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2015年12月8日火曜日

アクティビスト(物言う株主)

コーポレートガバナンスのセミナーに参加した(2015.11.30)。CamberView Partnersという株主助言サービス会社のAbe Friedman 氏(Abeは、アベではなくエイブ=Abrahamの愛称)によるアクティビストについての講演内容は、次のとおり。
・米国では15年前までは株主は株主総会で委任状で賛成票を投じるだけだった。
・SOX法成立(2002年)のきっかけとなったエンロン、ワールドコムなどの大企業による粉飾事件によって、株主の投票行動に変化が見られるようになった。
・アクティビストと呼ばれる「物言う株主」が、その後台頭してきたが、その後、変化したのはアクティビストではなく、機関投資家の行動であった。
・たとえば、インデックスファンドが増加する傾向にあるが、インデックスファンドでは、株を売ってポートフォリオの入れ替えすることができない。このため、長期視点で会社に注文を出すことによって、企業価値(株価)を上げていくことが必要になる。
・一方、アクティティビスト・ファンドへの資金流入が急増している。このため、ターゲットとする会社を米国だけに求めていたら資金を使えないので、日本を含む海外企業をターゲットにするようになった。
・大手機関投資家には、投資対象企業の経済的パフォーマンスを見るチームの他にガバナンスと投票を担当するチームがある。(ただし、このチームの人数は少なく、担当会社数が多いのが現状)
・アクティビストはPublic Campaignといって、自らの行動に同調する株主を増やす活動をする。その中に機関投資家が含まれることもある。
・アクティビストが指摘する問題は2つ:経済的パフォーマンス(会社の問題)とガバナンス(運営する人の問題)

この中で、インデックスファンドが増大しており、このファンドでは株式が売れない(たぶん株数の増減は可能)ため、長期的な投資視点となる、というのが面白いと感じた。株主は、会社が気に入らない場合には株式を売ればよいのであるが、インデックスファンドでは、JPX日経インデックス400のような株価インデックスに連動することが求められることから、インデックスを構成する会社の株式を保有し続ける必要がある。

ただ、インデックスファンドが長期的視点で、企業価値を上げるような株主行動をとるかどうかは、少し疑問が残る。インデックスに連動していれば、それでよいと考えるのかもしれない。ただし、他社のインデックス投信よりパフォーマンスがよい投信にしたい、と考えるのであれば、企業価値向上になんらかの貢献をしようとするかもしれない。しかし、一つのファンドがこの行動をとって、企業価値(株価)が上がれば、他のファンドにも恩恵が及ぶことから、ファンドの差別化にはなりにくいかもしれない。

何れにしても、ファンドは一般に短期志向ではなく、長期志向であることは言える。

アクティビストファンドへの資金流入が増加している点も面白い。これは、このようなファンドのパフォーマンスが良いから、ファンドが売れるのだと考えられる。ということは、アクティビストが活躍すれば、この種のファンドへの投資家は潤うことになる。ただ、法律ギリギリのところで悪さをするアクティビストは排除しなければならない。

米国では、アクティビストの活動が起爆材となって、機関投資家の株主行動が変わってきたとのこと。これは望ましい方向と考えられる。株主から「あそこまでやろうと思えばできるのに、なぜしないのか?」という疑問が投げかけられてもおかしくない。

次に、パネルディスカッションでのインテルの独立取締役からのコメントが面白かった。
・最近、独立取締役の間で話題になっているのは、サイバーセキュリティとアクティビストである。

アクティビストは、サイバーセキュリティに並ぶ、会社を攻撃する悪の代表のようなコメントと感じた。そういう面もあるのだろうと思われる。短期的視点で活動するタイプのアクティビストと長期的視点で企業価値向上を目指すアクティビストがあるとすると、前者は「悪」であることが多い。資金流入しているアクティビストファンドは、前者が多いと思うが、後者の長期視点のアクティビストが増えることは望ましい方向と考えられる。

日本版スチュワードシップ・コードが導入され、日本でも機関投資家の株主行動に変化が見られる。一方、村上ファンドの問題が指摘されているが、日本にはアクティビストが少ないとのこと。村上を応援するわけではないが、もう少し良い方のアクティビストが活躍してくれれば、機関投資家の行動がさらに改善されるようになると考えられる。

コーポレートガバナンスは企業価値向上に役立つか?

「コーポレートガバナンスは、企業価値の向上に役立つのか」という問いかけを企業経営者から多く聞く。コーポレートガバナンス・コードが導入されたので、最低限はそれに準拠するしかない、というのが多くの上場会社の現状と考えられる。

この答えについて、考えてみた。パフォーマンスの悪い会社があるとしよう。経営成績が悪い会社は、経営方針が悪いのか、それを決める経営者が悪いのかどちらかである。

これは、株主、特にアクティビスト(物言う株主)の立場から見ると、経営戦略の見直し(例えば子会社売却などのリストラ策)を求めるか、経営者の交代を迫るか、経営者を監視する人たちを入れるかのどれかが、選択肢になる。

経営は、経営戦略と、それを決めて実行する経営者の能力の関数である。経営戦略が良ければ、経営者はそこそこでも良い成績を収めることができるし、経営戦略がそこそこでも、経営者の手腕でなんとかなるかもしれない。その両方が良ければ、それに越したことはない。

経営戦略は経営者が決める。このため、経営者がしっかりしていないと、良い経営戦略は生まれない。その意味では良い経営者を選ぶことが優先される。

良い経営者を選び、その経営者のパフォーマンスを最大限生かすように持って行くのがコーポレートガバナンスの役割であろう。

そういう観点から、もともと経営者に恵まれている会社は、コーポレートガバナンスの役割は小さい。ガバナンスが必ずしも良いとは言えない会社のパフォーマンスが良いことがあるのは、このためと考えることができる。

ただ、例え良い経営者に恵まれていたとしても、人間は万能ではないため、優秀な経営者にも間違いは起こる。これを少しでも予防するのが、コーポレートガバナンスの役割と言える。

結論は次の通り。
・良い経営者に恵まれ、良い経営戦略の会社にとっては、コーポレートガバナンスは、それを持続させる面で役立つ。
・経営者または経営戦略に問題があるパフォーマンスの悪い会社にとっては、コーポレートガバナンスは、良い経営者を選び、良い経営戦略を選択するために必要な枠組みとなる。

コーポレートガバナンスは、上記の通り企業価値向上には役立つが、企業経営者個人にとっては、場合によってウルサイ存在になることは間違いない。この点で、パフォーマンスの悪い企業の経営者による「コーポレートガバナンスは、企業価値の向上に役立つのか」という問いかけには、微妙な意味合いがあることが分かる。