決算書に計上されていた

日経ビジネス2018123日号「役員報酬開示の闇」によれば、「EY新日本監査法人の複数の関係者によると、同じ期間中の各期の損益計算書の販売管理費(給与及び手当の項目)には、ゴーン氏に支払うSARの受け取り確定額が計上されているという」とのことです。

これは、重要な情報です。決算書にはゴーン氏に対する未払の業績連動報酬が計上されているということです。監査法人は、決算書(財務諸表)の監査を行いますので、それが計上されているのであれば、監査上の問題にならないのでしょうか。
  
2 役員報酬の虚偽記載とは何か

この情報によって、逮捕容疑である「役員報酬の虚偽記載」とは、何が虚偽記載されていたのかが分かります。

有価証券報告書(有報)の目次は次のようになっています。

1 企業の概況
2 事業の状況
3 設備の状況
4 提出会社の状況
5 経理の状況
6 提出会社の株式事務の概要
7 提出会社の参考情報

この中で、財務諸表は「第5 経理の状況」に記載されている連結財務諸表と財務諸表が監査法人による監査対象になります。

一方、虚偽記載されていたとされる役員報酬は「第4 提出会社の状況 5 役員の状況④ 役員の報酬等」に記載されています。この内容は、筆者のブログ「日産自動車の役員報酬はどのように開示されているのか、何が問題か?」でご紹介したとおりです。

ゴーン氏が虚偽記載したというのは、この「第4 提出会社の状況」に記載されていた役員報酬であり、一方「5 経理の状況」の財務諸表にはそれが正しく計上されていたということだ、ということになります。

3 監査法人はチェックしないのか

有報の「第4 提出会社の状況」に記載されていなかったSARが、「第5経理の状況」の財務諸表には計上されていたということが分かりました。

それでは、監査法人の監査では、この不一致を指摘しなかったのか、それは監査法人の問題になるのかという点を検討しましょう。

前述のとおり、監査法人による監査の対象は「5 経理の状況」に記載された連結財務諸表と財務諸表だけです。それ以外の記載は会社の責任となります。

しかし、監査法人が財務諸表以外を一切見ないかというとそうではありません。有報の「その他の記載内容」を「通読して」、監査した財務諸表と重要な相違があるかどうかを確認することになっています。

もし重要な相違があり「その他の記載内容」に修正が必要な場合、会計監査人はその会社に修正を求め、会社が修正に応じなければ、監査役等に報告するとともに、①監査報告書にその事項区分を設けて重要な相違について記載する、②監査報告書を発行しない、③可能な場合、監査契約を解除する、のいずれかの対応が求められています。

有報の「第4 提出会社の状況」に記載された役員報酬が、財務諸表と一致していないことについて、日産の監査人である新日本監査法人は、会社に問い正したが、「それ以上の追及はしなかったようだ」と冒頭の日経ビジネスの記事には記載されています。

未記載の業績連動報酬が年に10億円だったとすると、その金額が「重要な相違」と判断するのかどうかは微妙です。日産の連結税引前利益は7000億円ありますので、それと比較すると大きな金額ではありません。そのため、監査法人は監査報告書に記載するなど、前述の①から③のいずれかの対応は取らなかったものと考えられます。

4 監査基準改訂が先送りされていた

筆者のブログの中でアクセス数が多いKAM(Key Audit Matter)を監査報告書に言及するという、監査基準の改訂が行われた(平成3075日)ことはご存じの方も多いと思います。

実は、「その他の記載内容」の重要な相違については、監査基準の改訂が先送りされていたのです。今回の改訂の検討課題には入っていたようですが、時間の関係で先送りとなりました。

国際監査基準では、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を「常に」設け、監査・保証の対象でない旨などを記載した上で、未修正の「重要な虚偽記載」がある場合はその旨(ない場合は、報告事項がない旨)を記載するよう求めています。

この国際監査基準の改訂を日本の監査基準に反映することが検討されたのですが、時間切れとなったようです。

今回これが問題になったのですから、改訂しておけばよかったと、関係者は歯がゆい思いをしているかもしれません。いずれにしても、この点は近いうちに、日本の監査基準が強化されることになると思います。

ただし、日産の事例の場合、仮に監査基準が改訂されていたとしても、監査報告書に記載するかどうかについては、役員報酬に「重要な相違」があると判断するのかどうかが、ポイントになると思います。金額的(量的)には日産にとっては重要でないと言えますが、役員報酬の相違は質的には重要と考えられます。

さらに、仮に監査基準が改訂されていたとしたら「その他の記載内容」の項目が監査報告書に常設され、記載事項がないときは「報告事項がない旨」を記載することになります。役員報酬が10億円相違していたとしたら、「報告事項がない」という記載にはならない可能性が高いと思います。


日産側の伝家の宝刀、会社法308条1項


報道では、ルノーが日産の株式を43.4%所有し、日産が15%所有しているとされています。議決権に関しては、ルノーが日産に対する議決権はあるが、日産のルノー株式15%については議決権がないとされています。

ルノーが日産の株式を買い増して影響力を強化するのではないか、というような報道もされています。

1 日産がルノー株式を買い増して25%以上にするとどうなるか

もし、日産がルノー株を買い増したらどうなるでしょうか。ルノーと日産は、「株式相互持合」の状況です。日産のルノー持株は現在15%ですが、これが25%以上になれば、ルノーが持っている43.4%の議決権が行使できなくなります(会社法3081項)。今のルノー株は値下がりしているようですので、2000億円あれば、10%の買い増しができるそうです。(日経ビジネス2018.12.03, P15)
これは、日本の会社法では、ある会社が25%以上保有しているということは、ある程度言うことを聞く株主であるということです。このような株主は、自社の言うなりに議決権行使させることができ、他の株主の権利を損なうことになります。これを排除することが、この規定の目的です。

ルノーと日産を想定すると、この話が分からなくなりますので、A社とB社で説明しましょう。以下の場合は、B社の株主総会で、A社が所有する100株の議決権行使ができないというのが会社法の規定です。

・A社がB社の株主であり、100株所有している
・B社はA社の株式の25%を所有している

A社は、B社に株式の25%を所有されていますので、B社の関係会社です。株式の相互持合いで、A社が関係親会社のB社株式100株を持っていても、その100株の議決権が行使できないというルールになっているのです。

A社はB社の関係会社なので、B社の指示に従って、B社の株主総会で議決権行使すると考えられます。これはB社の他の株主の権利を損なうことになるため、A社の議決権行使ができない(停止される)のです。

そのルールが規定されているのは、下記の会社法3081項です。()内のアンダーラインがそのことを規定しているのですが、非常に分かりにくい条文です。

308
1.    株主株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。

株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有する場合を除き、株主は株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。」と理解すればよいと思われます。

なお、ただし書きは、「株式会社が単元株式数を定款で定めている場合には、一単元未満の端株については議決権がない」という意味なのだそうです。

2 ルノーと日産の株式相互持合に25%ルールは違和感がある

上記の会社法の規定は、言うことを聞かせられる株主(25%以上所有)の議決権がないということでした。日産がルノーの持株をあと10%買い増して、25%以上にしたら、ルノーは、日産の株主総会での議決権がなくなるのですが、ルノーは言うことを聞かせられるような株主なのでしょうか。

言うことを聞かないから日産が困っているわけです。会社法は、前述のA社とB社のような状況を想定しているのであり、そもそも支配関係が反対で、親会社が子会社を支配する関係であるときに、子会社が親会社の株式を25%所有したら、親会社が子会社を支配できなくなるということも想定しているのでしょうか。

この辺りは、深入りすると、難しい会社法の世界になるので、専門家の議論におまかせすることにしたいと思います。

3 日産が所有するルノー株式15%の議決権

現状は、日産が持っているルノー株式15%について議決権がないと報道されています。これは、フランスの会社法に日本の3081項のような規定があるのか、またはルノーと日産の取り決めがあるのか、のどちらかだと思います。このどちらなのかについて、これまでの報道を筆者が見る限り分かりません。どなたか分かる方がおられたらご教示ください。


2018年12月3日月曜日

本ブログの記事別アクセス数

筆者のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

皆様のアクセス数(ページビュー)の状況を見てみました。
最近1週間の統計は次の通りです。日産の記事を7本書きましたので、上位に来ています。しかし、2015年に書いた業績連動報酬のブログが一番上に来ました。日産ゴーン事件の関連であることは明らかです。KAMも依然として人気があるようです。議題の整理は、コーポレート・ガバナンス改革の基本になることですが、いつも上位にランクされています。


次に、過去1か月の統計を見てみましょう。
ここでは、議題の整理が1位、KAMが2位です。2015年に書いたフロランジュ法は日産ゴーン事件の影響で上位になっています。

今後も本ブログをお楽しみください。

農協の貸倒引当金は過大計上されている

法人税法では、貸倒引当金の繰り入れ限度額が決まっています。限度額まで税務上の経費(損金)として認め、それ以上の繰り入れをしても税務上の経費として認められないということになっていました。しかし平成24年から、実は資本金1億円超の会社(上場会社はこれに該当)については、貸倒引当金の繰入額は税務上の経費(損金)としては認められないということになりました。要するに、税務上の貸倒引当金は廃止されています。

今日(2018年12月3日)の日経新聞によると、会計検査院が調べた結果「検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。」ということです。

何のことかというと、本来は資本金1億円以下の中小企業にしか認められていない税務上の貸倒引当金が、銀行保険業については、依然として認められてきたため、このようなことが起こっているということのようです。

銀行・保険業の法定繰入率は、3/1000であり、これは実際の貸倒実績(過去3年平均)と比較して30倍であったということです。法定繰入率の30分の1は0.01%です。これが実態なのに、期末債権残高の0.3%を貸倒引当金として繰り入れても税務上の経費として認められるということです。

日経新聞では、「農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。」としています。会計検査院は、政府機関の検査をする役所であり、民間の銀行・保険業は対象外です。

それでは、メガバンクや大手保険会社も同様の優遇を受けているということでしょうか。これらの銀行・保険会社については、法定繰入限度を採用することができないはずです。その理由は、国税庁が一律に決めた繰入率に基づく会計処理は、適正な会計処理とは認められないからです。

実は、農協が実績率の30倍もの法定繰入率を使用しているというのは、適正な会計処理をしていないという意味なのです。すなわち、農協の貸倒引当金は過大計上されている(その分利益が過少計上)わけです。

この日経新聞の記事のタイトルは「貸倒引当金「特例」過大計上で税収減か」ということで、税収を確保するためには、税制を変えたほうがよい(例えば法定繰入率を下げる)というのが記事の趣旨だと思います。しかし、この記事によって、図らずも農協の会計処理が適正でない、ということが分かってしまったということになります。

ご参考のために、日経の記事を転載しておきます。

貸倒引当金の「特例」過大計上で税収減か 検査院が調査

2018/12/3付
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中小企業などの負担を減らすため設けられた貸倒引当金の特例措置を会計検査院が調べた結果、引当金が過大に計上されて法人税の減収につながっている恐れがあることが2日までに分かった。
検査院は引当金の繰入限度額の計算方法として認められる「法定繰入率」が実際の貸し倒れ発生率を大幅に上回り、実態と懸け離れていると指摘。繰入率は1985年度以降見直されておらず、関係省庁に検証を求めた。
貸倒引当金は損失見込み額を費用として計上し、農協などは一定限度額まで損金として繰り入れ課税対象から外すことが認められている。限度額は貸し倒れ発生率か法定繰入率で算出し大半が繰入率を採用している。
検査院が2011~15年度に特例を適用した延べ178万法人を調べると、全業種で法定繰入率が貸し倒れ発生率を大幅に上回り金融保険業で30倍近く高かった。
その上で発生率を基にした限度額から法人税の減収額を推計すると、農協など農林水産省の所管法人だけで15年度で約133億円に上ることが分かった。

2018年11月29日木曜日

報酬ガバナンスの今後

1 日産自動車の役員報酬は「確定していたか」が争点

日産自動車の役員報酬の状況がかなり分かってきました。

検察当局の逮捕容疑:役員報酬の各役員別の決定はゴーン容疑者に一任されていた。未払であるが確定している役員報酬であるので、それを開示すべきであった。本人と関係者がサインした同意文書がある。

ゴーン氏の主張:ケリー容疑者(元代表取締役)に法的に問題ないように処理するよう指示した。ケリー容疑者は金融庁に確認し有報に開示しなかった。同意文書はあるが、役員報酬は確定していない。(金融庁の回答は、確定しているのであれば役員報酬として開示が必要というもの)

筆者のこれまでのブログに記載のとおり、この未記載の役員報酬は、取締役会の目に触れず、経理部門には報告されず、役員報酬としての会計処理もされていません。

注意が必要なのは、私的な投資や私的な費用を会社に支払わせたというのは、この役員報酬の問題とは別だという点です。

上記の情報からは、役員報酬が「確定した」とする検察当局の主張がポイントですが、確定させる権限を取締役会から一任されていたのはゴーン氏ですので、確定しているかどうかを決めるはゴーン氏ということになります。

ゴーン氏が確定していないと主張し、取締役会への報告・有報等への開示・会計処理のすべて行われていないという状況です。このあと検察当局はどのように動くのでしょうか?

2 報酬ガバナンスが問われる

コーポレート・ガバナンスにはいろいろな役割がありますが、そのうち役員報酬を決めるという重要な役割があります。

今回の日産自動車の事件は、この問題に大きな課題を残すことになるでしょう。

役員報酬限度額は、役員による報酬の「お手盛り」(過大支払)を防止する趣旨から、株主総会の承認事項になっています。このため、役員報酬の上限を決めるところまでは株主総会で承認されます。

株主総会では、各役員別の役員報酬額の決定は取締役会に一任すると決議するのが普通であり、その決議は適法とされています。

それでは、取締役会で役員別の報酬額を議論して決めるのかというと、そうなっているでしょうか。日産では日産自動車の場合、これがゴーン氏に一任されていました。取締役会での検討がされていなったようです。有報には次のように記載されてます。

<役員報酬の決定方法>
取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する。

「取締役会議長(ゴーン氏)が・・・・決定する」と明確に記載されています。ケリー容疑者は代表取締役でしたので、ケリー氏と協議して決めるということになります。西川社長も代表取締役ですが、上記の文言は代表取締役の1人と協議すれば決定できると読めます。

3 報酬委員会の役割

取締役会の中に、報酬委員会が設置されている会社では、報酬委員会でこれが検討されるはずです。この報酬委員会には社外取締役が参加するのが普通です(法定の場合は過半数が社外)。

日産自動車は、監査役設置会社ですので、もし報酬委員会の設置をするのであれば任意の報酬委員会になります。

報酬委員会が設置されていても、その役割は会社によっていろいろのようです。会社法上の役員、すなわち取締役と監査役の報酬だけでなく、会社法上は社員(従業員)と同じ扱いの執行役員の報酬も詳細に検討している会社があります。

一方で、各人別の検討は社長に一任し、報酬委員会ではその結果の報告を受ける程度の報酬委員会もあるでしょう。そもそも、報酬委員会のメンバーは取締役ですので、自分の報酬もそこで検討することになります。そこでお手盛りが生じる可能性も否定できません。

社長の報酬について、報酬委員会で議論している会社はどの程度あるでしょうか。報酬委員会に社長が入っていたら、社長の報酬は議論できないのではないでしょうか。

日産自動車事件を契機として、報酬ガバナンスの在り方が議論されることになるでしょう。「お手盛り」を防ぎ、各取締役の働きに応じた報酬を決めるために、今後、報酬委員会の役割や機能について規制強化(コーポレートガバナンス・コードの改訂、会社法の改正、金商法の改正など)がされることになりそうです。

たとえば、厳し目の案としては、次が考えられます。

  • 報酬委員会は全員社外取締役で構成すること
  • 社外取締役の報酬は、報酬委員会ではなく取締役会で決議すること
  • 報酬委員会では役員各人別の業績評価を行い、役員各人別の報酬案を決定すること
  • 取締役会では報酬委員会による報酬案を尊重して、役員各人別の報酬額を承認すること

少なくとも、取締役会で各人別役員報酬の承認を行うべきでしょう。日産自動車のように役員報酬(の一部)が取締役会に報告されなかった、ということは避けなければなりません。

2018年11月27日火曜日

日産自動車:不記載の役員報酬の内容と両者の主張


有価証券報告書に記載されていないゴーン氏への役員報酬は次の2種類であったことが今日の報道で分かりました(日経1126日)。

①退職後受け取る予定の8年間で計約80億円
②未記載の株価連動型インセンティブ受領権(SAR)4年間で計約40億円

①のうち、20113月期から20153月期が50億円、20163月期から20183月期が30億円であり、2015年までの50億円について、虚偽記載容疑での逮捕だったようです。

上記のいずれについても、ゴーン氏の退職時または退職後に支払われることが決定された証拠となる内部文書があるようです。取締役会の目にも触れずに、ゴーン氏が自身の報酬を決めていたという証拠があれば、これも役員報酬とみなすことができるのかもしれません。

日産自動車では、取締役会に報告されていない役員報酬が、役員報酬として記載されていない状態と考えられます。普通なら取締役会が役員報酬と認識していないのですから、それで問題はないはずです。しかし、その決定を一任されたゴーン氏が役員報酬とした証拠があるため、その不記載を「虚偽記載」とする、というのが当局の論理と考えられます。

ゴーン氏が意図をもって、この自身への役員報酬を取締役会や社内の経理部門などに報告せず、その結果、有報の役員報酬を虚偽記載したため、当局は刑事罰としての虚偽記載とみなし、逮捕したという流れであると考えられます。

ゴーン氏はこれを否定しているということですので、上記の①②の役員報酬を自身が決定した証拠はないと主張しているように思います。

まだ支払われていない役員報酬の話であり、その決定がゴーン氏に一任されていたのですから、本人のみぞ知るということなのでしょうか。これはいずれ明らかになると思います。


取締役会に報告(承認)されていない役員報酬は役員報酬か


1 海外子会社からの役員報酬は報道されなくなった?

日産自動車でゴーン氏に対する役員報酬のうち、業績連動報酬である「株価連動型インセンティブ受領権」が、有報において過去4年間で40億円の記載がされていなかったと報道されました(日経20181126日)。

これまでは、過去5年間で業績連動報酬が40億円と海外子会社からの報酬が年1億円から1.5億円が記載されておらず、5年間で50億円の役員報酬が未記載であったという報道でした。

海外子会社は、連結対象外の子会社なので、有報上の役員報酬に記載する必要がもともともないのではないか、と書いている人がいましたが、それが理由でしょうか。昨日の報道では業績連動報酬だけになっています。

2 株価連動型インセンティブ受領権はバーチャルなストックオプション

筆者の前回のブログ「日産自動車の役員報酬は取締役会で承認されていたのか」で少しご紹介しましたが、株価連動型インセンティブ受領権をもう少し検討してみましょう。

ストックオプションは有名ですが、これは自社の株式を買い取る権利を与えるものです。行使価格(役員や社員が自社の株式を買い取る価格)をストップオプション付与時の株式の時価以上に設定にするのが普通です。

これは「税制適格ストップオプション」と呼ばれ、実際に株式を買い取った時には課税されず(税制非適格の場合はこの時点で給与所得として課税)、それを売却したときに課税されます。これは給与所得ではなく、株式譲渡所得(20.315%)になります。ちょっと高めの給与所得に対する税率より低い税率が適用されます。

オプションですので、買い取るかどうかはこの権利を付与された役員や社員の自由意思です。また、行使価格で買い取るためには自己資金が必要になります。株価が行使価格より大幅に高くなっていれば、かなりの儲けになるでしょう。

言うまでもないですが、ストックオプションが付与された役員や社員が、株価が上がるように頑張って働いてもらうというのがその目的です。ストックオプションによって、役員や社員が、経営者と同じ目線で、会社のためになるような働きをしてくれることを期待することができます。

株価連動型インセンティブ受領権(SAR)は、このストックオプションのようなものですが、いわば「バーチャルなストックオプション」です。実際に株式の売買は行わず、最初の株価を決めておき、そこから何年か経った後に株価が上がっており、それが役員の業績に基づくものであると認められたら、売却益に相当する金額を役員報酬として計上します。

大和総研による次の図によって、仕組みがよく分かります。この図では、フルバリュー(ファントクストック)とSARを比較しています。フルバリューもバーチャルなストックオプションのようなものですが、売却益部分ではなく、株価全体を報酬にするというものです。フルバリューの場合は、株価が値下がりしたときは、報酬がマイナスになるというやり方ができるそうです。SARの場合は、報酬がマイナスになることは普通ありません。



3 日産自動車のSAR

2013625日開催の株主総会で承認されたSARの内容は次のとおりです(20156月の株主総会で適用期間が延長されています)。

(1)権利の内容: 権利行使日の前日の株価が行使価額を上回っている場合に、その差額を受領する権利

権利行使日の前日の株価 ― 行使価格 = 役員報酬

という意味です。ここで「権利行使日」は実際に報酬の支払いを受ける日と考えられます。「行使価格」は、ストックオプションの行使価格に相当し、仮に株式を買い取るとした場合の価格です。

(2)年間付与総数: 適用期間内の各事業年度について、6 万個(当社普通株式6 百万株相当数)を上限とする。

各年度6万個X株価ですので、仮に株価を1000円とすると、6,000万円になります。ここには明確には書かれていませんが、これは1人当たりの上限と考えられます。

(3)行使価格: 当初の行使価額は、各事業年度毎に決められた日の株価とする。

「行使価格」は、前述のとおりストックオプションの買取価格に相当する価格です。これを事業年度中の一時点の株価とするということです。税制適格ストックオプションのように、その時の時価が行使価格として決められるということになります。

(4)権利行使可能期間: 各権利付与日から10 年を経過する日までの範囲内で、取締役会が定めるものとする。

権利行使日は報酬の支払日と考えられます。権利が付与されたときから10年以内の時期を取締役会が決めるとされています。報道によれば、ゴーン氏の場合は役員退任後に支払うことになっていたとされています。

(5)行使条件: 権利付与対象者の権利行使の条件は、取締役会が定めるものとする。

株式6 万個を上限として一定の個数の株式が付与されますが、これは上限であって、各役員の業績目標の達成度等の条件に応じて、実際の支払額が変動すると注記されています。要するに、有報に記載された株価連動型インセンティブ受領権の金額は上限であって、実際に支払うのは、10年以内にこの金額を上限として支払うといういう仕組みです。さらに、実際に支払う報酬額は次の通りです。下記の「調整額」は本人の業績で変動します。

支払日の前日の株価 ― 行使価格 ― 調整額 = 役員報酬

4 取締役会の関与

「ゴーン元会長には、役員報酬の総額上限内で個々の役員の報酬額を決める権限があったという。」(日経1126日)とされています。

また、「報酬の受領先送りについては、社内でもグレッグ・ケリー元代表取締役(62)らごく一部しか把握していなかったもよう。日産の社内調査で関連する内部文書が見つかったが、取締役会には諮られておらず、資金移動がないため監査法人なども気づいていなかったとみられる。」(日経、同上)とも報道されています。

取締役会では、役員の各人の報酬額の決定は、ゴーン氏に一任していたということであり、ゴーン氏が自身に対しての報酬を自分で決めていたということになります。

上記の株主総会決議によると、下記の4点を取締役会で決定するとされていますが、取締役会は、このすべてをゴーン氏に一任していたということになります。今後、この点を含めて日産自動車の取締役会の在り方が検討されることになると思います。

・権利付与日の決定
・行使価格決定日(時価決定日)
・支払日(付与から10年以内)の決定
・上記の「調整額」の決定

5 取締役会に報告(承認)されていない役員報酬は役員報酬か

取締役会が、ゴーン氏に役員報酬の各人別の決定を一任していたとしても、その結果の報告は受けていたと考えられます。具体的には報告していなくても、少なくとも株主総会招集通知や有報が取締役に配布されるはずです。その報告内容は、株主総会や有報で開示された内容と同じはずです。

ということは、4年間で40億円のSARをゴーン氏が自分で付与したことは、取締役会の目に触れず、その結果、株主総会招集通知や有報にも開示されていないということになります。

上記の日経の記事では「内部文書」があったということですので、これがSARをゴーン氏が自分に付与した証拠であるということなのかもしれません。

ゴーン氏はこれを否定しているようです。ということは、それはSARの付与は決めていなかったと主張しているということと考えらえます。

取締役会から一任されているとしても、結果的に取締役会に報告されていないSARを、ゴーン氏が自身に付与していたというのが、当局の主張なのでしょうか。

ちなみに、SARによる役員報酬は税務上損金(経費)になるようです。この点からも、有報に開示されていない役員報酬、すなわち会社が税務上経費として計上していない役員報酬を役員報酬だというのはちょっと無理がありそうな感じがします。

やはり、特別背任や業務上横領を狙った逮捕だったのではないかと思われます。ゴーン氏は有報虚偽記載では立件されないかもしれません。

2018年11月25日日曜日

日産自動車の役員報酬は取締役会で承認されていたのか


1 日産自動車の株価連動型インセンティブ受領権とは

株価連動型インセンティブ受領権を含め、役員報酬はその上限が株主総会で承認され、各人別の報酬額は取締役会に一任するのが普通です。日産もそのようになっています。株価連動型インセンティブ受領権の付与については、その権利行使可能期間や行使条件は、取締役会が定めることになっています(平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議)

株価連動型インセンティブ受領権は、取締役会が定める株価を超えた場合、その株価上昇額が報酬として計上されるものです。要するに、取締役ががんばった結果、株価が上がったのであれば、その上がった分だけを報酬として支払うということです。

この報酬は、すぐに支払われるのではなく、「各権利付与日から10 年を経過する日までの範囲内で、取締役会が定める」となっています。報酬をもらう権利があるだけで、支払は留保されていると考えられます。

2 役員報酬の虚偽記載は何を意味するか

有価証券報告書の役員報酬に未記載の役員報酬があったのであれば、取締役会での決議と有価証券報告書の記載が異なるということでしょうか。

すなわち、ゴーン氏に対する株価連動型インセンティブ受領権が未記載とされていますので、それは取締役会で決議された役員報酬が記載されなかったということになります。

取締役会で決議したのにも関わらず、意図的にそれを有価証券報告書に記載しなかったのであれば、虚偽記載になります。そうなれば、取締役全員と取締役会に出席しているはずの監査役の責任も重大です。

反対に、取締役会でゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権が承認されていないのであれば、そもそもそれは役員報酬ではないので、有価証券報告書への記載も不要です。当然、この点に関して虚偽記載はありません。

この報酬をもらう権利が取締役会で承認されているかどうかが、この事件の場合、重要なポイントになります。当局の逮捕容疑が有価証券報告書虚偽記載ですので、今のところ、取締役会で承認された役員報酬の一部が記載されなかったという理解をするしかありません。

そうなると、前述のとおり、各年度8億円程度のゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権を承認した取締役とその取締役会に出席した監査役は、5年以上前から有価証券報告書虚偽記載を知っていたということになります。これは「内部通報で発覚した」とする会社の説明と矛盾します。

3 本当は何が問題なのか

ゴーン氏が私的な経費を会社に支払わせたということは、どうも事実のようです。これはゴーン氏が社内規程に違反して会社に支払わせたのですから、会社がゴーン氏に損害賠償請求をすればよいことです。

会計上は、会社が負担した経費を「ゴーン氏に対する債権」に計上することになります。

一方、ゴーン氏のこのような行為は、社内規程に違反するだけでなく、会社法の特別背任罪や刑法の業務上横領罪になる可能性があると思います。ゴーン氏の逮捕は、やはりこれが狙いなのではないでしょうか。

なお、この会社が負担したゴーン氏の私的な経費を、それを負担すべきであると会社が認めるのであれば、現物役員報酬と考えることもできます。しかし、今回の事件ではこのような展開にはならないと思います。


2018年11月24日土曜日

日産自動車の役員報酬はどのように開示されているのか、何が問題か?


有報の記載内容を見て、日産自動車の役員報酬がどのように開示されており、何が問題だったのかを検討してみましょう。

1 有報の開示内容

20183月期の有報を見ると、役員報酬の記載は次のようになっています。
l  確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権から構成している
l  確定額金銭報酬は年額299,000万円以内(平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議)
l  株価連動型インセンティブ受領権の年間付与総数の上限を当社普通株式600万株相当数としている(平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議)

<役員区分ごとの報酬等の総額等>
(単位:百万円)

 <役員ごとの連結報酬等の総額等 但し、連結報酬等の総額1億円以上である者>
(単位:百万円)




2 カルロス・ゴーン氏とグレッグ・ケリー氏の報酬

まず、ケリー氏は取締役ですが1億円以上のリストには含まれていませんので、1億円未満であったということになります。この点は、今後明らかになると思います。

報道によるとゴーン氏には、株価連動型インセンティブ受領権が与えられていたにも関わらず、これが開示されていなかったということです。これが5年間で40億円あったということですので、平均すると年8月分億円になります。

このほかに、「海外子会社から受け取った年1億~15千万円程度の報酬も不記載」と報道されています。報酬過少記載の5年間合計は50億円と報道されています。このため海外子会社からの報酬は5年で10億円となります。

この海外子会社からの報酬は、報道されているような海外住居の賃料相当額や個人的な経費を会社に負担させたもの(現物報酬)なのか、金銭報酬なのかは今後明らかになると思います。

3 金銭報酬を記載すればよいのか

有報の役員報酬の開示については、その記載要領(開示府令第三号様式記載上の注意(37))に「報酬等(報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとな ったもの」と記載されています。

上表のとおり、日産自動車は「金銭報酬」を記載しています。金銭報酬を記載しなさいとはどこにも書かれていません。金銭報酬というのは、現物報酬を除くという意味ではないかと思います。

ゴーン氏への個人的な経費の負担を会社が行ったというのは、現物報酬に該当します。それは含まれないということが言いたかったのかもしれません。しかし、ここには現物報酬を含む「職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益」を記載することになっています。なお、後述の株主総会決議における役員報酬上限額にも現物報酬が含まれます。

4 報酬の上限を超えているか

株主総会で承認されたのは、「年額299,000万円以内」です。有報に開示されている役員報酬は上記のとおり、合計で18.57億円です。それに不記載の10億円(年平均額)を加算すると28.57億円になります。これは報酬の限度内に収まります。ゴーン氏らは、株主総会で承認された役員報酬の上限を超えないように気を付けていたのかもしれません。

「株価連動型インセンティブ受領権」の方はどうでしょうか。ゴーン氏への年平均額8億円と開示されている9千万円の合計8.9億円がこの事業年度に支払われています。この年間上限は600万株の株価相当額です。日産の過去5年間の株価を見ると1,000円(100株)を大体超えています。

仮に株価1000円で計算すると6千万円(6,000千株÷100株×1000円)になります。前述の株主総会決議は、役員(取締役と監査役)全員の年間合計額ですが、これは恐らく1人分だと考えられます(1人分か全員分かの記載はありませんが、合計9千万円と開示されていますので全員分ではないと考えられます)。

ゴーン氏への株価連動型インセンティブ受領権は、年間平均8億円ですので、6千万円を軽く超えています。

結論としては、株主総会の役員報酬限度額は超えていませんが、株価連動型インセンティブ受領権の限度額は超えています。株価連動型インセンティブ受領権の限度額は、「平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議」としていますので、これに違反したということになるでしょう。

なお、ゴーン氏の株価連動型インセンティブ受領権の不記載に気づいた日産関係者が記載すべきだと指摘したこともありましたが、ゴーン氏やケリー氏らは必要ないと拒否していたとされています。

5 損益計算書への記載と会計監査の妥当性

監査法人による財務諸表監査(会計監査)の対象は、有報の中の「経理の状況」に記載された(連結)財務諸表です。有報の役員報酬の記載は、監査法人の監査対象にはなりません。

しかし損益計算書に役員報酬が別掲されていたら、それが間違いということになります。その点はどうでしょうか。連結損益計算書には「給与及び手当」が別掲されていますが、普通これには役員報酬は含まれません。役員報酬は「その他」として他の販管費及び一般管理費と合計で記載されていると考えられます。

このため、役員報酬が別の経費として計上されていたとしても、監査の問題になることはありません。

報道されているように、海外子会社から何等かの資産がゴーン氏のために購入されていたとしたらどうでしょうか。また、ゴーン氏の私的な経費を会社が負担したということであれば、会社の経費ではなく、ゴーン氏への債権(貸付金)とも考えられます。

ということになれば、販管費及び一般管理費の「その他」に計上されている費用の一部を債権に計上し、その分当期純利益が増えることになります。すなわち、(連結)財務諸表がその分間違っていたということになります。(利益が増えれば税金も増えます)

こうなれば、(連結)財務諸表が適正でなかったのではないか、ということになります。しかし、それがもし50億円(税引き後で35億円)であれば、日産自動車の企業規模から考えて、監査法人の監査に問題があった、ということにはならないと思います。

この日産自動車の問題は、有報の虚偽記載とされていますが、(連結)財務諸表に大きな影響を与えるものではないという点で、過去に起こった西武鉄道による大株主についての虚偽記載に類似しています。この点は、稿を改めて検討したいと思います。

2018年11月23日金曜日

日産自動車のコーポレート・ガバナンス体制


日産自動車のコーポレート・ガバナンス体制について、特に監査の面から分析してみたいと思います。

1 取締役・監査役に監査・法律の専門家がいない

日産自動車の取締役と監査役は次のとおりであり、監査・会計・法律の専門家が一人もいません。これは監査を軽視していたことの表れかもしれません。

・社外取締役は社外取締役2名(現役レーサー、元通産省)ルノー出身者2名、日産出身者4名、ゴーン氏の9
・監査役は、社内1名(元生産技術本部)、社外3名(全員銀行出身)

元CFOが監査役になるというのも、東芝やオリンパスで問題になったのですが、日産の場合、監査役がこのメンバーでは、おそらく会計監査人の言うことの意味が分からないと思われます。米国では上場会社の監査委員には、最低1名は財務専門家を入れることが要求されています。


2 取締役会の時間が短い

日経新聞によれば、「ゴーン元会長が議長をしていた際の取締役会は毎回、1時間を超えることがなかったという。(日経1123日)」としています。これでは、取締役会においてコーポレート・ガバナンスに関する議論が十分できず、社外取締役や社外監査役による業務執行役員に対する監視が十分実施されていたとは言えないと思います。


3 内部監査部門の人員数が少ない

日産自動車の20183月期の有価証券報告書によれば、「内部監査部署として、独立した組織であるグローバル内部監査機能(当社14名、グローバルで約90)を設置している。各地域では統括会社に設置された内部監査部署が担当しており、具体的な監査活動をChief Internal Audit Officerが統括することにより、グループ・グローバルに有効かつ効率的な内部監査を行っている。」と記載されています。

トヨタ自動車は、内部監査部門の要員数を有価証券報告書に開示していませんが、本田技研工業は「取締役社長直轄の独立した内部監査部門である業務監査部は45名で構成され、当社各部門の内部監査を行うほか、主要な子会社に設置された内部監査部門を監視・指導するとともに、適宜、子会社の直接監査を実施するなどして、グループとしての内部監査体制の充実に努めています。」と記載しています。

この記載のとおり、本田は国内で45名、それに対して規模の大きい日産が14名になっています。日産はグローバルで90名としていますが、残念ながら本田はグローバルでの人数は記載されていません。オムロンは22名、東芝は45名としています。(参考のため、ソニーとパナソニックを見ましたが、内部監査の人数は不開示でした。)

このように他のグローバル企業と比較すると、日産の親会社における内部監査部門の要員数は少ないと言えます。日産はグローバルで70名(日本以外では56名)としていますが、全世界で14万人近い従業員がいるなか、内部監査要員は非常に少ないと言えます。一方で、他社事例では内部監査の人数を開示していない企業が多いのが実情のようです。この点、日産は開示の点では優れているとも言えます。


4 今後のコーポレート・ガバナンス体制

日産自動車は現在、監査役設置会社ですが、この事件が一段落した後は、指名委員会設置会社に移行し、(東芝と同様に)内部監査部門は監査委員会直轄にするのが良いと思います。