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2015年2月23日月曜日

東証の新ガバナンス規則2月24日公表

下記の通り、2月21日(土)の日経に報道された。
社外2取締役人以上に 東証、6月に新ルール 1、2部対象 選任しないと説明義務
新聞の見出しは、「社外取締役」となっているが本文には「独立性が高い
社外取締役」と正しく書かれている。独立社外取締役を2名以上設置しない場合には、その理由を説明させる、という規則が新設される。
当然ながら、東証の上場規則案なので、東証上場会社が対象となり、新聞見出しのとおり、東証1部と2部上場会社だけが対象で、マザーズとジャスダック上場会社は除外される。ただ、会社法の規定は次のようになっているので留意が必要となる。
「監査役会設置会社においては、社外取締役を置いていない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を株主総会で説明しなければならない(改正会社法327条の2)」
要するに、マザーズとジャスダック上場会社については、1名の「社外」取締役の設置は、会社法上実質的に求められる、ということになる。(設置しないことが相当でないという理由を開示できる会社はほぼない)
なお、「会社法上、公開会社であり大会社の監査役設置会社のうち、有価証券報告書提出会社」が上記の対象になることから、有価証券報告書提出会社であるが、大会社でない(資本金5億円未満かつ負債200億円未満)会社がもしあれば、この会社法規定の対象外となる。反対に、上場会社でなくても、大会社の有価証券報告書提出会社であれば、社外取締役1名設置の対象になる。たとえば、サントリーホールディングス(上場しているのは飲料の子会社)はこれに当たると考えられる。なお、有価証券報告書提出会社で、公開会社でない(株式譲渡制限がある)会社は存在しないと思われる。
次に、「社外」と「独立」の違いにも留意しなければならない。「独立」の定義は、コーポレートガバナンス・コードにおいては、次のようになっている。
【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
 取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・公表すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべ
きである。
要するに東証の定義に従い、自社で判断基準を決めて公表しなさい、ということである。土曜日の日経の記事のよると取引先の元経営者のような場合には、厳密には独立しているとは言えないかもしれないが、あまり厳格な判断基準は求めないというようなことが書かれている。これについても、明日に何か公表されるのだと思われる。
最後のポイントは、会社法は「社外取締役を置くことが相当でない理由」の開示を求めているが、新聞記事では、東証規則は「独立社外取締役2名を置かない理由」を求めるように読める。この辺も規則案で確かめたい。



2015年2月21日土曜日

公正取引委員会による流通指針改正案

公取は昨年12月に検査指針を公表したが、これは判断指針のようなもの。メーカーが販売店での安売りをしないように指導し、安売りをした場合にはメーカーからの出荷を停止するというのは、独占禁止法違反となる。これはメーカーによる価格統制になり、「健全で公正な競争」を阻害することになるからである。しかし、メーカーが製品の販売方法を制限するのは問題無いという。

たとえば、アップル製品はヨドバシカメラやビックカメラに行くと、別コーナーになっており、比較的広々とした独自のデザインの売り場になっている。(たぶんアップルも販売店の内装に金をだしていると思われる)このような店舗内のコーナーだけで販売するようメーカーが規制するのは問題ない、ということだと理解できる。ただ、メーカーが価格を統制したら、独禁法違反。

たとえば、アップル製品はアマゾンでさえ安くない。大体は定価販売で、販売店のポイントが付くぐらいである。メーカーによる価格統制みたいに見える。吉田カバンもよく似た状況。あまり安値での販売はない。おそらく、メーカーが何らかの販売価格の指導をしているように想像される。

消費者が欲しがる良い製品を作ったら、販売店が値引き販売しなくても売れる。売れない製品についてメーカーが価格統制したらますます売れなくなる。このように考えるとメーカーによる価格統制が行われることによって「健全で公正な競争」を阻害していることにはならないのではないか。売れる製品の価格を下げて、別の売れない製品をそこそこ売れるようにしてやるのは、法の趣旨ではない。



流通指針の改正案公開
公取委 適法・違法の基準示す
2015/2/16 3:30 朝刊
 公正取引委員会はこのほど、「流通・取引慣行ガイドライン」の見直し原案を公表し、パブリックコメント(意見募集)を開始した。3月6日まで受け付ける。製品の販売方法などに関する拘束(垂直制限行為)の適法・違法の基準を初めてガイドラインとして示した。
 ガイドラインの改正案では、これまでの判例などを踏まえた規定が新設された。垂直制限行為を巡っては、市場における競争を促進する効果がある場合は適法になり得るとした。
 例えば、新規参入者がブランド力を獲得する過程で小売店での売り方を指定したり、高額商品を扱うメーカーが高品質な商品に見合うだけの接客対応をしている小売業者にだけ売るよう卸業者に指示したりする行為など、価格以外の拘束は通常は問題としないことを明記した。

2015年2月20日金曜日

二重非課税対策

BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)の議論が盛んである。OECDが下記のように「今年末までに計15の行動計画」を出すとのこと。まずこの議論の前提は、OECDのルールがそのまま各国の税制に反映されるようなことはなく、各国で議論して税制改正を行うことが必要ということ。日本の財務省は、基本としては(財務省の担当の方2名に話しを直接聞いた事がある)、できる限りそのまま日本の税制に反映する、方向の模様。しかし、アイルランドやオランダなど現状の税制により、国として有利な立場にあるところは、すんなり税制改正するかどうか不透明、ということのようである。当然、現状の税制では不利な状況にある米英は改正に積極的。
 なお、日本ではアマゾンのKindle版は、海外のサーバーから直接購入するので、国内取引でないということで消費税がかかっていなかったが、これはたしか4月以降は課税されることになる。その分Kindleの値上げになるのか?
 倉庫だけでは恒久的施設(PE)にならないというのが現状の税制とは知らなかった。これは不合理なので、当然改正すべき。

二重非課税対策、新ルール詰め 
OECDが3つの柱 日本、負担増を懸念
2015/2/16 3:30 朝刊
 先進各国が企業の国際課税ルールを急ピッチで見直している。どの国からも課税されない二重非課税状態を解消し、米IT(情報技術)大手などの行き過ぎた節税を防ぐのが狙いだ。そうしたなか、日本企業はルール厳格化のあおりを受けかねず、経済協力開発機構(OECD)が進める国際的な議論の場で様々な要望を出し、事務負担や税務リスクの軽減を求めている。(編集委員 菅原誠吾)
抜け穴突く節税
 昨年12月に英国議会が開いた公聴会。「ルクセンブルクのグループ資金管理会社は利益の0.0156%しか税を払っていない。設立したのは税回避が目的ではないか」。議員らは、積極的な節税策で知られるアイルランドの製薬会社シャイアーの担当者と税務アドバイザーを追及した。
 グローバル企業によるルールの抜け穴を使う節税に世界が厳しい視線を向けるなか、英国は追及の急先鋒(せんぽう)に立っている。
 リーマン・ショック後の税収不足に悩むキャメロン政権は「低税率でも税は払われなければならない」(オズボーン財務相)として、米スターバックスや米アマゾン・ドット・コムなどが英国に相応の納税をしていないと批判してきた。
 昨年12月、英国が課税逃れを封じる決め手として打ち出したのが「迂回利益税」という制度だ。国外関連取引の情報を企業に申告させて、当局が不自然な仕組みと判断すれば課税する。
 ペーパーカンパニーのような経営実態の乏しい仕組みを使い、英国で稼いだ利益を低税率国に流出させる企業を対象に、通常よりも高い25%のペナルティー税率を課す。4月の導入を目指す。
 英国は国際課税ルールの見直しも主導する。キャメロン首相は2013年、英国で開かれた主要8カ国(G8)首脳会議で租税回避問題を主要議題に取り上げた。
 これを受けてOECDは現在、税制の抜け穴を使った企業の節税を防ぐ対策を議論している。今年末までに計15の行動計画が出そろう予定で、日本のほかアイルランドやドイツ、フランスなどもルールを見直し始めた。
 日本企業は米IT大手のような積極的な節税策をほとんどとっておらず、二重非課税防止には基本的に賛成の立場だ。ただ、OECDのルール見直しには懸念もある。
 「二重非課税防止を強調するあまり、事務負担が過度に増すことは避けてほしい」。経団連などが3日に都内で開いたOECDとの意見交換会で、東芝の佐々木則夫副会長はこう強調した。
 行動計画のなかで日本企業の懸念は2つある。1つは移転価格関連の文書を毎年、各国当局に提出するよう義務付けられたことだ。事務負担が増すだけでなく、海外子会社を通じて各国に出す仕組みになれば、その文書が合弁企業を通じて競合相手に漏れかねない。
 文書にはグループの税務戦略だけでなく、国別の利益や税額も記入する必要がある。新興国の当局が容易に文書を入手できれば「積極課税する気になるのは確実」(KPMG税理士法人の角田伸広パートナー)。新興国を中心に税務リスクも高まりかねない。
 日本の産業界は、重要な情報の流出に一定の歯止めをかけるため、文書内容の簡素化を求めたほか、守秘義務のある租税条約に基づいて日本の当局が相手国に文書を渡す仕組みを提案。OECDはこうした意見を取り入れ、最終的に決着した。
 もう1つの懸念は、国際課税の原則である恒久的施設(PE)ルールの見直しだ。現在、自国内に支店などの施設がなければ、各国は海外企業に課税できない。例えば倉庫は補助的施設としてPEの対象外となっている。米アマゾンが巨大倉庫を使って国境を越えた電子商取引による売り上げを得ても、倉庫がある国では課税できないとの指摘があった。
 OECDの議論では、倉庫などもPEに含めることで、売り上げの発生した国で課税できるようにする改正案が浮上している。9月にもまとまる予定だが、この改正に懸念を抱いているのが、特に物流ビジネスを展開する日本の商社だ。
実行面でも課題
 商社の業界団体である日本貿易会は、見直し案では定義に不明確な点があり、商品や材料を保管するだけの旧来型の倉庫や、情報収集をする出張所なども対象に含まれかねないと主張。税務当局の裁量が広がって二重課税のリスクが高まることを懸念する。
 行動計画は実行面でも課題がある。議論には中国、インド、ロシア、ブラジルなど20カ国・地域(G20)も参加しており、計画が出そろったあとは、各国が自国ルールや租税条約を見直す作業が本格化する。新興国が反対している内容もあり、各国が計画を順守しなければ実効性が保てない。
 国際課税の原則は、国際連盟が1920年代に作った。企業が2つの国から二重課税される状況を減らし、国際取引を増やして第1次世界大戦後の欧州復興を後押しするのが目的だった。
 だが、現在は国境を越えたインターネット取引が広がり、法の抜け穴をついた過度な節税が問題となっている。国際課税ルールは二重非課税を防ぐ方向にかじを切っており「大きな転換期を迎えている」(国際租税法に詳しい早稲田大学の青山慶二教授)。
 「グローバル企業は世界中のグループ取引を把握し、課税リスクがあるかどうか改めて検討する必要がある」(EY税理士法人の南波洋エグゼクティブディレクター)。国際ルールが変わるなか、日本企業も具体的な対応を迫られている。

2015年2月9日月曜日

独占禁止法の検査指針

昨年のクリスマスイブに報告書が出ている。
新聞では独禁法の検査指針とされていたが、正式名称は下記の通り。

独占禁止法審査手続についての懇談会報告書
http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/finalreport.html

実務において、弁護士に電話しようとしたところ審査官から拒絶 された、弁護士の立会いが認められるかどうか分からず弁護士を呼べなか ったといった意見が本懇談会のヒアリング対象者及びパブリックコメン トでの意見提出者から寄せられており、公正取引委員会において弁護士の 立会いが認められる旨を記載した指針等を作成するとともに、その旨を立入検査時に事業者に告知すべきである、との意見が委員から出された」という記述もある。当局側の検査の際の取り扱いが不統一だったことがわかる。




東芝の半導体メモリー研究データ漏えい事件

東芝データ漏洩 起訴内容を認める 元技術者の初公判 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO82147000Q5A120C1CC0000/

「起訴状などによると、杉田被告はサンディスクに所属していた2008年1~5月ごろ、東芝の四日市工場(三重県)で同社の半導体メモリーの研究データを複数回にわたり無断コピー。韓国半導体大手「ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)」に転職後、同社従業員に開示したなどとされる。」とのこと。

東芝の社員ではないサンディスクというメモリーの会社の人が東芝の研究データを無断コピーできたのは、なぜか? それについては、下記の東洋経済ONLINEにある程度書かれている。
http://toyokeizai.net/articles/-/33114

ただ、東芝での外部の人に対する情報漏洩対策がどうなっていたのかは不明。サンディスクとは共同研究をしていたので、外部者ではなく内部者と同等に扱っていた可能性が高い。犯人の転職先であるハイニックスと東芝も共同研究しているそうである。そもそも、情報が東芝の情報がハイニクスに伝わったことを東芝がどのようにして知ったのか?というのも疑問である。上記記事には、共同研究しているときにハイニクスが知らないはずの情報を知っていた、ことが発端とのこと。

根本原因は、東芝の情報保護対策が不備だったことにあるが、出入り業者に詰腹を斬らせたということが真相のようである。

この事件は、民事では和解が成立済みであり、この記事は刑事(不正競争防止法違反)の裁判。
論告求刑公判は2月13日、判決は3月9日に言い渡される。
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 東芝の半導体メモリーを巡るデータ漏洩事件で、不正競争防止法違反(営業秘密開示)罪に問われた東芝の提携先の米企業「サンディスク」日本法人の元技術者、杉田吉隆被告(53)の初公判が20日、東京地裁(室橋雅仁裁判長)であった。杉田被告は起訴内容について「おおむねその通りです」と述べた。
 論告求刑公判は2月13日、判決は3月9日に言い渡される。
 検察側は冒頭陳述で「転職先で有利な扱いを受けられると考えデータをコピーした。競合他社には極めて有用な情報で、(漏洩先の)韓国企業が急速に開発力を向上させた一方、東芝の競争力は低下した」と指摘した。弁護側は「最も秘匿性の高い情報というわけではなかった」と主張した。
 起訴状などによると、杉田被告はサンディスクに所属していた2008年1~5月ごろ、東芝の四日市工場(三重県)で同社の半導体メモリーの研究データを複数回にわたり無断コピー。韓国半導体大手「ハイニックス半導体(現・SKハイニックス)」に転職後、同社従業員に開示したなどとされる。
 事件を巡っては、技術を不正に取得したとして、東芝がハイニックスに約1100億円の賠償を求めて民事でも提訴したが、東京地裁で昨年12月、ハイニックスが東芝に2億7800万ドル(約330億円)を支払う内容で和解が成立した。

2015年2月6日金曜日

「尖った経営者、出てこい」もガバナンスの問題

日経の証券欄の「大機小機」には、時々関心させられるが、今回は異論あり。

ガバナンスについて2月5日に次の記事が掲載された。タイトルは「尖った経営者、出てこい」。外部取締役の役割は「助言」であるから、経営には直接関与しない、よって、そもそも「尖った経営者」がリスクをとってビジネスしないと会社が伸びない、というのが趣旨。これだと、尖った経営者が経営しない限り、会社は良くならないという結論になる。

社外取締役の役割は「助言」というのが、一般的な社外取締役への期待であろうが、尖った経営者が出てくるのを待っていたら、普通の会社はいつまでも普通。日本経済に未来はなくなる。

社外取締役によるガバナンスにはもう少し期待してよい。大事なのは、経営者の選任や交代について取締役会の意見を取りまとめる役割。指名委員会がこれに当たる。「尖ってない」社長は早めに交代してもらい、「尖っている」社長を選任するのが社外取締役の役目。社外取締役の役割は大きい。「助言」だけが仕事だと思っている社外取締役を選任するのは、やめたほうがよい。

「尖った経営者、出てこい」日経朝刊 2014年2月5日

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO82812090U5A200C1EN2000/

 「独立社外取締役が複数いれば、互いに連携することで取締役会での議論が活発化し、経営への監督機能が強化されるのは確実である。しかし、それだけでは、企業価値の向上と成長にほとんど役立たない。というのも、独立社外取締役は主に助言という方法で経営に関与するからである。経営への直接的な関与は、独立社外取締役に期待される本来の役割ではない。」

(中略)
つまり、尖った経営陣があってこそ、独立社外取締役をはじめ企業統治が生きる。企業として、このことを肝に銘じてほしい。