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2018年8月1日水曜日

ソーシャルレンディングの行方

1.maneoの行政処分

証券取引等監視委員会によるmaneoマーケット株式会社(maneo)に対する立ち入り検査の結果を受け、金融庁が713日に同社に対して業務改善命令を行いました。
 maneoは、ウェブサイト上でソーシャルレンディングと呼ばれるビジネスを行う業界最大手の会社です。これはFintechの一種で、ウェブサイト上でファンドへの少額の出資を募り、そのファンドが特定の事業に対して貸付をするというものです。

2.maneoのビジネスモデル

 ベンチャー企業や中小企業がインターネット上で資金調達するウェブサイトとしては、米国のKickstarterや日本のMakuakeが有名です。これらは、購入型のクラウドファンディングを仲介するサイトです。簡単に言うと、前払いで製品やサービスを注文してもらうサイトです。ベンチャー企業にとっては、資金が先に得られるというメリットがあります。
 一方、クラウドファンディングには出資型もあります。募集総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下であれば、インターネットを介して出資を募ることができます。これは、個人の投資家がベンチャー企業に対して直接出資して株主になるというものです。
 maneoの場合は、出資を募るため出資型のクラウドファンディングに似ています。しかし、出資先はファンド(匿名組合)であり事業を行う企業ではありません。このファンドが事業を行う企業に対して「貸付」をするというのがmaneoのビジネスモデルです。
ソーシャルレンディングのレンディング(lending)は貸付という意味です。多くの人から少額の貸付資金を集めるということから、ソーシャル(社会)レンディング(貸付)と呼ばれています。

3.行政処分の理由

 問題は2つあったようです。その1つは、ファンドへの出資を募る際に、ファンドから貸付する先の企業と貸付目的を特定しているのですが、それとは別の企業に対して別の目的のために貸付していたことです。2つ目は、貸付先の企業が自己資金とファンドからの借入資金を区別せずに管理していたことです。
 1つ目の目的外への資金の利用はありそうな話です。この場合は太陽光発電事業の資金として募ったのに、それ以外の目的に使用したようです。日経新聞ではこの流用額が「100億円規模か」とされています。
2つ目の自己資金との区別がないというのは、どうしてダメなのでしょうか。お金には色がつかないので、自己資金と借入資金を区別しないと太陽光発電事業のために使ったのかどうかが分からなくなってしまいます。このため、自己資金とファンドからの借入資金をしっかり区分して管理する必要があるのです。

4.ソーシャルレンディングの条件

maneoが業務改善命令を受けた案件は「グリーンインフラレンディング」(GIL)という太陽光発電事業への貸付案件です。金融庁によると、maneoGILに仲介した出資者数は昨年末時点で約3000人、貸付残高は約103億円とのことです。
これに関する最近のファンドである「200億円突破記念ローンファンド(第1次募集)」は募集キャンセルになっています。ウェブサイトでその募集条件を見ると次のようになっています。

「借り手A社、運用利回り13%、募集額2,005万円、運用期間12ヶ月、担保なし、保証なし、一括返済、投資可能金額5万円から」

事業者A社は、太陽光発電開発事業者T社に対して、太陽光発電所の開発資金として貸付し、その資金で開発業務の委託先に対して業務委託料残金の支払いをし、この残金支払いにより、太陽光発電所を建設するための土地などを取得する計画であるとしています。

 ファンドからの直接の貸付先はA社ですが、A社からT社(特別目的会社)に貸し付けるという資金の流れになります。このT社は太陽光発電事業を行うために設立された会社のようです。資金の流れは次のようになります。
 
 「個人投資家」 →(出資)→「GILが組成するファンド」→(貸付)→「A社」→(貸付)→「T社」

 ファンドの運用期間は前述のとおり12ヶ月のため、T社が太陽光発電事業を継続して行うのであれば、12か月後にまた新たな借入金をしてその資金で返済するのでしょう。または、事業売却を計画しているのかもしれません。
 利息制限法に定められた金利の上限は100万円以上の場合は年利15%です。13%の運用利回りは非常に高いです。GILA社の金利取り分を仮にそれぞれ1%とすると、T社の借入金利は上限の15%になります。
この案件の場合、T社は15%で借入しなければならないほど信用力がないと考えられます。これだけ運用利回りが高いとファンドの資金を集めるのには苦労はしませんが、T社はこの高い金利の支払いだけでなく、そもそも元本を返済できるのかが心配になります。

5.ソーシャルレンディングのリスク

 maneoのサイトには「リスク説明」と書かれた赤いボタンがあります。そのボタンを押すと、貸付金が回収できないときは出資金元金が全額返ってこないリスクがあると書かれています。13%の運用利回りに目がくらみそうですが、元本保証ではありません。運用利回りが得られないだけでなく、元本が返ってこないことがあるということがはっきりと書かれています。
 しかし、個人投資家はこのリスクをどれだけ理解した上でファンドに出資しているのでしょうか。ソーシャルレンディングは新しい業態なので、これに対する規制が十分でないと考えられます。

6.今後の規制強化が急務

maneoは金商法上のファンド販売業者(第二種金融商品取引業者)ですので、監視委員会の検査権限が及びます。しかし、上記のA社やT社には権限が及ばないため、全容解明が難航したと報道されています。検査権限の見直しを行う必要があるでしょう。
また、ソーシャルレンディングでは、借り手保護の観点からA社やT社のように貸付先が匿名にされていますが、これでは投資家保護にはなりません。これについては、金融庁は借り手企業の名称などを開示させることを決めているそうです。
 個人投資家は、貸付先の財政状態がどうなっているかを知らない状態で、maneoを信用して出資しています。この問題案件の場合は、筆者から見たら、運用利回りが非常に高いことだけをとってもリスクが高いと感じます。しかし、この業界の最大手であるmaneoが募集しているというだけで、信用して投資する人もいるでしょう。
今後は、貸付先の財政状態を開示する義務や、ファンドからの借入資金の区分経理を強制するなどの規制強化が必要になると思われます。
仮想通貨取引所のコインチェックでは580億円が流出しました。Fintechを育てるという政府の姿勢は大事なことですが、ソーシャルレンディングでは、巨額の回収不能事故が起こる前に対策を急ぐ必要があると思います。

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