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2017年8月11日金曜日

東芝の監査報告書「速報(その2)」

 「速報(その1)」でお話ししたように、昨日提出された東芝の監査報告書では下記の部分がキモになります。

「会社は、2016331日現在の工事損失引当金の暫的な見積りに、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用していなかった。会社が、工事損失引当金について、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用して適時かつ適切な見積りを行っていたとすれば、当連結会計年度の連結損益計算書に計上された652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上されるべきであった。」

 この結果、PwCあらた監査法人は、東芝の連結財務諸表は、この点を除き適正であるとしています。すなわち、「限定付き適正意見」を表明したということになります。

 6,522億円はかなり大きな金額です。この期末の東芝の純資産は2,757億円のマイナスです。すなわち債務超過です。また当期純利益は9,656億円です。これらの金額と比較してこの6,522億円は非常に大きな金額であることがわかります。

 特に監査報告書には「652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額」と記載されており、「相当程度〜6,522億円」と金額が特定されていません。このあたりの書き方は、監査法人としては非常に苦労したのだと思います。「相当程度」というのは6,522億円の半分以上のように読めます。このような場合、監査法人は影響額を特定するのが普通ですが、何らかの事情により「範囲」で示したのだと想像されます。
 
 監査報告書に記載された「前連結会計年度に計上されるべきであった。」という点も注目しなければなりません。当期の連結財務諸表が「相当程度〜6,522億円」間違っているのですが、それは前期に計上すべき損失金額が当期に計上されているため、という意味になります。
 ということは、連結損益計算書では、最大6,522億円、当期純損失が減少して、前期の当期純損失が増加するということです。ただし、連結貸借対照表では、その6,522億円の損失が前期に計上されていても、当期に計上されていても、当期末から見たら同じです。すなわち、当期の連結貸借対照表は間違っていないということになります。言い方を変えると当期末の債務超過額の2,757億円は適正ということになります。

 前期末の純資産は6,722億円ですので、これが全額前期に計上されたら純資産は200億円となります。結果として、前期は債務超過にはならず、2年連続債務超過ではないスレスレのところです。もし、この金額が7,000億円であれば、当期末で2期連続の債務超過であると認定されてもおかしくなかったということが言えます。

 ここまで解ったところで、このような場合に、「限定付き適正意見」でよかったのか、「不適正意見」ではないのかという疑問が出てきます。不適正意見と限定付き適正意見の区別は次のようになります。


 ここで、「広範」というのがポイントです。「監査基準委員会報告書705」によれば、「広範」の定義は次のとおりです。

 「広範」-虚偽表示が財務諸表全体に及ぼす影響の程度、又は監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手できず、未発見の虚偽表示がもしあるとすれば、それが財務諸表に及ぼす可能性のある影響の程度について説明するために用いられる。
 財務諸表全体に対して広範な影響を及ぼす場合とは、監査人の判断において以下のいずれかに該当する場合をいう。
影響が、財務諸表の特定の構成要素、勘定又は項目に限定されない場合
影響が、特定の構成要素、勘定又は項目に限定される場合でも、財務諸表に広範な影響を及ぼす、又は及ぼす可能性がある場合
虚偽表示を含む開示項目が、利用者の財務諸表の理解に不可欠なものである場合

 東芝の場合は、問題となる項目が限定されていますので、「② 影響が、特定の構成要素、勘定又は項目に限定される場合でも、財務諸表に広範な影響を及ぼす、又は及ぼす可能性がある場合」に該当します。しかし、この文章には「広範」が使われています。「広範」の定義なのに同じ言葉をその中に使ったら意味不明になります。

 この文章を読んで、監査法人はかなり悩んだことだろうと推察されます。この②の「広範」は一般用語の「幅広く」という意味とも考えられます。そうすると、東芝の場合は、「非継続事業からの非支配持分控除前当期純損失(税効果後)」の計上がくが間違っているという点だけですので幅広くはなく、また当期末の連結貸借対照表には影響のない問題ですので、「広範」には該当しないため、「限定付き適正意見」を表明できる、と考えることができます。

 このPwCあらた監査法人による監査意見は、当期の連結財務諸表に対する監査意見ですが、前期が間違っているということが書かれており、その間違っている金額は「相当程度〜6,522億円」ということになります。

 前期の連結財務諸表に対する監査は新日本監査法人が実施しました。新日本監査法人としては、「あんたの監査した連結財務諸表は『相当程度〜6,522億円』間違ってるよ」とPwCあらた監査法人に言われてしまった、ということになります。
 
 新聞報道では、監査は限定付き適正意見でクリアしたので、東芝の次の課題は、半導体事業を売却して今期末に債務超過から抜け出す点に焦点が移った、としています。しかし、監査法人の問題が残っているということではないでしょうか。これを新旧監査法人間の見解の相違として片付けることができるかについては、疑問に残るところです。


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