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2018年8月21日火曜日

米国で四半期報告廃止検討


 米国は、四半期報告(Quarterly Reporting)発祥の地なのですが、投資家の短期志向(ショートタ-ミズム)を助長することから、トランプ大統領がこれを廃止することを検討するように指示したとのことです。
 日経新聞によれば、下記のようにヨーロッパでは四半期報告を廃止する方向に動いているということは知りませんでした。
 これを見ると、日本でもそろそろ検討を始めてもよいと思います。四半期報告制度の導入当初には、1年間の業績に季節変動がある会社については、四半期報告はそもそも向かないから導入に反対するという意見があったと思います。


拙著の「東芝事件総決算」では、第3四半期になったら、東芝では何か起ることが多かったと書きました。例えば、ウェスチングハウス関連の巨額減損が発覚したのは、2016年12月でした。この結果、2017年2月中旬の第3四半期報告書の提出が延期され、4月になってからの提出になりました。

4月というと、ウェスチングハウスが3月に破綻した後になります。このように、本来適時開示が趣旨の四半期報告書の提出が遅れると、おかしなことになることは確かです。


 といっても、この東芝の場合、第3四半期報告書の提出の必要がない場合にはどうなるでしょうか。東芝は、数千億円の巨額減損があることを2016年12月に発表したでしょうか。第3四半期報告書を提出する必要があるため、このタイミングで巨額減損の可能性を発表せざるを得なかったのではないでしょうか。
 もし、第3四半期報告がないのであれば、恐らく期末の2017年3月期の見込みの発表時の、たとえば、3月ぐらいにウェスチングハウスの破綻と同時に発表することになり、そもそも減損ではなく、破綻処理として発表することになったのではないかと思います。

 ということから考えて、企業に取っては負担になることは確かですが、四半期報告は、3か月置きに適時開示を求めることにより、「企業にタイムリーな情報開示を迫る」という点で、利点があります。

2018年8月15日水曜日

仮想通貨を理解する(8)ーICOとは何か


1 ICOとは?
  IPO = Initial Public Offering (最初の公開募集)は、新規上場の時に新株発行をして出資する人を募集するということであり、証券取引所への新規上場を意味します。
 一方、仮想通貨の世界では、ICO Initial Coin Offeringが話題になっています。これはベンチャー企業などによる資金調達方法の一つになりつつあります。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を企業に払い込めば、その見返りに「トークン」と呼ばれるものが発行されます。
 出資を受けた企業(またはプロジェクト)は、受け取った仮想通貨を円やドルに両替して、事業活動に投資します。トークンを受け取った人(出資者)は、トークンの値上がりを待って、時期が来たらトークンを売却するという流れになります。
ICOIInitialですが、最初であるかどうかは関係なく仮想通貨での資金調達がICOと呼ばれているようです。すなわち、2度目でも3度目でもICOと呼ばれます。

2 ICOトップ10
 仮想通貨サテライトという情報メディアによると、20184月現在では、Telegram ICO17億ドル(1,890億円)で断トツのトップになっています。


(仮想通貨サテライト2018410日)

日本では、COMSAという会社が昨年10月から11月にICOを実施し109億円調達したそうです。上記のランキングでは15位に入っています。このように、ICOによって、IPOを大きく超える資金調達をする会社が出てきています。
ICOはインターネットで募集されることから、国境を越えた資金調達が簡単にできるという点も、IPOとの大きな違いになります。

2トークンも仮想通貨
 ここまでは、話を分かりやすくするために、仮想通貨とトークンを分けて説明しました。しかし、トークンも実は仮想通貨の一種なのです。トークンは、仮想通貨取引所での売買の対象となる仮想通貨です。
トークン保有者は、そのトークンが仮想通貨取引所で取り扱われる(上場される)ことを前提としてトークンを買います。取引所で売れないようなトークンの値上がりは期待できないからです。

3 トークンは「上場」される
 出資者たちは、トークンが値上がりしたら売却して儲けることを期待として仮想通貨と引き換えにトークンを受け取ります。ということは、そのトークンを売り買いする取引所がないと自由に取引できないということになります。
 トークンが取引所で取引されることを仮想通貨の世界では「上場」と呼んでいます。これは株式が証券取引所に「上場」されるのとは大きく異なります。
仮想通貨の取引所は、民間企業が運営する両替所のような会社です。日本で登録されている取引所(仮想通貨交換業者)は16社で、その申請を取り下げた取引所がその他に16ありましたので、合計30社余りと思われます。その数から考えると、世界では恐らく100以上の仮想通貨取引所があるとしてもおかしくないと思います。
 株式は証券会社に売買の注文をすることができますが、取引自体は証券取引所で行われます。株式を上場するためには、取引所による厳しい審査に合格する必要があります。
 しかし、トークンを上場するかどうかは、民間の仮想通貨取引所が判断することになります。仮想通貨として一定の基準に合致しているかについて審査すると思いますが、どちらかというと、そのトークンを取り扱ったら儲かるかどうかで判断しているのではないかと思います。
 いずれにしても、仮想通貨の世界では、数ある取引所の中で、一つでも取り扱いを開始したら「上場した」と呼ばれることになります。

4 ICOにはプロジェクトが背景にある
 ICOによって資金調達する企業は、一定の事業を行うためにその資金を使います。仮想通貨の世界では、これをプロジェクトと呼んでいます。
例えば、上記のランキングで1位のTelegramは、LINEのようなチャットアプリを開発する非営利団体のようです。ここは、ICOの資金で新しいブロックチェーンを開発し、VISAMasterなどと肩を並べる決済プラットフォームをつくる計画です。
6位のfilecoinのプロジェクトは、オンライン(インターネット)上のスト―レッジ(ハードディスク、サーバー)を貸し借りするというプロジェクトです。皆さんのパソコンのハードディスクは全部使っている訳ではなく、余っている領域があるはずです。これを貸し出したらfilecoinがチャリンと入ってくるといったプロジェクトと思われます。
 COMSAは、仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンのプラットフォームを提供するというプロジェクトです。COMSA上でいろいろな会社がICOできるようにする、などと書かれています。COMSAは、仮想通貨取引所のZaifを持つテックビューロ―株式会社が運営するプロジェクトです。COMSAというのは会社名ではなくプロジェクト名のようです。
 筆者が別稿で書いた、ノアコイン(トークンの名称)の場合は、フィリピンの貧困問題を解決するために、ノアシティーとノアリゾートを建設するというのがプロジェクトになります。
 仮想通貨は、中央政府に頼らない通貨ですが、ICOの場合は特定のプロジェクトへの出資ということになります。しかし、その実態がどうなっているのかあまり分からない状況のようです。
証券取引所にIPOをしたら有価証券報告書などにより情報開示する必要がありますが、ICOの場合は、そのような義務はありません。

5 ICOで調達した資金は資本金か
 株式とトークンは大きく違います。会社法上、株式の所有者は株主として一定の権利が保証されていますが、トークンは民間の仮想通貨市場での取り決めだけしかありません。
 株式を発行すると会社の「資本金」となりますが、トークンを発行する会社では、トークンは株式ではないため、調達額を資本金に計上することはできません。それでは、何になるのでしょうか。
 トークンは、ゴルフ会員券のように売却できる一種の有価証券という性格があります。バブルの時は、ゴルフ会員券を売って儲けたり、または大損したりした人も多かったと思います。ゴルフ会員権は、ゴルフ場の会社側ではどんな会計処理になっているのでしょうか。
 ゴルフ場の会社では、ゴルフ会員権は「長期預り金」になっています(古いゴルフ場は株券を会員に渡すこともありました。その場合は資本金)。
 トークンは、ゴルフ会員権に似たところがありますので、長期預り金だという人がいます。ただし、ゴルフ会員権は、会員に返金する前提があるので長期預り金でよいのですが、トークンは返金義務がないという点がゴルフ会員権と異なります。

6 ICOでの資金調達額は収益に計上する
 ICOについては、法的な位置づけが明確に定義されていないことから、会計処理基準が公表されていない状況です。しかし、マザーズ上場のメタップスという会社がICOをしました。現在日本では実質上ICOを行うことができません(これについては別稿で検討したいと思います)が、メタップスの場合は、韓国の子会社がICOを実施しました。
メタップスは、日本の上場会社の中で初めて監査法人の監査の対象になった会社です。この会社がどのような会計処理を行うか注目されました。この会社は、8月決算であり、ICO20179月から10月にかけて実施されたことから、第1四半期で会計処理を行うことになりました。
ICOを行ったメタップスの韓国子会社は、事業として仮想通貨取引所を運営している会社であることから、トークンと引き換えに受け取った仮想通貨の価値を収益に計上するという会計処理を行いました。
これについては、別稿で詳しく検討しますが、仮想通貨取引所を運営していない会社によるICOも収益に計上すべきではないかと筆者は考えています。


2018年8月11日土曜日

仮想通貨ノアコインが東証上場するのか


1 ビート・ホールディングスとはどんな会社か
仮想通貨の一種であるノアコインを運営する会社が、東証2部上場のビート・ホールディングス・リミテッドに対して買収提案をしているという報道がありました(日経201889日)。

買収提案をしたのは、香港を拠点とするノア・アーク・テクノロジーズ。買収提案を受けたビート社は、昔「新華ファイナンス」という社名でした。この会社は、中国系企業初の東証上場ということで有名になりました。
2004年にマザーズに上場後、2005年にはADR(米国預託証券)を発行し、米国の証券取引委員会にForm 10K(有報相当の財務書類)を提出していました。要するに、米国で資金調達したことから、米国証券取引委員会の監督下にもあったということです。
200912月期には債務超過に陥りましたが、翌年にはそれを解消し上場廃止は免れています。そのあと2011年に、米国において経営陣がインサイダー取引で起訴されています。もともとは香港の会社でしたが、今はケイマン諸島に本店を移しています。
経済誌のFACTAは、この会社について「オリンパスより悪質」、「こんな企業がなぜいまだに上場を許されているのか、理解に苦しむ」としています。
 201712月期の有報を見ると、継続企業の前提注記がついています。要するに資金繰りが不確実ということになります。
 このような状況の会社に対して、冒頭のノア社が買収を掛けてきたということです。日経の記事によると「時価総額は100億円」に満たないということです。
 
2 買収提案したノア社とは
香港拠点の仮想通貨会社ノア・アーク・テクノロジーズは、ノアコインという仮想通貨を運営する会社のようです。恐らく、ビート社を買収して東証上場会社が仮想通貨のICOを実施することのより、ノアコインを信用される仮想通貨にして、ノアコインの価格を上げようということが狙いではないかと思われます。

3 ノアコインとは
 ノアコインは、ノア・ファウンデーションが発行する仮想通貨です。ノアコインはICOによって発行されたトークンと考えられます。ICOの前にプレセールが1期と2期の2回あり、20183月にICOを行い、312日には、イギリスの仮想通貨取引所HitBTCでの取引が開始されています。
ICOというのは、企業(企業がない時もあるらしい)が資金調達をするときに、既存のビットコインなどの仮想通貨を払い込んでもらい、それに対してトークンを発行します。この点は、現金を振り込んだら株式が発行されるのと似ています。
ノアコインの場合は、株式に相当するトークンですが、それ自身が仮想通貨であり、仮想通貨取引所で売買されているということになります。金融庁は、外国の仮想通貨取引所が日本人に対して仮想通貨の売買をしたら、日本の資金決済法に違反するとしています(ただし、外国企業を罰する手段はないのかもしれません)。

4 ICOによる資金使途
ICOを行った企業はどんな事業をするのでしょうか。ノアコインの発行主体であるノア・ファウンデーションは、フィリピンに不動産開発をするとしています。そこでノアコインが使えるノアシティを建設するというのです。これがフィリピンの貧困問題の解決になるとしていますが、ちょっと理解できません。
これはノア・プロジェクトと呼ばれていますが、当初はフィリピン政府公認プロジェクトであると宣伝していましたが、フィリピン政府はそれを否定しています。また、ノアシティーの建設場所が、当初発表とは別の場所に変わったりしています。
このノアコインの販売のために、自称「キングオブコイン」の泉忠司という男が「億万長者プロジェクト」と称するユーチューブを掲載しています。この男はノアコインの販促に関わっているだけで、ノア・ファウンデーションの経営者ではないようです。

5 ノアコインの相場
プレセールかまたはICOでノアコインを購入すると、初年度20%の利息が付くが仕組みになっているようです。どの通貨を誰が持っているかを特定できないと利息の支払いができないのではないかと思いますが、特殊な手法で一人目の所有者にだけ利息分だけ増額するような仕組みになっているのかもしれません。利率は毎年減っていきますが40年後でも0.06%とされています。
 ICO時の価格は0.8円前後でした。20183月の上場時は1ノアコイン=3円に高騰しましたが、2018811日現在は0.08円となっています。ICOで購入したまま持っていたら、10分の1の価格になったということになります。
 仮想通貨の相場は乱高下しますので、10分の1になったらからお仕舞ということではないと思います。ビート社の買収が決まれば、急騰する可能性があります。ノア社はそのタイミングで、次のICOをする算段なのではないでしょうか。(ICOは、Initial Coin  Offeringで、「最初の」=initialなのですが、IPOと違って何度でも実施できます)

7 まとめ
 このように非常に怪しいノアコインを取り扱うノア社が東証上場会社になろうとしているということです。日経によれば、『東証は「買収自体を止める手立てはない」と静観の構えだが、ノア社の仮想通貨の構想に内心穏やかではない。』とのことです。
 そもそも上場していることが理解に苦しむ会社(FACTA)が、さらに怪しい会社になってしまうのでしょうか。

その後の東芝(6)ーLNG事業の売却


今日(2018811日)の日経新聞「東芝、米LNG事業売却へ」というニュースが報じられました。拙著「東芝事件総決算」の読者やこの件についてご存じの方は、「事業売却」という表現に、違和感を覚えたのではないでしょうか。
「半導体事業売却」や「PC事業売却」とは異なります。この記事をよく読めば分かるのですが、東芝はLNG事業=液化天然ガス事業を行っているのではなく、今年から液化サービスを受ける権利(権益)を持っているだけです。
 この権利は毎年220万トンの天然ガス液化の権利なのですが、毎年の支払い額が固定で約500億円となっています。この契約は、take or payという形式の契約で、液化サービスを受けるかどうかは別にして、支払いだけは行うという契約でした。さらに、その契約期間は20年間になっています。
 たとえば、タクシーに乗ったら、走行距離に応じてタクシー料金を支払います。このように、サービスを受けたらそのサービスの量(走行距離)に応じて支払いをします。しかし、よく考えるとスマホの定額料金のように、使っても使わなくても、一定料金というようなサービスもあります。東芝のLNG事業はそんな契約だったということです。スマホは2年縛りですが、東芝のLNGの場合は20年縛りだったということです。
 東芝が、このように結果として不利になるような契約をしたのは、拙著に書いたように火力発電設備の販売に当たり、燃料もセットの方が売りやすい(他社と差別化できる)と考えたからのようです。ただし、これは表向きの説明であって、冒頭の日経新聞(6)によると、LNGプラントに米国の原発で発電した電気を売り、その見返りとしてLNGを購入(液化サービス契約?)するというバーターだったとしています。
東芝が狙っていたのは、米国産のシェールガスでした。オバマ政権の時に、米国シェールガスの輸出が解禁され、日本にも輸入できることになりました。シェールガスのLNG20185月に初めて日本に到着しています。シェールガスは、その採掘が始まったころには、原油に比べてコストが安く「日本は高値で天然ガスや石油を買っている。米国の安いシェールガスを輸入すべきだ」と言われていました。その後、原油価格が下がりシェールガスの採算が悪くなってしまいました。
その時代に、東芝が目を付けたのが、米国テキサス州のフリーポートでの液化プロジェクトです。ここには、3系列のプラントがあり第1系列は、大ガスと中部電力(その後東電と共同出資のJERAという会社)が持分の50%を出資しています。これらのエネルギーの会社は、液化プラントの会社に出資するだけでなく、LNGを輸入する計画です。
東芝は、そのフリーポートプラントの第3系列を運営する会社とこの液化サービス契約を締結しています。その会社は、実は東芝が出資する会社のようです。大ガスとJERAが出資した第1系列のように、東芝が関与する第3系列に、東芝が出資(または投資)しているのかもしれません。
それは、次の注記から理解できます。(20183月期有報 注記26変動持分事業体)
「当社グループは、エネルギーシステムソリューション部門に係る事業体である米国法人FLNGリクイファンクション3(以下「FLIQ3」という。)と天然ガス液化に関する加工契約(以下「液化役務契約」という。)を締結し、2015年4月度より当該契約が発効されました。液化役務契約は、2019年から20年間にわたり年間220万トンの米国産天然ガスを液化する役務提供を受ける契約であり、天然ガスの調達及び液化後の天然ガスの輸送等に関しては当該契約には含まれていません。液化役務契約の発効により、当社グループはこの年間220万トンのサービス対価支払義務を負っており、FLIQ3に対し変動持分を保有していることから、FLIQ3は変動持分事業体であると判定しました。当社グループは、当該事業体の経営成績に最も重要な影響を与える活動に対して、指揮する権限を有していないため、主たる受益者に該当しません。また、当社グループは、FLIQ3を当社の連結財務諸表に取り込んでいません。

要するに、FLIQ3という東芝の米国法人があり、そこと液化サービス契約をしているが、その会社には指揮命令権がないので、連結していないというのが上記の注記の意味です。この注記には、FLIQ3の総資産だけが開示されています。20183月期では394億円です。「指揮命令権がない」ということですが、そのように東芝が意図的にしたのであれば、「連結外し」ということになります。この部分は、会計不正時代の過去の遺産なので、その可能性もゼロではありません。
東芝による決算説明会資料には、このフリーポートのLNG事業について、いつも同じ1ページの資料が入っています。東芝による説明は「この事業は持分はなく、契約だけです」ということであったと記憶しています。そのため、拙著においても、契約についてだけ記述しました。
この東芝による説明は、またもや東芝流のトリックがあったのかもしれません。「会計処理としては、契約として取り扱います」ということではないでしょうか。米国法人の持分はあるが、連結していないので会計処理上は第三者として扱っており、連結子会社としての会計処理はありません、という意味だったのかもしれません。
しかし、ここに来て「売却」ということになれば、「契約を売る」というだけでなく、「米国法人の総資産約400億円を売る」ということになると思います。
「契約を売る」については、そもそも20年間で最大損失1兆円の契約ですので、お金を払って売るということになると思います。売るというより、お金を払って引き取ってもらうということになるでしょう。
「米国法人を売る」については、総資産が400億円としても負債が多額にある可能性があり、純資産はもっと少ないはずです。契約にこれを付けて引き取ってもらうということになるのではないかと思います。
ちなみに、2017年の相場では、日本に輸入される在来型のLNGは1バレル=6.61ドルで、米国のシェールガスは3ドルですが、液化の費用や搬送費用を加えると1バレル=8ドルぐらいになるそうです(Sankei Biz2017122日)。契約と米国法人を売却するときの「支払額」は、このLNGの相場を基礎にして算定されるものと考えられます。

2018年8月8日水曜日

仮想通貨を理解する(7) ーブロックチェーン

1 ブロックチェーンと仮想通貨は別

 ブロックチェーンは、最初の仮想通貨であるビットコインに使われた技術です。仮想通貨を設計するうえで、ブロックチェーン技術が考えられたようです。ということは、サトシ・ナカモトが考えたということだと思います。
 ブロックチェーンは、仮想通貨のために考えられた技術ですが、仮想通貨以外にいろいろな使い道があるとされています。それをブロックチェーン2.0と呼ぶそうです。

2 仮想通貨には、暗号技術とブロックチェーン技術が使われている

 仮想通貨とブロックチェーンは切っても切れない関係なので、仮想通貨の説明をしているのか、ブロックチェーンの説明をしているのか区別がつかないことがあります。これをあえて分けて説明するとすると、仮想通貨は、暗号化技術とブロックチェーン技術の組み合わせである、ということが言えそうです。すでにお話したマイニング(取引の承認)は、ブロックチェーンのproof of workに対応しますが、仮想通貨におけるマイニングは、proof of workに、仮想通貨のエコシステムが自律的に稼働するようなインセンティブの意味合いがあります。

 このため、マイニングは仮想通貨独自の仕組みですが、それを一般化したのがproof of workということになり、これはブロックチェーンの重要な機能の一つです。

3 仮想通貨に使われている暗号化技術とは

 ブロックチェーンの具体的な説明に入る前に、仮想通貨における暗号化技術について説明しておきます。電子署名(デジタル署名)の技術を使って、一つ一つの仮想通貨の取引について、1送ったのは確かに署名者であること(本人確認)2通信の途上で金額や内容が改ざんされていないこと(改ざん防止)3取引の事実を後で否定できないこと(否認の防止)ができます。仮想通貨の受け渡しの正当性を確保することが暗号化技術の役割になります。

4 ブロックチェーンの中身

 このようにして作成された取引記録が保管されるのがブロックチェーンです。ブロックチェーンは、ブロックがチェーンで繋がっているので、そのように呼ばれているのだと思います。「分散台帳技術」とも呼ばれます。それはインターネット上に誰でも見れる状態で存在します。

 ブロックの中には取引が入っています。ビットコインの場合には、10分間に1つのブロックが作られるように設計されています。ビットコインの場合1秒間に7件の取引を扱うことができるので、10分間(600秒)には最大4,200件の取引が1つのブロックに入ることになります。

 この1ブロックに4,200件という制限は、取引量が増えてくることによって問題になり、当初は1ブロック1MBだったのが、その後2MBと8MBの2種類のビットコインに分かれるという、いわゆる「分裂」が起こりました。これについて、また後日ご説明します。

 ブロックの中には、「取引データ」だけでなく、「前ブロックのハッシュ値」と「ナンス値」が入っています。この辺りからちょっとややこしくなります。

5 ハッシュ値とは

 このハッシュ値は、一つ前のブロックの「取引データ」、「前ブロックのハッシュ値」、「ナンス値」から計算された値です。

 ハッシュ値とナンス値は数値と理解できますので、計算の対象になるというのは分かると思います。しかし、取引データを計算するというのはどういうことでしょうか。
 
 ご存じのとおり、デジタルデータは0と1の組み合わせでできています。文字であっても数字であっても、コンピュータはすべて0と1で認識しています。このため、文字も数値として計算する対象にすることができます。

 1つのブロックに4,200件入っている取引データが、その並んでいる順番で数値として認識して計算できるというわけです。一定の計算式で計算した答えを「ハッシュ値」と呼びます。その答えから、もとの取引データが復元することができないような計算式になっています。ハッシュ値から元の取引データを復元できないので、不可逆な一方向の計算です。
 
 ハッシュ値というものがどういうものかが分かったところで、ハッシュ関数という言葉もあるので、ちょっと説明しておきます。関数というと難しく聞こえますが、ハッシュ関数というのは、ハッシュ値を計算するための計算式のことです。ビットコインではSHA-256というハッシュ関数が使われています。

 ハッシュ関数の入力値、出力値という言い方もあります。入力値はハッシュ値を計算する元の数値(ブロックチェーンの場合は取引データなど)、出力値はハッシュ値です。

 ちなみに、ハッシュ値とかハッシュ関数というのは、筆者がコンピュータの勉強を始めた40年近く前からありましたので、仮想通貨やブロックチェーンよりずっと前からある技術です。

 それに近いものとして、「チェックディジット」があります。一定の数字の最後の1桁や2桁がチェックディジットになっているものとして、銀行の口座番号、クレジットカード番号、運転免許証番号、保険者番号、個人番号などがあります。これらの数値から一定の計算式で計算した結果が、チェックディジットになっており、入力間違いを発見するために使われます。チェックディジットでは間違いを100%発見できませんが、ハッシュ関数の場合は、入力値を少しでも変更したら、出力値が変わるというレベルの高いものです。

 ビットコインの場合は、1つのブロックに含まれる「前ブロックのハッシュ値」は、先頭に一定数のゼロが連続する値です。ハッシュ値は、必ずしも「先頭に一定数のゼロが連続する値」になるわけではありません。

6 ナンス値の役割

 ここで「ナンス値」が出てきます。ナンス(nonce)は、Number used once(一度だけ使用される使い捨ての数字)のことです。これは、「取引データ」+「前ブロックのハッシュ値」+「ナンス値」のハッシュ値を計算してみて、「先頭に一定数のゼロが連続する値」になるような値が「ナンス値」です。

 このナンス値の計算は、「総当たり」「しらみつぶし」でないと見つけることができません。実は、この「総当たり」作業が「マイニング」です。ここでようやくマイニングの説明をすることができました。

 マイニングとは、「先頭に一定数のゼロが連続する値」であるハッシュ値を計算するためのコンピュータ処理作業のことです。すでに説明したように、マイニングというのは取引承認ということです。ナンス値を求めることが、ブロックに入った取引データを承認したということになるわけです。

7 ナンス値を求めることが取引承認になる

 ナンス値を求めることが承認になるので、この作業がproof of workと呼ばれています。
ブロックには、取引データ」+「前ブロックのハッシュ値」+「ナンス値」が入っており、そのブロックがチェーンのように次々繋がっているため、一つのブロックの中の取引データを改ざんて、新たなナンス値を計算したとしても、次のブロックに入っている「前ブロックのハッシュ値」と合わなくなり、それを新なハッシュ値に変更し、ナンス値も入れ替えて、、というような膨大な作業が必要になります。

 ナンス値総当たりの計算=マイニングです。すでにお話したようにマイニングには、専用コンピュータを年中動かし続けるようなコンピュータ処理を行う必要があります。これを過去のブロックチェーンに戻ってやり直すことは、不可能と言えます。

 その結果、ブロックチェーンのブロックに入っている取引データが改ざんされることがない仕組みが出来上がるということになります。

2018年8月3日金曜日

仮想通貨を理解する(6)ーマイニングとは

1 マイニングは取引承認のこと

 「仮想通貨を理解する(3)ー仮想通貨を受け取る方法」でお話した、3つ目の受け取り方法がマイニングでした。仮想通貨の取引承認をすると報酬が得られます。この取引承認のことがマイニング(採掘)と呼ばれています。

 これだけ聞くと、まったく意味がわかりません。「仮想通貨の取引を承認する」ということは、仮想通貨を売買するうえで大事な事のように思えます。それに対する報酬が支払われることありうることです。

 それが「マイニング」ですと言われた瞬間に、思考がストップします。マイニングというのは、金鉱を掘り当てるようなことを指す言葉ですので、仮想通貨を掘り当てる=マイニング、であれば理解できますが、「取引承認すること」と「掘り当てること」が普通は繋がりません。

 前回ご紹介したサトシ・ナカモト氏の論文ではどうなっているのか、調べてみました。
The steady addition of a constant of amount of new coins is analogous to gold miners expending resources to add gold to circulation.(P.4)

 上記の文章は、"6. Incentive"に記載されています。仮想通貨の場合は、通貨を発行する中央政府がありませんので、どのように通貨量を増加させるのかというのが課題になります。
 円やドルなどのリアルな通貨と交換することで通貨量を増加させるということも考えられます。その場合は、仮想通貨に人気が高まり、リアル通貨から仮想通貨に両替する金額が増えると、仮想通貨の流通量が増加し、仮想通貨の価値が急激に下がります(インフレになる)。

 通貨供給量は、リアル通貨との両替の時点で増えるとこのような問題になりますので、ビットコインでは、仮想通貨の取引を承認したらその報酬として仮想通貨を支払うことで、通貨供給量を増加させるという方法を採用したのです。

 ビットコインを考えたナカモト氏は、その論文でビットコインの供給量の増加は、「金鉱山から金を採掘したら金の供給量が増える」ことに例えたのです。金の場合、その採掘に汗を流した報酬として採掘した金が自分のものになるので、ビットコインも何等かの労働の報酬して、その供給量を増加させればよいのではないか、というのがこの論文の主旨と考えられます。その労働が「仮想通貨取引の承認という作業」なのです。

2 マイニングは大変な作業

 企業が社内システムに利用している「電子決裁システム」では、取引承認は画面上のボタンを押すだけです。そんな簡単なことがマイニング(取引承認)だったら誰でも簡単にできます。
 しかし、このマイニング(取引承認)は、専用のコンピュータで複雑な計算処理をすることを意味します。その仕組みの説明は、ブロックチェーンの説明とセットでないとできませんので、今後に譲ることにします。
 いずれにしても、マイニングにはすごいコンピュータ処理が必要になりますので、時間が掛かります。人件費はかかりませんが、コンピュータ処理に時間がかかるということは、電気代がかかるということです。そのため、電気代の安い国でマイニングをするのが有利であるとされています。年間を通じて「コンピュータをぶん回し」することがマイニングという作業になります。

3 マイニング専用コンピュータが必要

 マイニング専用のコンピュータというのが販売されています。中国製が9割の世界シェアを持っているそうです。その中でダントツに大きなメーカーがビットメインという会社です。「アントマイナーS9」という専用コンピュータを販売しています。

 Antminerは、アマゾンでもヤフオクでも買うことができます。中古だと5万円ぐらいからあり、高いのは85万円ぐらいです。消費電力は1200Wから1600Wで、本体が非常に熱くなるので、空調が必須なようです。値段的には買えそうですが、家庭でマイニングを行うのは無理なようです。しかし、このコンピュータをインターネットに繋いで年中動かしておけば、ビットコインが手に入るのであれば、誰でもやりたくなります。


4 中国にある採掘工場

 中国には、アントプールとBTC.comという大きな採掘工場(mining pool)があり、その2社で世界の3割のシェアを占めているそうです。ここでは、何百台の専用コンピュータを年中動かし続けているものと考えられます。当然ながら、地球温暖化防止には逆行します。

2018年8月2日木曜日

仮想通貨を理解する(5) ービットコインとは

 今更ですが、ビットコインについてもまとめておきます。
 ビットコインは、「サトシ・ナカモト」という日本人が2008年に書いた論文に基づいて作られた仮想通貨です。

 その論文は"Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System"というタイトルで下記URLにあります。本文8ページ、9ページ目がreferenceです。
https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

 日本語にも訳されています。
http://www.kk-kernel.co.jp/qgis/HALTAK/FEBupload/nakamotosatoshi-paper.pdf

「サトシ・ナカモト」は、カタカナ表記が一般的ですが、上記の日本語訳を見ると「中本哲史」と書くようです。

 この方は、さすがにビットコインを考えた方ですので、100万BTC (4,800億円相当、BTCの相場については今後お話します)のビットコインを持っているそうです。しかし、一度もこれを使った形跡がないそうです。(なぜそれが分かるのでしょうか。本人の証言?)
 
 ビットコインは2009年から運用が始まっていますが、その価値は4,000倍になったそうです。

 「仮想通貨を理解する(1)」に書きましたが、 ビットコインの単位はBTC(ビーティーシーと読む)です。ビットコインは0.01BTCなど小数点で表すことができるそうです。最小単位は0.00000001BTCで、これを発明者にちなんで1サトシと呼ぶそうです。

 ビットコインの電子データ取引技術は「ブロックチェーン」と呼ばれるものです。ビットコインを始めとする仮想通貨は、いろいろな問題を抱えており、その将来を危ぶむ声もあります。しかし、ブロックチェーンを悪く言う人はいないようです。たとえ仮想通貨がなくなっても、ブロックチェーンは生き残ると言われている革新的な技術です。

 ブロックチェーンは、今後詳しく検討したいと思いますが、仮想通貨の仕組み説明をするときに、仮想通貨一般のことなのか、ブロックチェーンの説明なのか、ビットコインの説明なのか、わからなくなります。

 ビットコインは、仮想通貨の代表格であり、それ以外のアルトコインは、ビットコインを参考にして開発されていますので、ビットコインが分かればアルトコインも分かるということだと思います。

 また、ブロックチェーンはビットコインの中核技術であることから、ビットコインの仕組みとブロックチェーンは切っても切れない関係になっています。

 この「仮想通貨を理解する」シリーズでは、「ビットコインは、」という書き方をできる限り避け、「仮想通貨は、」という書き方にしています。もしかしたら、一部のアルトコインでは採用されていないやり方も「仮想通貨は、」で括ってしまうかもしれません。

 一般の書物では、正確を期すため「ビットコインは、」と特定して書かれていることも多いように思います。1,000とも2,000とも言われるアルトコインを全部調べて、一般論として仮想通貨を解説することは困難だからです。
 
 たとえば「ビットコインは、国家などの発行主体が存在しない非中央集権的な決済手段です」という場合、ビットコインだけでなく、仮想通貨全体の話のはずです。ビットコインを主語にして、このような文章を書き並べると、まるで仮想通貨とビットコインが同じものであるかのような誤解を受けるのではないでしょうか。

 よって、ここでは、ビットコイン独自のものであると筆者が認識するもの以外については、「仮想通貨は、」で通したいと思います。ただし、本当は、「ビットコインと多くのアルトコインは、」が正確な表現であることもあると思います。
 

 

2018年8月1日水曜日

仮想通貨を理解する(4)ーウォレットで保管する

1 ウォレットとは何か

 仮想通貨を取引するためには、ウォレット(財布)が必要になります。この財布には、物理的な財布のハードウェア・ウォレットもありますが、ソフトウェアの財布が一般的です。財布に入れるのは仮想通貨、すなわち電子データです。
 仮想通貨は、ウォレット間で取引します。取引する同士がウォレットを持っていないと取引できません。各ウォレットには、アドレス(口座番号)が割り当てられます。ビットコインの場合は、口座番号は約30桁の英数字です。
 アドレスは、一つのウォレットに対して複数設定できます。取引の都度別のアドレスを使って、仮想通貨を取引できるようになっています。ウォレットの持ち主がどのアドレスを使っているかが明らかになっていないことから、アドレスだけでは、誰と取引しているのかが分からないようになっています。すなわち、匿名性を確保するのがこのアドレスになります。
 ウォレットは、原則として仮想通貨の種類ごとに異なります。ビットコイン用、イーサリアム用などになっています。日本円用、米ドル用などの通貨別の財布があると考えればよいと思います。

2 どんなウォレットがあるのか
 ここから少し複雑になります。このウォレットには次のような種類があります。

  • 取引所のウォレット
  • ウェブウォレット
  • ソフトウェアウォレット
  • ハードウェアウォレット

 本革の財布とか、ルイヴィトンの財布など財布にはいろいろありますが、これらはちょっと意味合いが違います。

(1)取引所のウォレット
 仮想通貨の取引所で、日本円を払って仮想通貨を購入する場合、そのまま取引所に置いておくことができます。銀行で外貨を買ったらそのまま外貨預金の通帳を作るようなイメージです。コインチェックで580億円の流出がありましたが、取引所であるコインチェックのウォレットに置いておいた人たちが多かったのだと思います。取引所のウォレットは、あまり安全ではなさそうです。

(2)ウェブウォレット
 これはオンラインウォレットとも呼ばれます。ビットコイン用としてBlockchain.infoやイーサリアム用としてMyEtherWallet.comがあります。PCやスマホでウェブサイトにアクセスすれば、無料でウォレットを作成することができます。ウェブサイトなので、どこからでもアクセスできる便利さがあります。しかし、いつでもインタネットに繋がっているという点で、安全性はいまいちということが言えます。

(3)ソフトウェアウォレット
 PCやスマホにアプリをダウンロードして、PCやスマホの中に仮想通貨を保管するウォレットです。まさに自分のPCやスマホが財布になるということです。アプリをダウンロードすることになるので、Google Play(Android), App Store (iOS, Mac), Microsoft Sore (Windows)など、公式ウェブサイトからダウンロードするのが安全です。
 最近のコンピュータウイルスは、メールに添付されたアプリをクリックしたり、場合によっては、ウェブサイトのリンク先(URL)に飛ぶだけで、感染するものがあります。いったんウイルスに感染すると、PCやスマホに保管した仮想通貨が盗まれる可能性もあります。よって、上記1-2よりはこのソフトウェアウォレットは安全ですが、万全ではありません。ただし、ソフトウェアに仮想通貨を保管しておくだけで、「マイニング報酬」を受け取れるものがあるそうです。多額ではないので、これはあまり期待しないほうがよいとは思います。

(4)ハードウェアウォレット
 これはUSBメモリのようなものです。メモリの中には仮想通貨のデータが入っているわけではありません。仮想通貨のデータはインターネット上のブロックチェーン(分散型の台帳)に書かれています。それにアクセスするための鍵(秘密鍵)がこのハードウェアウォレットに保管されているということになります。この点は、ソフトウェアウォレットも同じです。
 この端末を紛失したとしても、「パスフレーズ」を別のところに保管しておけば、それでデータが復活するそうです。この仕組みがどうなっているのか、今後ゆっくり勉強したいと思います。普段ハードウェアウォレットを使うときはPINコード(パスワードのようなもの)を使うようです。
 ハードウェアウォレットは1つ買うと、数種類の仮想通貨を保管することができます。アマゾンで次の2つが売られています。ちょっとしたブランドの財布ぐらいの値段です。保管できる仮想通貨の種類はLedger  Nano Sの方が多いですが、Trezorの方が使いやすいそうです。 
  • Ledger Nano S(正規品) 15,800円
  • Trezor(正規品) 12,800円

ソーシャルレンディングの行方

1.maneoの行政処分

証券取引等監視委員会によるmaneoマーケット株式会社(maneo)に対する立ち入り検査の結果を受け、金融庁が713日に同社に対して業務改善命令を行いました。
 maneoは、ウェブサイト上でソーシャルレンディングと呼ばれるビジネスを行う業界最大手の会社です。これはFintechの一種で、ウェブサイト上でファンドへの少額の出資を募り、そのファンドが特定の事業に対して貸付をするというものです。

2.maneoのビジネスモデル

 ベンチャー企業や中小企業がインターネット上で資金調達するウェブサイトとしては、米国のKickstarterや日本のMakuakeが有名です。これらは、購入型のクラウドファンディングを仲介するサイトです。簡単に言うと、前払いで製品やサービスを注文してもらうサイトです。ベンチャー企業にとっては、資金が先に得られるというメリットがあります。
 一方、クラウドファンディングには出資型もあります。募集総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下であれば、インターネットを介して出資を募ることができます。これは、個人の投資家がベンチャー企業に対して直接出資して株主になるというものです。
 maneoの場合は、出資を募るため出資型のクラウドファンディングに似ています。しかし、出資先はファンド(匿名組合)であり事業を行う企業ではありません。このファンドが事業を行う企業に対して「貸付」をするというのがmaneoのビジネスモデルです。
ソーシャルレンディングのレンディング(lending)は貸付という意味です。多くの人から少額の貸付資金を集めるということから、ソーシャル(社会)レンディング(貸付)と呼ばれています。

3.行政処分の理由

 問題は2つあったようです。その1つは、ファンドへの出資を募る際に、ファンドから貸付する先の企業と貸付目的を特定しているのですが、それとは別の企業に対して別の目的のために貸付していたことです。2つ目は、貸付先の企業が自己資金とファンドからの借入資金を区別せずに管理していたことです。
 1つ目の目的外への資金の利用はありそうな話です。この場合は太陽光発電事業の資金として募ったのに、それ以外の目的に使用したようです。日経新聞ではこの流用額が「100億円規模か」とされています。
2つ目の自己資金との区別がないというのは、どうしてダメなのでしょうか。お金には色がつかないので、自己資金と借入資金を区別しないと太陽光発電事業のために使ったのかどうかが分からなくなってしまいます。このため、自己資金とファンドからの借入資金をしっかり区分して管理する必要があるのです。

4.ソーシャルレンディングの条件

maneoが業務改善命令を受けた案件は「グリーンインフラレンディング」(GIL)という太陽光発電事業への貸付案件です。金融庁によると、maneoGILに仲介した出資者数は昨年末時点で約3000人、貸付残高は約103億円とのことです。
これに関する最近のファンドである「200億円突破記念ローンファンド(第1次募集)」は募集キャンセルになっています。ウェブサイトでその募集条件を見ると次のようになっています。

「借り手A社、運用利回り13%、募集額2,005万円、運用期間12ヶ月、担保なし、保証なし、一括返済、投資可能金額5万円から」

事業者A社は、太陽光発電開発事業者T社に対して、太陽光発電所の開発資金として貸付し、その資金で開発業務の委託先に対して業務委託料残金の支払いをし、この残金支払いにより、太陽光発電所を建設するための土地などを取得する計画であるとしています。

 ファンドからの直接の貸付先はA社ですが、A社からT社(特別目的会社)に貸し付けるという資金の流れになります。このT社は太陽光発電事業を行うために設立された会社のようです。資金の流れは次のようになります。
 
 「個人投資家」 →(出資)→「GILが組成するファンド」→(貸付)→「A社」→(貸付)→「T社」

 ファンドの運用期間は前述のとおり12ヶ月のため、T社が太陽光発電事業を継続して行うのであれば、12か月後にまた新たな借入金をしてその資金で返済するのでしょう。または、事業売却を計画しているのかもしれません。
 利息制限法に定められた金利の上限は100万円以上の場合は年利15%です。13%の運用利回りは非常に高いです。GILA社の金利取り分を仮にそれぞれ1%とすると、T社の借入金利は上限の15%になります。
この案件の場合、T社は15%で借入しなければならないほど信用力がないと考えられます。これだけ運用利回りが高いとファンドの資金を集めるのには苦労はしませんが、T社はこの高い金利の支払いだけでなく、そもそも元本を返済できるのかが心配になります。

5.ソーシャルレンディングのリスク

 maneoのサイトには「リスク説明」と書かれた赤いボタンがあります。そのボタンを押すと、貸付金が回収できないときは出資金元金が全額返ってこないリスクがあると書かれています。13%の運用利回りに目がくらみそうですが、元本保証ではありません。運用利回りが得られないだけでなく、元本が返ってこないことがあるということがはっきりと書かれています。
 しかし、個人投資家はこのリスクをどれだけ理解した上でファンドに出資しているのでしょうか。ソーシャルレンディングは新しい業態なので、これに対する規制が十分でないと考えられます。

6.今後の規制強化が急務

maneoは金商法上のファンド販売業者(第二種金融商品取引業者)ですので、監視委員会の検査権限が及びます。しかし、上記のA社やT社には権限が及ばないため、全容解明が難航したと報道されています。検査権限の見直しを行う必要があるでしょう。
また、ソーシャルレンディングでは、借り手保護の観点からA社やT社のように貸付先が匿名にされていますが、これでは投資家保護にはなりません。これについては、金融庁は借り手企業の名称などを開示させることを決めているそうです。
 個人投資家は、貸付先の財政状態がどうなっているかを知らない状態で、maneoを信用して出資しています。この問題案件の場合は、筆者から見たら、運用利回りが非常に高いことだけをとってもリスクが高いと感じます。しかし、この業界の最大手であるmaneoが募集しているというだけで、信用して投資する人もいるでしょう。
今後は、貸付先の財政状態を開示する義務や、ファンドからの借入資金の区分経理を強制するなどの規制強化が必要になると思われます。
仮想通貨取引所のコインチェックでは580億円が流出しました。Fintechを育てるという政府の姿勢は大事なことですが、ソーシャルレンディングでは、巨額の回収不能事故が起こる前に対策を急ぐ必要があると思います。