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2018年8月11日土曜日

その後の東芝(6)ーLNG事業の売却


今日(2018811日)の日経新聞「東芝、米LNG事業売却へ」というニュースが報じられました。拙著「東芝事件総決算」の読者やこの件についてご存じの方は、「事業売却」という表現に、違和感を覚えたのではないでしょうか。
「半導体事業売却」や「PC事業売却」とは異なります。この記事をよく読めば分かるのですが、東芝はLNG事業=液化天然ガス事業を行っているのではなく、今年から液化サービスを受ける権利(権益)を持っているだけです。
 この権利は毎年220万トンの天然ガス液化の権利なのですが、毎年の支払い額が固定で約500億円となっています。この契約は、take or payという形式の契約で、液化サービスを受けるかどうかは別にして、支払いだけは行うという契約でした。さらに、その契約期間は20年間になっています。
 たとえば、タクシーに乗ったら、走行距離に応じてタクシー料金を支払います。このように、サービスを受けたらそのサービスの量(走行距離)に応じて支払いをします。しかし、よく考えるとスマホの定額料金のように、使っても使わなくても、一定料金というようなサービスもあります。東芝のLNG事業はそんな契約だったということです。スマホは2年縛りですが、東芝のLNGの場合は20年縛りだったということです。
 東芝が、このように結果として不利になるような契約をしたのは、拙著に書いたように火力発電設備の販売に当たり、燃料もセットの方が売りやすい(他社と差別化できる)と考えたからのようです。ただし、これは表向きの説明であって、冒頭の日経新聞(6)によると、LNGプラントに米国の原発で発電した電気を売り、その見返りとしてLNGを購入(液化サービス契約?)するというバーターだったとしています。
東芝が狙っていたのは、米国産のシェールガスでした。オバマ政権の時に、米国シェールガスの輸出が解禁され、日本にも輸入できることになりました。シェールガスのLNG20185月に初めて日本に到着しています。シェールガスは、その採掘が始まったころには、原油に比べてコストが安く「日本は高値で天然ガスや石油を買っている。米国の安いシェールガスを輸入すべきだ」と言われていました。その後、原油価格が下がりシェールガスの採算が悪くなってしまいました。
その時代に、東芝が目を付けたのが、米国テキサス州のフリーポートでの液化プロジェクトです。ここには、3系列のプラントがあり第1系列は、大ガスと中部電力(その後東電と共同出資のJERAという会社)が持分の50%を出資しています。これらのエネルギーの会社は、液化プラントの会社に出資するだけでなく、LNGを輸入する計画です。
東芝は、そのフリーポートプラントの第3系列を運営する会社とこの液化サービス契約を締結しています。その会社は、実は東芝が出資する会社のようです。大ガスとJERAが出資した第1系列のように、東芝が関与する第3系列に、東芝が出資(または投資)しているのかもしれません。
それは、次の注記から理解できます。(20183月期有報 注記26変動持分事業体)
「当社グループは、エネルギーシステムソリューション部門に係る事業体である米国法人FLNGリクイファンクション3(以下「FLIQ3」という。)と天然ガス液化に関する加工契約(以下「液化役務契約」という。)を締結し、2015年4月度より当該契約が発効されました。液化役務契約は、2019年から20年間にわたり年間220万トンの米国産天然ガスを液化する役務提供を受ける契約であり、天然ガスの調達及び液化後の天然ガスの輸送等に関しては当該契約には含まれていません。液化役務契約の発効により、当社グループはこの年間220万トンのサービス対価支払義務を負っており、FLIQ3に対し変動持分を保有していることから、FLIQ3は変動持分事業体であると判定しました。当社グループは、当該事業体の経営成績に最も重要な影響を与える活動に対して、指揮する権限を有していないため、主たる受益者に該当しません。また、当社グループは、FLIQ3を当社の連結財務諸表に取り込んでいません。

要するに、FLIQ3という東芝の米国法人があり、そこと液化サービス契約をしているが、その会社には指揮命令権がないので、連結していないというのが上記の注記の意味です。この注記には、FLIQ3の総資産だけが開示されています。20183月期では394億円です。「指揮命令権がない」ということですが、そのように東芝が意図的にしたのであれば、「連結外し」ということになります。この部分は、会計不正時代の過去の遺産なので、その可能性もゼロではありません。
東芝による決算説明会資料には、このフリーポートのLNG事業について、いつも同じ1ページの資料が入っています。東芝による説明は「この事業は持分はなく、契約だけです」ということであったと記憶しています。そのため、拙著においても、契約についてだけ記述しました。
この東芝による説明は、またもや東芝流のトリックがあったのかもしれません。「会計処理としては、契約として取り扱います」ということではないでしょうか。米国法人の持分はあるが、連結していないので会計処理上は第三者として扱っており、連結子会社としての会計処理はありません、という意味だったのかもしれません。
しかし、ここに来て「売却」ということになれば、「契約を売る」というだけでなく、「米国法人の総資産約400億円を売る」ということになると思います。
「契約を売る」については、そもそも20年間で最大損失1兆円の契約ですので、お金を払って売るということになると思います。売るというより、お金を払って引き取ってもらうということになるでしょう。
「米国法人を売る」については、総資産が400億円としても負債が多額にある可能性があり、純資産はもっと少ないはずです。契約にこれを付けて引き取ってもらうということになるのではないかと思います。
ちなみに、2017年の相場では、日本に輸入される在来型のLNGは1バレル=6.61ドルで、米国のシェールガスは3ドルですが、液化の費用や搬送費用を加えると1バレル=8ドルぐらいになるそうです(Sankei Biz2017122日)。契約と米国法人を売却するときの「支払額」は、このLNGの相場を基礎にして算定されるものと考えられます。

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