不正経理事件が発覚すると、過去の財務諸表が訂正される。一般にこの訂正は、上方ではなく下方訂正となる。取締役報酬が、業績連動になっている場合には、このような訂正により、過去の業績連動報酬が払いすぎであったことになる。
東芝の場合には、別項での述べたとおり業績連動報酬は少なかったが支払われていなかったわけではない。過去の財務諸表の訂正により払いすぎた業績連動報酬はどうなるのか?本来は、返金してもらう必要がある。
これまで、日本ではこのような実務はないと考えられる。しかし今後、業績連動報酬が増えてくると、返金制度すなわち「クローバック制度」の導入の検討が必要となるはずである。
米国では、ドッドフランク法に基づき、業績連動報酬に関する情報開示の法案が発表されたことを受け、SECはグローバックを求める条項10Dを追加した。米国では、過去4年間にFortune500社の約85%がすでにグローバック制度を導入しているとのことである。ただし、実際にクローバックを適用するかどうかは取締役会で決定するという内容とのこと(Pay Governanceニュースレター2015/8)。
東芝のように2008年度から過去6年にわたって訂正している(東芝プレスリリース2015/9/7)場合、どれだけ遡る必要があるか問題となる。米国の証券取引法案ではこれを3年会計期間(ルックバック期間)としている。
日本の場合、支払った取締役報酬を返金するという事例はあまりない。取締役が過去に支払った所得税が還付されるのか(例えば、罰金的なものと考えると還付されない)、定額固定報酬を前提とする役員報酬税制上、過去の役員報酬の減額が法人税法上どのように扱われるのか(減額前の差額が賞与認定される可能性)についても検討課題となる。
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