(「アドバタイムズ」2012年1月1日号(新春特別号)2012年私の視点)
筆者の友人のアメリカ人は、「米国には規制業種でない業種はない」と冗談めかして言っていたが、規制の強化とそれに対する企業の体制整備への圧力は日本だけの現象ではない。
SOX法は言うまでもなくアメリカ発である。最近、アフリカの紛争地域で産出される一部の鉱物を製造に使用した場合には、それを開示しなければならないといった法令も成立している。EUではRoHS(ローズ)指令が発動され、鉛、水銀、六価クロムなど6物質の製品への含有量が厳しく制限された。独占禁止法違反でもEUや米国は多額の課徴金を課していることがよく知られている。
わが国では、金融庁は過去10年間で金融機関に対して約千件の行政処分を発動している。金融機関だけでなく、人材派遣業や英会話学校でさえ、業務停止処分を受ける時代になった。企業による法令違反や不祥事が毎日のように報道されているのは言うまでもない。
このような状況を受けて、対症療法的な対策に追われる企業が多い。全体を見据えた対応の必要性は理解できても、企業による日常の対応としては結果的に対症療法にならざるを得ないということかもしれない。しかし、その結果として各所で綻びが生じてしまう事態ともなりかねない。
行政による規制や監視は強まるばかりであり、企業はこれらに対応するために多大のコストと努力を強いられる。規制違反のリスクを恐れるあまり、積極的な戦略の採用に躊躇する企業も増加しているのではないだろうか。気がつかないうちに、現場が規制対応に疲弊し、経営者が戦略を実行しようとしても、現場がついていけないという事態も予想される。
それを裏付けるように、平成20年度の経財白書では日本企業のリスクへの対応力が低いことが経済構造上の問題であるとしており、これを高めることが必要であると説いている。
対症療法的な対応は、対応が重複したり、やりすぎたりすることがあり、またその対応の空白地帯ができたりする可能性がある。このため、全社的な観点から規制全体を見据えた対応をしなければならない。
そのためには全社的なリスク管理(ERM)の手法が役に立つ。これは、どのような規制があり、その規制に違反したらどのような影響を企業に及ぼすかについて、企業全体の観点から評価をするところから始める。部門別・ビジネス別ではなく全社目線での検討により、どの分野にどのような対策をどのレベルで実施すればよいかがわかる。そこで肝心なことは、リスクの軽減対策に終始するのではなく、いかにリスクテイク(リスク許容)できるかを十分検討することである。
リスクテイクは、リスクマネジメントの重要な課題であり、経営者がリスクマネジメントから得られるのは、「どの程度リスクテイクできるか」であると言ってもよい。リスク対策の内容やそのレベルを決定するだけでなく、リスクをどの程度テイクするのかの決定も経営者の判断となる。ERMの枠組みを構築しておけば、合理的かつ科学的にこの判断材料が整理できるのである。
規制強化に対応するために、対症療法的な対策を積み重ね続けると経営が竦(すく)む。そうならないために、ERMを早急に構築して「賢くリスクテイク」する経営を実現してほしい。
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