Translate

2017年9月23日土曜日

雪国まいたけに出資した米卸の神明

 雪国まいたけに出資した(ベインキャピタルから株式の買取)米卸の神明がカンブリア宮殿に出ていましたので、新聞記事から過去の経緯や買収の理由などを検討して見ました。
 
 まず、雪国まいたけという新潟県のきのこ生産会社がありますが、経営者の内紛で株主総会が紛糾したことで有名です。順を追って説明すると次のようになります。
  • 2013年6月に不正会計が発覚
  • 2013年11月に創業者の大平社長が辞任、イオン出身の星名氏が社長に就任
  • 2014年6月の定時株主総会で、取締役人事議案の動議が創業者一族から提起され、この動議が賛成多数で決議された結果、社長の星名が退任し、ホンダ出身の鈴木氏が社長に就任
 2013年に発覚した不正会計は、言うまでもなく業績不振になったことが原因です。その内容は、主に次の3つだったようです。
①過去に取得した土地の資産計上額の妥当性(土地仮装計上716百万円)
②一部事業用資産の減損について(減損損失非計上470百万円)
③過年度における広告宣伝費の会計処理について(不当な繰延処理180百万円)

 土地の仮装計上というのは珍しいです。1995年に物流倉庫を近江八幡市に建設しようとしたがそれを中止したにもかかわらず、建設仮勘定に計上していた金額を損失計上せず、それを別の物件の取得時に土地勘定に含めてしまったと言うことです。
 広告宣伝費は、当初733百万円の契約だったようですが、それが繰延資産に計上され毎年償却されていたようです。繰延資産というより長期前払費用と思います。費用計上すべきものを資産計上していたということでした。そもそも同社にとっては733百万円の広告宣伝費は巨額です。

 このような経緯があり、次に起こったのはベインキャピタルによるTOBです。外資系ファンドが創業者社長を追い出して、会社を乗っ取るという行動に出たのです。創業者の大平社長ら創業家が議決権のある株式のうち67.33%を所有していました。普通に考えればTOBが成立する可能性はありません。
 しかし、銀行団が経営陣と米投資ファンドに全面的に協力したことでTOBが可能になりました。銀行はどうして同社株式を取得したのでしょうか。それは、融資の担保権を行使して創業者の持株を取得したからです。
 メインバンクの第四銀行は、この大平商事と大平社長名義の株式を取得して筆頭株主になりました(銀行法上5%以上は取得できないという「5%ルール」がありますが、担保権行使の場合は例外となります)。同社の取引銀行6行がTOBに応じることでTOBの成立に最低限必要な51.44%を確保し実質第3位の大株主である大和ハウス工業(持株比率4.61%)も買い付けに応じたと考えられます。

 このような経緯で、ベインキャピタルは過半数の株式を取得し、同社を上場廃止した上で、その後同社株式を100%取得しました。ベインが同社を再生して再上場させるという筋書きと考えられます。

 前置きが長くなりましたが、ここで神明さんが出てきます。売上高1800億円の米の卸会社としては最大手です。報道によるとベインの買収総額が94億円となっています。同社株式を神明は49%取得し、それが「50億円以上」とか「50億円強」と報道されています。ということは、ベイン側は雪国まいたけ株式の取得価額とほぼ同額で神明に売却したことになります。企業再生して売却益で稼ぐというビジネスモデルが成立していません。
 
 おそらく、ベインは同社の企業再生に手こずっており、リスク軽減のために神明に持株を売却して一部資金を回収をした、というのが真相だと考えられます。

 米卸の神明がなぜ「きのこ生産」なのでしょうか?新聞によると下記のようになっています。
「資本参加を機に、神明の出資先であるワタミなど外食産業に対しマイタケなどの商品を提案していく。雪国まいたけは神明のネットワークを活用し西日本への販路拡大につなげ、西日本での生産拠点新設や輸出も検討する。神明は3月以降、青果卸や水産加工会社、食材宅配会社など米穀事業以外への出資や買収を繰り返している。」(日刊工業新聞)
 きのこも青果の一種であり狙いは「青果流通」への拡大ではないかと考えられます。
雪国まいたけの売上高は3000億円であり、神明の売上高の2倍です。神明は、2倍の企業規模の会社を買収したということになります。ただし、雪国まいたけはきのこ生産会社であり、そこのところは同社にお任せということになると思います。